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59.ゴブリンの拠点

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※魔物を倒す描写があります。苦手な方はお気をつけ下さい※

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 集会所から出た俺たちは、人のいない村の中を突っ切っていく。ただ人がいないだけで、村の中には何となく物悲しい雰囲気があった。

「今はできるだけ家にいろって言ってあるんだ」

 そういえば、さっき桟橋で会ったのも体格の良い男性だけだった。

「その方が安全ですもんね」
「シェーラもアキトに挨拶したいって言ってたが、全部終わってからにしろって言ったんだ、悪いな」
「いえ、俺に挨拶に来たせいで何かあった方が嫌ですから」

 素直にそう伝えると、アックスさんもハルも優しく笑ってくれた。



 ナルクアの森へと続く道を進んで行くと、すぐにゴブリンが住み着いたという場所が目視できる場所まで辿り着いた。以前は何もなかった場所に、草と木で作られた傾いた建物が3つ建っていて、木で作られた粗雑な柵で囲われている。

「これ…って」
「本格的に住み着く気だね…拠点ができかけてる」

 思わず漏れた声に、ハルがすかさず答えてくれた。ゴブリンは小さな拠点を作って、それをどんどん拡張していく習性があるらしい。気づくのが遅れた結果、もはや砦と呼べるような拠点が出来たこともあったと言い伝えられているそうだ。

「昨日は建物はまだ途中だったんだが…完成してるな」
「はい」
「きっちり見張りまで立ってる」

 アックスさんが指差した方向を見れば、確かに見張りだろうゴブリンの姿があった。遠目にみるゴブリンは、尖った耳と鉤状に曲がった大きな鼻が目立っている。二足歩行ではあるけれど、これなら人間みたいで魔法を躊躇するなんて事はなさそうだと、俺はこっそりと胸を撫で下ろした。

「今でおそらく10~15体程だろう。拠点が出来たとなるとゴブリンメイジや、ゴブリンシャーマンに進化しているものもいるかもしれない」

 アックスさんのその言葉を聞くなり、ハルはすぐに駆け出していった。気配探知は複数の存在が近くにあると精度が落ちるって言ってたから、たぶん自分の目で偵察しに行ってくれたんだろう。

「群れてはいるけど、連携が取れるわけじゃ無いんだ。俺が突っ込むから、アキトは倒せそうな奴から魔法で削っていってくれるか?」
「はい。村の方へ逃げ出しそうなのがいたらそちらを優先しますね」
「ああ、その方が助かる」

 俺とアックスさんが戦い方の相談をしているうちに、ハルは偵察から戻ってきた。

「大丈夫だ、まだ普通のゴブリンしかいない。数は14体」
「アックスさん、中には普通のゴブリンが14体です」

 あまりに唐突な俺の発言に、アックスさんは驚いたみたいだ。大きく目を見開いて、そのまま固まってしまった。そうだよな。どう考えても、ずっとここにいた俺が、いきなりゴブリンの種類と数を断言するのは怪しさしか無い。

 ハルのくれた情報を早く伝えたくて、言い訳も何も考えずに口にしてしまった。久しぶりにやってしまった感がある。どうしよう何て言えば良いんだろうと必死で考えていると、アックスさんは俺の目をじっと見つめてから頷いてくれた。

「分かった14だな…行くぞ!」
「はいっ!」

 長剣を抜いて駆け出したアックスさんの後ろを走りながら、俺も魔力を練り上げていく。

「アキト、まずはあの建物に火魔法だ」

 アックスさんはすでに見張りを倒して、柵を蹴り壊している。俺はすぐに、ハルが指示した建物に火魔法を放った。一気に燃え上がった建物から、もうもうと煙が上がりだす。

「次は土魔法。あいつを狙って」

 ハルが指差した方向を見れば、弓を構えたゴブリンの姿が目に入ってきた。アックスさんを狙っているゴブリンは、今まさに矢を引き絞ろうとしていた。慌てて発動した土魔法は、見事にゴブリンの額に命中した。

「アキトすごいじゃねぇか!」

 既に数匹のゴブリンに囲まれているけれど、アックスさんはまだまだ余裕みたいだ。俺の魔法を見て感想まで言えるなら心配はなさそうだ。

「次、土魔法で、右の隅にいるやつ」

 ハルから次々に投げられる指示に従って、魔力を練り上げてはひたすら土魔法と火魔法を放ち続けた。狙いを外した時には焦ってしまったけれど、ハルの言葉のおかげでもう一度狙いなおすことも出来た。

 アックスさんもどんどん倒していくから、あっという間に討伐は完了した。

「これで14体目だな」

 念のためとアックスさんと一緒に拠点の中を回ってみたけれど、生き残りはいなかった。

「よし、アキト、この拠点ごと火魔法で燃やしてくれるか」

 アックスさんによれば、ゴブリンは素材にもならないし食用もできないから、倒した後は埋めるか焼くかが基本になるらしい。その処理をしなければ、今度はゴブリンを食べるために違う魔物が現れたりもするんだって。

「アキト、つらいかもしれないけど、必要なことだよ」

 心配そうなハルに小さく頷きを返してから、俺は火魔法のための魔力を練り上げた。



 無事に処理を終わらせると、アックスさんはふうと息を吐いてから地面に座り込んだ。

「アキトはすごかったな」
「え、でも俺よりもアックスさんの方がいっぱい倒してますよね?」

 多分俺が倒したのは6体で、アックスさんが倒したのは8体だ。

「数じゃなくてな、最初に火魔法で攪乱したのもだし、俺を弓で狙ってたやつから倒してくれたりしただろう?」

 誉められても俺は指示通りに動いただけなんだよな。つまりハルの指示がすごかったって事だ。

「アキトの援護が無ければ、怪我はしてた」
「お役に立てたなら良かったです」
「すごく助かったよ、ありがとうな」

 アックスさんの言葉に、少しだけ感じていたもやもやが消えていく気がした。

「それにしても、本当に普通のゴブリン14体しかいなかったな」
「はい」
「………本当に、お前は『精霊が見える人』なのか」

 ぽつりとアックスさんが言った言葉に、驚いてしまった。精霊が見える人って何だろう。俺は幽霊が見える人だけど、精霊は見たことないんだけど。

 そこまで考えてふと思い出した。冒険者ギルドで、こそこそ噂してる人も精霊とか加護とか言ってたな。それってどういう意味かを聞こうとしたけれど、アックスさんは慌てた様子で手を振った。

「あ、いや!答えなくて良いんだ!」
「あの…」
「悪かったな、詮索はしないから安心してくれ!」

 えーと、どうすれば良いんだろう。精霊が見える人って言葉の意味を教えて欲しいんだけど、反省した様子で詮索はしないって言ってる人には聞きにくいよな。後でハルに聞けば良いか。

「よし帰ろう!」
「はい、帰りましょう!」
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