生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
上 下
147 / 1,179

146.脳筋

しおりを挟む
 ごつんと拳をぶつけ合うウォルターさんとファリーマさんの姿を眺めていると、不意にルセフさんが振り返った。

「ほら、言った通りだろう?」

 ニヤリと笑って口にしたその意味ありげな言葉に、ウォルターさんとファリーマさんは即座に食いついた。

「なんだよ、俺たちが頼りになるって話か?」
「あ、それとも…俺たちが野営地作りの玄人だって話か?」

 嬉しそうな二人の顔をちらりと見たルセフさんは、満面の笑みを浮かべて高らかと言い放った。

「お前ら二人は脳筋だけど、力仕事は得意なんだって話してたんだよ」

 まさか本人たちを目の前にそんな事をずぱっと言うとは思ってなかった俺とブレイズ、そしてハルは三人そろって盛大に噴き出した。いや、これは笑わずにはいられないよね。

「はー?脳筋って失礼な!」
「そうだぞ!ウォルターはともかく俺まで一緒にするなよ!俺は魔法も得意だぞ!」
「おい、ファリーマ!俺だって盾は得意だぞ!」

 ぎゃいぎゃいとそんなことを言い合う二人を、ルセフさんは笑い飛ばした。

「よし。脳筋と認めないお前らに、こいつらが作った調査ノートを見せてやろう!」

 取り出したのは、俺が書き込みをしたあのノートだった。

「アキトが記入担当で、ブレイズが採取担当。俺の指示は全く無しで作ったノートだ」

 そう言うとルセフさんは、わざわざ書き込んだページを開いて二人に見せだした。ルセフさんの作ったノートに比べたらまだまだ拙いものだから、あまり真剣にみられると恥ずかしいんだけど。

 ウォルターさんとファリーマさんはそんな俺の気持ちなんて全く気付かずに、まじまじとノート見つめてから口を開いた。

「うん、すげぇな!」
「あー…うん、これは俺たちには無理だわ。これ見たら脳筋も否定できん…」

 しょんぼりと肩を落として脳筋を受け入れた二人に、ルセフさんは満足そうに笑ってみせた。

「あ、明日の東側の調査も三人で当たるからな」

 ちなみに既に二人には快諾してもらってるからなとルセフさんは続けた。

「おお、それは助かる」
「じゃあ、俺たちは湖の調査だな」

 なるほど湖の調査も必要なのか。どんなことを調査するんだろうなと考えていると、隣でブレイズが口を開いた。

「湖の調査って何やるの?」
「釣りだ!」

 ウォルターさんの力強い答えに驚いていると、ファリーマさんは苦笑を浮かべながらも補足説明してくれた。

 なんでも水質を調べるための水の採取に、水底にある藻や水草の採取、どんな魚が生息しているかを調べるための釣りも大事な作業の一つなんだって。

 ふざけて言ってるのかと思ったけど、本当に釣りもするみたいだ。

「ギルドの提出分以上に釣れたら、食事に魚が追加になるぞ」
「おお!それは大物狙わないとー!」

 ルセフさんの言葉で、ファリーマさんは一気にやる気が出たみたいだ。

「明日は魚かー!」
「釣れればな」
「絶対に釣る!」

 ぽんぽんとそんなことを言い合っていると、不意にハルがばっと森の方を振り返った。

「アキト、魔物が3体。種類は不明だけど強そうだ!」

 ハルの言葉に俺はびくっと体を揺らした。

「全員戦闘準備!」

 俺が口を開く前に、ルセフさんは号令をかけた。このタイミングで号令が出せるって事は、やっぱりハルと同じぐらいの速度で気配探知が出来てるって事だよな。俺も気配探知覚えたいなぁ。

「おそらく3体だ!」

 さっきまでの和やかな雰囲気は一掃された。

 ウォルターさんは盾を構えて俺たちの前に出ているし、ルセフさんも剣を構えて後衛を守る位置に移動していた。後衛は少し下がった場所で、すぐに攻撃ができる体勢を取って魔物を待ち構える。

「「来たっ!」」

 ハルとルセフさんの声が被った次の瞬間、ウォルターさんの盾がキィンッと甲高い音を立てた。先手必勝とばかりに爪を振りかざして攻撃をしてきたその魔物は、1mを超える巨体を物ともせず一瞬で距離を取っている。

 淡い水色の光を帯びたその狼は、歯をむき出しにして唸りながらこちらを威嚇していた。

「アグアウルフだ!」
「何でこんなところに!」

 ルセフさんとウォルターさんがそう言い合った所で、森の方からもう一体の魔物が現れた。少し小柄ながら、同じく淡い水色の光を帯びた狼だ。

「おいおい、しかも2頭いるぞ…番か?」

 アグアウルフという名前は、中級の図鑑には載ってなかったと思う。もちろん図鑑の魔物全てを覚えているわけではないけど、こんな変わった色合いの狼なら一度読んだら覚えてる筈。ということはこれは上級の魔物ってことだ。そこまで考えた所で、ルセフさんが叫んだ。

「Bランクの水属性の狼だ!アキト、ファリーマは水と火魔法以外を使ってくれ」
「はい!」
「分かった!」

 的確な指示に即座に答えると、俺とファリーマさんは魔力を練り上げ始める。

「今回は指示は出せない!それぞれ自由に戦ってくれ!」

 ルセフさんがそう言い放ったのには、正直に言ってちょっとびっくりした。良い判断だと頷いてたハルによれば、アグアウルフはかなり素早いから指示が追いつかない可能性が高いんだって。

 それだけ強い魔物って事かと、俺は気を引き締めてアグアウルフをじっと見つめた。
しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

処理中です...