136 / 1,112
135.料理上手
しおりを挟む
ルセフさんが用意してくれた夕食を前に、俺は絶句していた。動揺しているのは俺だけみたいで、他の3人は嬉しそうに拍手をしながらルセフさんを出迎えている。
「はい、まずはこれ、一角ボアのステーキな」
「うわっ、美味しそう…」
「一角ボアは寝かせて熟成させても美味しいんだけどね、新鮮なのはクセが少ないからこれも試して欲しくて」
そう言いながら配られた木皿に乗っていた一角ボアのステーキは、網で焼いたらしく格子状に焼き目がついていて見るからに美味しそうだった。食べやすいように切り分けてある断面から、じゅわりと肉汁があふれ出ている。
「これは美味しそうだな」
白狼亭のステーキが一番好きだと言っていたハルが、思わずそう言っちゃうぐらいに見た目からして美味しそうなんだからすごいと思う。
次に渡されたスープには、カラフルなサイコロ状の野菜がたっぷり入ってた。見た目はミネストローネに近いかな。野菜はサイコロ状に切った後で、わざわざ干した物なんだって。干し野菜にした方が、旨味の出る野菜ばっかりが入ってるらしい。
「これだと依頼先でも野菜がとれるから」
「へーこんな便利な物があるんですね」
感心しながらそう口にすれば、ルセフさんはあっさりと俺が作ったと言い切った。え、これ野菜を干すところから手作りなの?だからさっき下ごしらえは終わってるとか言ってたのか。
さらに軽く火であぶったパンと、皮ごと食べられる果物まで渡されてしまったら、それはもう絶句するだろう。
だって俺の思う冒険者の食事は、元料理人の幽霊モニカさんから聞いたものだけだ。素材そのままを食べてるとか、栄養が偏ってるとか言ってた、そんなイメージしかない。
「すっごい豪華…」
「そう思ってくれたら良かったよ」
ルセフさんは嬉しそうに笑ってくれた。
「あーうっまー」
しみじみと噛み締めるようにそう呟いたウォルターさんに、ブレイズは頷きで同意を示しながらも手と口は止めずに食べ続けている。
「あー今日のもめっちゃうまい。俺、テント作ってよかったー」
ファリーマさんの言葉を、笑う事はできなかった。確かにこの見た目からして極上な料理を、目の前でお預けにされるのは絶対につらいと思う。俺なら耐えられない。
「お前ら、ちゃんと噛んで食べろよー。ほらアキトも食べてみて」
「いただきます」
勧められるままに、まずはスープの入った木のコップを手に取った。旨味がしみ出しているスープだけでも十分に美味しいんだけど、干し野菜にしてあるという具の野菜はどれも味がぎゅっと濃縮されている。
「うっま!」
「お、素が出るほどうまかったか」
感動しながら口に運んだステーキには、俺の語彙力がねこそぎ奪われた。いや、もう本当に美味しいものを食べた時って、言葉とか咄嗟に出ないんだね。思わずははって笑っちゃったよ。
これだけ料理が出来る腕があったら、そりゃあ料理楽しみにしててって言えるよな。
「どう?口にあった?」
「めちゃくちゃ美味しいです!」
「それは良かった。おかわりもまだあるからね」
美味しさに負けて絶対おかわりしちゃうだろうな。そう思いながら食べ進めていると、不意にウォルターさんと目があった。
「アキトも胃袋を掴まれたか…」
「え?」
「俺たちのチームはさ、リーダーとかいなかったんだよ、元々は」
「そうなんですか?」
「そうそう」
ウォルターさんの言葉にファリーマさんは頷いているけど、ブレイズは大きく目を見開いた。ルセフさんは苦笑を洩らしている。
「え、俺も初めて聞いたんだけど」
「お前がチームに入る前だからな」
チーム申請をした当時、どうしてもリーダーを一人選ばなければいけなくなった。三人は一歩も引かず、全員がリーダーをやりたいと主張したらしい。普通ならもめそうな場面だけど、その時にルセフさんが言ったんだって。
「俺がリーダーになったらこれからも飯は俺が作ってやるってな。この飯を食った事があったら、そんなの折れるしかないだろ?」
胃袋を掴まれた時点でルセフの勝ちは決まってたんだと、ウォルターさんは続けた。
「うわー…俺ルセフさんがリーダーで良かった」
「リーダーになったウォルターが責任を持って飯を作るってなってたら、俺はこのチーム抜けてたね」
ファリーマさんは真顔でそう言いながら、ステーキを口に放り込んだ。
「失礼だな、てめぇ!」
「ウォルター兄ちゃん、料理の才能全く無いもんね」
「誰が兄ちゃんだ!」
兄ちゃん呼びには突っ込みが入ったけど、料理の才能が無い話にはノーコメントな辺りで何となく想像がついてしまった。
そっか、ウォルターさんは料理が苦手なのか。
「はい、まずはこれ、一角ボアのステーキな」
「うわっ、美味しそう…」
「一角ボアは寝かせて熟成させても美味しいんだけどね、新鮮なのはクセが少ないからこれも試して欲しくて」
そう言いながら配られた木皿に乗っていた一角ボアのステーキは、網で焼いたらしく格子状に焼き目がついていて見るからに美味しそうだった。食べやすいように切り分けてある断面から、じゅわりと肉汁があふれ出ている。
「これは美味しそうだな」
