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82.Dランクへの昇級試験

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 翌朝、俺はまたしてもハルに優しく起こされた。もうすっかりハルの目覚まし係が定着していて、本当に申し訳ない。申し訳ないけど、朝から好きな人の声で起こしてもらえるって幸せすぎるんだよな。

 たまに目覚まし係させてごめんねって言いつつ顔色を伺ってるんだけど、俺に呆れた様子もなく、頼ってくれて嬉しいとか言ってくれるから甘えさせてもらってるんだ。ハルが迷惑そうな顔をしたら、もちろん何が何でも一人で起きるつもりでいる。

 朝食と用意を急いで済ませて、遅れないようにと早めに黒鷹亭を出たら、開始時間より30分も早くギルドに着いてしまった。

「アキト、やる気十分だね」
「はやすぎかな」
「試験場で待てるから、遅れるよりは良いよ」

 ハルがそう保証してくれたので、俺はまっすぐに受付へと向かった。今日はメロウさんは受付にはいないみたいだ。たまたま目が合った、たれ目のギルド職員さんの朗らかな笑顔に惹かれて、俺はその人の受付へと近づいた。EランクからDランクへの昇格試験を受けに来た事を伝えれば、すぐに地下の訓練場へと案内される。

 魔法の練習をしたあの日ぶりの、久しぶりの訓練場だ。広い訓練場の端には的が6つ均等に並んでいて、入口を入ってすぐの所にはあの日には無かった椅子がいくつか並んでいた。

「どうぞ、座ってお待ちくださいね。時間になりましたら、担当の者が来ますので」
「はい、案内ありがとうございました」
「試験の合格をお祈りしています」

 にっこりと笑ってから歩き出したギルド職員さんの背中を見送って、俺はそっと椅子に腰かけた。メロウさん以外の職員さんと初めて話したけど、あの人もすごく感じの良い人だったな。

「感じの良い人だったね」

 思わず小声でそう話しかければ、ハルもすぐに答えてくれた。

「トライプールの冒険者ギルドは、職員の質が良いので有名なんだよ」
「え、感じが良いのってここだけなの?」
「うーん、職員の質の良さで張り合えるのは、辺境とあとは王都くらいかな」

 衝撃の言葉に、俺は思わずハルをまじまじと見つめてしまった。

「ここはギルマスのフェリクスの人望で、やる気がある職員が集まってくる。しかもその職員が一人前になるまで、きっちり面倒を見るサブギルマスのメロウがいるからね」

 ああ、なるほど。フェリクスさんは俺みたいな新人冒険者相手でも、頭を下げて感謝の言葉を伝えてくれるような人だもんな。それにメロウさんなら、確かに一人前になるまできっちり面倒みてくれそうだ。二人とも理想の上司って感じだし。って、あれ?ちょっと待って?今すごい事を言わなかった?

「え、メロウさんがサブギルマス?」
「あ、知らなかった?」
「全く知らなかったよ!」

 いや、まあそう言われたら、なんか納得できるところもあるんだよな。ギルドマスター室へ行く時はいっつもメロウさんに案内されてたし、そこからの会話にもメロウさんは同席してた。でも、俺の担当だから一緒にいてくれるだけかと思ってたし。

「俺、なんか失礼な態度取ってなかったかな?」

 串焼き屋で一緒にごはん食べたのは、メロウさんから相席を提案してもらって、だから失礼には当たらないのかな。

「アキトは誰に対しても失礼な事なんてしないから、大丈夫だよ」

 それがハルの買いかぶりだったらどうしよう。ついそんな事を考えていると、訓練場の外から足音と声が聞こえてきた。

「こちらでお待ちくださいね」
「はい」

 人が来るならいったんは会話終了だなとハルを見れば、すぐに大きく頷いてくれた。

 そっと開いたドアからは、林檎みたいな赤い髪の整った顔をした青年が入ってきた。

 ぱっと見ただけでも分かるぐらいに、背が高い。ハルよりも15センチ程は大きいかな。つまり2m近いって事か。

 青年はこの世界では珍しく細身の体型をしている。筋肉むきむきじゃない人だーとまじまじと見つめてしまったけれど、すぐに俺との違いに気づいてしまった。細いんだけどきっちりとしなやかな筋肉に覆われているのが服の上からでも分かるんだ。この人がこの世界でいう細身の青年なんだったら、俺は確かに華奢に見えるのかもしれない。

「あ、こんにちは。良かった一人じゃなかったんだ!」

 目があった瞬間くしゃりと笑った青年の笑顔は、なんだか人懐っこいわんこみたいに見えた。長身イケメンなのに、なぜか大型犬っぽい人だな。

「こんにちは」
「俺ブレイズって言うんだ、今日はよろしく!」

 ぶんぶんと振ってる尻尾が見える気がする。

「俺はアキト、うん、よろしくね」
「アキトかー!一人かと思って緊張してたから、一緒に試験受ける人がいて嬉しいよ」
「俺も一人じゃなくて良かったよ」
「やっぱ緊張するよねー!」

 出会ってすぐだけど、ブレイズはぐいぐいと距離を詰めてくる。拒否感を感じそうなぐらいのすごい勢いだけど、明るい笑顔のおかげかどこか憎めない。無表情で立ってたら同い年か年上だと思うだろう見た目だけど、この感じは思った以上に若いんだろうな。

「俺ね、冒険者ギルドに本登録できる年になってすぐ、隣の領からこっちに出てきたんだ」

 ちらっと視線を向けると、驚いた顔をしたハルがすぐに答えてくれた。

「仮登録は12歳からで、本登録は15歳からだよ…え、15か16でこの身長?」

 それはすごいなと感心していると、ブレイズはそのまま楽し気に話し続けた。

「冒険者になってからは、同じ村出身の年上の人達と組んでるんだ」
「へえ、最初から組むつもりでこっちに出てきたの?」
「ううん、俺が村から出てきた時に途中で盗賊にあってね」
「え、大丈夫だったの?」

 今目の前に無事でいるんだから大丈夫だろうけど、思わずそう聞いてしまう。ブレイズは心配してくれて嬉しいと言いたそうな笑顔で続けた。

「うん。全財産とられそうな時に、運よく依頼を受けた冒険者が来てくれたんだ」
「そっか、それは良かった」
「それで、その冒険者がたまたま俺の兄ちゃんの友人だった人でね。今は3人で組んで仕事してるって言うから、俺も入れてーってお願いした!」

 このキラキラした目でおねだりされたら、兄の友人とやらも拒否しにくかっただろうな。

「三人はCランクだから、俺も早くCランクまで上がりたいんだー!」

 そう言うと、ブレイズは照れくさそうに笑ってみせた。自分の言った真剣な言葉が恥ずかしかったんだろうか。

「なんだか、微笑ましい子だね」

 面白そうに笑いながらのハルの声に、思わず頷いてしまった。

「それでアキトはど」

 どこ出身って聞かれたらどう答えようとハルに視線を向けた瞬間、訓練場のドアがゆっくりと開いた。自然とブレイズも黙り込む。

「お待たせしました」

 入ってきたのは、メロウさんだった。すごいタイミングでの登場だ。

「それでは時間ですので、EランクからDランクへの昇格試験を始めます」
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