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132.【ハル視点】このチームは興味深い
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待ち合わせ場所である北大門前の広場に辿り着いたのは、約束の時間よりも20分も前だった。やる気があるのは良い事だけど、チームの人はまだ誰も来ていないみたいだ。
「まだ来てないみたいだね」
「うん、ちょっと張り切りすぎたかな」
ちょっと冷静になったのか、アキトは恥ずかしそうに笑ってみせた。
「遅れるよりは良いと思うよ」
「そうだよね」
俺たちは並んでベンチに腰を下ろすと、ぽつぽつと話しだした。
この調査依頼の間はアキトが変に怪しまれないように、できるだけ話しかけないと決めた。もちろん非常事態には声をかけるけれど、こういう世間話はしばらくお預けになるだろう。
そう思うと、余計にこの時間が大事に思えた。
静かに広場を見渡していたアキトは、不意に大きく目を見開くと固まってしまった。何があったのかと視線の先を辿ってみると、老齢の女性が屋台を引っ張りながら歩いている。
「すご…ハル、屋台って重いよね?」
「ああ、あれは重さを軽減させる魔道具を使ってるんだ」
「あ、あの人の力じゃないんだ。なるほど魔道具か」
「さすがにあれは魔道具無しでは運べないだろうね」
「良かった。もしかしてこっちでは女性でも俺より力持ちなのかと思った」
単純にあの女性の力強さに驚いたのかと思っていたが、どうやらそうではなかったみたいだ。この世界の女性は自分より力持ちなのかもと真剣に心配していたという事実に、俺は大きく目を見開いてから思いっきり噴き出した。
「なんだよ、笑うなよ」
珍しく拗ねた顔をしたアキトは可愛くて、生身だったらきっとくしゃくしゃになるまで頭を撫でていたと思う。
定位置に辿り着いたのか、女性はテキパキと屋台を組み立て始めた。興味深そうに見守るアキトの目は真剣だ。つい俺も一緒になって眺めていたが、不意に背後からブレイズの気配が近づいてきた。
「アキト、おはよ!」
「ブレイズ!おはよう」
「そんな真剣に何見てたの?」
「屋台の設置?」
「それって面白いの」
「初めてみたから、結構面白かったよ」
この二人の会話には子猫と子犬がじゃれ合っているような、そんな可愛さがある。もちろん子猫がアキトで、子犬がブレイズだ。二人の平和な会話を楽しんでいる間に、チームのメンバーは続々と到着した。
和やかな空気が流れる中、アキトも笑顔で挨拶を返している。
一人だけ少し遅れてやってきたウォルターは、ファリーマに揶揄われ、ブレイズには不思議がられ、ルセフには思いっきり睨まれていた。遅刻常習犯のようだから同情はできないなと無感動に見つめていると、アキトが慌てて口を開いた。
「あの、まだ約束の時間前なので、気にしなくて大丈夫ですよ」
「うおーアキトは良い奴だなぁ!」
優しくされて余程嬉しかったのか、ウォルターはそう叫ぶなりアキトに思いっきり抱き着いた。誰に断って勝手に触れているんだ。そんな言葉が口をついて出そうになった事に驚いた。
予想外の独占欲に俺が驚いている間に、ウォルターはルセフによって引き剝がされていた。
「ここから森に入るよ」
ルセフが一声かけると、すぐに隊列が組まれた。前衛のウォルターとルセフが先頭を行き、その後ろに後衛の3人が続く形だ。
「無理をする必要は無いから、疲れたら声をかけてくれよ」
一応頷いてはいるけれどアキトは自己申告はしないと思うぞ。アキトはそういう奴だと考えていると、ルセフはブレイズに視線を転じた。
「ブレイズはアキトが無理しないように、見張っててくれるか」
「了解~!」
なるほど、この隊長は指揮官としても有能のようだな。ちゃんと自己申告しますと答えているアキトと、そうしてくれと軽く返すルセフのやりとりを俺はじっと見つめていた。
今回の調査依頼の目的地であるストイン湖は、双子山と呼ばれているふたつの山のちょうど間に位置しているらしい。双子山には登った事があるが、その根本に湖があるなんて俺も知らなかった情報だ。