白狼亭のステーキが一番好きだと言っていたハルが、思わずそう言っちゃうぐらいに見た目からして美味しそうなんだからすごいと思う。
次に渡されたスープには、カラフルなサイコロ状の野菜がたっぷり入ってた。見た目はミネストローネに近いかな。野菜はサイコロ状に切った後で、わざわざ干した物なんだって。干し野菜にした方が、旨味の出る野菜ばっかりが入ってるらしい。
「これだと依頼先でも野菜がとれるから」
「へーこんな便利な物があるんですね」
感心しながらそう口にすれば、ルセフさんはあっさりと俺が作ったと言い切った。え、これ野菜を干すところから手作りなの?だからさっき下ごしらえは終わってるとか言ってたのか。
さらに軽く火であぶったパンと、皮ごと食べられる果物まで渡されてしまったら、それはもう絶句するだろう。
だって俺の思う冒険者の食事は、元料理人の幽霊モニカさんから聞いたものだけだ。素材そのままを食べてるとか、栄養が偏ってるとか言ってた、そんなイメージしかない。
「すっごい豪華…」
「そう思ってくれたら良かったよ」
ルセフさんは嬉しそうに笑ってくれた。
「あーうっまー」
しみじみと噛み締めるようにそう呟いたウォルターさんに、ブレイズは頷きで同意を示しながらも手と口は止めずに食べ続けている。
「あー今日のもめっちゃうまい。俺、テント作ってよかったー」
ファリーマさんの言葉を、笑う事はできなかった。確かにこの見た目からして極上な料理を、目の前でお預けにされるのは絶対につらいと思う。俺なら耐えられない。
「お前ら、ちゃんと噛んで食べろよー。ほらアキトも食べてみて」
「いただきます」
勧められるままに、まずはスープの入った木のコップを手に取った。旨味がしみ出しているスープだけでも十分に美味しいんだけど、干し野菜にしてあるという具の野菜はどれも味がぎゅっと濃縮されている。
「うっま!」
「お、素が出るほどうまかったか」
感動しながら口に運んだステーキには、俺の語彙力がねこそぎ奪われた。いや、もう本当に美味しいものを食べた時って、言葉とか咄嗟に出ないんだね。思わずははって笑っちゃったよ。
これだけ料理が出来る腕があったら、そりゃあ料理楽しみにしててって言えるよな。
「どう?口にあった?」
「めちゃくちゃ美味しいです!」
「それは良かった。おかわりもまだあるからね」
美味しさに負けて絶対おかわりしちゃうだろうな。そう思いながら食べ進めていると、不意にウォルターさんと目があった。
「アキトも胃袋を掴まれたか…」
「え?」
「俺たちのチームはさ、リーダーとかいなかったんだよ、元々は」
「そうなんですか?」
「そうそう」
ウォルターさんの言葉にファリーマさんは頷いているけど、ブレイズは大きく目を見開いた。ルセフさんは苦笑を洩らしている。
「え、俺も初めて聞いたんだけど」
「お前がチームに入る前だからな」
チーム申請をした当時、どうしてもリーダーを一人選ばなければいけなくなった。三人は一歩も引かず、全員がリーダーをやりたいと主張したらしい。普通ならもめそうな場面だけど、その時にルセフさんが言ったんだって。
「俺がリーダーになったらこれからも飯は俺が作ってやるってな。この飯を食った事があったら、そんなの折れるしかないだろ?」
胃袋を掴まれた時点でルセフの勝ちは決まってたんだと、ウォルターさんは続けた。
「うわー…俺ルセフさんがリーダーで良かった」
「リーダーになったウォルターが責任を持って飯を作るってなってたら、俺はこのチーム抜けてたね」
ファリーマさんは真顔でそう言いながら、ステーキを口に放り込んだ。
「失礼だな、てめぇ!」
「ウォルター兄ちゃん、料理の才能全く無いもんね」
「誰が兄ちゃんだ!」
兄ちゃん呼びには突っ込みが入ったけど、料理の才能が無い話にはノーコメントな辺りで何となく想像がついてしまった。
そっか、ウォルターさんは料理が苦手なのか。
329
お気に入りに追加
4,145
あなたにおすすめの小説
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
自己評価下の下のオレは、血筋がチートだった!?
トール
BL
一般家庭に生まれ、ごく普通の人生を歩んで16年。凡庸な容姿に特出した才もない平凡な少年ディークは、その容姿に負けない平凡な毎日を送っている。と思っていたのに、周りから見れば全然平凡じゃなかった!?
実はこの世界の創造主(神王)を母に持ち、騎士団の師団長(鬼神)を父に持つ尊い血筋!? 両親の素性を知らされていない世間知らずな少年が巻き起こすドタバタBLコメディー。
※「異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ」の主人公の息子の話になります。
こちらを読んでいなくても楽しめるように作っておりますが、親の話に興味がある方はぜひズボラライフも読んでいただければ、より楽しめる作品です。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる