生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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150.【ハル視点】調査と野営地

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 魔物の気配を警戒しながら、俺は食事をするチームを見守っていた。ルセフの料理が気に入ったらしいアキトはニコニコしていて今日も可愛いけれど、どうしても嫌な予感がするから気を抜くわけにはいかない。

 和やかな食事が終わると、ルセフは唐突にチームを分けると言い出した。全員装備はそのままで、きちんと前衛と後衛を混ぜたチーム分けに油断は無さそうだ。

 ウォルター、ファリーマはこの場に残って野営地作り。アキト、ルセフ、ブレイズは三人で森の西側へ調査に向かうようだ。野営地作りも興味深いが、俺はもちろんアキトの後を追った。

 森の中へ入ってしばらく進むとルセフは足を止めた。どうやらこの辺りをルセフが担当し、もう少し奥へ進んだ辺りをアキトとブレイズにまかせるつもりのようだ。

 アキトが記録、ブレイズが採取と分担も決まった所で、真剣な顔をしたルセフはまっすぐに二人を見つめてから口を開いた。

「もし魔物が出たら俺の指示を待たずに攻撃して良いし、危険すぎると思ったら撤退して良い。約束は一つだけだ、無理をせずに絶対に生きて帰る事。良いな?」

 その言葉で二人の表情が一気に引き締まった。うん、本当にルセフは良い隊長だな。位置取りからしてもし魔物が出ても、最初に出会うのはルセフだろうけどな。そんな事を考えながら、俺はアキトとブレイズの後を追った。



 森に入った二人は、多種多様な果物や素材がある事に驚いたようだ。

「これはすごいよね…」
「冒険者が来ない場所ってこんな状態なんだ」

 確かに人の手が入っていないからか、ぱっと見ただけでもかなり珍しい物も多い。あれは上級薬草の一つだし、あっちにあるのは苦味はあるが美食家に人気の果実だ。ついつい俺も目移りしてしまうほどの、種類の豊富さだった。 

 気になる物はそれこそたくさんあったが、今回の調査には口出しをしないと約束しているから、俺にできるのは見守る事だけだ。

「ブレイズ。気になるのから調べていこうか」
「あ、じゃあこれ。このでっかい白い花!」

 そう言ってブレイズが指差したのは、頭ほどの大きさの真っ白なジジの花だった。ああ、これはアキトと出会ってすぐの頃に採取したな。なんだかすごく懐かしい。こんなに大きい花があるとか異世界すごいねと喜んでいたのを、今でも鮮明に覚えている。

「それはジジの花びらだね。鎮痛作用で常時買取のやつだよ」
「何で見ただけで分かるんだよーすごすぎない?」
「これは納品した事があるからね」
「それでもすごいよ」

 お互いが知っている素材については教え合い、分からない素材は二人で競い合って調べていく。あまりに二人が楽しそうで、俺もこっそりと頭の中で素材を思い浮かべ、答え合わせをしながら見守っていた。

 手持ちの図鑑に載っていない素材を、アキトがノートに書き留め始めたのには、ほんの少しだけ驚いた。特に指示を受けたわけでも無いのに、きっちりと考えて行動する姿には感心するしかない。きっとルセフも喜ぶだろう。

 二人が調査に集中している間も、何度も気配探知は行ったけれど近くに魔物の気配は無さそうだった。



 初の調査とは思えないほど、二人の作業は順調に進んでいった。書き留めたものもかなりのページ数になった所で、アキトが口を開いた。

「ルセフさんに確認してもらいたいのもあるし、一旦戻ろうか」

 ちらっと俺に視線を向けてから、アキトは元来た道を戻り始めた。

 遠くに見えてきたルセフはノートを手に持ったまま、近くにあった倒木に腰を下ろしていた。どうやら作業は一段落したところみたいだ。

「ルセフさーん」
「お、ブレイズ、アキト。お疲れ」
「お疲れ様です」
「どうだった?」
「どうぞ」
「ああ、確認させてもらうな」

 アキトからノートを受け取ったルセフは、真剣な顔で調査内容を読み始めた。

 おそらくルセフは、最後にまとめ直してから提出するつもりだっただろう。リーダーの仕事にはそういう地味な作業も含まれているものだが、今ルセフが読んでいるのはそのまま提出しても問題が無いほど丁寧に書き込まれたノートだ。

 アキトは不安そうだったが、そんなの喜ばれるに決まっているだろう。ルセフは予想通り満面の笑みを浮かべた。

「うん。細かい説明まであってすごく分かりやすいな!」
「よく書けてたから当然の評価だよ。頑張ったね、アキト」

 思わず横からそう口を挟んでしまうぐらい完璧なんだから、もう少し自信を持って欲しい。
 
「あと、これなんですけど。下級と中級の図鑑に載ってなかった、気になった素材です。上級図鑑なら載ってるかと…」

 ああ、そうだ。そっちのノートもあったんだ。俺なら褒めちぎるなと思いながら見守っていると、ノートに目を通したルセフは無言のまま二人を見つめた。あれ、思ったよりも反応が薄いなと思った瞬間、ふらりと立ち上がったルセフは二人の頭をわしわしと撫で始めた。

「ここまでしてくれると思って無かったわ…おまえら最高!」

 なるほど、ただ嬉しすぎて反応が薄かったのか。褒められた二人は照れくさそうに、でも嬉しそうに笑っている。

 今すぐ確認に行くぞと鼻歌を歌い出しそうなほどに上機嫌なルセフの後を、二人は慌てて追いかけた。



 ルセフが合流してからの追加調査は、本当にあっという間だった。ある程度の目星をつけていたのか、実物を見るなりぽんぽんと名前や効能を口にしていく。

「よし、これで終わりだな」

 あっさりと終わった追加調査に、二人は尊敬の眼差しでルセフを見つめていた。あまりにキラキラした目でアキトがルセフを見つめるせいで、俺だってそれぐらい分かると言いたくなってしまった。年甲斐も無くみっともないな。

 今日の調査はこれで終了だが、どうやら明日は東側の調査をするらしい。

「もし良ければそっちの調査も二人に手伝ってほしいんだが…どうだ?」
「っ!やります!」
「俺も!アキトとルセフさんみたいには出来ないけど、精一杯頑張る!」

 調査の楽しさに目覚めたらしいアキトとブレイズは、ルセフの誘いに即座に食いついていた。明日もあの楽しそうな調査が見れるのかと思うと、俺の気分は一気にあがった。



 ストイン湖まで辿り着くと、そこには立派な野営地が出来上がっていた。予想を超える出来だったのか、アキトとブレイズは大きく目を見開いてその場に立ち尽くしている。

「おう、おかえりー」
「どうだ、びっくりしたか!?」

 そんな言葉を聞きながら、俺は視線をぐるりと巡らせてみる。うん、これは自慢げに言うだけの事はあるな。

 短時間での作業だったが、椅子代わりに使う切り株以外はきっちりと根まで撤去までされているようだし、地面は土魔法を使って凹凸が無いように均等にならしてある。これならテントを設営するのも簡単だろう。きちんと四隅には魔物避け置き場も設置してあるようだし、満点の出来だ。

「うん、二人とも良い腕だな」

 思わずそう口に出して絶賛してしまうぐらいの完璧な野営地だった。

「うん、良い野営地になったな」

 年下組からは尊敬の目で見られ、更にリーダーであるルセフにも褒められたウォルターとファリーマはごつんと拳をぶつけ合っていた。
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