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86.念願の馬車だ
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晴れ渡る青空の下、俺は上機嫌で北の大門を通り抜けた。そのまままっすぐ歩いていくと、遠くに目的地の馬車乗り場が見えてくる。
「嬉しそうだね、アキト」
ハルの声に、うんと小さく頷きを返す。だってついに念願だった馬車に乗れるんだ。油断すると鼻歌でも歌い出しそうな俺に、ハルは悪戯っぽく笑ってみせた。
「ちなみに馬車って呼び方は、異世界人が名付けたんだよ?」
「え」
思わず声が漏れてしまったけれど、同じく馬車乗り場を目指しているんだろう周りの人には聞こえなかったみたいだ。良かった。
「元々は違う名前だったけど、馬車って響きが面白いって受け入れられたそうだよ。ちなみにあの動物も元は魔獣だったものを手なずけて、異世界人がウマと名付けたって伝承があるんだ」
ということは、あの馬は俺の知ってる馬とは違う生き物だったんだ。
「へー」
なんだろう馬好きな異世界人でもいたのかな。ハルの話し方的にかなり昔の人なんだろうけど、異世界人の痕跡っていろんな所にあるんだな。ハルの教えてくれた知識に感心しながら歩いていくと、すぐに馬車乗り場の建物に辿り着いた。
建物の前には馬車が3台、並んで停まっていた。ふらふらと馬に近づきそうな俺に苦笑を浮かべながら、ハルはドアを指差した。
「アキト、そこの建物の中に入って」
慌てて建物の中へと入っていけば、部屋の中にはギルドみたいな受付カウンターがふたつ並んでいた。
「いらっしゃい」
「ロズア村に行きたいんですが」
「ロズア村なら1000グルだね」
俺は取り出した財布から、1000グルきっちりを取り出す。最近ギルドカードでばかり支払ってたから久しぶりに財布を取り出した気がするな。
「はい、たしかに。一番近いのだと15分後に出るのがあるけど、それに乗るかね?」
「はい、お願いします」
おじさんは頷くと、すぐに紙に何かを書き始めた。
「15分とは、アキトの幸運のおかげだね」
言葉の意味が分からずに首を軽く傾げると、ハルは口を開いた。
「各目的地行きは1日3本程度しか無いから、運が悪ければ長い間待たされるんだ」
下手したら、馬車に乗るために3時間とか待たされるらしい。時間が分かってるなら時間前に来たら良いのにと思ったんだけど、まさかの満席になったらすぐに出発で時間も読めないんだって。
そうか、時刻表通りにバスとか電車が来るのってすごい事だったんだな。
ハルいわく前にここに来た時に外で馬を眺めていた人たちも、大半が待ち時間の時間潰し目的だったらしいよ。単に馬が綺麗だから眺めてるんだと思ってた。
「はい、もうすぐだから表の馬車まで行ってくれ」
差し出された紙には、目的地の名前と緑の線が大きく書き込まれていた。手書きの乗車券なのかな。
「はい、ありがとうございました!」
「良い旅を」
うっすら笑みを浮かべてくれたおじさんにぺこりと頭を下げて、俺はワクワクしながら建物から外に出た。
建物の外に出ると、俺の手にある紙をちらりとみた御者のおじさんが手招きをしてくれた。
「緑ってことはロズア村だな、ロズア村はこの馬車だよ」
なるほど。こうやって色でどこ行きかを見分けてくれるんだ。
「乗って待ってても良いよ」
「あの、良ければ少しだけ馬を見てても良いですか?」
乗る予定の馬車に繋がれている大きな白馬に、俺の目は釘付けになっていた。立派な体格の馬で、真っ白なたてがみがサラリと揺れている。
「ああ、もちろん。こいつはヨウっていう馬なんだ」
