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63.バイキングと果物

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 イワンが案内してくれたのは、広場から少し離れた家の隣に並んだテーブルだった。ミウナさんとオーブルさんは既に座っているが、料理には手をつけていないみたいだ。待たせてしまったかなと慌てて近寄れば、二人はぱっとこっちを見て笑ってくれた。

「いらっしゃい!」
「お邪魔します。おまたせしました」
「気にしなくて良い」
「それより、ちょっと遠くてごめんね。ここ俺たちの家なんだ」

 ミウナさんはそう言うと、隣の家を指差した。改築しているところなのか、家の裏には木材がたくさん積み上げられている。この世界では自分たちで家を改築したりするって聞いたことがあったけど、本当だったんだ。

「家族が増えるから、オーブルが改築するって張り切っててね」

 苦笑しながらミウナさんが教えてくれる。

「ミウナの具合が良くなったから、改築を考えれるようになったんだ…ありがとう、アキト」
「ありがとうございました」
「あ、あの、もうさっき十分にお礼を言ってもらったので、その辺で!」

 慌てる俺に、二人は顔を見合わせてから笑ってくれた。

「お願いがあるんだけど…僕には敬語無しにして欲しいな」

 ミウナがそう言うと、すかさずオーブルさんも言葉を重ねた。

「俺も敬語はいらない」

 ミウナはそれほど年も離れてなさそうだけど、オーブルさんはちょっと年上っぽいんだけど良いのかな。すぐに答えられずにいると、何故かイワンが自慢げに話に入ってきた。

「まあ、俺には最初から敬語なしだったけどな」
「うるさいよ、イワン兄」
「うるさいってひどいな!」
「うるさいのはうるさいんだから、仕方ないでしょー」

 ぽんぽんと言い合う二人は、本当に仲の良い兄弟みたいだ。オーブルさんはじゃれ合う二人を無視して、俺に手招きをしてくれた。ありがたくテーブルの上にお皿とコップを置いてから、勧められた椅子に腰を下ろした。

「だいたいイワン兄はさー」
「ミウナ、アキトに早く食べさせてやらないと」
「あ、そうだった!ごめんね!」

 何だか勝手に想像していたよりも、ミウナは明るくて元気な奴なんだな。オーブルさんは無口だけど、ミウナさんを見つめる目は本当に柔らかい。想い合っているのがよくわかる、良いカップルだ。




 楽しい時間は和やかに過ぎていく。

 最近村であった出来事や、今までに俺が納品した素材の話、村の特産品を販売する時の話、俺の領都での生活についてなど、話題は尽きなかった。もちろん、リスリーロの花と黒曜キノコの話はしなかったけどな。

 木皿の上の料理が減ってくると、また料理を取りに行くのが、本当にバイキングレストランみたいで楽しかった。しかも何をとっても、すごく美味しい。やっぱり食材の鮮度って大事なんだろうな。

 しみじみしながらテーブルに戻ろうとしていると、不意に会話が聞こえてきた。

「そんちょーきょうはなまのくだものないのー?」
「ああ、数日は森に近づけなかったから、乾燥したのしか無いんだ」

 数人のこどもたちに囲まれているパルン村長は、どことなく申し訳なさそうな顔だ。

 領都でお菓子屋さんを見かけた時にハルから聞いたんだけど、お菓子は高級品だから貴族以外はめったに食べられるものじゃないんだって。だからこどものお菓子は、果物が中心なんだって言ってたっけ。

「すまないが、今日は干したもので我慢しておくれ」
「はーい」

 続けられたブラン爺さんの言葉に、こどもたちはしょんぼりしながらも頷いた。そのまま小走りに去っていく小さな背中を、俺は切ない気持ちで見送った。一言の文句も言わないから、余計にかわいそうに思えてくる。

「かわいそうにな」
「こればっかりは仕方ないじゃろ…明日以降、果物を優先的に採ってきてもらおうかの」

 こんなところにまでゴブリンの影響って出るんだなと思っていたら、不意に思い出した。

 たしか魔道収納鞄の中に、今はナドナの果実が10こぐらい入ってたよな。

 ナドナの果実はルムンの森で手に入れた、カラフルなブドウみたいなやつだ。多めに採っておいて、好きな味だったら自分で全部食べるのも良いよーってハルから言われたから、買取には出さなかったんだよな。

 俺は慌ててテーブルに戻ると、鞄を持ってブラン爺さんとパルン村長の座るテーブルへと近づいていった。

「あの、良かったら…これ」

 いそいそと鞄からナドナの果実を取り出したら、ブラン爺さんが見事に固まった。

「ナドナの果実………」
「はい。いっぱいあるので」
「アキト…君は…これの値段は知ってるか?」
「え、いいえ」
「1つ最低でも4000グルはするじゃろうな…依頼がある時なら1つ8000グルはする」

 そんなに高いものなんだ。ブラン爺さん、詳しいなと尊敬の眼差しで見つめていると、何故か大きなため息を吐かれた。

「今回の緊急依頼の報酬は50000グル程度…それなのに、この実を振る舞うと言うのか?」
「えーと、自分で見つけて採取したものなので、美味しいごはんのお礼に渡したいだけなんですけど……これって変ですか?」

 今はハルがいないから、これが変なのかどうかも分からない。俺って本当にハルに頼りっぱなしなんだな。ちょっと反省しないと。緊張しながら答えを待っていると、パルン村長がぶはっと噴き出した。

「アキトは本当に面白い奴だなぁ!」
「面白い?」
「ブランが気に入る筈だな。よし、今日は特別な日だ。ありがたく頂くよ」

 ブラン爺さんはまだ止めようとしていたけど、パルン村長が受け取ってくれたから俺はほっとした。

 気が変わる前にと、鞄からひょいひょいと取り出してテーブルの上に積んでいく。5こ目を取り出したところで、慌てたブラン爺さんに止められた。

「もう十分じゃ!5こあれば全員に行き渡る!」
「あ、そうですか?」
「あ、ああ…うん。十分だな」

 パルン村長の顔が引きつっているのは、なんでだろう。

「では、俺はこれで」

 俺一人で食べるより、みんなと一緒に食べた方が絶対美味しいもんな。こどもたちも喜んでくれると良いな。俺は鞄を背負うと、ミウナたちのテーブルへ向けて歩き出した。
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