ストイン湖への行き方は何通りも存在しているが、この森の道を選んだ理由は他の道よりも高低差が少ないからだそうだ。
「街道から行くと、登山みたいになるんだってルセフが言ってたぞ」
ファリーマはそう言っていたが、それは違う。街道がそのまま山道に繋がっているため、登山みたいではなく間違いなく本格的な登山になる。双子山は衛兵や騎士団の鍛錬にも使われる山で、その過酷さはかなりのものだ。
あの登山道をアキトが通らずに済んで良かった。俺はルセフに感謝しながら歩き続けた。
しばらく森の中を進んでいくと、アキトの様子が変わった。まだブレイズも気づいてはいないようだが、ちょっと疲れてきたみたいだ。俺からアキトに自己申告をするように言うべきだろうかと悩んでいると、ルセフが不意に振り向いた。
「そろそろ休憩にするか。ファリーマ、頼む」
声をかけられたファリーマが取り出したのは、アキトがバラ―ブ村への差し入れに使ったセウカの実だった。水魔法を使って冷やしたセウカを切り分けてもらって、アキトは嬉しそうに笑っている。
「俺、セウカ好きなんだよねー」
「うん、美味しいよね」
ブレイズと二人で笑い合う姿に、大人たちは目を細めている。うん、やっぱり保護者目線なんだな。
時々休憩を挟みながら、チームは森の休憩所まで無事に辿り着いた。遮蔽物の多い森の中でも安心して食事や野営ができるように、草を刈り木を切り倒して視野を広げてある場所だ。
「ここでお昼にしようか」
ルセフが全員に配ってまわっているのは、切り込みを入れて具材を挟んだパンだった。料理が得意と言っていただけあって、皮がパリッとするまで焼いたマルックスと、細かく刻んだ野菜がたっぷり挟まれていて美味しそうだ。
一口かじったアキトの目がキラッと輝いた。よほど美味しかったんだろう。
「ルセフさん、これすっごく美味しいです」
「アキトは可愛いな」
「俺もこれすごい好き!」
「うん、ブレイズも可愛いな」
ルセフは満面の笑みを浮かべると、アキトとブレイズの頭をそっと撫でた。保護者目線だと分かったからか、今回はアキトに触れるなとは思わなかった自分に少しだけ安堵した。
簡単に休憩所の整備をしてから、チームは再び森の中へと足を進めた。
獣道はどんどん狭くなっていくけれど、移動は順調だった。前を行くアキトの背中を追っていると、不意に魔物の気配を感じた。移動速度が速い上に、一直線にこちらに向かってくる。
「アキト、魔物が来る!速い!」
もし何故分かったんだと不審がられたとしても、これは伝えるべき事だ。チーム全員の命に関わる。そう思って伝えたが、アキトが口を開く前にルセフが剣を抜いた。自分で気づいたのか。
ルセフが剣を抜いたのを見て、ウォルターも既に盾を構えている。
「戦闘準備!」
アキトとファリーマは魔力を練り始め、ブレイズは弓に矢をつがえている。アキトを含めて全員の行動が速い。
密かに感心していると、がさがさと茂みが揺れる音がどんどん近づいてくる。全員が見守るなか、勢い良く茂みから飛び出してきたのは一角ボアだった。不意打ちを食らうと危険な魔物だが、これだけ準備が出来ていれば難易度はぐんと下がる。
「ウォルター!」
「おうよ!」
ルセフの鋭い声に軽く返事をしたウォルターは、持っていた大きな盾をどんっと地面に置いた。音からしてこれはかなり重めの盾のようだ。重い盾は防御力ももちろん上がるが、取り扱いは重ければ重いほど難しくなる。ウォルターはその盾を全身を使って器用に支えている。
突進してきた一角ボアは、真正面からウォルターの盾にぶつかった。ドカンとものすごい音が辺りに響いたが、倒れたのは予想通り一角ボアの方だった。
「後衛は待機!」
簡潔にそう叫んだルセフは、盾の後ろから駆け出すと流れるような動きで魔物に止めを刺す。
「戦闘終了!」
ふうと全員の肩から力が抜けたが、俺は周囲の気配を探りながら辺りを見渡した。魔物の気配が無いことを確認すると、じっと俺を見上げてくるアキトに声をかけた。
「うん、近くに魔物の気配は無いよ。…それにしても、思った以上にこのチームは強いみたいだね」
