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146.脳筋
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ごつんと拳をぶつけ合うウォルターさんとファリーマさんの姿を眺めていると、不意にルセフさんが振り返った。
「ほら、言った通りだろう?」
ニヤリと笑って口にしたその意味ありげな言葉に、ウォルターさんとファリーマさんは即座に食いついた。
「なんだよ、俺たちが頼りになるって話か?」
「あ、それとも…俺たちが野営地作りの玄人だって話か?」
嬉しそうな二人の顔をちらりと見たルセフさんは、満面の笑みを浮かべて高らかと言い放った。
「お前ら二人は脳筋だけど、力仕事は得意なんだって話してたんだよ」
まさか本人たちを目の前にそんな事をずぱっと言うとは思ってなかった俺とブレイズ、そしてハルは三人そろって盛大に噴き出した。いや、これは笑わずにはいられないよね。
「はー?脳筋って失礼な!」
「そうだぞ!ウォルターはともかく俺まで一緒にするなよ!俺は魔法も得意だぞ!」
「おい、ファリーマ!俺だって盾は得意だぞ!」
ぎゃいぎゃいとそんなことを言い合う二人を、ルセフさんは笑い飛ばした。
「よし。脳筋と認めないお前らに、こいつらが作った調査ノートを見せてやろう!」
取り出したのは、俺が書き込みをしたあのノートだった。
「アキトが記入担当で、ブレイズが採取担当。俺の指示は全く無しで作ったノートだ」
そう言うとルセフさんは、わざわざ書き込んだページを開いて二人に見せだした。ルセフさんの作ったノートに比べたらまだまだ拙いものだから、あまり真剣にみられると恥ずかしいんだけど。
ウォルターさんとファリーマさんはそんな俺の気持ちなんて全く気付かずに、まじまじとノート見つめてから口を開いた。
「うん、すげぇな!」
「あー…うん、これは俺たちには無理だわ。これ見たら脳筋も否定できん…」
しょんぼりと肩を落として脳筋を受け入れた二人に、ルセフさんは満足そうに笑ってみせた。
「あ、明日の東側の調査も三人で当たるからな」
ちなみに既に二人には快諾してもらってるからなとルセフさんは続けた。
「おお、それは助かる」
「じゃあ、俺たちは湖の調査だな」
なるほど湖の調査も必要なのか。どんなことを調査するんだろうなと考えていると、隣でブレイズが口を開いた。
「湖の調査って何やるの?」
「釣りだ!」
ウォルターさんの力強い答えに驚いていると、ファリーマさんは苦笑を浮かべながらも補足説明してくれた。
なんでも水質を調べるための水の採取に、水底にある藻や水草の採取、どんな魚が生息しているかを調べるための釣りも大事な作業の一つなんだって。
ふざけて言ってるのかと思ったけど、本当に釣りもするみたいだ。
「ギルドの提出分以上に釣れたら、食事に魚が追加になるぞ」
「おお!それは大物狙わないとー!」
ルセフさんの言葉で、ファリーマさんは一気にやる気が出たみたいだ。
「明日は魚かー!」
「釣れればな」
「絶対に釣る!」
ぽんぽんとそんなことを言い合っていると、不意にハルがばっと森の方を振り返った。
「アキト、魔物が3体。種類は不明だけど強そうだ!」
ハルの言葉に俺はびくっと体を揺らした。
「全員戦闘準備!」
俺が口を開く前に、ルセフさんは号令をかけた。このタイミングで号令が出せるって事は、やっぱりハルと同じぐらいの速度で気配探知が出来てるって事だよな。俺も気配探知覚えたいなぁ。
「おそらく3体だ!」
さっきまでの和やかな雰囲気は一掃された。
ウォルターさんは盾を構えて俺たちの前に出ているし、ルセフさんも剣を構えて後衛を守る位置に移動していた。後衛は少し下がった場所で、すぐに攻撃ができる体勢を取って魔物を待ち構える。
「「来たっ!」」
ハルとルセフさんの声が被った次の瞬間、ウォルターさんの盾がキィンッと甲高い音を立てた。先手必勝とばかりに爪を振りかざして攻撃をしてきたその魔物は、1mを超える巨体を物ともせず一瞬で距離を取っている。
淡い水色の光を帯びたその狼は、歯をむき出しにして唸りながらこちらを威嚇していた。
「アグアウルフだ!」
「何でこんなところに!」
ルセフさんとウォルターさんがそう言い合った所で、森の方からもう一体の魔物が現れた。少し小柄ながら、同じく淡い水色の光を帯びた狼だ。
「おいおい、しかも2頭いるぞ…番か?」
アグアウルフという名前は、中級の図鑑には載ってなかったと思う。もちろん図鑑の魔物全てを覚えているわけではないけど、こんな変わった色合いの狼なら一度読んだら覚えてる筈。ということはこれは上級の魔物ってことだ。そこまで考えた所で、ルセフさんが叫んだ。
「Bランクの水属性の狼だ!アキト、ファリーマは水と火魔法以外を使ってくれ」
「はい!」
「分かった!」
的確な指示に即座に答えると、俺とファリーマさんは魔力を練り上げ始める。
「今回は指示は出せない!それぞれ自由に戦ってくれ!」
ルセフさんがそう言い放ったのには、正直に言ってちょっとびっくりした。良い判断だと頷いてたハルによれば、アグアウルフはかなり素早いから指示が追いつかない可能性が高いんだって。
