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151.【ハル視点】三体の魔物

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 野営地を誉めたルセフはニヤリと笑うと、何故か二人を揶揄うように話し始めた。

「ほら、言った通りだろう?」
「なんだよ、俺たちが頼りになるって話か?」
「あ、それとも…俺たちが野営地作りの玄人だって話か?」

 嬉しそうな二人の顔をちらりと見たルセフは、満面の笑みを浮かべて高らかと言い放つ。

「お前ら二人は脳筋だけど、力仕事は得意なんだって話してたんだよ」

 まさか本人たちを目の前にそんな事をずぱっと言うとは思っていなかったし、話を振られた二人のきょとんとした顔を見てしまうと我慢できなかった。アキトもブレイズも、そして俺も三人そろって盛大に噴き出した。いや、これは我慢できないだろう。

「はー?脳筋って失礼な!」
「そうだぞ!ウォルターはともかく俺まで一緒にするなよ!俺は魔法も得意だぞ!」
「おい、ファリーマ!俺だって盾は得意だぞ!」

 何故か自分の役割の事を自慢しだす二人が、余計に笑いを誘ってくる。

「よし。脳筋と認めないお前らに、こいつらが作った調査ノートを見せてやろう!」

 そこでやっとこの言動の意味が分かった。あのノートの出来を、この二人に自慢したくて仕方なかったんだな。その気持ちはすごく分かる。

「アキトが記入担当で、ブレイズが採取担当。俺の指示は全く無しで作ったノートだ」

 そう言うとルセフは、わざわざ書き込んだページを開いて二人に見せだした。ウォルターとファリーマは、まじまじとノート見つめてから口を開いた。

「うん、すげぇな!」
「あー…うん、これは俺たちには無理だわ。これ見たら脳筋も否定できん…」

 しょんぼりと肩を落として脳筋を受け入れた二人に、ルセフは満足そうに笑ってみせた。

 湖の調査の一環としてウォルターとファリーマは、明日は釣りをするようだ。食事のメニューを増やすために釣りを頑張ると言い出した二人に、和やかな空気が流れている。

 不意に気配が動いた気がして探知を使った俺は、思ったよりも近くにあった魔物の気配に驚いた。

「アキト、魔物が3体。種類は不明だけど強そうだ!」

 俺の急な言葉にアキトはびくっと体を揺らした。

「全員戦闘準備!」

 アキトが口を開く前に、ルセフはそう声を上げた。

「おそらく3体だ!」

 チームメンバーの動きは迅速だった。前衛の二人はすかさず前に出て、後衛の三人もすぐに攻撃ができるように身構える。誰も疑問の声を挟まず、すぐさま迎撃態勢が整った。

「「来たっ!」」

 気配を読んだ俺とルセフの声が重なる。ウォルターの盾が甲高い音を立てて攻撃を防いだ。先手必勝とばかりに爪を振りかざして攻撃をしてきたその魔物は、1mを超える巨体を物ともせず一瞬で距離を取っている。

 淡い水色の光を帯びたその狼は、歯をむき出しにして唸りながらこちらを威嚇していた。

「アグアウルフだ!」

 ダンジョン以外ではあまり見かけることのないアグアウルフに、よりによってこんな所で出会うなんて。

「何でこんなところに!」

 叫んだウォルターの声に同意していると、森の方からもう一体のアグアウルフが現れた。

「おいおい、しかも2頭いるぞ…番か?」

 どの魔物にも共通する事だが、番となると討伐難易度は一気に上がる。連携などろくにしない魔物が多いなか、番になるとほぼ必ず連携攻撃を繰り出してくるからだ。

 真剣な顔をしたルセフは、戦闘の指示を出さないとすぐに宣言した。今回の敵は、元々動きの素早いアグアウルフだ。しかも連携攻撃をしてくるだろう番相手では、指示を出しても間に合わない可能性がある。チームの力を信じていないと出せない、かなり良い判断だ。

