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149.共生関係

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 ヒュージスライムを倒せたといっても、今はそれをゆっくりと噛み締めている暇は無い。俺たちもすぐにアグアウルフの手伝いに回らないと。

 慌てて振り返った俺たちの目に飛び込んできたのは、地面に倒れ伏したアグアウルフの姿と、二頭目のアグアウルフにとどめを刺しているルセフさんの姿だった。

「え…?」
「もう?」
「アグアウルフって強いんだよね?」
「しかも番って連携してくるから余計厄介って言う…よね?」

 二人でそんな事を言い合いつつ呆然と見守っていたら、三人の視線がバッとこちらを見た。あまりにぎらぎらとした殺意に満ちた三人の目に、ブレイズと俺の喉からヒッと音が漏れた。

 焦る俺たちの横で、ハルだけは面白そうに笑いだした。

「あーきっと二人の事がそれだけ心配だったんだろうね」

 ハルのその言葉を聞いたら、あの必死な顔の理由が俺にも理解できた。

 そっか早く終わらせて俺たちの手伝いに行かなきゃと、三人も焦ってくれてたんだな。牽制だけしててくれたら、すぐに行くからって言ってくれてたもんな。約束を守ろうと頑張ってくれたんだと思うと、ぽかぽかと胸が温かくなってくる。

「え…?」
「アキトとブレイズ?」 
「は?」

 ルセフさんとファリーマさん、ウォルターさんの三人は、大きく目を見開くとそのまま固まってしまった。俺たちの姿を、ただひたすらにじっと見つめ続けている。

 えーと、これはどうすれば良いのかなと思った時、ブレイズがブンブンと手を振りながら叫んだ。

「お疲れーヒュージスライムは二人で倒したよー!」

 いつも通りのブレイズの満面の笑みに、ようやく三人も動き出す。

「は?倒した?」
「あのサイズを二人だけで?」

 戸惑いを隠せないルセフさんとファリーマさんの前に立ち、ウォルターさんは楽し気に笑い出した。

「二人ともやるじゃねーか!」
「まあ、とどめを刺したのはアキトだけどねー」
「え、でも作戦はブレイズだったよ?」
「あれは別に作戦ってほどのものじゃなくないー?」
「いやいや、コアの分断とか思いつかなかったよ!」

 お互いにすごいのは相手だと主張し合う俺たちに、ルセフさんはゆっくりと近づいてきた。俺たちの後ろに転がったままになっていた欠けたコアと、ゼリーみたいな謎の物体をまじまじと見つめている。

「これは…本当に倒したんだな」
「うん!」
「はい」
「あー正直、二人だけで討伐までできるとは思ってなかったよ。頑張ったな」

 ルセフさんは柔らかく笑ってそう言うと、また俺たちの頭をわしわしと撫でてくれた。

 頭を撫でられるのは正直ちょっと恥ずかしいんだけど、幸せそうに目を細めているブレイズを見てしまうと拒否もしにくい。俺が拒否したせいで、ブレイズの幸せな時間を奪ったら駄目だよな。

「すごかったんだよ、アキトがつぶてを大きくしてね」

 唐突に始まったブレイズの説明に、ファリーマさんはすかさず食いついた。

「何だって?つぶてを?」
「どうやったのって聞いたら、初めてだけどやったらできたって言ってた」
「あー感覚派!俺も見たかったー!アキト、後でやって見せてくれないか!?」

 わーわー騒ぎ出したファリーマさんに、俺たちは全員揃って笑い合った。



 近くに魔物の気配が無い事を確認してから、俺たちは素材の回収に取り掛かった。

 ドロップした素材はもちろん、スライムの酸がかかった場所の土の採取もしたし、きっちりと調査ノートにも記入した。

「残った酸はこのままじゃ危ないから、埋めるか」
「俺こっちやるわ」
「じゃあ俺こっちな」

 土で酸を埋める作業をしながら話していると、色んなことが分かってきた。

 この辺りに魔物がいないのは、もしかしたら強い魔物の縄張りだからかもしれないと、最初から大人組は思っていたらしい。その可能性を口に出して言わなかったのは、どうやらフラグを立てないためだったみたいだ。

 とはいっても、まさかアグアウルフの番とヒュージスライムが出てくるとは、さすがに思ってなかったみたいなんだけどね。

 アグアウルフは獰猛で、一部の例外を除けば近くにいる生物全てを狩り尽くしてしまうらしい。魔物も動物も人間も容赦なく狩り続け、生物がいなくなったら移動するという習性があるんだって。

 軽く伝えられた言葉に背筋が寒くなった。アグアウルフ怖すぎだろ。

「え、でも…ヒュージスライムは?」
「一部の例外っていうのがそれだ」

 ルセフさんによれば、食べ残しを処理してもらうために、スライム系とだけ稀に共生関係になる事があるんだそうだ。共生関係になったスライムは、豊富なエサのおかげで巨大化し、そのままヒュージスライムに進化する事もあると言われていたんだって。

「まあ、噂程度でしか知らなかったから、半信半疑だったんだけどなぁ」
「実際に見ちゃったからなー」
「ああ、それも報告しないと駄目だろうな」 
「本当に怪我人が出なくて良かったよ…」

 しみじみと呟いたルセフさんの言葉が、何だかとても耳に残った。
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