生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
上 下
60 / 1,179

59.ゴブリンの拠点

しおりを挟む
※魔物を倒す描写があります。苦手な方はお気をつけ下さい※

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 集会所から出た俺たちは、人のいない村の中を突っ切っていく。ただ人がいないだけで、村の中には何となく物悲しい雰囲気があった。

「今はできるだけ家にいろって言ってあるんだ」

 そういえば、さっき桟橋で会ったのも体格の良い男性だけだった。

「その方が安全ですもんね」
「シェーラもアキトに挨拶したいって言ってたが、全部終わってからにしろって言ったんだ、悪いな」
「いえ、俺に挨拶に来たせいで何かあった方が嫌ですから」

 素直にそう伝えると、アックスさんもハルも優しく笑ってくれた。



 ナルクアの森へと続く道を進んで行くと、すぐにゴブリンが住み着いたという場所が目視できる場所まで辿り着いた。以前は何もなかった場所に、草と木で作られた傾いた建物が3つ建っていて、木で作られた粗雑な柵で囲われている。

「これ…って」
「本格的に住み着く気だね…拠点ができかけてる」

 思わず漏れた声に、ハルがすかさず答えてくれた。ゴブリンは小さな拠点を作って、それをどんどん拡張していく習性があるらしい。気づくのが遅れた結果、もはや砦と呼べるような拠点が出来たこともあったと言い伝えられているそうだ。

「昨日は建物はまだ途中だったんだが…完成してるな」
「はい」
「きっちり見張りまで立ってる」

 アックスさんが指差した方向を見れば、確かに見張りだろうゴブリンの姿があった。遠目にみるゴブリンは、尖った耳と鉤状に曲がった大きな鼻が目立っている。二足歩行ではあるけれど、これなら人間みたいで魔法を躊躇するなんて事はなさそうだと、俺はこっそりと胸を撫で下ろした。

「今でおそらく10~15体程だろう。拠点が出来たとなるとゴブリンメイジや、ゴブリンシャーマンに進化しているものもいるかもしれない」

 アックスさんのその言葉を聞くなり、ハルはすぐに駆け出していった。気配探知は複数の存在が近くにあると精度が落ちるって言ってたから、たぶん自分の目で偵察しに行ってくれたんだろう。

「群れてはいるけど、連携が取れるわけじゃ無いんだ。俺が突っ込むから、アキトは倒せそうな奴から魔法で削っていってくれるか?」
「はい。村の方へ逃げ出しそうなのがいたらそちらを優先しますね」
「ああ、その方が助かる」

 俺とアックスさんが戦い方の相談をしているうちに、ハルは偵察から戻ってきた。

「大丈夫だ、まだ普通のゴブリンしかいない。数は14体」
「アックスさん、中には普通のゴブリンが14体です」

 あまりに唐突な俺の発言に、アックスさんは驚いたみたいだ。大きく目を見開いて、そのまま固まってしまった。そうだよな。どう考えても、ずっとここにいた俺が、いきなりゴブリンの種類と数を断言するのは怪しさしか無い。

 ハルのくれた情報を早く伝えたくて、言い訳も何も考えずに口にしてしまった。久しぶりにやってしまった感がある。どうしよう何て言えば良いんだろうと必死で考えていると、アックスさんは俺の目をじっと見つめてから頷いてくれた。

「分かった14だな…行くぞ!」
「はいっ!」

 長剣を抜いて駆け出したアックスさんの後ろを走りながら、俺も魔力を練り上げていく。

「アキト、まずはあの建物に火魔法だ」

 アックスさんはすでに見張りを倒して、柵を蹴り壊している。俺はすぐに、ハルが指示した建物に火魔法を放った。一気に燃え上がった建物から、もうもうと煙が上がりだす。

「次は土魔法。あいつを狙って」

 ハルが指差した方向を見れば、弓を構えたゴブリンの姿が目に入ってきた。アックスさんを狙っているゴブリンは、今まさに矢を引き絞ろうとしていた。慌てて発動した土魔法は、見事にゴブリンの額に命中した。

「アキトすごいじゃねぇか!」

 既に数匹のゴブリンに囲まれているけれど、アックスさんはまだまだ余裕みたいだ。俺の魔法を見て感想まで言えるなら心配はなさそうだ。

「次、土魔法で、右の隅にいるやつ」

 ハルから次々に投げられる指示に従って、魔力を練り上げてはひたすら土魔法と火魔法を放ち続けた。狙いを外した時には焦ってしまったけれど、ハルの言葉のおかげでもう一度狙いなおすことも出来た。

 アックスさんもどんどん倒していくから、あっという間に討伐は完了した。

「これで14体目だな」

 念のためとアックスさんと一緒に拠点の中を回ってみたけれど、生き残りはいなかった。

「よし、アキト、この拠点ごと火魔法で燃やしてくれるか」

 アックスさんによれば、ゴブリンは素材にもならないし食用もできないから、倒した後は埋めるか焼くかが基本になるらしい。その処理をしなければ、今度はゴブリンを食べるために違う魔物が現れたりもするんだって。

「アキト、つらいかもしれないけど、必要なことだよ」

 心配そうなハルに小さく頷きを返してから、俺は火魔法のための魔力を練り上げた。



 無事に処理を終わらせると、アックスさんはふうと息を吐いてから地面に座り込んだ。

「アキトはすごかったな」
「え、でも俺よりもアックスさんの方がいっぱい倒してますよね?」

 多分俺が倒したのは6体で、アックスさんが倒したのは8体だ。

「数じゃなくてな、最初に火魔法で攪乱したのもだし、俺を弓で狙ってたやつから倒してくれたりしただろう?」

 誉められても俺は指示通りに動いただけなんだよな。つまりハルの指示がすごかったって事だ。

「アキトの援護が無ければ、怪我はしてた」
「お役に立てたなら良かったです」
「すごく助かったよ、ありがとうな」

 アックスさんの言葉に、少しだけ感じていたもやもやが消えていく気がした。

「それにしても、本当に普通のゴブリン14体しかいなかったな」
「はい」
「………本当に、お前は『精霊が見える人』なのか」

 ぽつりとアックスさんが言った言葉に、驚いてしまった。精霊が見える人って何だろう。俺は幽霊が見える人だけど、精霊は見たことないんだけど。

 そこまで考えてふと思い出した。冒険者ギルドで、こそこそ噂してる人も精霊とか加護とか言ってたな。それってどういう意味かを聞こうとしたけれど、アックスさんは慌てた様子で手を振った。

「あ、いや!答えなくて良いんだ!」
「あの…」
「悪かったな、詮索はしないから安心してくれ!」

 えーと、どうすれば良いんだろう。精霊が見える人って言葉の意味を教えて欲しいんだけど、反省した様子で詮索はしないって言ってる人には聞きにくいよな。後でハルに聞けば良いか。

「よし帰ろう!」
「はい、帰りましょう!」
しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...