生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
上 下
92 / 1,179

91.依頼達成

しおりを挟む
※魔物を倒す描写があります。苦手な方はお気をつけ下さい※

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ウインの縄張りに突入する前に、まずはきっちりと用意を済ませる。といっても、既に冒険者装備だから、用意できるのは魔力ぐらいなんだけどね。

 先に偵察に行ってくれたハルによると、ウインの数は35~40体程だそうだ。正直、ちょっと緊張してきた。

「用意できたよ!」
「うん、じゃあ行こうか」

 ハルに先導されて歩いていくと、大きな湖が見えてきた。透き通った綺麗な水が、太陽の光を反射してキラキラと輝いている。その美しい景色に見惚れていられたのは、本当に一瞬だけだった。

 ウインの縄張りに一歩足を踏み入れた瞬間、敵意を含んだ視線が一気に集まってくる。慌てて見上げれば、そこら中の木々にたくさんの魔鳥の姿があった。こちらを睨みながら、一斉にギィギィと鳴き出す姿はどこまでも不気味だ。

 幼い頃に父親に見せられたパニックムービーで、こういうのあったな。鳥がいきなり人を襲ってくる映画で軽くトラウマになったんだよな。そんな場合じゃないのに、何故かそんなことを思い出していると、目の前でウイン達が羽ばたき始めた。バサバサと音を立てながら飛び立った魔鳥達は、空中で向きを変えるとそのまま俺を目指して滑空してくる。

「うわー!」
「アキト、大丈夫?」

 思わず叫んだ俺に、ハルは心配そうに近づいてきた。

「どうしよう、ハル、これ思ったよりも怖い!」
「アキト、落ち着いて!土魔法だよ!」

 ぐんぐん近づいてくる魔鳥たちの姿からは目が離せないし、正直全く落ち着けない。それでも、ハルの声のおかげで何とか体は動いた。俺は何も考えずに土魔法を発動すると、目の前に迫る魔鳥めがけてつぶてを放った。

「よし、もう一度!」

 そこからはもう無我夢中だった。ハルの指示に従って魔力を練り上げて土魔法を発動して、狙って放つ。その繰り返しだった。11体目を撃ち落とした所で、ウインは縄張りを放棄しそのまま群れごと去っていった。

「終わったよ、アキト。お疲れ様」
「終わった…良かった…ハルもお疲れ」

 何とか返事は返したけど、気が抜けたら膝に力が入らなくなった。そのままへなへなとその場に座り込めば、ハルは慌てて近づいてきて隣に座り込んだ。

「怪我はないよね?」
「うん、怪我は無いんだけど…怖かった」
「怖いのに頑張ってえらかったね」

 素直な感想を伝えたら、なんだかこどもみたいに誉められてしまった。これハルに実体があったら、頭撫でて貰えたかもしれないやつだな。そんな事を考えているうちに、段々と気持ちは落ち着いてきた。

 地面に座り込んだまま視線を巡らせると、澄み渡った水を湛えた美しい湖が目に入った。この美しい湖が、ロズア湖か。キラキラと太陽の光を反射している湖に今度こそ遠慮なく見惚れていると、ハルは嬉しそうに笑ってみせた。

「この湖をアキトに見て欲しかったんだ」
「綺麗な湖だね」

 そうか、こんな綺麗な景色を俺に見せようとしてくれたんだ。

「カルツさんと出会ったあの湖も、好きみたいだったからね」

 海を見るのが好きだと思ってたけど、そう言われると確かに湖を見るのも好きだな。自分ですら気づいていなかった俺の好みに、ハルが気づいてくれた事が嬉しい。

「えーと、とりあえずウインは収納しておいて、次はルマイス草を探さないとかな」

 ハルのおかげで元気になった俺は、立ち上がると片っ端からウインを収納した。ハルと一緒に、そのまま植物の多そうな場所へと移動する。じーっと植物を見つめてみても、どこにでもある雑草があるようにしか見えない。図鑑で絵は見たけど、特徴がなかったもんな。

 ここはハルの教えてくれた見分け方を実践するべきだな。確か水魔法で雨か霧って言ってたよな。どちらにしようかと一瞬だけ悩んだけど、想像しやすそうな雨に決めた。ロズア湖に背を向けて立つと、俺はゆっくりと魔力を練り上げ始めた。

 パラパラと振ってくる雨を想像する。土砂降りにする必要は無い。傘を持っていても差すかどうか迷う程度の、柔らかくて優しい小雨だ。すぐに発動した魔法に、ハルはさすがアキトとまた誉めてくれた。

 小雨の中で目を凝らすと、地面に生えている草の一部だけが綺麗な水色に変化していく。

「あ、あった。これ!」
「うん、正解」

 色が変わっているルマイス草を手に取りまじまじと見つめてみたけど、隣にある雑草との区別は全くつかない。色の変化がなかったら、俺には見分けられそうにないな。急いで指定数分だけ採取を終わらせると、俺はすっと立ち上がった。

「ハル、ありがとね。色の変化が無かったら、俺絶対見分けられなかったよ」

 感謝の言葉を伝えようと顔を上げた俺の視線の先には、ハルの優しい笑顔とその後ろに小さな虹がちらりと見えた。ああ、さっきの水魔法のせいか。水撒きをしたら出る虹と同じ原理なんだろうな。

「ハル、見て」

 俺の唐突な言葉に視線を動かしたハルは、ふわっと柔らかく笑ってくれた。

「ああ、綺麗な虹だね」

 異世界でも虹が出るんだとか、そもそも虹って呼ぶんだとか気になる事は色々あったけど、そんなことはどうでもよくなってしまった。

 目を細めて虹を見つめるハルの横顔が、あまりに凛々しくて美しくて見惚れてしまったからだ。

「うん、綺麗だね」

 虹じゃなくてハルがだけどね。

 俺たちはその小さな人工の虹が消えるまで、二人だけの時間を堪能した。
しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...