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101.高級宿の室内は

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 綺麗な景色と美味しいごはんだけでも幸せだったのに、さらに夕日を見に行く約束までしてもらった俺は、このまま飲みに繰り出したいぐらいの上機嫌だった。

「ハル、どこかおすすめのお酒が飲める場所って知ってる?」
「うーん…知ってるけど、今日は止めておいた方が良いと思うよ」
「なんで?」
「移動だけでも疲れるのに、今日はロズア村での依頼までこなしたよね?」
「うん、そうだね」
「体は疲れてると思うから、今日は無理せずに早めに宿に帰った方が良いと思うんだ」

 体調を心配してのハルの提案を、俺が断れるわけがない。今歩いているのは、宿への道だ。

「アキト、こっちだよ」

 たくさんの魔道具の灯りで照らされた街は夜でもちゃんと明るいんだけど、昼間の街とは全く別物に見える。しかも、同じような壁と同じような屋根が続く街の中だ。

 一人なら絶対迷子になるな、これ。遠い目でそんな事を考えてしまった俺だけど、ハルのおかげで全く迷わずに目的地に辿り着いた。

 夜になってライトアップされたブランカの建物は、昼間よりもさらに高級そうに見えた。気合を入れなおしてから、そっとドアを開く。

「あ、おかえりなさいませ」

 すぐに俺に気づいてくれた受付のお婆さんは、さっきと同じ優しい笑顔で出迎えてくれた。

「ただいま戻りました」

 お婆さんはすぐに鍵を取り出して、部屋まで案内してくれた。この宿の鍵も魔道具になっていて、鍵をかけると防音結界が発動するんだって。つまり鍵さえきっちりかければ、ハルと何時でも周りを気にせずに話せるって事だ。

「ではごゆっくりどうぞ」
「案内ありがとうございました」

 部屋に入って内側から鍵をかけると、俺はすぐにハルを見上げて話しかけた。

「防音結界付きは嬉しいな」
「うん、静かで良いよね」

 アキトがゆっくり眠れるしと笑ってくれるハルに、俺はすぐに首を振った。

「周りを気にせずにハルと話せるからだよ」

 ハルは驚いた顔をして俺を見つめていたけど、すぐにふわっと笑ってくれた。

「うん。俺もアキトと話せて嬉しいよ。今日は長旅、お疲れ様」
「ハルもお疲れ!案内ありがと!」
「どういたしまして」

 二人で顔を見合わせて笑いあってから、俺は部屋の中へと視線を向けた。

 最初に目に入ってきたのは、薄手のカーテンがかかった大きな窓と、その窓の前に置いてあるテーブルセットだった。椅子が二つあるから、ハルと二人で座れそうだ。そんな事を考えながらそっと窓に近づいて外を覗いてみると、月の光を反射している真っ黒な海が見えた。

「もしかして、朝になったら海が見えるって事?」
「うん。ここはどの部屋からも海は見えるんだけど、この部屋は特に当たりみたいだね」
「そっか、明日の朝が楽しみだね」
「そうだね。きっと綺麗だよ」

 朝の景色を想像しつつ窓から離れた俺は、壁の所に置かれている謎の台に気づいた。引き出しとかもついてなくて、見た目はただのシンプルな木の机みたいなんだ。でも高さが30センチ程しか無い。

「ハル、これって…何?」

 分からない事は、その場で聞くに限るよね。

「ああ、これは荷物を置くための台だよ」
「へーこんなのあるんだ」
「黒鷹亭は主に冒険者用だから装備を置くための棚だけど、普通の宿にはこういう台が置いてあるものなんだ」
「へーまだまだ知らない事いっぱいあるんだな…使い方ってこれで合ってる?」

 謎の台改め、荷物置き台にそーっと荷物を載せると、ハルは笑って頷いてくれた。

 荷物を下ろして身軽になった俺は、今度は存在感のある大きなベッドへと近づいた。見た感じキングサイズぐらいの大きさがあるんじゃないかな。一人で寝ていいのかと思ってしまうぐらいの大きさだ。

 白地の寝具には、青色のグラデーションで波の模様が刺繍されていてすごくお洒落だ。手のひらでベッドをぽすぽすと押してみたけど、これは柔らかさも一級品だ。

「寝転がってみたら?」

 ハルにそう言われた俺は、まずは自分に念入りに浄化魔法をかけた。こんな綺麗なベッドに乗るなら、まずは綺麗にしないと。そう思っての行動だったけど、ハルは面白そうにそんな俺を眺めていた。

「だって汗かいたし…」
「良いんだよ。ただ息をするように浄化魔法を使うなと思っただけだから」

 確かに浄化魔法だけは、何も考えずに簡単に使えるようになっちゃったよな。他の魔法もいつかこれぐらい簡単に使えるようになるんだろうか。

「では!」

 俺は一声かけると、ぽすんとベッドに倒れこんだ。衝撃は全く無く、ふわっと柔らかく体全体を受け止められた。すっごく柔らかいのに柔らかすぎない。
 
「わーこのベッドすごい…」

 何だこのベッド。これはかなりやばいやつだ。

「気持ちよさそうな顔してる」
「あーうん…やば…気持ち良…」

 だんだんと目が閉じてきてしまう。今まで生きてきた中でダントツ一位に君臨するベッドの寝心地の良さに、これ以上抗えそうに無い。

「アキト?」

 急に黙り込んだ俺に心配そうに話しかけてくるハルに、とりあえず返事だけは返さないと。

「ねむ…ごめ…ル」

 眠いだけごめん、ハル。そう言ったつもりだけど、ちゃんと伝わったのかも確認せずに俺は意識を手放した。

 ごめん、ちょっとだけ寝させて。
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