思わずそんな言葉が出るほどに、俺はこのチームの強さに驚いていた。ブレイズ以外はC級だと聞いてはいたが、チームでならB級の依頼でも大丈夫な腕だと思う。アキトは俺の言葉に小さく頷いて、同意を示してくれた。
ファリーマがさりげなくルセフの剣と服に浄化魔法をかけると、ルセフは目線だけでお礼を言ってからアキトの方を振り返った。一角ボアの説明をしていた筈が、気づけば一角ボアのステーキがいかに絶品かという話になっていたのには少し笑ってしまった。これはアキトを和ますためにわざとしているのか、それとも料理に関する事だと暴走するのかどっちだろう。
「というわけで、ブレイズ、ファリーマ。解体頼むな」
「はーい、アキトはここでちょっと待っててね」
「行ってくる」
ファリーマとブレイズは二人掛かりで一角ボアを持ち上げると、道から外れた森の中へと分け入って行った。
ブレイズは狩人だったと言っていたから解体は得意だろうし、ファリーマはきっと血や不要な部位を処分するための穴掘りと、洗浄用の水魔法のためだろう。
アキトはその様子をじっと見つめていたが、何故か少しだけ悔しそうに地面に目を向けた。
え、何でそんな顔をするんだ。さっきまで笑顔だったのにとよくよく考えてみれば、俺は大事な事を伝え忘れている事に気づいた。
「アキト、道の近くでは解体をしないのが冒険者の常識だよ」
血の匂いに惹かれて魔物が集まって来ないように、解体する時は道から離れた所で行うのが常識だ。まだアキトには解体が出来ないから伝えていなかっただけなんだと慌てて説明すれば、アキトは納得してくれたみたいだ。
もちろん解体中の二人からしたら、解体をした事がないアキトへの配慮もあるんだろうけど、それをわざわざ説明する必要は無いだろう。
アキトはちらりとルセフとウォルターに視線を向けた。二人は熱心に解体作業中の二人を見つめている。きっと何かあればいつでも駆けつけられるようにしているんだろう。
アキトはそんな二人に見えないようにそっと俺を見上げると、口をパクパクさせながら声に出さずにありがとうと伝えてくれた。
不意打ちで贈られたアキトの感謝の言葉に、俺はどういたしましてと心からの笑みを浮かべた。
「まだ来てないみたいだね」
「うん、ちょっと張り切りすぎたかな」
ちょっと冷静になったのか、アキトは恥ずかしそうに笑ってみせた。
「遅れるよりは良いと思うよ」
「そうだよね」
俺たちは並んでベンチに腰を下ろすと、ぽつぽつと話しだした。
この調査依頼の間はアキトが変に怪しまれないように、できるだけ話しかけないと決めた。もちろん非常事態には声をかけるけれど、こういう世間話はしばらくお預けになるだろう。
そう思うと、余計にこの時間が大事に思えた。
静かに広場を見渡していたアキトは、不意に大きく目を見開くと固まってしまった。何があったのかと視線の先を辿ってみると、老齢の女性が屋台を引っ張りながら歩いている。
「すご…ハル、屋台って重いよね?」
「ああ、あれは重さを軽減させる魔道具を使ってるんだ」
「あ、あの人の力じゃないんだ。なるほど魔道具か」
「さすがにあれは魔道具無しでは運べないだろうね」
「良かった。もしかしてこっちでは女性でも俺より力持ちなのかと思った」
単純にあの女性の力強さに驚いたのかと思っていたが、どうやらそうではなかったみたいだ。この世界の女性は自分より力持ちなのかもと真剣に心配していたという事実に、俺は大きく目を見開いてから思いっきり噴き出した。
「なんだよ、笑うなよ」
珍しく拗ねた顔をしたアキトは可愛くて、生身だったらきっとくしゃくしゃになるまで頭を撫でていたと思う。
定位置に辿り着いたのか、女性はテキパキと屋台を組み立て始めた。興味深そうに見守るアキトの目は真剣だ。つい俺も一緒になって眺めていたが、不意に背後からブレイズの気配が近づいてきた。
「アキト、おはよ!」
「ブレイズ!おはよう」
「そんな真剣に何見てたの?」
「屋台の設置?」
「それって面白いの」
「初めてみたから、結構面白かったよ」
この二人の会話には子猫と子犬がじゃれ合っているような、そんな可愛さがある。もちろん子猫がアキトで、子犬がブレイズだ。二人の平和な会話を楽しんでいる間に、チームのメンバーは続々と到着した。
和やかな空気が流れる中、アキトも笑顔で挨拶を返している。
一人だけ少し遅れてやってきたウォルターは、ファリーマに揶揄われ、ブレイズには不思議がられ、ルセフには思いっきり睨まれていた。遅刻常習犯のようだから同情はできないなと無感動に見つめていると、アキトが慌てて口を開いた。
「あの、まだ約束の時間前なので、気にしなくて大丈夫ですよ」
「うおーアキトは良い奴だなぁ!」
優しくされて余程嬉しかったのか、ウォルターはそう叫ぶなりアキトに思いっきり抱き着いた。誰に断って勝手に触れているんだ。そんな言葉が口をついて出そうになった事に驚いた。
予想外の独占欲に俺が驚いている間に、ウォルターはルセフによって引き剝がされていた。
「ここから森に入るよ」
ルセフが一声かけると、すぐに隊列が組まれた。前衛のウォルターとルセフが先頭を行き、その後ろに後衛の3人が続く形だ。
「無理をする必要は無いから、疲れたら声をかけてくれよ」
一応頷いてはいるけれどアキトは自己申告はしないと思うぞ。アキトはそういう奴だと考えていると、ルセフはブレイズに視線を転じた。
「ブレイズはアキトが無理しないように、見張っててくれるか」
「了解~!」
なるほど、この隊長は指揮官としても有能のようだな。ちゃんと自己申告しますと答えているアキトと、そうしてくれと軽く返すルセフのやりとりを俺はじっと見つめていた。
今回の調査依頼の目的地であるストイン湖は、双子山と呼ばれているふたつの山のちょうど間に位置しているらしい。双子山には登った事があるが、その根本に湖があるなんて俺も知らなかった情報だ。
ストイン湖への行き方は何通りも存在しているが、この森の道を選んだ理由は他の道よりも高低差が少ないからだそうだ。
「街道から行くと、登山みたいになるんだってルセフが言ってたぞ」
ファリーマはそう言っていたが、それは違う。街道がそのまま山道に繋がっているため、登山みたいではなく間違いなく本格的な登山になる。双子山は衛兵や騎士団の鍛錬にも使われる山で、その過酷さはかなりのものだ。
あの登山道をアキトが通らずに済んで良かった。俺はルセフに感謝しながら歩き続けた。
しばらく森の中を進んでいくと、アキトの様子が変わった。まだブレイズも気づいてはいないようだが、ちょっと疲れてきたみたいだ。俺からアキトに自己申告をするように言うべきだろうかと悩んでいると、ルセフが不意に振り向いた。
「そろそろ休憩にするか。ファリーマ、頼む」
声をかけられたファリーマが取り出したのは、アキトがバラ―ブ村への差し入れに使ったセウカの実だった。水魔法を使って冷やしたセウカを切り分けてもらって、アキトは嬉しそうに笑っている。
「俺、セウカ好きなんだよねー」
「うん、美味しいよね」
ブレイズと二人で笑い合う姿に、大人たちは目を細めている。うん、やっぱり保護者目線なんだな。
時々休憩を挟みながら、チームは森の休憩所まで無事に辿り着いた。遮蔽物の多い森の中でも安心して食事や野営ができるように、草を刈り木を切り倒して視野を広げてある場所だ。
「ここでお昼にしようか」
ルセフが全員に配ってまわっているのは、切り込みを入れて具材を挟んだパンだった。料理が得意と言っていただけあって、皮がパリッとするまで焼いたマルックスと、細かく刻んだ野菜がたっぷり挟まれていて美味しそうだ。
一口かじったアキトの目がキラッと輝いた。よほど美味しかったんだろう。
「ルセフさん、これすっごく美味しいです」
「アキトは可愛いな」
「俺もこれすごい好き!」
「うん、ブレイズも可愛いな」
ルセフは満面の笑みを浮かべると、アキトとブレイズの頭をそっと撫でた。保護者目線だと分かったからか、今回はアキトに触れるなとは思わなかった自分に少しだけ安堵した。
簡単に休憩所の整備をしてから、チームは再び森の中へと足を進めた。
