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106.トルマルの冒険者ギルド
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ゆっくり食事をしながら相談した結果、今日の最初の予定はトルマルの冒険者ギルドに行くことに決まった。
期日に余裕があるからトライプールで報告でも大丈夫なんだけど、単純にトライプール以外の冒険者ギルドってのに興味があったから行きたいって言ったんだ。
「それならお昼は軽めにして、夜は海鮮料理の美味しいお店に行ってみない?」
ハルによると冒険者ギルドの近くにも、色んな屋台があるんだって。そこは昨日行った屋台市場形式じゃなくて、他の街みたいに独立した屋台がいくつか出てるらしい。というか、ああいう屋台が集まってる場所って屋台市場って呼ぶんだね。覚えておこう。
「それすごく良い!他の予定も決めた方が良いかな?」
「せっかくの旅行なんだし、あまりきっちり決めずに好きに過ごしたら良いと思うよ」
そう言って、ハルは柔らかく笑った。
「え、そう?」
「うん、アキトが気になるお店があったら寄っても良いし、海が見たかったら港の方へ行ってみるのも良いね」
「自由な旅行って感じで楽しそう!」
「よし、じゃあ用意が終わったら冒険者ギルドに行こうか」
「うんっ!」
やっと少し見慣れてきた気がする街中を、ハルと二人で並んで歩く。朝のトルマルの街は活気に満ち溢れていた。住人らしき人はもちろん、商人や冒険者、旅人らしき人までたくさんの人が行きかっている。
何度もここに来たことがあるというハルは、住人が使うという細い路地や抜け道を駆使して冒険者ギルドへと案内してくれた。もし案内が無かったら、冒険者ギルドに辿り着くのには倍以上の時間がかかったと思う。それぐらいの混雑具合だった。
「ここが冒険者ギルドだよ」
ハルが指差したのは、もちろん白壁に青い屋根の建物だった。トライプールのよりはちょっと小さいのかな。それでも大きなドアの上には、ドラゴンと剣が描かれた大きな看板がぶら下げられている。
「酒場は併設してないから、トライプールとは雰囲気も違うよ」
そう教えてもらいながら、俺は室内へと入った。話声はするものの落ち着いた雰囲気は、元の世界の役所とかの雰囲気に近い気がする。朝一の混雑が終わった所なのか受付も空いているし、冒険者の姿も掲示板の前に数人いる程度だ。
「他の冒険者ギルドでも、受付でギルドカードを出して依頼報告と言えば良いだけだよ」
ハルの声に背中を押されるように受付に近づいていくと、受付に座っていた女性と目があった。ふんわりと柔らかく笑ってくれたその女性の受付へと足を向ける。
「おはようございます」
「おはようございます。依頼報告お願いできますか?」
「はい。ではギルドカードをお預かりします」
別の冒険者ギルドで受けた依頼なのに、何の質問もされずにあっという間に手続きは進んで行く。その早さに驚いている間に買取希望の物があるか聞かれた俺は、慌てて答えた。
「あ、ウインがあります」
「それは料理人たちが喜びますね」
すぐに案内された解体室には、ムキムキマッチョなお爺さんが待ち構えていた。この世界の人は、お爺さんでも本当に見事な筋肉なんだよな。ちょっと羨ましい。
「ショウさん、ウインの解体です」
「ウインか、久しぶりだな」
「今のうちに手続きをしておきますので、ショウさんの書いた査定の紙を持って受付まで戻って頂けますか?」
「わかりました。案内ありがとうございます」
部屋から出ていく女性にお礼を言っている間、ショウと呼ばれたお爺さんはにこりとも笑わずに俺をじっと見つめていた。正直顔だけなら黒鷹亭のレーブンさんの方が怖いし、ただ俺を観察してるみたいだから何も言わずに見つめ返した。
「俺はショウだ。見ない顔だがどこ所属だい?」
「俺はアキトと言います。トライプール所属です」
「ここには依頼で?」
「ロズア村の依頼を終えて、ついでに観光に来たんです」
「なるほど、じゃあここに出してくれるか」
大きな台の上を指差したショウさんに従って、魔道収納鞄から俺はウイン11体を取り出した。ショウさんは一体ずつきっちりと見て回ってから、満足そうに頷いた。
「アキト、良い腕だな。傷が少なくて助かる」
「あ、ありがとうございます」
パニック状態でハルの指示がなければ倒せなかった相手なのに、そんな風に誉められると焦ってしまう。
「倒したのはアキトだから堂々としてたら良いんだよ」
俺の焦りを見透かしたハルの一声に、俺は小さく頷きだけを返した。まじまじとウインを見つめていたショウさんは、不意に口を開いた。
「アキトはいつまでここにいるんだ?」
「明日には帰る予定です」
「そうか、残念だな。またトルマルに来ることがあればぜひ納品しに来てくれ」
なんで突然残念がられたのか分からず固まった俺に、ハルはすかさず教えてくれた。
「解体師からすれば傷が少ない方が嬉しいんだ。つまりアキトの腕前を認めたからだよ」
「ありがとうございます。また来たらぜひ」
「おう、じゃあこれ受付に持っていってくれ」
さらさらと何かを書き込んだ紙を渡された俺は、すぐに受付へと戻った。手続きはもうほぼ終わっていて、依頼料と買取金額分はいつも通りにギルドカードに入れてもらった。
冒険者はどこのギルドに行ってもやっていける。そんな話を聞いた事はあったけれど、まさか所属と違う場所での手続きがここまで簡単だとは思わなかった。
