生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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131.チーム

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 ルセフさんの作った美味しい昼食を堪能した俺たちは、休憩所内の掃除を始めた。掃除といっても大したことでは無い。やる事といえば、伸びた枝を切ったり伸びた草を軽く刈る程度の事だ。

 ここみたいな森の中にある休憩所は、放っておくとすぐに自然に飲み込まれてしまう。だから利用した人が少しずつ協力することで、なんとか維持してるんだって。

 そのおかげでここを快適に使えたんだから、俺たちも張り切って掃除をした。

「ルセフ、こんなもんで良いか?」
「ああ、十分だろう。行くか」

 俺たちは近くに置いていた荷物を背負うと、森の中の休憩所を後にした。



 まっすぐ獣道を歩いていくと、分かれ道に行き当たった。左の道はそれなりの広さがあるけれど、右の道は明らかに目に見えて狭くなっている。

「こっちだな」

 ウォルターさんはそう言うと、迷いなく右の道を選んで歩き出した。リーダーはルセフさんだけど、道に詳しいのはウォルターさんなのか。そんな事を考えながら、ファリーマさんの背中を追いかける。

 狭くなった獣道を慎重に歩いていると、突然ハルが叫んだ。

「アキト、魔物が来る!速い!」

 ハルの探知能力は、ずば抜けている。ハルがそう言うなら絶対に魔物は来る。周りの皆に警告するために俺が口を開こうとするのと、ルセフさんが剣を抜いたのは同時だった。

 ルセフさんが剣を抜いたのを見て、ウォルターさんも即座に盾を構えている。

「戦闘準備!」

 ファリーマさんと俺は無言のままに魔力を練り始め、ブレイズは弓に矢をつがえた。

 がさがさと茂みが揺れる音が、どんどん近づいてくる。全員が見守るなか、勢い良く茂みから飛び出してきたのは、一本角のイノシシのような魔物だった。

「ウォルター!」
「おうよ!」

 ルセフさんの鋭い声に軽く返事をしたウォルターさんは、持っていた大きな盾をどんっと地面に置いた。音だけでその盾の重さが伝わってくる。きっと俺には持ち上げることもできない重さだろう。地面に置いたその盾を、ウォルターさんは全身を使って支えに入った。

 いまさら軌道修正もできなかったイノシシのような魔物は、真正面からウォルターさんの盾にぶつかった。ドカンとものすごい音が辺りに響いたが、倒れたのはイノシシの方だった。

「後衛は待機!」

 簡潔にそう叫んだルセフさんは、盾の後ろから駆け出すと流れるような動きで魔物に止めを刺した。

「戦闘終了!」

 ふうと全員の肩から力が抜けた。油断なく周りを見渡していたハルも、近くに魔物の気配は無いと教えてくれた。

「それにしても、思った以上にこのチームは強いみたいだね」

 感心した様子のハルの言葉に、俺は小さく頷きを返した。かなり急な襲撃だったのに、何の危なげも無く前衛だけで倒してしまうんだもんな。

 このイノシシみたいな魔物の名前は、一角ボアというらしい。肉には少しクセがあるけれど、そのクセが病みつきになるって人も多いらしい。一角ボアのステーキは絶品なんだよと、ルセフさんは笑顔で教えてくれた。

「というわけで、ブレイズ、ファリーマ。解体頼むな」
「はーい、アキトはここでちょっと待っててね」
「行ってくる」

 ファリーマさんとブレイズは二人掛かりで一角ボアを持ち上げると、道から外れた森の中へと分け入って行った。立ち止まった二人の姿は見える距離だけど、手元は茂みで隠れている。

 あれ、これってもしかして俺に気を使って、距離をとってくれたんだろうか。解体はした事が無いって伝えたもんなと申し訳なく思っていると、ハルがそっと俺に近づいてきた。

「アキト、道の近くでは解体をしないのが冒険者の常識だよ」

 血の匂いに惹かれて魔物が集まって来ないように、解体する時は道から離れた所で行うものなんだそうだ。まだ俺には解体が出来ないから、伝えていなかっただけなんだって。

 そっか、俺の考えすぎだったのか。ハルが教えてくれなかったら、俺はきっとずっと誤解したままだっただろう。俺の気持ちを汲んでわざわざ声をかけてくれたハルに、なんとか感謝の気持ちを伝えたい。

 ちらりと様子を見てみれば、ルセフさんもウォルターさんも解体作業中の二人を熱心に見つめていた。うん、今ならばれないかも。

 声を出さずに口パクでありがとうと伝えれば、ハルは優しく微笑んでどういたしましてと言ってくれた。
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