獣道はどんどん狭くなっていくけれど、移動は順調だった。前を行くアキトの背中を追っていると、不意に魔物の気配を感じた。移動速度が速い上に、一直線にこちらに向かってくる。
「アキト、魔物が来る!速い!」
もし何故分かったんだと不審がられたとしても、これは伝えるべき事だ。チーム全員の命に関わる。そう思って伝えたが、アキトが口を開く前にルセフが剣を抜いた。自分で気づいたのか。
ルセフが剣を抜いたのを見て、ウォルターも既に盾を構えている。
「戦闘準備!」
アキトとファリーマは魔力を練り始め、ブレイズは弓に矢をつがえている。アキトを含めて全員の行動が速い。
密かに感心していると、がさがさと茂みが揺れる音がどんどん近づいてくる。全員が見守るなか、勢い良く茂みから飛び出してきたのは一角ボアだった。不意打ちを食らうと危険な魔物だが、これだけ準備が出来ていれば難易度はぐんと下がる。
「ウォルター!」
「おうよ!」
ルセフの鋭い声に軽く返事をしたウォルターは、持っていた大きな盾をどんっと地面に置いた。音からしてこれはかなり重めの盾のようだ。重い盾は防御力ももちろん上がるが、取り扱いは重ければ重いほど難しくなる。ウォルターはその盾を全身を使って器用に支えている。
突進してきた一角ボアは、真正面からウォルターの盾にぶつかった。ドカンとものすごい音が辺りに響いたが、倒れたのは予想通り一角ボアの方だった。
「後衛は待機!」
簡潔にそう叫んだルセフは、盾の後ろから駆け出すと流れるような動きで魔物に止めを刺す。
「戦闘終了!」
ふうと全員の肩から力が抜けたが、俺は周囲の気配を探りながら辺りを見渡した。魔物の気配が無いことを確認すると、じっと俺を見上げてくるアキトに声をかけた。
「うん、近くに魔物の気配は無いよ。…それにしても、思った以上にこのチームは強いみたいだね」
思わずそんな言葉が出るほどに、俺はこのチームの強さに驚いていた。ブレイズ以外はC級だと聞いてはいたが、チームでならB級の依頼でも大丈夫な腕だと思う。アキトは俺の言葉に小さく頷いて、同意を示してくれた。
ファリーマがさりげなくルセフの剣と服に浄化魔法をかけると、ルセフは目線だけでお礼を言ってからアキトの方を振り返った。一角ボアの説明をしていた筈が、気づけば一角ボアのステーキがいかに絶品かという話になっていたのには少し笑ってしまった。これはアキトを和ますためにわざとしているのか、それとも料理に関する事だと暴走するのかどっちだろう。
「というわけで、ブレイズ、ファリーマ。解体頼むな」
「はーい、アキトはここでちょっと待っててね」
「行ってくる」
ファリーマとブレイズは二人掛かりで一角ボアを持ち上げると、道から外れた森の中へと分け入って行った。
ブレイズは狩人だったと言っていたから解体は得意だろうし、ファリーマはきっと血や不要な部位を処分するための穴掘りと、洗浄用の水魔法のためだろう。
アキトはその様子をじっと見つめていたが、何故か少しだけ悔しそうに地面に目を向けた。
え、何でそんな顔をするんだ。さっきまで笑顔だったのにとよくよく考えてみれば、俺は大事な事を伝え忘れている事に気づいた。
「アキト、道の近くでは解体をしないのが冒険者の常識だよ」
血の匂いに惹かれて魔物が集まって来ないように、解体する時は道から離れた所で行うのが常識だ。まだアキトには解体が出来ないから伝えていなかっただけなんだと慌てて説明すれば、アキトは納得してくれたみたいだ。
もちろん解体中の二人からしたら、解体をした事がないアキトへの配慮もあるんだろうけど、それをわざわざ説明する必要は無いだろう。
アキトはちらりとルセフとウォルターに視線を向けた。二人は熱心に解体作業中の二人を見つめている。きっと何かあればいつでも駆けつけられるようにしているんだろう。
アキトはそんな二人に見えないようにそっと俺を見上げると、口をパクパクさせながら声に出さずにありがとうと伝えてくれた。
不意打ちで贈られたアキトの感謝の言葉に、俺はどういたしましてと心からの笑みを浮かべた。
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