冒険者ギルドのシステムすごい。そんな風に感心しながら、俺たちはギルドを後にした。
期日に余裕があるからトライプールで報告でも大丈夫なんだけど、単純にトライプール以外の冒険者ギルドってのに興味があったから行きたいって言ったんだ。
「それならお昼は軽めにして、夜は海鮮料理の美味しいお店に行ってみない?」
ハルによると冒険者ギルドの近くにも、色んな屋台があるんだって。そこは昨日行った屋台市場形式じゃなくて、他の街みたいに独立した屋台がいくつか出てるらしい。というか、ああいう屋台が集まってる場所って屋台市場って呼ぶんだね。覚えておこう。
「それすごく良い!他の予定も決めた方が良いかな?」
「せっかくの旅行なんだし、あまりきっちり決めずに好きに過ごしたら良いと思うよ」
そう言って、ハルは柔らかく笑った。
「え、そう?」
「うん、アキトが気になるお店があったら寄っても良いし、海が見たかったら港の方へ行ってみるのも良いね」
「自由な旅行って感じで楽しそう!」
「よし、じゃあ用意が終わったら冒険者ギルドに行こうか」
「うんっ!」
やっと少し見慣れてきた気がする街中を、ハルと二人で並んで歩く。朝のトルマルの街は活気に満ち溢れていた。住人らしき人はもちろん、商人や冒険者、旅人らしき人までたくさんの人が行きかっている。
何度もここに来たことがあるというハルは、住人が使うという細い路地や抜け道を駆使して冒険者ギルドへと案内してくれた。もし案内が無かったら、冒険者ギルドに辿り着くのには倍以上の時間がかかったと思う。それぐらいの混雑具合だった。
「ここが冒険者ギルドだよ」
ハルが指差したのは、もちろん白壁に青い屋根の建物だった。トライプールのよりはちょっと小さいのかな。それでも大きなドアの上には、ドラゴンと剣が描かれた大きな看板がぶら下げられている。
「酒場は併設してないから、トライプールとは雰囲気も違うよ」
そう教えてもらいながら、俺は室内へと入った。話声はするものの落ち着いた雰囲気は、元の世界の役所とかの雰囲気に近い気がする。朝一の混雑が終わった所なのか受付も空いているし、冒険者の姿も掲示板の前に数人いる程度だ。
「他の冒険者ギルドでも、受付でギルドカードを出して依頼報告と言えば良いだけだよ」
ハルの声に背中を押されるように受付に近づいていくと、受付に座っていた女性と目があった。ふんわりと柔らかく笑ってくれたその女性の受付へと足を向ける。
「おはようございます」
「おはようございます。依頼報告お願いできますか?」
「はい。ではギルドカードをお預かりします」
別の冒険者ギルドで受けた依頼なのに、何の質問もされずにあっという間に手続きは進んで行く。その早さに驚いている間に買取希望の物があるか聞かれた俺は、慌てて答えた。
「あ、ウインがあります」
「それは料理人たちが喜びますね」
すぐに案内された解体室には、ムキムキマッチョなお爺さんが待ち構えていた。この世界の人は、お爺さんでも本当に見事な筋肉なんだよな。ちょっと羨ましい。
「ショウさん、ウインの解体です」
「ウインか、久しぶりだな」
「今のうちに手続きをしておきますので、ショウさんの書いた査定の紙を持って受付まで戻って頂けますか?」
「わかりました。案内ありがとうございます」
部屋から出ていく女性にお礼を言っている間、ショウと呼ばれたお爺さんはにこりとも笑わずに俺をじっと見つめていた。正直顔だけなら黒鷹亭のレーブンさんの方が怖いし、ただ俺を観察してるみたいだから何も言わずに見つめ返した。
「俺はショウだ。見ない顔だがどこ所属だい?」
「俺はアキトと言います。トライプール所属です」
「ここには依頼で?」
「ロズア村の依頼を終えて、ついでに観光に来たんです」
「なるほど、じゃあここに出してくれるか」
大きな台の上を指差したショウさんに従って、魔道収納鞄から俺はウイン11体を取り出した。ショウさんは一体ずつきっちりと見て回ってから、満足そうに頷いた。
「アキト、良い腕だな。傷が少なくて助かる」
「あ、ありがとうございます」
パニック状態でハルの指示がなければ倒せなかった相手なのに、そんな風に誉められると焦ってしまう。
「倒したのはアキトだから堂々としてたら良いんだよ」
俺の焦りを見透かしたハルの一声に、俺は小さく頷きだけを返した。まじまじとウインを見つめていたショウさんは、不意に口を開いた。
「アキトはいつまでここにいるんだ?」
「明日には帰る予定です」
「そうか、残念だな。またトルマルに来ることがあればぜひ納品しに来てくれ」
なんで突然残念がられたのか分からず固まった俺に、ハルはすかさず教えてくれた。
「解体師からすれば傷が少ない方が嬉しいんだ。つまりアキトの腕前を認めたからだよ」
「ありがとうございます。また来たらぜひ」
「おう、じゃあこれ受付に持っていってくれ」
さらさらと何かを書き込んだ紙を渡された俺は、すぐに受付へと戻った。手続きはもうほぼ終わっていて、依頼料と買取金額分はいつも通りにギルドカードに入れてもらった。
冒険者はどこのギルドに行ってもやっていける。そんな話を聞いた事はあったけれど、まさか所属と違う場所での手続きがここまで簡単だとは思わなかった。
冒険者ギルドのシステムすごい。そんな風に感心しながら、俺たちはギルドを後にした。
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