立派な白馬はちらりと俺を見てくれた。
「綺麗な馬ですね…」
「触ってみるかい?」
「え、良いんですか?」
「ヨウは気に入らない奴なら、この距離まで近づけさせないからね」
「嬉しいです!ヨウ、俺はアキトって言うんだ」
挨拶をすると、ヨウはじっと俺の目を見つめてくれた。遠くから見ていた時も思ったけど、本当に馬の目って綺麗だよな。あれ、でも馬じゃないんだっけ。考えこんだ俺に、おじさんは触れ方が分からなくて悩んでいると思ったみたいだ。
「首筋のあたりをぽんぽんっと軽く叩くようにしてやると良いよ」
親切な御者さんのアドバイスに従って触れてみると、想像していた以上にすべすべの毛並みに驚いてしまう。
「つるつるすべすべだ」
「ふふ、こいつの毛並みは良いだろう?」
「はい、すごい記念になりました」
「ヨウも嬉しそうだからこっちも良かったよ」
見ただけで馬の機嫌が分かるんだ。さすが御者さんだな。
「それじゃあ、乗ってますね。ありがとうございました」
「はいよ」
俺は触れさせてもらった礼を言うと、すぐに馬車の中に乗り込んだ。あまり長居しても迷惑だろうしね。
ちゃんと日よけがついた大きめの馬車の中には、二人掛けの椅子が三列前向きに並んでいた。真ん中が通路になっていて、まるでバスみたいな配置だ。
車内には、既に先客が3人乗っていた。体格の良い冒険者らしきおじさんと、日に焼けたおじさんが二人だ。三人で世間話に興じていたらしい三人は、俺の方を振り返った。
「よう、よろしくな」
最初に声をかけてくれたのは、冒険者のおじさんだった。
「よろしくお願いします」
「あんたも冒険者かね?」
「はい」
「俺たちはロズア村で農業をやってるもんだ」
「そうなんですか」
ロズア村が初めてだと言うと、三人は揃ってお勧めの食べ物を教えてくれた。おいしいものが多いってことだけは分かったよ。
それにしても、こうやって乗客同士で話をしたりするんだな。うん、なんだか異世界って感じだ。
「嬉しそうだね、アキト」
ハルの声に、うんと小さく頷きを返す。だってついに念願だった馬車に乗れるんだ。油断すると鼻歌でも歌い出しそうな俺に、ハルは悪戯っぽく笑ってみせた。
「ちなみに馬車って呼び方は、異世界人が名付けたんだよ?」
「え」
思わず声が漏れてしまったけれど、同じく馬車乗り場を目指しているんだろう周りの人には聞こえなかったみたいだ。良かった。
「元々は違う名前だったけど、馬車って響きが面白いって受け入れられたそうだよ。ちなみにあの動物も元は魔獣だったものを手なずけて、異世界人がウマと名付けたって伝承があるんだ」
ということは、あの馬は俺の知ってる馬とは違う生き物だったんだ。
「へー」
なんだろう馬好きな異世界人でもいたのかな。ハルの話し方的にかなり昔の人なんだろうけど、異世界人の痕跡っていろんな所にあるんだな。ハルの教えてくれた知識に感心しながら歩いていくと、すぐに馬車乗り場の建物に辿り着いた。
建物の前には馬車が3台、並んで停まっていた。ふらふらと馬に近づきそうな俺に苦笑を浮かべながら、ハルはドアを指差した。
「アキト、そこの建物の中に入って」
慌てて建物の中へと入っていけば、部屋の中にはギルドみたいな受付カウンターがふたつ並んでいた。
「いらっしゃい」
「ロズア村に行きたいんですが」
「ロズア村なら1000グルだね」
俺は取り出した財布から、1000グルきっちりを取り出す。最近ギルドカードでばかり支払ってたから久しぶりに財布を取り出した気がするな。
「はい、たしかに。一番近いのだと15分後に出るのがあるけど、それに乗るかね?」
「はい、お願いします」
おじさんは頷くと、すぐに紙に何かを書き始めた。
