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76.幸せな朝
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「…キト、起きて」
起き抜けにうっすらと聞こえてきたのは、ハルの優しい声だった。
「アキト?」
「うー」
ちゃんと聞こえてはいるんだけど、まだ頭が全然起きてくれないから返事もうまくできない。ただの呻き声で答えると、ハルはクスクスと笑い出した。
「そろそろ起きないと、朝ごはん食べ損なうよ」
「んうー…やだ、おきる」
黒鷹亭の朝ごはんは美味しいから、食べられる日は逃したくない。そう思って何とか返事を返せば、頭もすこしづつ動き出した気がする。
「おはよ、ハル」
目をこすりながら答えれば、ハルは優しく笑ってくれた。
「おはよう、アキト」
好きな人に起こしてもらうとか、幸せな朝すぎるよね。気を抜くとにやけそうな顔を、俺は必死で引き締めた。
浄化魔法で身支度を済ませると、いそいそと食堂へと足を伸ばした。
「「「おはようございます」」」
「おはようございます」
今日の配膳担当さんは、若い人ばかりみたいだ。弾けるような元気な朝の挨拶に、俺も明るく挨拶を返した。今日の朝食はいつも通りの水にパンと具だくさんのスープ、それとセウカを切り分けたものがついていた。
「あ、セウカだ」
「これ夏場は特にうまいよねーレーブンさんが差し入れでもらったらしいよ」
料理を運んできてくれた少年が教えてくれた裏事情にへぇと感心していると、少年はハッと口を押さえた。
「あーえっと…セウカって美味しいですよね。レーブンさんが差し入れでもらったやつらしいです…よ?」
「俺には別に敬語じゃなくて大丈夫だよ」
「でも、規則なので。すみませんでした」
「ううん、運んでくれてありがとう」
これ以上言葉を重ねても気にするだけかなとそう答えれば、少年は嬉しそうに笑って去っていった。元気な子だなと微笑ましい気分で見送った。
「今日のも美味しそうだね」
笑顔のハルに笑みを返してから、俺はいただきますと手を合わせた。
休みにすることだけは昨日のうちに決まってたんだけど、今日の予定までは決めていなかった。だからまずは自室に帰って、ハルと相談しながらゆっくりと予定を決めることになった。
ベッドの上に腰かけて、ハルと向かい合う。
「どこか行きたい場所とかはある?」
「行きたい場所かー」
改めて聞かれると、行きたい場所って特に思い浮かばないな。冒険者装備もまだ買い替えるほど痛んでないし、服も前に買いにいったので十分だ。何も思い浮かばなかった俺は、そのまま黙り込んでしまった。
「思いつかないなら、目的地を決めずにうろうろしてみても良いと思うよ」
ハルと一緒に目的地も決めずにうろうろする。それってまるでデートみたいだよな。そんな浮かれた事を、つい考えてしまった。
「ハルのお勧めの場所とかある?」
「そうだな…アキトは本を読むの好きだよね?」
「あ、うん」
「本は高級品に入るんだけど、今のアキトなら問題なく買えるし本屋はどうかな?」
ああ、うん。ギルドカードの残高は怖くて確認してないくらいだもんな。でも本か、確かに本は何冊か買いたいかもしれない。
「本屋か、行ってみたいな」
「あとは、庶民向けの甘いものを売ってるお店もお勧めかな」
甘いものが好きだって言った事はないのに、ポルパの実ではしゃぎ過ぎたせいか、ハルにはばっちりばれてたみたいだ。しかも高級店じゃなくて庶民向けのお店を勧めてくれるあたりが、俺への配慮がばっちりなんだよね。ああーこれ以上はもうやめてくれ。惚れなおしちゃうから。
「アキトさえ良ければ、お昼はカルツさんおすすめのアジーの串焼き屋に行ってみるのも良いかなって思ってるんだけど…」
そうだ。カルツさんお勧めのお店はポリッチェともう1軒、アジーの串焼き屋って言ってたな。
俺の好みを把握してくれてて、俺が行きたいって言ってたお店をさらりとお勧めしてくれる。ハルってすごすぎない。この顔でこの気配り。きっと昔からモテまくってたんだろうな。勝手に想像してしまったハルのモテっぷりに、胸がちくりと痛んだ。
駄目だ駄目だ。今からハルと二人でおでかけするんだから、勝手に想像して勝手に凹んでる場合じゃない。そんなことしたら、あまりにもったいなさすぎる。慌てて気分を切り替えると、俺はハルを見上げた。
「甘いものもアジーの串焼き屋も両方行ってみたいな」
「じゃあ、距離的に近い甘いものから行こうか」
「案内お願いしまーす」
俺の言葉に、ハルはにっこりと笑ってから胸に手をあててそっと目を伏せた。
「承りました」
は、え、今の何?ちょっとあまりにも王子様が過ぎない?何その格好良いポーズ。何その急な敬語。
「アキトが急に敬語になったから、仕返しだよ」
