生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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105.ブランカの朝ごはん

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 いつも通りガシガシとかき混ぜるように髪の毛を乾かしていると、湯冷めするといけないからもう少し部屋でゆっくりしないかと誘われた。首を傾げながら、駄目かな?って聞いてくるハルに、俺が逆らえるわけが無いし逆らうつもりも無い。

 ただ、一つだけ問題があるんだ。俺の年相応に元気いっぱいなお腹の音が、今にも部屋中に鳴り響きそうなんだよ…。あーお腹減った。朝から温泉を堪能したことに一切の後悔はないけど、食堂での朝食の時間を過ぎちゃったのは痛かったな。

 何か食べ物って持ってたかなと考えつつ、ぼんやりと見つめていた入口のドアが不意に淡く光り出した。白く輝いて一瞬消えて、今度は水色に輝いて一瞬消える。その繰り返しだ。

「ねぇ、ハル。異世界のドアって光るものなの?」

 昨日は光ってなかったと思うんだけど、一体何なんだろう。俺の唐突な質問にも、ハルは慣れた様子で返事をしてくれた。

「ん?ああそれは宿の人からの呼びかけだね」
「え、そんなのあるの?なんで音とかじゃないの?」

 普通に考えたら、呼び出しっていうとチャイムか電話みたいなものが思い浮かぶんだけど。なんで光りなの?

「音だと眠ってる人を起こしてしまうけど、あのぐらい淡く光るだけなら寝ている人は気づかないからかな」
「なるほど、それで光るのか」
「昔は音だったけど、どんどん改良されていって光るものになったみたいだよ」

 そんな豆知識を教えてくれるハルに、へーなんてのんきに返してる場合じゃないよな。宿の人が用事があって部屋の前に来てるなら、ドアを開けないとと俺は急いでドアへと近づいて行った。

「アキト」

 名前を呼ばれて振り返れば、ハルは手だけで俺を制して唐突にドアに顔を埋めた。水面に顔をつける時みたいに、顔から先がドアにめり込んでるっていうシュールな図だ。あまりに唐突な謎な行動に戸惑ってしまった俺に、ハルはすぐに顔を戻して笑ってくれた。

「うん、間違いなく宿の人だから開けて良いよ」

 ああ、防犯的な意味で確認してくれてたのか。

「ありがと、ハル」

 一声かけてからドアの鍵を開ければ、部屋の外の音が一気に聞こえるようになった。防音結界が解けている間は、うっかり返事しないように気をつけないと。決意してドアをそっと開ければ、一人の男性が立っていた。

「おはようございます」
「おはようございます」

 優しそうなおじさんは、柔らかい笑顔で挨拶をしてくれた。ハルがこっそりと昨日の受付のお婆さんの息子さんだよと教えてくれる。本当にハルは何でも知ってるな。

「うちの宿では、食堂に降りてこられなかった方には、こちらをお渡ししているんです」

 そう言って男性が開いてみせてくれたバスケットには、サラダやパン、カラフルな惣菜がいくつかと、綺麗にカットされたフルーツがたっぷりと詰まっていた。空腹状態で突然見せられた美味しそうなごはんに、俺に出来るのはお腹が鳴らないように祈ることぐらいだ。

「もしよろしければ、いかがですか?もちろん強制ではありませんので、必要なければ無理はしないでください」

 丁寧にそう説明してくれるおじさんに、俺は満面の笑みで答えた。

「わ、ありがとうございます。お腹が空いてたのですごく嬉しいです!」
「喜んでもらえて良かったです。こちらのカゴは部屋に置いたままで大丈夫ですので」

 おじさんは手にもっていたバスケットを閉めると、すぐに俺の手元に差し出してくれた。

「ありがとうございます」
「いえ、ごゆっくりどうぞ」

 男性は丁寧にお辞儀をしてから去っていった。



 お腹が空いたと思っていたら、最高のタイミングで朝ごはんがやってきた。温泉を楽しめた上に、朝ごはんも諦めなくて良いなんて。幸せな気持ちで、俺は部屋へと戻った。

「アキト、鍵は忘れないでね」

 あ、ごはんに気を取られすぎてて忘れる所だった。がちゃりと鍵をかければ、外の音は何も聞こえてこなくなった。よし、これでハルと話せる。

 テーブルにバスケットを広げて覗き込む。

「時間逃したから諦めてたのに…すごく美味しそう」
「うん、本当に美味しそうだね」

 にっこり笑顔のハルに見守られながら、俺はゆっくりとバスケットの中の料理を味わった。
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