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91.依頼達成

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※魔物を倒す描写があります。苦手な方はお気をつけ下さい※

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 ウインの縄張りに突入する前に、まずはきっちりと用意を済ませる。といっても、既に冒険者装備だから、用意できるのは魔力ぐらいなんだけどね。

 先に偵察に行ってくれたハルによると、ウインの数は35~40体程だそうだ。正直、ちょっと緊張してきた。

「用意できたよ!」
「うん、じゃあ行こうか」

 ハルに先導されて歩いていくと、大きな湖が見えてきた。透き通った綺麗な水が、太陽の光を反射してキラキラと輝いている。その美しい景色に見惚れていられたのは、本当に一瞬だけだった。

 ウインの縄張りに一歩足を踏み入れた瞬間、敵意を含んだ視線が一気に集まってくる。慌てて見上げれば、そこら中の木々にたくさんの魔鳥の姿があった。こちらを睨みながら、一斉にギィギィと鳴き出す姿はどこまでも不気味だ。

 幼い頃に父親に見せられたパニックムービーで、こういうのあったな。鳥がいきなり人を襲ってくる映画で軽くトラウマになったんだよな。そんな場合じゃないのに、何故かそんなことを思い出していると、目の前でウイン達が羽ばたき始めた。バサバサと音を立てながら飛び立った魔鳥達は、空中で向きを変えるとそのまま俺を目指して滑空してくる。

「うわー!」
「アキト、大丈夫?」

 思わず叫んだ俺に、ハルは心配そうに近づいてきた。

「どうしよう、ハル、これ思ったよりも怖い!」
「アキト、落ち着いて!土魔法だよ!」

 ぐんぐん近づいてくる魔鳥たちの姿からは目が離せないし、正直全く落ち着けない。それでも、ハルの声のおかげで何とか体は動いた。俺は何も考えずに土魔法を発動すると、目の前に迫る魔鳥めがけてつぶてを放った。

「よし、もう一度!」

 そこからはもう無我夢中だった。ハルの指示に従って魔力を練り上げて土魔法を発動して、狙って放つ。その繰り返しだった。11体目を撃ち落とした所で、ウインは縄張りを放棄しそのまま群れごと去っていった。

「終わったよ、アキト。お疲れ様」
「終わった…良かった…ハルもお疲れ」

 何とか返事は返したけど、気が抜けたら膝に力が入らなくなった。そのままへなへなとその場に座り込めば、ハルは慌てて近づいてきて隣に座り込んだ。

「怪我はないよね?」
「うん、怪我は無いんだけど…怖かった」
「怖いのに頑張ってえらかったね」

 素直な感想を伝えたら、なんだかこどもみたいに誉められてしまった。これハルに実体があったら、頭撫でて貰えたかもしれないやつだな。そんな事を考えているうちに、段々と気持ちは落ち着いてきた。

 地面に座り込んだまま視線を巡らせると、澄み渡った水を湛えた美しい湖が目に入った。この美しい湖が、ロズア湖か。キラキラと太陽の光を反射している湖に今度こそ遠慮なく見惚れていると、ハルは嬉しそうに笑ってみせた。

「この湖をアキトに見て欲しかったんだ」
「綺麗な湖だね」

 そうか、こんな綺麗な景色を俺に見せようとしてくれたんだ。

「カルツさんと出会ったあの湖も、好きみたいだったからね」

 海を見るのが好きだと思ってたけど、そう言われると確かに湖を見るのも好きだな。自分ですら気づいていなかった俺の好みに、ハルが気づいてくれた事が嬉しい。

「えーと、とりあえずウインは収納しておいて、次はルマイス草を探さないとかな」

 ハルのおかげで元気になった俺は、立ち上がると片っ端からウインを収納した。ハルと一緒に、そのまま植物の多そうな場所へと移動する。じーっと植物を見つめてみても、どこにでもある雑草があるようにしか見えない。図鑑で絵は見たけど、特徴がなかったもんな。

 ここはハルの教えてくれた見分け方を実践するべきだな。確か水魔法で雨か霧って言ってたよな。どちらにしようかと一瞬だけ悩んだけど、想像しやすそうな雨に決めた。ロズア湖に背を向けて立つと、俺はゆっくりと魔力を練り上げ始めた。

 パラパラと振ってくる雨を想像する。土砂降りにする必要は無い。傘を持っていても差すかどうか迷う程度の、柔らかくて優しい小雨だ。すぐに発動した魔法に、ハルはさすがアキトとまた誉めてくれた。

 小雨の中で目を凝らすと、地面に生えている草の一部だけが綺麗な水色に変化していく。

「あ、あった。これ!」
「うん、正解」

 色が変わっているルマイス草を手に取りまじまじと見つめてみたけど、隣にある雑草との区別は全くつかない。色の変化がなかったら、俺には見分けられそうにないな。急いで指定数分だけ採取を終わらせると、俺はすっと立ち上がった。

「ハル、ありがとね。色の変化が無かったら、俺絶対見分けられなかったよ」

 感謝の言葉を伝えようと顔を上げた俺の視線の先には、ハルの優しい笑顔とその後ろに小さな虹がちらりと見えた。ああ、さっきの水魔法のせいか。水撒きをしたら出る虹と同じ原理なんだろうな。

「ハル、見て」

 俺の唐突な言葉に視線を動かしたハルは、ふわっと柔らかく笑ってくれた。

「ああ、綺麗な虹だね」

 異世界でも虹が出るんだとか、そもそも虹って呼ぶんだとか気になる事は色々あったけど、そんなことはどうでもよくなってしまった。

 目を細めて虹を見つめるハルの横顔が、あまりに凛々しくて美しくて見惚れてしまったからだ。

「うん、綺麗だね」

 虹じゃなくてハルがだけどね。

 俺たちはその小さな人工の虹が消えるまで、二人だけの時間を堪能した。
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