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137.寝る前の大事な準備

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 じわじわと暗くなっていく野営地の中を、俺はブレイズの持った松明の灯りを頼りに歩いていた。

 ブレイズと二人で、魔物避けの設置という大事な仕事を任されたからだ。

 当たり前に魔物が存在しているこの世界では、野営をする際には絶対に欠かせないものがある。それが俺が今手にもっている、魔物避けの束だった。

 見た目はただの薬草を無造作に束ねたものに見えるんだけど、実は薬師と魔法使いが加工をしたもので、一晩かけてじっくりと燃えるんだって。これを野営地の四隅に配置して火をつければ、ある程度の強さまでの魔物は寄って来れなくなるそうだ。

「そんな便利なものがあるんだ」
「うん、でもあまり広範囲だと効果が薄れるし、移動しながら使ってもあんまり意味が無いらしいよ」
「そうなの?」

 そんな便利なものがあるなら、採取中も使えば良いのにって思ったんだけど、やっぱりそれは無理なのか。

「野営地は、広さもだいたい一緒なんだ」

 ブレイズに言われて視線を巡らせると、遠くから見守っていたらしいルセフさんが手を振ってくれた。俺たちも二人で手を振り返す。ウォルターさんとファリーマさんは、今はテントの裏側で夕食の後片付け中だから姿は見えなかった。

「それはこの魔物避けのため?」
「うん、だからどの野営地でも、四隅に置けば大丈夫だよ」

 ルセフさんが二人で魔物避けを頼むって言ってくれたのは、こうやって俺に学ばせるためだったのかな。ブレイズも張り切って説明してくれていて、なんだか胸がほっこりした。

「ここだね、アキト置いてみて」

 ブレイズが指差したのは、少し凹んだ剥き出しの地面だった。分かりやすいように凹ませてくれてるのが、魔物避け置き場なんだって。

 魔物避けをそっと地面に置くと、ブレイズは片手に持っていた松明の火を近づけた。無造作に近づけたように見えるのに、端っこだけに火がついているのが不思議でまじまじと見つめてしまう。

「加工の段階で、端にしか火が着かないようになってるんだよ」

 ハルがそう教えてくれたので、俺の疑問はあっさりと解消された。

「全然臭くないんだね…?」

 思わずそう口にした俺に、ブレイズは楽し気に笑い出した。ハルも遠慮なく声を上げて笑っている。なんだよ、魔物が嫌いな匂いって言うから。

「人には感じ取れない匂いなんだ」
「そうなんだ」
「うん、そんなに臭かったら野営できないよ」
「根性で我慢するのかと思って」

 素直な感想だったのに、ブレイズとハルはまた楽しそうに笑い出してしまった。

「ブレイズ、笑ってないで次行くよ」
「ふっ…くく…はーい」

 俺はいつまでも笑い続けている二人を置き去りにして、次の隅に向かって歩き出した。



 四隅に魔物避けの設置は終わったけれど、これで安心して寝れるというわけでは無い。魔物避けが効かない魔物が、夜のうちにやって来る可能性も0では無い。

「だから、見張りは二人ずつで交代でやるんだ」
「なるほど」

 本とかで読んだことのある、寝ずの番ってやつだな。

「今日はアキトも入れて五人だから、俺が一人、アキトとウォルター、ブレイズとファリーマで3組つくるよ」
「待ってくれ、なんで俺とアキトじゃないんだよ!」

 食後に時間を取って魔法談義をしたのに、どうやらまだファリーマさんは話したりないみたいだ。

「アキトとお前を組ませたら、周りが目が覚める勢いで話しかけまくるし、思いついたらその場で魔法の実験始めるだろう。だから却下だ」

 眼鏡越しの目が笑ってないのを見てとったのか、ファリーマさんはしぶしぶ引き下がった。

「今日はまずアキトとウォルターから頼めるか?次がブレイズとファリーマ、朝飯の仕込みをしたいから俺が最後で良いか?」
「分かった。二時間半で良いのか?」
「ああ、頼んだ」
「あーアキトと話したかったなー明日まだ魔法談義してくれよな?」
「はい、空き時間があれば是非!」
「じゃあ俺も先に寝るね。アキト、また明日」
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