それだけ強い魔物って事かと、俺は気を引き締めてアグアウルフをじっと見つめた。
「ほら、言った通りだろう?」
ニヤリと笑って口にしたその意味ありげな言葉に、ウォルターさんとファリーマさんは即座に食いついた。
「なんだよ、俺たちが頼りになるって話か?」
「あ、それとも…俺たちが野営地作りの玄人だって話か?」
嬉しそうな二人の顔をちらりと見たルセフさんは、満面の笑みを浮かべて高らかと言い放った。
「お前ら二人は脳筋だけど、力仕事は得意なんだって話してたんだよ」
まさか本人たちを目の前にそんな事をずぱっと言うとは思ってなかった俺とブレイズ、そしてハルは三人そろって盛大に噴き出した。いや、これは笑わずにはいられないよね。
「はー?脳筋って失礼な!」
「そうだぞ!ウォルターはともかく俺まで一緒にするなよ!俺は魔法も得意だぞ!」
「おい、ファリーマ!俺だって盾は得意だぞ!」
ぎゃいぎゃいとそんなことを言い合う二人を、ルセフさんは笑い飛ばした。
「よし。脳筋と認めないお前らに、こいつらが作った調査ノートを見せてやろう!」
取り出したのは、俺が書き込みをしたあのノートだった。
「アキトが記入担当で、ブレイズが採取担当。俺の指示は全く無しで作ったノートだ」
そう言うとルセフさんは、わざわざ書き込んだページを開いて二人に見せだした。ルセフさんの作ったノートに比べたらまだまだ拙いものだから、あまり真剣にみられると恥ずかしいんだけど。
ウォルターさんとファリーマさんはそんな俺の気持ちなんて全く気付かずに、まじまじとノート見つめてから口を開いた。
「うん、すげぇな!」
「あー…うん、これは俺たちには無理だわ。これ見たら脳筋も否定できん…」
しょんぼりと肩を落として脳筋を受け入れた二人に、ルセフさんは満足そうに笑ってみせた。
「あ、明日の東側の調査も三人で当たるからな」
ちなみに既に二人には快諾してもらってるからなとルセフさんは続けた。
「おお、それは助かる」
「じゃあ、俺たちは湖の調査だな」
なるほど湖の調査も必要なのか。どんなことを調査するんだろうなと考えていると、隣でブレイズが口を開いた。
「湖の調査って何やるの?」
「釣りだ!」
ウォルターさんの力強い答えに驚いていると、ファリーマさんは苦笑を浮かべながらも補足説明してくれた。
なんでも水質を調べるための水の採取に、水底にある藻や水草の採取、どんな魚が生息しているかを調べるための釣りも大事な作業の一つなんだって。
ふざけて言ってるのかと思ったけど、本当に釣りもするみたいだ。
「ギルドの提出分以上に釣れたら、食事に魚が追加になるぞ」
「おお!それは大物狙わないとー!」
ルセフさんの言葉で、ファリーマさんは一気にやる気が出たみたいだ。
「明日は魚かー!」
「釣れればな」
「絶対に釣る!」
ぽんぽんとそんなことを言い合っていると、不意にハルがばっと森の方を振り返った。
「アキト、魔物が3体。種類は不明だけど強そうだ!」
ハルの言葉に俺はびくっと体を揺らした。
「全員戦闘準備!」
俺が口を開く前に、ルセフさんは号令をかけた。このタイミングで号令が出せるって事は、やっぱりハルと同じぐらいの速度で気配探知が出来てるって事だよな。俺も気配探知覚えたいなぁ。
「おそらく3体だ!」
さっきまでの和やかな雰囲気は一掃された。
ウォルターさんは盾を構えて俺たちの前に出ているし、ルセフさんも剣を構えて後衛を守る位置に移動していた。後衛は少し下がった場所で、すぐに攻撃ができる体勢を取って魔物を待ち構える。
「「来たっ!」」
ハルとルセフさんの声が被った次の瞬間、ウォルターさんの盾がキィンッと甲高い音を立てた。先手必勝とばかりに爪を振りかざして攻撃をしてきたその魔物は、1mを超える巨体を物ともせず一瞬で距離を取っている。
淡い水色の光を帯びたその狼は、歯をむき出しにして唸りながらこちらを威嚇していた。
「アグアウルフだ!」
「何でこんなところに!」
ルセフさんとウォルターさんがそう言い合った所で、森の方からもう一体の魔物が現れた。少し小柄ながら、同じく淡い水色の光を帯びた狼だ。
「おいおい、しかも2頭いるぞ…番か?」
アグアウルフという名前は、中級の図鑑には載ってなかったと思う。もちろん図鑑の魔物全てを覚えているわけではないけど、こんな変わった色合いの狼なら一度読んだら覚えてる筈。ということはこれは上級の魔物ってことだ。そこまで考えた所で、ルセフさんが叫んだ。
「Bランクの水属性の狼だ!アキト、ファリーマは水と火魔法以外を使ってくれ」
「はい!」
「分かった!」
的確な指示に即座に答えると、俺とファリーマさんは魔力を練り上げ始める。
「今回は指示は出せない!それぞれ自由に戦ってくれ!」
ルセフさんがそう言い放ったのには、正直に言ってちょっとびっくりした。良い判断だと頷いてたハルによれば、アグアウルフはかなり素早いから指示が追いつかない可能性が高いんだって。
それだけ強い魔物って事かと、俺は気を引き締めてアグアウルフをじっと見つめた。
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