生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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144.素材の調査ノート

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 ストイン湖近くの森は、本当にたくさんの素材で溢れていた。俺だけが知っている素材もあれば、ブレイズだけが知っている素材ももちろんある。

「あ、これはウォル草って言う薬草だよ。たぶん上級素材!」

 ブレイズが指差したのは、目にも鮮やかな真っ青の草だった。葉っぱの感じはちょっとほうれん草に似ている。

「へー知らなかった!よく知ってたね」
「ウォルター兄ちゃんが、俺の名前に似てるだろって自慢してたんだ」
「なるほど。そういう理由だと覚えやすいね」

 ばっちり採取していって、後でウォルターさんに覚えてたよって自慢するんだって。満面の笑みを浮かべたブレイズは、今日も癒し系だね。ハルも可愛いわんこを見つめるみたいな顔してたのには、ちょっと笑ってしまった。

 そんな調子で作業を続けていけば、残ったのは全く知らない謎の素材たちだ。

 それぞれ手分けして調べた方が効率は良いのかもしれないけれど、俺たちはゲーム感覚で競い合う方法を選んだ。

 これと決めた素材を、それぞれが図鑑を調べて探すという単純なゲームだ。

 とはいっても、ここには下級と中級の図鑑しかないから、どうしても見つからないのは後でルセフさんに聞くために別のノートに書きとめることになった。ハルが用意した方が良いって教えてくれたノートが、ついに役立ったよ。ちらっと視線を向ければ、ハルは嬉しそうに笑ってくれた。

 わいわいと騒ぎながら二人で競い合って調べるのは意外と楽しくて、気づけばかなりの量の素材調査が終わっていた。

「結構調べられたよね!」
「うん、ページ数もかなりあるよ」
「あ、ほんとだ。っていうか書き込み細かっ!」
「え、細かすぎる?」
「いや、これルセフさんは絶対喜ぶよ!」

 力強く断言してくれたブレイズに、俺はホッと息を吐いた。

「ルセフさんに確認してもらいたいのもあるし、一旦戻ろうか」
「そうだねー」

 元来た道をのんびりと戻って行くと、ルセフさんはノートを手に近くの倒木に腰を下ろしていた。どうやらこちらもある程度の調査は終わっていたみたいだ。

「ルセフさーん」
「お、ブレイズ、アキト。お疲れ」
「お疲れ様です」
「どうだった?」

 ルセフさんの質問に、俺はすぐに調査ノートを取り出した。口で説明するよりも見てもらった方が早いと思ったからだ。ブレイズも自分の鞄をじっと見つめていたけど、さすがにここで採取したものを出すのは邪魔になるからと我慢してるみたいだ。

「どうぞ」
「ああ、確認させてもらうな」

 調査ノートを受け取ったルセフさんは、倒木に座ったまま真剣な顔で読み始めた。なんとなく目の前で採点されてる気持ちで、そわそわしてしまう。

「うん。細かい説明まであってすごく分かりやすいな!」

 ほら、いった通りでしょと言いたげなブレイズに、俺もにこりと笑みを返す。隣で黙ってみていたハルは、ルセフさんの評価に満足げに頷いている。

「よく書けてたから当然の評価だよ。頑張ったね、アキト」

 なんてキラキラの笑顔で言ってくれたのには、ちょっと参った。誉めてくれるのは嬉しいんだけど、反応できない時にはできれば控えて欲しい。突然頬を赤くしたら、すごく不自然だろ。ありがとね。
 
「あと、これなんですけど」

 そう前置きして俺が差し出したもう一冊のノートに、ルセフさんは不思議そうに首を傾げた。

「下級と中級の図鑑に載ってなかった、気になった素材です。上級図鑑なら載ってるかと…」

 ぱらぱらっとノートを見たルセフさんは黙り込むと、俺とブレイズをじっと見つめながらふらりと立ち上がった。何か駄目だったかなと思った瞬間、俺とブレイズの頭をわしわしと撫で始めた。

「ここまでしてくれると思って無かったわ…おまえら最高!」

 ルセフさんに褒められたんだとやっと理解した俺たちは、顔を見合わせてから思わず笑ってしまった。気が済むまで俺たちの頭を撫でてから、ルセフさんはノートを手に持ったまま歩き出した。

「ここまでしてくれたんだから、今すぐ確認に行くぞ」

 鼻歌を歌い出しそうなほどに上機嫌なルセフさんの後を、俺たちは慌てて追いかけた。
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