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107.港と屋台と干し魚

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 ギルドを出るなり、ハルはすぐさま路地の方へと足を進めた。

「目的も達成したし、アキトは何がしたい?」
「んーまだあんまりお腹が空いてないから…港を見に行きたい!」

 俺の事を考えて、きっちりと人目の無い所まで移動してから質問するあたりが、さすがハルだよね。

「港か…この時間は港の辺りは混みあっているから、港が見える場所でも良いかな?」
「うん、見てみたいだけだからその方が良いかも」
「それならこっちだね」

 そう言って案内されたのは、ギルド近くの高台だった。景色を楽しむために作られているというその公園は、お昼時なこともあってか人は少なかった。

「こっちに港が見えるよ」

 ハルに案内された所に立って見下ろせば、大きな港が一望できる。

「うわーすごい絶景!」

 港町というだけあって、大きな港には頑丈そうな大きな船がいくつも並んでいる。

「あっちは商船で、あっちは漁のための船だね」

 指差して説明してくれた船は、どれも立派な造りだった。興味深く港を見つめていると、急にあることに気づいてしまった。この世界の人の体格の良さには慣れたつもりだったけど、船乗りの体格というか筋肉量がすごくないか。船の近くで物資を運んだりしている船乗りの人をじっと観察してみたけど、全員がかなりのマッチョなんだよな。

「何か船乗りの人たちって、めちゃくちゃ体格良くない?」

 下手したら冒険者の人よりも体格良い気がするんだけど。そう聞いてみれば、ハルは何でもないことのように俺の疑問に答えてくれた。

「船乗りは海の魔物と戦うのも仕事のうちだからね」
「え、そうなの?」
「この世界の海は危険だからね。海の魔物の討伐依頼は冒険者ではなく船乗りに回すんだ」

 なんでもこの世界で船乗りになるには事前に講習を受けて、試験に合格しないと駄目なんだって。さらに実践で魔物を倒すという最終試験まであって、それを突破したものだけが船乗りになれるそうだ。船乗りになるのすごく狭き門。

「それはすごいね」
「うん。だから残念かもしれないけど、海で泳ぐのは諦めてね」

 あ、それまだ気にしてくれてたんだ。魔物が出ると聞いてもうすっぱり諦めていた俺は、ハルの言葉に素直に頷いてみせた。



 その後立ち寄った屋台では、昨日とは違う種類の焼き魚串を買った。ここは屋台の近くで立ち食いするのが普通だと聞いたので、俺も受け取るなり屋台の横に移動してかじりついた。

 名前も分からない白身魚はほわっとほぐれて、口いっぱいに旨味が広がった。ただ塩を振って焼いただけのシンプルな調理法なのに、めちゃめちゃにうまい。これは屋台のおじさんの腕が良いんだろうな。

「うっま!」

 思わず漏れた声に、屋台のおじさんはニッと笑って声をかけてきた。

「うまいだろー?今日上がったばかりの魚だから、他の地域とは鮮度が違うんだよ」
「すごく美味しいです!本当に全然違う!」
「おうおう、よく分かってるねぇ」
「焼き具合と塩加減もすごくこだわってるんですね!」
「お…そこを分かってくれるとは嬉しいねぇ!」

 屋台のおじさんいわく、塩を振って焼くだけなら俺でもできるなんて言われる事もあるんだって。これは、絶対自分では作れない味だと思うんだけどな。

「気分が良いからこれはおまけだ!くってけ!」
「え、良いんですか?」
「おう!」

 笑顔で差し出されたのは、真っ青な魚の切り身を焼いた串だった。

「もらっておいたら良いと思うよ」
「じゃあありがたく頂きます」

 受け取った魚は、皮の部分がぱりっとするまで焼かれていて、さっきとは全く違う食感だった。

「店主さん…天才!」
「おう、口に合ったか?」
「さっきの串はほわっとほぐれて旨味が広がる感じで、今のは皮がぱりっとするまで焼かれてて食感が違うのもすごいし、味付けも微妙に違いますよね!」

 パリッの方はちょっと柑橘っぽい香りがするんだよ。

「本当に良い舌を持ってるな、兄ちゃん」

 店主さんは感心してくれてるけど、ハルは明らかにお腹をかかえて笑ってるよね。何がそんなに面白かったんだろう。

 ハルをじっと見つめている間に、おじさんの屋台の前には数人が列になっていた。

「あの、さっきあの人が言ってた二つの串下さい」
「俺はほわっの方を二本で」
「私はぱりっの方を三本下さい」
「俺は両方欲しいな」
「はいよ、ちょっと待ってくれよ!兄ちゃんのおかげで客が増えたな!あんがとよ!」
「いえいえ、俺もごちそうさまでした!」

 忙しそうに串を追加しているおじさんに手を振って、俺は屋台を後にした。



 次はどこに行こうかなと考えた時に思い浮かんだのは、昨日宿を目指して移動中に通ったメインストリートだった。色んなお店が並んでてふらふら見て回るだけでも楽しそうだなと思ったんだよな。

 希望を伝えると、ハルはすぐに裏道を駆使してメインストリートまで案内してくれた。

「冒険者のお兄さん、うちの干し魚は保存食としても抜群だよ!」

 声をかけてきたのは、携帯食を主に取り扱っているという店の店員さんだった。

「ああ、ここは冒険者の中では有名なお店だよ」

 ハルがすかさず店名をチェックして、そう教えてくれた。

「干し魚…」
「あら、興味ある?じゃあ中に入って見ていって」

 誘われるままに店内に入ってみれば、たくさんの棚に所せましと干し魚が並んでいた。皮付きで干されているものは皮の色で種類が違う事だけは分かるんだけど、身だけにして干してあるものは全部一緒に見える。正直どれを買えば良いのかも分からない。

「あの、これってどうやって食べるんですか?」
「そうね、うちのはどれもそのままでも食べられるけど…軽く火であぶるか、スープなんかの汁物に入れても美味しいわよ」

 魔法を使えば火であぶるのは簡単だし、採取地でのごはんや買い出しに行くのが面倒な時にも便利かも。気になっていた日持ちは普通に常温で持ち歩いても、だいたい3ケ月は大丈夫なんだって。

「そんなにもつんですか?」
「ええ、魔法を使って作ってるから、うちのは特に長持ちするんだよ」
「そうなんですか。じゃあ、店員さんの一番のおすすめはどれですか?」
「やっぱりこれかな」

 自信満々のおばさんは、棚から取り出してきた干し魚を見せてくれた。

「これは値段はちょっと高いけど旨味が濃くてね、そのまま食べても美味しいよ」

 ちょっと味見させてもらったら、思ったより塩味は濃くなくて、ちゃんと魚の旨味があった。うん、これはかなり美味しい。

「今食べさせてもらったやつを10枚お願いします」
「即決かい!よし、これも持ってきな!」

 おばさんは干し魚の上に手のひらサイズの布袋を載せてくれた。中身をみせてもらったら、そのまま食べられる小魚なんだって。カルシウム豊富そうで、健康的なおやつ感がある。

「ありがとうございます」
「いいのよ、またトルマルに来たら寄ってちょうだい」

 今回も支払いはギルドカードで済ませた。トルマルは観光地なだけあって、ほぼ全てのお店にギルドカード支払いの魔道具があるんだって。あまり現金を持ち歩いてない俺にとっては、すごくありがたい。

 朗らかな笑顔に見送られて、俺はその店を後にした。
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