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143.調査開始

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 綺麗な湖を眺めながら、少し早めの昼食を済ませる事になった。

「まだ火は起こせないから、簡単で悪いな」

 そう言われたけれど、ルセフさんお手製の具だくさんのサンドはやっぱり美味しくて俺とブレイズはニッコニコで平らげた。

「よし、決めた。チームを分ける」

 魔物の気配が無さすぎる事を気にしていたルセフさんは、悩んだ末にチームを二つに分けることを決断した。

 何が起きても対処できるようにと、全員装備はそのままで、前衛と後衛を混ぜたチーム編成だ。

 ウォルターさんとファリーマさんのチームは、今夜の野営地を作るための木々の伐採や整地を担当する事になった。怪力のウォルターさんと、水魔法も得意なファリーマさんなら、二人だけでも問題なく野営地が作れるらしい。どうやって作業するのかは正直全然想像できないけど、すごいって事だけは分かる。

「快適な野営地作ってやるから、楽しみにしてろよー」
「全員気をつけてな」

 笑顔で見送ってくれる二人に、俺とブレイズは元気に手を振った。ルセフさんとブレイズ、俺とハルの4人チームは森の中へと足を進めた。

 近くで採れる素材をノートに書き出しつつ、少量で良いから色んな種類を採取するというのが俺たちの担当する作業だ。

「この辺りで良いかな」

 ルセフさんが声を上げたのは、森の中へ入ってしばらく進んだ辺りだった。あまり湖に近すぎても駄目だし、かと言って離れすぎても良くないらしい。

「俺は一人でこっちを担当するから、そっち側は二人に頼めるか?」
「「はい!」」
「手分けした方が楽だと思うから、二人で相談してどっちをやるか決めてくれ」

 ノートを差し出しながら、ルセフさんは笑顔を見せた。

「アキト、あのさ…俺、あんまり文字が綺麗じゃないんだ」
「あ、じゃあ採取してくれる?」
「え、良いのか?」
「うん。俺も別にすごく字が綺麗ってわけじゃないけどね」

 あっさりと決まった役割に、ルセフさんはすぐに決まったなと笑っていたけれど、不意に真面目な顔になって一つだけ約束してくれと口にした。ぴりっと引き締まった空気に、俺とブレイズも真面目な顔で見返した。

「もし魔物が出たら俺の指示を待たずに攻撃して良いし、危険すぎると思ったら撤退して良い。約束は一つだけだ、無理をせずに絶対に生きて帰る事。良いな?」
「「はい!」」
「じゃあそっち側頼んだ!」

 ひらひらと手を振ったルセフさんは、すぐに図鑑を取り出すとノートに文字を記し始めた。



 負けてられないと担当する場所へと近づいてみると、そこは豊かな実りに満ち溢れた場所だった。この森には人の手が入っていないからか、多種多様な果物や植物がそこかしこになっている。

「これはすごいよね…」
「冒険者が来ない場所ってこんな状態なんだ」

 ぱっと見ただけでも、見たことのないものから、図鑑でだけ知っているもの、俺が採取したことのあるものまで色んな素材が散らばっている。

「頑張ってね。アキト、ブレイズ」

 笑顔のハルの応援に、俺はこっそりと笑みを返した。

 今回の調査に、ハルの知識を借りるつもりは無い。もちろんハルの助けがあれば、調査が一気にはかどるのは間違いない事だ。でもそれは、自分の実力では無い。

 どう言えば変に誤解されずに伝わるかなとちょっとだけ心配していたんだけど、今回はハルの方から調査には口を挟まないからやりたいようにやって良いよと言われてしまったんだ。

 本当にハルは俺の気持ちを読みすぎだよね。いや、その気遣いはすごく嬉しいんだけど。

 気になったのは『採取には』口出ししないと、やけに強調していた所だ。どういう意味かなと緩く首を傾げたら、もし魔物が出たら遠慮せずに口を出すからそれは我慢してねと先に宣言されてしまった。

 命の危機に自分の実力がとか言うつもりはさすがに俺も無いから、それはむしろありがたい申し出だった。

 俺はノートと魔道具のペン、そして中級の図鑑を取り出した。これで準備万端だ。

「ブレイズ。気になるのから調べていこうか」
「あ、じゃあこれ。このでっかい白い花!」

 ブレイズが指差したのは、頭ほどの大きさの真っ白な花だった。そのインパクトのある大きな花には見覚えがあった。ハルと出会ったばかりの頃に採取して、最初に冒険者ギルドに持ちこんだ素材だ。

「それはジジの花びらだね。鎮痛作用で常時買取のやつだよ」
「何で見ただけで分かるんだよーすごすぎない?」
「これは納品した事があるからね」
「それでもすごいよ」
「綺麗そうな花びらだけ選んで採取した方が良いよ」

 ブレイズは慎重に綺麗な花びらを選ぶと、採取袋に数枚だけ採取した。

 これは調査依頼地にこんなものがあったという証明のために提出するものだから、あまり数が多くても駄目なんだって。もちろん採取した素材はギルドが買取してくれるんだけどね。

 ブレイズの作業をちらりと見ながら、俺はノートに ジジの花びら 鎮痛作用 常時買取 と書き込むと顔を上げた。

「次、行こうか」
「じゃあ次このカラフルな果物なんてどうかな?」
「うわー黄色と紫色と青色の斑模様だ…」
「触って良いのかも悩む色だな」
「えーと中級の図鑑に派手な果物って載ってた気がするから、ちょっと待って…」

 わいわいと言い合いながら調査を続ける俺たちを、ハルは柔らかい笑顔で見守ってくれていた。
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