「15分とは、アキトの幸運のおかげだね」
言葉の意味が分からずに首を軽く傾げると、ハルは口を開いた。
「各目的地行きは1日3本程度しか無いから、運が悪ければ長い間待たされるんだ」
下手したら、馬車に乗るために3時間とか待たされるらしい。時間が分かってるなら時間前に来たら良いのにと思ったんだけど、まさかの満席になったらすぐに出発で時間も読めないんだって。
そうか、時刻表通りにバスとか電車が来るのってすごい事だったんだな。
ハルいわく前にここに来た時に外で馬を眺めていた人たちも、大半が待ち時間の時間潰し目的だったらしいよ。単に馬が綺麗だから眺めてるんだと思ってた。
「はい、もうすぐだから表の馬車まで行ってくれ」
差し出された紙には、目的地の名前と緑の線が大きく書き込まれていた。手書きの乗車券なのかな。
「はい、ありがとうございました!」
「良い旅を」
うっすら笑みを浮かべてくれたおじさんにぺこりと頭を下げて、俺はワクワクしながら建物から外に出た。
建物の外に出ると、俺の手にある紙をちらりとみた御者のおじさんが手招きをしてくれた。
「緑ってことはロズア村だな、ロズア村はこの馬車だよ」
なるほど。こうやって色でどこ行きかを見分けてくれるんだ。
「乗って待ってても良いよ」
「あの、良ければ少しだけ馬を見てても良いですか?」
乗る予定の馬車に繋がれている大きな白馬に、俺の目は釘付けになっていた。立派な体格の馬で、真っ白なたてがみがサラリと揺れている。
「ああ、もちろん。こいつはヨウっていう馬なんだ」
立派な白馬はちらりと俺を見てくれた。
「綺麗な馬ですね…」
「触ってみるかい?」
「え、良いんですか?」
「ヨウは気に入らない奴なら、この距離まで近づけさせないからね」
「嬉しいです!ヨウ、俺はアキトって言うんだ」
挨拶をすると、ヨウはじっと俺の目を見つめてくれた。遠くから見ていた時も思ったけど、本当に馬の目って綺麗だよな。あれ、でも馬じゃないんだっけ。考えこんだ俺に、おじさんは触れ方が分からなくて悩んでいると思ったみたいだ。
「首筋のあたりをぽんぽんっと軽く叩くようにしてやると良いよ」
親切な御者さんのアドバイスに従って触れてみると、想像していた以上にすべすべの毛並みに驚いてしまう。
「つるつるすべすべだ」
「ふふ、こいつの毛並みは良いだろう?」
「はい、すごい記念になりました」
「ヨウも嬉しそうだからこっちも良かったよ」
見ただけで馬の機嫌が分かるんだ。さすが御者さんだな。
「それじゃあ、乗ってますね。ありがとうございました」
「はいよ」
俺は触れさせてもらった礼を言うと、すぐに馬車の中に乗り込んだ。あまり長居しても迷惑だろうしね。
ちゃんと日よけがついた大きめの馬車の中には、二人掛けの椅子が三列前向きに並んでいた。真ん中が通路になっていて、まるでバスみたいな配置だ。
車内には、既に先客が3人乗っていた。体格の良い冒険者らしきおじさんと、日に焼けたおじさんが二人だ。三人で世間話に興じていたらしい三人は、俺の方を振り返った。
「よう、よろしくな」
最初に声をかけてくれたのは、冒険者のおじさんだった。
「よろしくお願いします」
「あんたも冒険者かね?」
「はい」
「俺たちはロズア村で農業をやってるもんだ」
「そうなんですか」
ロズア村が初めてだと言うと、三人は揃ってお勧めの食べ物を教えてくれた。おいしいものが多いってことだけは分かったよ。
それにしても、こうやって乗客同士で話をしたりするんだな。うん、なんだか異世界って感じだ。
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