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135.料理上手

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 ルセフさんが用意してくれた夕食を前に、俺は絶句していた。動揺しているのは俺だけみたいで、他の3人は嬉しそうに拍手をしながらルセフさんを出迎えている。

「はい、まずはこれ、一角ボアのステーキな」
「うわっ、美味しそう…」
「一角ボアは寝かせて熟成させても美味しいんだけどね、新鮮なのはクセが少ないからこれも試して欲しくて」

 そう言いながら配られた木皿に乗っていた一角ボアのステーキは、網で焼いたらしく格子状に焼き目がついていて見るからに美味しそうだった。食べやすいように切り分けてある断面から、じゅわりと肉汁があふれ出ている。

「これは美味しそうだな」

 白狼亭のステーキが一番好きだと言っていたハルが、思わずそう言っちゃうぐらいに見た目からして美味しそうなんだからすごいと思う。

 次に渡されたスープには、カラフルなサイコロ状の野菜がたっぷり入ってた。見た目はミネストローネに近いかな。野菜はサイコロ状に切った後で、わざわざ干した物なんだって。干し野菜にした方が、旨味の出る野菜ばっかりが入ってるらしい。

「これだと依頼先でも野菜がとれるから」
「へーこんな便利な物があるんですね」

 感心しながらそう口にすれば、ルセフさんはあっさりと俺が作ったと言い切った。え、これ野菜を干すところから手作りなの?だからさっき下ごしらえは終わってるとか言ってたのか。

 さらに軽く火であぶったパンと、皮ごと食べられる果物まで渡されてしまったら、それはもう絶句するだろう。

 だって俺の思う冒険者の食事は、元料理人の幽霊モニカさんから聞いたものだけだ。素材そのままを食べてるとか、栄養が偏ってるとか言ってた、そんなイメージしかない。

「すっごい豪華…」
「そう思ってくれたら良かったよ」

 ルセフさんは嬉しそうに笑ってくれた。

「あーうっまー」

 しみじみと噛み締めるようにそう呟いたウォルターさんに、ブレイズは頷きで同意を示しながらも手と口は止めずに食べ続けている。

「あー今日のもめっちゃうまい。俺、テント作ってよかったー」

 ファリーマさんの言葉を、笑う事はできなかった。確かにこの見た目からして極上な料理を、目の前でお預けにされるのは絶対につらいと思う。俺なら耐えられない。

「お前ら、ちゃんと噛んで食べろよー。ほらアキトも食べてみて」
「いただきます」

 勧められるままに、まずはスープの入った木のコップを手に取った。旨味がしみ出しているスープだけでも十分に美味しいんだけど、干し野菜にしてあるという具の野菜はどれも味がぎゅっと濃縮されている。

「うっま!」
「お、素が出るほどうまかったか」

 感動しながら口に運んだステーキには、俺の語彙力がねこそぎ奪われた。いや、もう本当に美味しいものを食べた時って、言葉とか咄嗟に出ないんだね。思わずははって笑っちゃったよ。

 これだけ料理が出来る腕があったら、そりゃあ料理楽しみにしててって言えるよな。

「どう?口にあった?」
「めちゃくちゃ美味しいです!」
「それは良かった。おかわりもまだあるからね」

 美味しさに負けて絶対おかわりしちゃうだろうな。そう思いながら食べ進めていると、不意にウォルターさんと目があった。

「アキトも胃袋を掴まれたか…」
「え?」
「俺たちのチームはさ、リーダーとかいなかったんだよ、元々は」
「そうなんですか?」
「そうそう」

 ウォルターさんの言葉にファリーマさんは頷いているけど、ブレイズは大きく目を見開いた。ルセフさんは苦笑を洩らしている。

「え、俺も初めて聞いたんだけど」
「お前がチームに入る前だからな」

 チーム申請をした当時、どうしてもリーダーを一人選ばなければいけなくなった。三人は一歩も引かず、全員がリーダーをやりたいと主張したらしい。普通ならもめそうな場面だけど、その時にルセフさんが言ったんだって。

「俺がリーダーになったらこれからも飯は俺が作ってやるってな。この飯を食った事があったら、そんなの折れるしかないだろ?」

 胃袋を掴まれた時点でルセフの勝ちは決まってたんだと、ウォルターさんは続けた。

「うわー…俺ルセフさんがリーダーで良かった」
「リーダーになったウォルターが責任を持って飯を作るってなってたら、俺はこのチーム抜けてたね」

 ファリーマさんは真顔でそう言いながら、ステーキを口に放り込んだ。

「失礼だな、てめぇ!」
「ウォルター兄ちゃん、料理の才能全く無いもんね」
「誰が兄ちゃんだ!」

 兄ちゃん呼びには突っ込みが入ったけど、料理の才能が無い話にはノーコメントな辺りで何となく想像がついてしまった。

 そっか、ウォルターさんは料理が苦手なのか。
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