上 下
151 / 1,103

150.【ハル視点】調査と野営地

しおりを挟む
 魔物の気配を警戒しながら、俺は食事をするチームを見守っていた。ルセフの料理が気に入ったらしいアキトはニコニコしていて今日も可愛いけれど、どうしても嫌な予感がするから気を抜くわけにはいかない。

 和やかな食事が終わると、ルセフは唐突にチームを分けると言い出した。全員装備はそのままで、きちんと前衛と後衛を混ぜたチーム分けに油断は無さそうだ。

 ウォルター、ファリーマはこの場に残って野営地作り。アキト、ルセフ、ブレイズは三人で森の西側へ調査に向かうようだ。野営地作りも興味深いが、俺はもちろんアキトの後を追った。

 森の中へ入ってしばらく進むとルセフは足を止めた。どうやらこの辺りをルセフが担当し、もう少し奥へ進んだ辺りをアキトとブレイズにまかせるつもりのようだ。

 アキトが記録、ブレイズが採取と分担も決まった所で、真剣な顔をしたルセフはまっすぐに二人を見つめてから口を開いた。

「もし魔物が出たら俺の指示を待たずに攻撃して良いし、危険すぎると思ったら撤退して良い。約束は一つだけだ、無理をせずに絶対に生きて帰る事。良いな?」

 その言葉で二人の表情が一気に引き締まった。うん、本当にルセフは良い隊長だな。位置取りからしてもし魔物が出ても、最初に出会うのはルセフだろうけどな。そんな事を考えながら、俺はアキトとブレイズの後を追った。



 森に入った二人は、多種多様な果物や素材がある事に驚いたようだ。

「これはすごいよね…」
「冒険者が来ない場所ってこんな状態なんだ」

 確かに人の手が入っていないからか、ぱっと見ただけでもかなり珍しい物も多い。あれは上級薬草の一つだし、あっちにあるのは苦味はあるが美食家に人気の果実だ。ついつい俺も目移りしてしまうほどの、種類の豊富さだった。 

 気になる物はそれこそたくさんあったが、今回の調査には口出しをしないと約束しているから、俺にできるのは見守る事だけだ。

「ブレイズ。気になるのから調べていこうか」
「あ、じゃあこれ。このでっかい白い花!」

 そう言ってブレイズが指差したのは、頭ほどの大きさの真っ白なジジの花だった。ああ、これはアキトと出会ってすぐの頃に採取したな。なんだかすごく懐かしい。こんなに大きい花があるとか異世界すごいねと喜んでいたのを、今でも鮮明に覚えている。

「それはジジの花びらだね。鎮痛作用で常時買取のやつだよ」
「何で見ただけで分かるんだよーすごすぎない?」
「これは納品した事があるからね」
「それでもすごいよ」

 お互いが知っている素材については教え合い、分からない素材は二人で競い合って調べていく。あまりに二人が楽しそうで、俺もこっそりと頭の中で素材を思い浮かべ、答え合わせをしながら見守っていた。

 手持ちの図鑑に載っていない素材を、アキトがノートに書き留め始めたのには、ほんの少しだけ驚いた。特に指示を受けたわけでも無いのに、きっちりと考えて行動する姿には感心するしかない。きっとルセフも喜ぶだろう。

 二人が調査に集中している間も、何度も気配探知は行ったけれど近くに魔物の気配は無さそうだった。



 初の調査とは思えないほど、二人の作業は順調に進んでいった。書き留めたものもかなりのページ数になった所で、アキトが口を開いた。

「ルセフさんに確認してもらいたいのもあるし、一旦戻ろうか」

 ちらっと俺に視線を向けてから、アキトは元来た道を戻り始めた。

 遠くに見えてきたルセフはノートを手に持ったまま、近くにあった倒木に腰を下ろしていた。どうやら作業は一段落したところみたいだ。

「ルセフさーん」
「お、ブレイズ、アキト。お疲れ」
「お疲れ様です」
「どうだった?」
「どうぞ」
「ああ、確認させてもらうな」

 アキトからノートを受け取ったルセフは、真剣な顔で調査内容を読み始めた。

 おそらくルセフは、最後にまとめ直してから提出するつもりだっただろう。リーダーの仕事にはそういう地味な作業も含まれているものだが、今ルセフが読んでいるのはそのまま提出しても問題が無いほど丁寧に書き込まれたノートだ。

 アキトは不安そうだったが、そんなの喜ばれるに決まっているだろう。ルセフは予想通り満面の笑みを浮かべた。

「うん。細かい説明まであってすごく分かりやすいな!」
「よく書けてたから当然の評価だよ。頑張ったね、アキト」

 思わず横からそう口を挟んでしまうぐらい完璧なんだから、もう少し自信を持って欲しい。
 
「あと、これなんですけど。下級と中級の図鑑に載ってなかった、気になった素材です。上級図鑑なら載ってるかと…」

 ああ、そうだ。そっちのノートもあったんだ。俺なら褒めちぎるなと思いながら見守っていると、ノートに目を通したルセフは無言のまま二人を見つめた。あれ、思ったよりも反応が薄いなと思った瞬間、ふらりと立ち上がったルセフは二人の頭をわしわしと撫で始めた。

「ここまでしてくれると思って無かったわ…おまえら最高!」

 なるほど、ただ嬉しすぎて反応が薄かったのか。褒められた二人は照れくさそうに、でも嬉しそうに笑っている。

 今すぐ確認に行くぞと鼻歌を歌い出しそうなほどに上機嫌なルセフの後を、二人は慌てて追いかけた。



 ルセフが合流してからの追加調査は、本当にあっという間だった。ある程度の目星をつけていたのか、実物を見るなりぽんぽんと名前や効能を口にしていく。

「よし、これで終わりだな」

 あっさりと終わった追加調査に、二人は尊敬の眼差しでルセフを見つめていた。あまりにキラキラした目でアキトがルセフを見つめるせいで、俺だってそれぐらい分かると言いたくなってしまった。年甲斐も無くみっともないな。

 今日の調査はこれで終了だが、どうやら明日は東側の調査をするらしい。

「もし良ければそっちの調査も二人に手伝ってほしいんだが…どうだ?」
「っ!やります!」
「俺も!アキトとルセフさんみたいには出来ないけど、精一杯頑張る!」

 調査の楽しさに目覚めたらしいアキトとブレイズは、ルセフの誘いに即座に食いついていた。明日もあの楽しそうな調査が見れるのかと思うと、俺の気分は一気にあがった。



 ストイン湖まで辿り着くと、そこには立派な野営地が出来上がっていた。予想を超える出来だったのか、アキトとブレイズは大きく目を見開いてその場に立ち尽くしている。

「おう、おかえりー」
「どうだ、びっくりしたか!?」

 そんな言葉を聞きながら、俺は視線をぐるりと巡らせてみる。うん、これは自慢げに言うだけの事はあるな。

 短時間での作業だったが、椅子代わりに使う切り株以外はきっちりと根まで撤去までされているようだし、地面は土魔法を使って凹凸が無いように均等にならしてある。これならテントを設営するのも簡単だろう。きちんと四隅には魔物避け置き場も設置してあるようだし、満点の出来だ。

「うん、二人とも良い腕だな」

 思わずそう口に出して絶賛してしまうぐらいの完璧な野営地だった。

「うん、良い野営地になったな」

 年下組からは尊敬の目で見られ、更にリーダーであるルセフにも褒められたウォルターとファリーマはごつんと拳をぶつけ合っていた。
しおりを挟む
感想 315

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

氷の華を溶かしたら

こむぎダック
BL
ラリス王国。 男女問わず、子供を産む事ができる世界。 前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。 ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。 そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。 その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。 初恋を拗らせたカリストとシェルビー。 キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...