そんな風に言ったハルの悪戯っぽい笑顔にノックアウトされた俺は、脳内で盛大に叫びながらも、何とかベッドから立ち上がった。
起き抜けにうっすらと聞こえてきたのは、ハルの優しい声だった。
「アキト?」
「うー」
ちゃんと聞こえてはいるんだけど、まだ頭が全然起きてくれないから返事もうまくできない。ただの呻き声で答えると、ハルはクスクスと笑い出した。
「そろそろ起きないと、朝ごはん食べ損なうよ」
「んうー…やだ、おきる」
黒鷹亭の朝ごはんは美味しいから、食べられる日は逃したくない。そう思って何とか返事を返せば、頭もすこしづつ動き出した気がする。
「おはよ、ハル」
目をこすりながら答えれば、ハルは優しく笑ってくれた。
「おはよう、アキト」
好きな人に起こしてもらうとか、幸せな朝すぎるよね。気を抜くとにやけそうな顔を、俺は必死で引き締めた。
浄化魔法で身支度を済ませると、いそいそと食堂へと足を伸ばした。
「「「おはようございます」」」
「おはようございます」
今日の配膳担当さんは、若い人ばかりみたいだ。弾けるような元気な朝の挨拶に、俺も明るく挨拶を返した。今日の朝食はいつも通りの水にパンと具だくさんのスープ、それとセウカを切り分けたものがついていた。
「あ、セウカだ」
「これ夏場は特にうまいよねーレーブンさんが差し入れでもらったらしいよ」
料理を運んできてくれた少年が教えてくれた裏事情にへぇと感心していると、少年はハッと口を押さえた。
「あーえっと…セウカって美味しいですよね。レーブンさんが差し入れでもらったやつらしいです…よ?」
「俺には別に敬語じゃなくて大丈夫だよ」
「でも、規則なので。すみませんでした」
「ううん、運んでくれてありがとう」
これ以上言葉を重ねても気にするだけかなとそう答えれば、少年は嬉しそうに笑って去っていった。元気な子だなと微笑ましい気分で見送った。
「今日のも美味しそうだね」
笑顔のハルに笑みを返してから、俺はいただきますと手を合わせた。
休みにすることだけは昨日のうちに決まってたんだけど、今日の予定までは決めていなかった。だからまずは自室に帰って、ハルと相談しながらゆっくりと予定を決めることになった。
ベッドの上に腰かけて、ハルと向かい合う。
「どこか行きたい場所とかはある?」
「行きたい場所かー」
改めて聞かれると、行きたい場所って特に思い浮かばないな。冒険者装備もまだ買い替えるほど痛んでないし、服も前に買いにいったので十分だ。何も思い浮かばなかった俺は、そのまま黙り込んでしまった。
「思いつかないなら、目的地を決めずにうろうろしてみても良いと思うよ」
ハルと一緒に目的地も決めずにうろうろする。それってまるでデートみたいだよな。そんな浮かれた事を、つい考えてしまった。
「ハルのお勧めの場所とかある?」
「そうだな…アキトは本を読むの好きだよね?」
「あ、うん」
「本は高級品に入るんだけど、今のアキトなら問題なく買えるし本屋はどうかな?」
ああ、うん。ギルドカードの残高は怖くて確認してないくらいだもんな。でも本か、確かに本は何冊か買いたいかもしれない。
「本屋か、行ってみたいな」
「あとは、庶民向けの甘いものを売ってるお店もお勧めかな」
甘いものが好きだって言った事はないのに、ポルパの実ではしゃぎ過ぎたせいか、ハルにはばっちりばれてたみたいだ。しかも高級店じゃなくて庶民向けのお店を勧めてくれるあたりが、俺への配慮がばっちりなんだよね。ああーこれ以上はもうやめてくれ。惚れなおしちゃうから。
「アキトさえ良ければ、お昼はカルツさんおすすめのアジーの串焼き屋に行ってみるのも良いかなって思ってるんだけど…」
そうだ。カルツさんお勧めのお店はポリッチェともう1軒、アジーの串焼き屋って言ってたな。
俺の好みを把握してくれてて、俺が行きたいって言ってたお店をさらりとお勧めしてくれる。ハルってすごすぎない。この顔でこの気配り。きっと昔からモテまくってたんだろうな。勝手に想像してしまったハルのモテっぷりに、胸がちくりと痛んだ。
駄目だ駄目だ。今からハルと二人でおでかけするんだから、勝手に想像して勝手に凹んでる場合じゃない。そんなことしたら、あまりにもったいなさすぎる。慌てて気分を切り替えると、俺はハルを見上げた。
「甘いものもアジーの串焼き屋も両方行ってみたいな」
「じゃあ、距離的に近い甘いものから行こうか」
「案内お願いしまーす」
俺の言葉に、ハルはにっこりと笑ってから胸に手をあててそっと目を伏せた。
「承りました」
は、え、今の何?ちょっとあまりにも王子様が過ぎない?何その格好良いポーズ。何その急な敬語。
「アキトが急に敬語になったから、仕返しだよ」
そんな風に言ったハルの悪戯っぽい笑顔にノックアウトされた俺は、脳内で盛大に叫びながらも、何とかベッドから立ち上がった。
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