114 / 1,112
113.元料理人の心残り
しおりを挟む
「アキト、最初は俺が近づくから様子を見て」
「ん、分かった」
ハルの背中にかばわれながら、俺はこそっと幽霊の様子を伺った。母親ぐらいの年代の女性は、まっすぐに近づいてきた俺たちに驚いた顔で振り向いた。
「あなたたちは?」
その目は綺麗に澄み切っている。
「ハル、大丈夫そう」
「そうか」
ハルの背中からひょこっと顔を出した俺は、戸惑った様子の女性に声をかけた。
「こんにちは。俺はアキト。幽霊が見える異世界人です」
「アキトさん、幽霊が見える…異世界人?」
あえて明るく自己紹介をしてみたんだけど、女性は呆然としながら俺を見つめていた。これは幽霊が見えるのと異世界人、どっちに反応してるんだろう。
「俺は幽霊のハルだ。アキトと一緒に旅をしている」
俺に合わせてか自己紹介をしたハルに、女性はゆっくりと首を傾げた。
「あの、ハロルド様…ですか?」
「ああ、そうだ。今はハルと名乗っている」
そういえばハルってハロルドって名前だったな。ハル呼びに慣れすぎて、ちょっと忘れかけてた。でも様付けって何でだろう。そう思ったけれど、女性がこちらを見てにっこりと笑ってくれたから聞くタイミングを逃してしまった。
「わたしの名前はモニカです」
「モニカさん」
「ええ、アキトさんとハルさんは何故ここへ?」
「馬車の休憩時間にモニカさんが見えたアキトが、気になると言い出してな」
何て誤魔化そうかと考えてる間に、ハルが全部言ってしまった。
「まあ、わたしのためにわざわざ?」
「寂しそうだったから、気になったんです」
「ありがとう、お二人とも」
モニカさんはそう言うと、ふわりと柔らかく笑ってくれた。
「その、私…心残りがあるんです」
言いづらそうにやっとそう口にしたモニカさんに、俺は幽霊にはよくある事ですよと伝えた。心残りがあってこの世に残る幽霊が圧倒的に多いと知って、モニカさんは少し安心したようだった。
「良ければ話してみませんか?」
ハルにもそう促されて、モニカさんはゆっくりと口を開いた。
「私は、生前料理人をしていたんです」
「料理人さん!」
「それで、その…言い難いんですけど…自分が食べた事のない料理を見てみたいんです!」
そう口にするなりモニカさんは恥ずかしそうに顔を伏せた。
「もう食べられないのに、食べ物に未練があるなんて恥ずかしくて!」
「え、別に恥ずかしくは無いですよね。研究熱心だったんだなって思いましたけど」
「ああ、俺も別に変だとは思わないな」
「まあ。ありがとうございます!」
笑われなくて良かったと嬉しそうなモニカさんに、俺は声を掛けた。
「つまり食べた事のない料理が見れれば良いんですよね?」
「ええ!でもこれが結構難しいんですよ!」
モニカさんは世界中を旅して、色んな料理を食べて回ってたんだって。
領都トライプールに住むことを決めてからは、この辺りの料理もかなり食べ歩いた。いや、食べ歩いてしまったと言うべきかもしれませんねとモニカさんは苦笑いを浮かべた。
この辺りの料理を食べつくしたせいで、なかなか願いが叶わないんだって。
「その上、ここから動けないので…」
この場所は平な地面が続いているから、森の中で活動する冒険者や旅人の休憩地点として使われているそうだ。だからここで食事をする人は、それなりにいるらしい。
「でも冒険者や旅人の食事なので…」
モニカさんは最初に見た時の寂しそうな顔で、じっと地面を見つめた。
「ああ、冒険者とか旅人の食事は偏ってるものですからね」
ハルの言葉に、がばっと顔を上げる。
「そうなんです!しかも素材そのままを食べる人までいて!いっそ私が料理してあげたいって思ってしまうんです!」
あ、その言葉はさっき干し魚をあぶって食べただけの俺にも、ちょっと刺さる。それにしても、寂しそうにしてた理由が料理をしてあげたいっていうのだったのにはちょっと驚いた。モニカさんは優しい人なんだな。
「何とかしたいけど…」
「領都まで戻ってわざわざ料理を買ってきたとしても、食べた事があるものの可能性が高いって事だよな」
ハルの言葉に、俺は大きく頷いた。
「でも料理人だった人が満足するような料理を、俺が作れる気もしないし」
食べたことのない料理ー食べたことのない料理かー。
「…あっ!あるかも!」
不意にひらめいた考えに、俺は思わず叫んだ。
「ん、分かった」
ハルの背中にかばわれながら、俺はこそっと幽霊の様子を伺った。母親ぐらいの年代の女性は、まっすぐに近づいてきた俺たちに驚いた顔で振り向いた。
「あなたたちは?」
その目は綺麗に澄み切っている。
「ハル、大丈夫そう」
「そうか」
ハルの背中からひょこっと顔を出した俺は、戸惑った様子の女性に声をかけた。
「こんにちは。俺はアキト。幽霊が見える異世界人です」
「アキトさん、幽霊が見える…異世界人?」
