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120.【ハル視点】薬の治療

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 領都の中を歩くというただそれだけの行為に、これほど気を使ったのは初めてだ。そう断言できるぐらい、俺は慎重に道を選びながら黒鷹亭を目指した。

 じわじわと効いてくる薬の成分のせいで、頬が熱いし目も潤んでいる。そんな状態のアキトを、誰にも見られたくない一心で俺は必死に足を動かした。

 怪しい気配が近くに無い事を探ってから、俺はようやく辿り着いた黒鷹亭の中へと入っていった。

「おう。お帰り、アキト」

 受付のレーブンは、おまえそんな風に笑えたのかと二度見したくなる笑顔でアキトを出迎えた。ぐっと奥歯を噛み締めてから、俺は笑顔で答えた。

「ただいま帰りました」
「トルマルはどうだった?」
「すごく楽しかったです!お土産があるので、明日渡しますね」

 アキトならきっとこう言うだろう。そう思って演じてみたが、レーブンは怪訝そうな顔でまじまじと見つめてきた。

「なんか、雰囲気が違うな。アキト、何かあったか」

 やっぱりそう簡単に誤魔化されてはくれないか。

「あーちょっと飲みすぎました」

 あえて照れくさそうに笑ってみせれば、雰囲気が違うのは酒のせいかと一応は納得してくれたみたいだ。

「ああ、それで…かな。まあ、ゆっくりしてくれ」
「ありがとうございます」

 差し出された鍵をさっと受け取ると、俺はおやすみなさいと挨拶をしながら部屋に向かった。



 部屋に入って、まずはきっちりと鍵を閉めた。防音結界が発動するのを感じて、ふうと一気に肩の力が抜けた。身の安全はとりあえず確保できた。

「アキト、主導権を戻して大丈夫かな?」

 薬に対する耐性訓練を受けている俺でも、これほどにつらい薬だ。できればアキトに主導権を戻したくはないけれど、このままでいるのもまずい気がする。感覚的なものだが、俺の存在がアキトの存在を蝕んでいくような気がする。

「あまり長い間主導権を奪ってると、どうなるか分からないから…」
「うん。大丈夫戻して」

 ベッドの上に腰かけてから憑依を解くと、アキトはそのままベッドにぼすんと横たわってしまった。そっとアキトの顔を覗き込む。真っ赤な頬のアキトは潤んだ目で俺を見上げてきた。

「アキト、大丈夫?」
「だ、じょ…ぶ……」

 何とか搾りだした声に、あの男たちへの殺意が湧いてくる。

「あの通りの店は評判が良くなかったが、あんな事までしてるとは…」
「ル、ごめ…ひとりに…して」

 アキトは切なげにそう囁いた。黒鷹亭に辿り着いて安心したせいで、一気に薬が回ったんだろう。

「その反応は多分禁制の媚薬だと思う。出さないとおさまらない」
「わか…た」

 つらそうなアキトには申し訳ないが、もうひとつだけ確認しておきたいことがあった。

「手は動かせる?」

 アキトはハッと目を見開いてから固まった。俺が主導権を奪った影響で、手ぐらいは動かないかと期待してみたが甘かったようだ。

 絶望した表情のまま身じろぐアキトの姿をじっと見つめる。このままアキトにつらい思いをさせたくは無い。俺が憑依してアキトの手を動かすのは、アキト的にはどうなんだろう。ただの治療で、ただの自慰だと言い聞かせれば受け入れてくれるだろうか。

「分かった…俺がやるよ」

 ぼんやりとうつろな目で見上げてくるアキトは、言葉の意味を理解できなかったようだ。説明するよりもやってみせた方が早いだろう。俺はそっとアキトの手に手を重ねた。

「安心して、主導権は貰わないよ」

 薬を抜くための治療だとしても俺に触れられたくないと思うなら、アキトの気持ちだけで拒否はできるよと伝える。

「大丈夫、これはただの治療だからね、アキト」

 怖がらせないように、できるだけ優しい声で囁いた。

「しても良い?」
「…して」

 そっと手を動かすと、まずはアキトの下着をずり下ろした。すでに先走りまで滲んでいる勃起しきった性器が、勢いよく飛び出してくる。この状態で放置されるのは、辛すぎるだろう。

「んあっ…うっ…」

 俺の操る手がやさしくそこに触れた瞬間、びくりとアキトの体が揺れた。

「まずは一度イっておいた方が良いね」

 拒否されなかったとはいえ、アキトが望んで受け入れたわけではない。焦らすよりも早くイかせて終わらせてやりたい。その一心で俺は手を動かした。

 先走りのせいかなめらかに滑る俺の手は、ぐちゅりと塗れた音を立てながら確実に速度を上げていく。

「あぁっ…んっ…でっ…る…あああっ」

 達するアキトの声はあまりに官能的だったが、きっかけを思うと全く喜べない。ここでアキトの痴態を喜んでしまったら、俺はあいつらとおなじ屑になり下がる気がする。

 理性を総動員した俺は、できるだけ視線を逸らしながら落ち着いた声で話しかけた。

「上手にイケたね」

 うん、我ながら最悪の言葉の選択だな。動揺しているのがバレバレだ。手の中にあるアキトの性器は少しも萎えていなかった。
「ちょ…ハ…んぁっ」

 ゆるゆると手を動かすと、アキトがちいさく喘いだ。

「あっ…も…だいじょ、ぶ…だかっ…らっ」
「まだ勃ってるのに?」

 この薬が禁制になっているのは、体の自由を奪ってから発情させるその卑劣さと、あまりにきつい発情効果のせいだ。たった一回出した程度で終わるわけが無い。

「う…で、もっ…あぁっん…っくっ」

 アキトはそう声を上げると、ふるふると首を振った。本当に拒絶したいと言うよりは、恥ずかしいから止めたいという感じだな。冷静に分析しながら、俺は更に指を動かした。

「やっ…あっ、も…ん、んっ…」
「良いよ、満足するまで何回でも付き合うから」

 薬が抜けきってから罵倒されても良いから、少しでもアキトを楽にしてやりたかった。
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