生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
上 下
104 / 1,179

103.異世界の温泉は

しおりを挟む
 ハルの嬉しい提案に、俺は速攻で飛びついた。そうだよ。今から入れば良いんだよ。

 ウキウキですぐに着替えを用意しようとしたけど、何故か提案してくれたハル本人に止められてしまった。

「待って、アキト」
「え?」
「この世界の温泉は初めてなんだし、分からないことがあったら困るよね?一度一緒に浴室を見にいかない?」

 んーそう言われると確かにそうだな。ハルらしい気遣いに感謝の言葉を伝えつつ、俺たちは二人で一緒に浴室へと向かった。

「ここ?」
「そうだよ」

 部屋の壁にあったシンプルなドアを開ければ、そこには脱衣所らしき場所があった。

 作り付けの棚には、お洒落なカゴがいくつか並べて置いてある。そこに着替えを入れるんだって。その隣にはタオルとして使うための綺麗な布も、何枚かまとめて置いてあった。連泊の時は受付に持っていけば替えてもらえるらしい。

「ここの説明はそれぐらいかな」

 ハルの言葉に頷きながら、俺はもう一つのドアをじっと見つめていた。あのドアの向こうが浴室ってことだよね。ワクワクしながらハルを見上げれば、頷いてから手の動きだけでどうぞと促してくれた。許可がでたので開けたいと思います。俺は弾むような足取りで、もう一つのドアへと近づいていった。

「アキト、嬉しそうだね」
「うん。さっきからワクワクしてる」

 そーっとドアを開くと、まず流れる水音が聞こえてくる。

 期待に胸を膨らませながら覗き込むと、そこにはカラフルなタイルで彩られた大きな浴槽があった。壁にある魔法陣から流れ続けている乳白色のお湯が、柔らかく水面を揺らしている。

「わー想像以上に温泉っぽい!」
「気に入った?」
「すっごく気に入った!」

 浴室内の壁もシンプルな白色なんだけど、浴槽だけは色んな色のタイルが使われてるので目に楽しい。見慣れたシャワーの魔道具もあるから、これで体を流すのかな。

「トルマルの地下に湧いている温泉がいくつかあってね、ここはそこから魔道具を使ってお湯をひいてるんだ」
「魔道具でひいてるの?」
「そうだよ。溢れたお湯はあの床の隅にある魔道具で排水してるんだ」

 ハルが指差した所を見てみれば、確かにそこに魔法陣が刻まれたタイルがあった。溢れたお湯は、その魔法陣に吸い込まれていくみたいだ。

 ここは浄化以外の手を入れてないのが自慢なんだって。異世界にも源泉かけ流しっていう概念があるんだな。というか、もしかしたらこれも異世界人がもたらしたものだったりするのかな。

 備え付けの備品や魔道具の使い方まで、ハルはきっちりと全部説明してくれた。

「これで、分からないことは無いかな?」
「うん、多分無いと思う。ありがと」
「どういたしまして」

 部屋に戻ると、ハルはテーブルの椅子にきっちりと座りなおした。

「俺はここで海を見てるから、ゆっくりしてきて」
「うん、じゃあ行ってくるね」
「うん、湯あたりだけはしないように気をつけてね」

 優しい声で言ってくれるハルの背中を、思わず俺はじっと見つめてしまった。せっかく温泉がある宿なんだからハルも入れたら良いのにな。

 まあ、もし入れたとしても、さすがに一緒に入ろうなんてとても言えないけど。意識してない友人なら気楽に誘えるけど、好きな人と一緒に温泉なんてきっと心臓が持たないもんな。

 そんな事をつらつらと考えながら、俺は着替えを抱えて脱衣所へと足を進めた。



 この世界に来てからはずっと、浄化魔法とシャワーみたいな魔道具だけでしのいできたから本当に久々の入浴だ。しかも入浴剤とかじゃなくて、源泉かけ流しの温泉だ。これってすごい贅沢だよな。

 体をさっと洗ってからすぐに湯舟に浸かると、ふうーと思わず大きな息が漏れた。熱すぎない温度で、俺の好みにぴったりと合ってる。乳白色のお湯は肌ざわりも良くて、自然と笑顔になってしまう。だらしない顔をしてるだろうけど、誰も見てないからまあ良いか。

 ああ、どんどん体の力が抜けていく。体の疲れとか色んなものが、お湯に溶けだしてるみたいだ。久しぶりのお風呂が温泉とか、幸せすぎる。

 念願の入浴をしみじみと噛み締めながら、俺はのんびりと温泉を堪能した。
しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。

やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。 昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと? 前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。 *ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。 *フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。 *男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

処理中です...