 二頭のアグアウルフは一定の距離を保ったままで、前衛の二人と睨みあっている。最初の攻撃を弾かれた事で警戒しているのか、すぐに攻撃に転じそうな様子は今のところ無いようだ。

「ルセフ、敵は三体だって言ったよな?」
「ああ、もう一体も確実にいる。姿が無くても気配はあるからな…」

 俺もそれが気になっていた。確実に気配はあるのに、見つけられないのは何故だ。

「あーそれもアグアウルフだったら、最悪だよなー」

 軽い口調で言ったファリーマの言葉に、ウォルターが即座に叫び返す。

「口にするな、現実になったらどうする!」

 ああ、確かに三体目もアグアウルフだったら更に難易度は上がるだろうな。もし口にしたせいで現実になったら、ファリーマのせいだ。俺はそう思いながらも、周りに目を凝らした。

「アキト、ブレイズ、俺たちで探すぞ」
「はい」
「はーい」

 きょろきょろと視線を彷徨わせていたアキトが、不意に一点を見つめて動きを止めた。

「あの木の辺り、景色が歪んでませんか?」

 アキトが指差した辺りをじっと見つめてみれば、確かに景色が少しだけ歪んでみえた。あれはヒュージスライムかと目を凝らした時、ファリーマが叫んだ。

「ヒュージスライムだ!」
「なっ!よりによって!?」

 共生関係にあるヒュージスライムよりは、もしかしたらアグアウルフ三体の方がマシだったかもしれない。そう考えてしまうほど、共生関係のヒュージスライムは危険な魔物だ。

 ルセフはすぐに口を開いた。どうやら後衛で牽制をしている間にアグアウルフを倒し、それから全員でヒュージスライムに当たる作戦にするようだ。確かにそれが一番安全だろうな。

 アキトとブレイズが立候補した事で、あっさりとそれぞれの担当は決まった。



 野営地近くの森の中にヒュージスライムは隠れていた。アグアウルフとはそれなりに距離がある事に、俺はそっと胸を撫で下ろした。この距離がもしもっと近ければ、分断できずに戦う事になり一気に戦況は悪くなっていただろう。

 警戒しながらもまっすぐにヒュージスライムに近づいていくアキトとブレイズに、俺はそっと声をかける。

「アキト、近づいて良いのはここまでだよ」
「ブレイズ、これ以上近づくと遠距離攻撃が来るかも」
「ああ、酸で攻撃するんだっけ?」
「うん、図鑑にはそう書いてあった」

 俺の言葉を仲介してくれたアキトのおかげで、ブレイズもすぐに安全なその場に立ち止まった。ヒュージスライムは擬態がばれたことに気づいたのか、今は半透明の体に戻ってその場で揺れていた。

「ヒュージスライムは、気づかずに近づかれた時が一番危険なんだ。姿を見せている今は遠距離攻撃にさえ気をつければ大丈夫だよ」

 アキトの顔を覗き込んで俺はそう声をかけた。かなり緊張した様子だったけれど、俺が笑みを浮かべれば、アキトもニコリと笑みを返してくれた。うん、頼もしい笑顔だ。

「ブレイズ。簡単じゃないと思うけど、コアを狙おう」

 ヒュージスライムの体内に浮かんでいるコアを、アキトはまっすぐに見つめている。

「それしかないと思うけど…あの大きさだときっとコアも移動できるよね」
「できると思う。だから簡単じゃないよ」

 簡単じゃないと言えるこの二人なら、安心して見守ることができそうだ。

「アキト、俺たちだけで倒すつもり?」

 口ではそう尋ねているが、ブレイズは既に獲物を狙う狩人の瞳をしている。

「もちろん!倒してアグアウルフの手伝いに行くよ!」
「さすがアキト!最高っ!」

 ブレイズの嬉しそうな声に弾かれるように、俺たちはヒュージスライムに向けて駆け出した。
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