生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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60.お礼の言葉

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 何となくきまずそうなアックスさんと、何故か楽しそうな笑顔のハルと一緒に、ゆっくりと村を目指して歩き出す。じわじわと色を変えていく夕空を眺めながらのんびりと歩いていくと、すぐにバラ―ブ村が見えてきた。

「は?なんだ…これは?」

 村の様子は一変していた。その光景を呆然と見つめているアックスさんの隣に立って、俺もぐるりと視線を巡らせる。

 見渡す限りの村人たちは楽しそうに、でも忙しそうにバタバタと動き回っている。出発する前に見た物悲しい村の様子はまるで夢だったみたいに、今はわいわいと賑やかだ。

 近くの家の中から木製のテーブルを運び出している人や、野菜を抱えて歩いている人、食器を運んでいる人の姿も見える。忙しそうな大人たちの後を追いかける楽しそうなこどもたちの姿まであった。

「あ、帰ってきたー!」
「シーニャ!帰ってきたよー!」

 目ざとくこちらに気づいたこどもの声に、慌てた様子でシーニャさんが駆け寄ってくる。

「おかえり、あんた!アキトも!」
「ただいま、シーニャ」
「ただいまです」
「あんた、怪我は?」
「今日は無傷だ!アキトの魔法がすごくてな!」
「そうなの!?ありがとう、アキト!」
「あ、いえ…」
「心配してたんだよ」

 怪我が無くて良かったと喜ぶシーニャさんと、でれでれしているアックスさんの邪魔をしないようにとそっと離れれば、少し離れた所でベンチに座っていたブラン爺さんが手招きをしてくれた。

「アキト、よく来てくれたね。緊急依頼まで受けてきてくれるとは思わなかったが、本当にありがとう」
「いえ、またお会いできて嬉しいです」
「わしも嬉しいよ」

 嬉しい言葉に、思わず笑顔になってしまう。ブラン爺さんと話していると、まっすぐ近づいてくる人達の姿が目についた。青い髪をした小柄で可愛らしい顔の青年と、長身のがっしりとした強面青年だ。ブラン爺さんに用事なら離れた方が良いかなと考えている間に、二人は目の前に辿り着いた。

「こんばんは」
「あ、こんばんは」

 柔らかい笑みを浮かべて挨拶してくれた小柄な青年は、体の線の分からないゆったりとした服を着ている。隣の強面の青年はぺこりと会釈をしてくれたので、俺も会釈を返した。

「早速来たか」

 ブラン爺さんの言葉に、二人は大きく頷いた。

「アキト、こっちがミウナだ」
「ミウナです。はじめまして」

 小柄な方の青年は、笑顔で名乗ってくれた。ああ、この人が、妊娠中の男性ミウナさんか。ということはと隣の青年に視線を動かすと、ブラン爺さんはすぐに察して紹介してくれた。

「こっちはミウナの伴侶、オーブルだ」
「オーブルだ。よろしく」

 無表情のままではあったけど、強面青年も挨拶をしてくれた。伴侶ってことは、俺にあの服を贈ってくれた人だ。

「アキトです、はじめまして」
「アキトさん、僕、どうしてもお礼を言いたくてっ!以前はジウプの実をありがとうございました!」
「いえ、あの、俺もこの村で買い取って貰えて助かったので」

 対価も受け取ってるからと説明したけれど、ミウナさんはにっこり笑顔を浮かべた。

「でも、支払い前に渡してくれたのは、完全にアキトさんの優しさですよね」

 そう言われると、否定もできない。

「本当にありがとうございました!」
「俺からも感謝する」

 元々ミウナさんもオーブルさんもそこまで魔力が高くないから、二人のこどもも魔力は少ないと思いこんでいた。ミウナさんが急な体調不良で起き上がれなくなって、やっとこどもが高魔力持ちかもと気づいたそうだ。

「あの実があったから、一番危険な時期を無事に超えられました」
「お役に立てて良かったです。あ、そうだ、俺からも。オーブルさんあの服ありがとうございました」

 最近は領都で買った服を着てる事が多いんだけど、オーブルさんにもらったあのチュニックは、今でも一番のお気に入りだ。

「気に入ってくれたなら良かった」
「刺繍も格好良いし、色合いも、着心地も最高です!」

 思わず誉め言葉に気合が入ってしまったけど、オーブルさんもミウナさんも嬉しそうに笑ってくれたから良しとしよう。

「二人ともこれで気が済んだかの?」

 ブラン爺さんの言葉に、二人は大きく頷いた。

「こやつら、お礼を言う前にアキトが村を出たって知って、えらく気にしておったからの」
「別に良かったのに…わざわざありがとうございます」
「アキトさんは、思った通りの人柄ですね」
「え…?」
「この子が産まれたら、抱っこしてあげて欲しいです」
「俺からも頼みたい」

 唐突な申し出に戸惑ってしまう。抱っこして欲しいって何だろうと悩んでいると、静かに俺たちの交流を見守っていたハルがこっそりと教えてくれた。

「赤子のうちに色んな人に抱き上げてもらうと、その人から祝福をもらえるっていう風習があるんだ」

 身内じゃなくても尊敬できる人とか、こういう人になって欲しいって人とかにお願いするんだって。強くなって欲しいからと、衛兵とか騎士に抱っこをお願いする人もいれば、計算が得意になるようにって商人さんに抱っこしてもらう人もいるんだって。抱っこをお願いされるのは光栄な事だから、断る人はほとんどいないし、ハルも何度も抱き上げたことがあるって教えてくれた。

「えーと、俺で良ければ、ぜひ抱っこさせて下さい」
「ありがとうございます!」

 一番気になっていたお礼が言えて良かったと、また後でと言いながら二人は離れていった。

 手を繋いで歩く二人の後ろ姿は、すごく幸せそうだった。本当に同性同士でも結婚できて、こどもまで産めるんだもんな。異世界、すごい。

 そんなことを考えていると、ブラン爺さんはベンチをぽんぽんと叩いて隣に座るようにと促してくる。

「あの、俺手伝いに…」
「魔力を使って討伐をこなしてくれたんじゃ。アキトを働かせたらわしが怒られる。ここでわしの話し相手になっておくれ」

 優しい笑顔でそう言われると、拒否することはできなかった。

 ベンチに並んで座り、のんびりと広場の様子を眺める。

 各家庭から持ち出された木製のテーブルがずらりと並び、そのテーブルにはどんどん料理が並んでいく。広場の中心では大きなかがり火も焚かれはじめて、こどもたちのテンションも上がる一方だ。

 なんだか、村を上げてのお祭りみたいになっている。

「あの…聞いても良いですか?」

 気になる事がひとつだけあった俺は、ブラン爺さんに声をかけた。

「ああ、なんじゃ?」
「討伐完了をどうやって知ったのかなって気になって」
「今回は近かったからの。狩人をやってる目の良い何人かが、村の中から様子を伺ってたんじゃよ」
「ああ、それで!」

 確かにあの距離なら、目の良い人なら見えるかもしれない。

「怪我人もなく拠点は無事に無くなったと報告されたら…これはもう、宴をするしかないじゃろう!」

 ブラン爺さんは悪戯っ子のような笑顔を浮かべている。ハルも面白そうに笑っているし、村人たちもみんな楽しそうで笑顔が溢れている。

 この人たちの笑顔が守れて良かった。俺はしみじみそう思いながら、ブラン爺さんとゆったりと会話を楽しんだ。
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