あえて明るく自己紹介をしてみたんだけど、女性は呆然としながら俺を見つめていた。これは幽霊が見えるのと異世界人、どっちに反応してるんだろう。
「俺は幽霊のハルだ。アキトと一緒に旅をしている」
俺に合わせてか自己紹介をしたハルに、女性はゆっくりと首を傾げた。
「あの、ハロルド様…ですか?」
「ああ、そうだ。今はハルと名乗っている」
そういえばハルってハロルドって名前だったな。ハル呼びに慣れすぎて、ちょっと忘れかけてた。でも様付けって何でだろう。そう思ったけれど、女性がこちらを見てにっこりと笑ってくれたから聞くタイミングを逃してしまった。
「わたしの名前はモニカです」
「モニカさん」
「ええ、アキトさんとハルさんは何故ここへ?」
「馬車の休憩時間にモニカさんが見えたアキトが、気になると言い出してな」
何て誤魔化そうかと考えてる間に、ハルが全部言ってしまった。
「まあ、わたしのためにわざわざ?」
「寂しそうだったから、気になったんです」
「ありがとう、お二人とも」
モニカさんはそう言うと、ふわりと柔らかく笑ってくれた。
「その、私…心残りがあるんです」
言いづらそうにやっとそう口にしたモニカさんに、俺は幽霊にはよくある事ですよと伝えた。心残りがあってこの世に残る幽霊が圧倒的に多いと知って、モニカさんは少し安心したようだった。
「良ければ話してみませんか?」
ハルにもそう促されて、モニカさんはゆっくりと口を開いた。
「私は、生前料理人をしていたんです」
「料理人さん!」
「それで、その…言い難いんですけど…自分が食べた事のない料理を見てみたいんです!」
そう口にするなりモニカさんは恥ずかしそうに顔を伏せた。
「もう食べられないのに、食べ物に未練があるなんて恥ずかしくて!」
「え、別に恥ずかしくは無いですよね。研究熱心だったんだなって思いましたけど」
「ああ、俺も別に変だとは思わないな」
「まあ。ありがとうございます!」
笑われなくて良かったと嬉しそうなモニカさんに、俺は声を掛けた。
「つまり食べた事のない料理が見れれば良いんですよね?」
「ええ!でもこれが結構難しいんですよ!」
モニカさんは世界中を旅して、色んな料理を食べて回ってたんだって。
領都トライプールに住むことを決めてからは、この辺りの料理もかなり食べ歩いた。いや、食べ歩いてしまったと言うべきかもしれませんねとモニカさんは苦笑いを浮かべた。
この辺りの料理を食べつくしたせいで、なかなか願いが叶わないんだって。
「その上、ここから動けないので…」
この場所は平な地面が続いているから、森の中で活動する冒険者や旅人の休憩地点として使われているそうだ。だからここで食事をする人は、それなりにいるらしい。
「でも冒険者や旅人の食事なので…」
モニカさんは最初に見た時の寂しそうな顔で、じっと地面を見つめた。
「ああ、冒険者とか旅人の食事は偏ってるものですからね」
ハルの言葉に、がばっと顔を上げる。
「そうなんです!しかも素材そのままを食べる人までいて!いっそ私が料理してあげたいって思ってしまうんです!」
あ、その言葉はさっき干し魚をあぶって食べただけの俺にも、ちょっと刺さる。それにしても、寂しそうにしてた理由が料理をしてあげたいっていうのだったのにはちょっと驚いた。モニカさんは優しい人なんだな。
「何とかしたいけど…」
「領都まで戻ってわざわざ料理を買ってきたとしても、食べた事があるものの可能性が高いって事だよな」
ハルの言葉に、俺は大きく頷いた。
「でも料理人だった人が満足するような料理を、俺が作れる気もしないし」
食べたことのない料理ー食べたことのない料理かー。
「…あっ!あるかも!」
不意にひらめいた考えに、俺は思わず叫んだ。
350
お気に入りに追加
4,145
あなたにおすすめの小説
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
自己評価下の下のオレは、血筋がチートだった!?
トール
BL
一般家庭に生まれ、ごく普通の人生を歩んで16年。凡庸な容姿に特出した才もない平凡な少年ディークは、その容姿に負けない平凡な毎日を送っている。と思っていたのに、周りから見れば全然平凡じゃなかった!?
実はこの世界の創造主(神王)を母に持ち、騎士団の師団長(鬼神)を父に持つ尊い血筋!? 両親の素性を知らされていない世間知らずな少年が巻き起こすドタバタBLコメディー。
※「異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ」の主人公の息子の話になります。
こちらを読んでいなくても楽しめるように作っておりますが、親の話に興味がある方はぜひズボラライフも読んでいただければ、より楽しめる作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる