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85.サプライズ失敗
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何か依頼を受けるべく、俺たちは朝から冒険者ギルドに来ている。噂が定着したからか、意外にも周りからの視線は少し落ち着いた気がする。じろじろ見てくるというよりは、ちらちらっと見てからこそこそ話してる感じなんだよな。落ち着いてくれたなら、俺的には文句は無い。
今日はどんな依頼があるかな。いつも通り掲示板を手分けして見ていると、ハルがそっと近づいてきた。
「アキト、提案なんだけど…ロズア村の依頼がいくつか出てるんだ」
ロズア村ってどこだろうと軽く首を傾げた俺に、ハルはすぐに説明してくれた。
「ここから東に位置する村なんだけど、確か馬車に乗りたいって言ってたよね?」
優しい声に、俺は大きく目を見開いた。ロズア村っていうのは、馬車に乗れる依頼先なのか!それは是非受けたいな。この前はバラ―ブ村の緊急依頼があったから、結局馬車に乗れなかったし。あ、でもおかげで川下り出来たんだよな。川下りも楽しかったけど、今は馬車だ。ついに馬車に乗れるんだ。
じっと目を見つめながら小さく頷けば、ハルはすぐに俺の気持ちを汲み取ってくれた。
「これとこれだよ」
ハルが指差してくれた依頼書をいそいそと読んでみると、確かに目的地も依頼主もロズア村になっていた。ひとつはロズア湖に現れたウインという魔鳥の討伐依頼で、もうひとつはロズア湖周辺にしか生えないルマイス草の採取依頼だった。ウインもルマイス草も知らないんだけど、そこは大丈夫かなとハルに視線を向ける。
「ウインもルマイス草も、中級の辞書に載ってるよ」
そうなんだ。昨日ざっと目は通したつもりだったけど、見逃したみたいだ。ハルのおかげで唯一の不安要素も消えた。よし、決めた。ロズア村に行くぞ。
念願の馬車に乗れると興奮していた俺はこのまま出発する気満々だった。通り道で食料だけ調達すれば良いだろうと思ってただけど、あっさりとハルに止められた。
「泊まりになるかもだし、レーブンには声をかけた方が良いよ。きっと心配するから」
「あ…」
こどもみたいにはしゃいでいた自分が、急に恥ずかしくなった。ああ見えて優しいレーブンさんなら、俺が帰ってこないと間違いなく心配するだろう。
緊急依頼の時は、宿に泊まってる冒険者さんがたまたま俺が依頼を受けたのを見ていたらしくて伝えてくれてたけど、あの時も本当はレーブンさんに一声かけるべきだったよな。反省しながら、俺はハルと一緒に黒鷹亭に向かった。
依頼を受けに行くと言っていたのにすぐに戻ってきた俺を、レーブンさんは眉を下げた心配そうな顔で出迎えてくれた。
「どうした、アキト。何かあったか?」
「いえ、あの、ロズア村の依頼を受けたので、しばらく留守にするかもと伝えに来ました」
「ああ、そうか。わざわざありがとうな」
嬉しそうにそう言ってくれたレーブンさんの姿に、俺はもう一度深く反省した。
「ロズア村は初めてか?」
「はい」
「そうか、じゃあ港町トルマルまで足を伸ばすのも良いかもな」
レーブンさんから飛び出した言葉に、俺は驚いた。港町って言った?そんな近くに港町があるの?港町ってことは、海が見れるってことだ。ぱっとハルを見れば、ハルは苦笑を浮かべていた。あれ、なんだろう?その表情。
「後で言うつもりだったのに、先を越されちゃったな」
そういえばだいぶ前に、海を見るのが好きだって言ったことがあった。それを覚えていて、サプライズで連れていってくれるつもりだったってことか。その計画をレーブンさんにバラされちゃったからがっかりしてるんだ。なにそれ可愛い。
「じゃあ港町トルマルにも行ってきます」
「なんなら泊まってきても良いと思うぞ、あっちには温泉ってのがあってな」
「温泉!?」
「あ、知ってたか?温泉は良いぞ」
「なんでそれまで言っちゃうんだよ…レーブン…」
しょんぼりと肩を落としたハルは、悲しそうにそう呟いた。俺が風呂好きなことも、ちゃんと覚えてくれてたんだな。これもサプライズにするつもりだったんだ。
「それは楽しみです」
「ああ、ゆっくりしてこい」
笑顔のレーブンさんに手を振って、俺はハルと一緒に歩き出した。できるだけ人通りの少ない道を選んで、そっとハルに声をかける。
「ハル、ありがと」
「結局レーブンに全部言われちゃったけどね」
あ、まだ拗ねてる。珍しいハルの姿を、ばっちり目に焼き付けておこう。まじまじと見つめる俺に、ハルは苦笑を洩らした。
「格好悪いね、俺」
「え、格好悪く無いよ、ハルはいつでも格好良い!」
予想外のハルの言葉に動揺しすぎて、思わず反射的にそう答えてしまった。
いや、でもハルが格好良いのは事実だし、これだけイケメン王子顔だから言われ慣れてるよな。そう思った俺の前で、ハルは一瞬だけ固まって、それから照れくさそうに笑ってみせた。
今日はどんな依頼があるかな。いつも通り掲示板を手分けして見ていると、ハルがそっと近づいてきた。
「アキト、提案なんだけど…ロズア村の依頼がいくつか出てるんだ」
ロズア村ってどこだろうと軽く首を傾げた俺に、ハルはすぐに説明してくれた。
「ここから東に位置する村なんだけど、確か馬車に乗りたいって言ってたよね?」
優しい声に、俺は大きく目を見開いた。ロズア村っていうのは、馬車に乗れる依頼先なのか!それは是非受けたいな。この前はバラ―ブ村の緊急依頼があったから、結局馬車に乗れなかったし。あ、でもおかげで川下り出来たんだよな。川下りも楽しかったけど、今は馬車だ。ついに馬車に乗れるんだ。
じっと目を見つめながら小さく頷けば、ハルはすぐに俺の気持ちを汲み取ってくれた。
「これとこれだよ」
ハルが指差してくれた依頼書をいそいそと読んでみると、確かに目的地も依頼主もロズア村になっていた。ひとつはロズア湖に現れたウインという魔鳥の討伐依頼で、もうひとつはロズア湖周辺にしか生えないルマイス草の採取依頼だった。ウインもルマイス草も知らないんだけど、そこは大丈夫かなとハルに視線を向ける。
「ウインもルマイス草も、中級の辞書に載ってるよ」
そうなんだ。昨日ざっと目は通したつもりだったけど、見逃したみたいだ。ハルのおかげで唯一の不安要素も消えた。よし、決めた。ロズア村に行くぞ。
念願の馬車に乗れると興奮していた俺はこのまま出発する気満々だった。通り道で食料だけ調達すれば良いだろうと思ってただけど、あっさりとハルに止められた。
「泊まりになるかもだし、レーブンには声をかけた方が良いよ。きっと心配するから」
「あ…」
こどもみたいにはしゃいでいた自分が、急に恥ずかしくなった。ああ見えて優しいレーブンさんなら、俺が帰ってこないと間違いなく心配するだろう。
緊急依頼の時は、宿に泊まってる冒険者さんがたまたま俺が依頼を受けたのを見ていたらしくて伝えてくれてたけど、あの時も本当はレーブンさんに一声かけるべきだったよな。反省しながら、俺はハルと一緒に黒鷹亭に向かった。
依頼を受けに行くと言っていたのにすぐに戻ってきた俺を、レーブンさんは眉を下げた心配そうな顔で出迎えてくれた。
「どうした、アキト。何かあったか?」
「いえ、あの、ロズア村の依頼を受けたので、しばらく留守にするかもと伝えに来ました」
「ああ、そうか。わざわざありがとうな」
嬉しそうにそう言ってくれたレーブンさんの姿に、俺はもう一度深く反省した。
「ロズア村は初めてか?」
「はい」
「そうか、じゃあ港町トルマルまで足を伸ばすのも良いかもな」
レーブンさんから飛び出した言葉に、俺は驚いた。港町って言った?そんな近くに港町があるの?港町ってことは、海が見れるってことだ。ぱっとハルを見れば、ハルは苦笑を浮かべていた。あれ、なんだろう?その表情。
「後で言うつもりだったのに、先を越されちゃったな」
そういえばだいぶ前に、海を見るのが好きだって言ったことがあった。それを覚えていて、サプライズで連れていってくれるつもりだったってことか。その計画をレーブンさんにバラされちゃったからがっかりしてるんだ。なにそれ可愛い。
「じゃあ港町トルマルにも行ってきます」
「なんなら泊まってきても良いと思うぞ、あっちには温泉ってのがあってな」
「温泉!?」
「あ、知ってたか?温泉は良いぞ」
「なんでそれまで言っちゃうんだよ…レーブン…」
しょんぼりと肩を落としたハルは、悲しそうにそう呟いた。俺が風呂好きなことも、ちゃんと覚えてくれてたんだな。これもサプライズにするつもりだったんだ。
「それは楽しみです」
「ああ、ゆっくりしてこい」
笑顔のレーブンさんに手を振って、俺はハルと一緒に歩き出した。できるだけ人通りの少ない道を選んで、そっとハルに声をかける。
「ハル、ありがと」
「結局レーブンに全部言われちゃったけどね」
あ、まだ拗ねてる。珍しいハルの姿を、ばっちり目に焼き付けておこう。まじまじと見つめる俺に、ハルは苦笑を洩らした。
「格好悪いね、俺」
「え、格好悪く無いよ、ハルはいつでも格好良い!」
予想外のハルの言葉に動揺しすぎて、思わず反射的にそう答えてしまった。
いや、でもハルが格好良いのは事実だし、これだけイケメン王子顔だから言われ慣れてるよな。そう思った俺の前で、ハルは一瞬だけ固まって、それから照れくさそうに笑ってみせた。
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