59 / 1,179
58.腹ごしらえと現状報告
しおりを挟む
桟橋に先回りしたアックスさんは、舟が着くとすぐに手を差し出してくれた。俺はありがたくその手を借りて、慣れない舟から何とか無事に下りられた。ロットさんとハルはひょいっと軽く桟橋に飛び移ってきてて、ちょっと悔しかった。
「アキト、本当に依頼を受けに来てくれたのかー!」
「もちろん来ますよ!」
「ロット、案内ありがとな」
「良いってことよ」
「ロットさん、ありがとうございました。あの、おいくらですか?」
いそいそと鞄から財布を取り出したけど、ロットさんは苦笑しながら手を振ってみせた。
「ここがやられたら、俺の村にだって影響が出るんだ、今回は金はいらねぇよ」
「でも…!」
それとこれとは話が違うと言おうとしたが、アックスさんが笑いながら割り込んで来た。
「アキト、気にするな。ロット、依頼が終わったらがっつり土産を用意するから、しばらくはゆっくりしてってくれよ!」
「おう!うちの村では、金よりもそっちの方が喜ばれるからな!」
顔なじみらしい二人が納得しているなら、これ以上口は挟めないよな。俺は丁寧にお礼を伝えてから振り返った。アックスさんは、苦笑しながら俺の財布を見つめている。
「それにしても、アキト、その財布まだ使ってくれてんだなぁ」
「え、まだまだ使う気ですよ?アックスさんにもらったこの財布、気に入ってるので!」
「そうか…領都なら良いものがたくさんあるだろうに、もの好きだなぁ」
アックスさんは口ではそんなことを言いつつも、嬉しそうに笑ってくれた。
ロットさんと別れた俺とハルは、前回泊まらせてもらった集会所の中へと案内された。
アックスさんがテーブルの上に置いたのは、水と野菜と干し肉のサンドと、手描きの簡単な地図だった。
「食いながらで良いから聞いてくれ」
「あ、ありがとうございます」
昼ごはんは買ってあったんだけど、すごい速度で川をくだっていく舟の中では、さすがに食べられなかったんだ。とっくにお昼もすぎてしまったから、正直お腹はぺこぺこだ。
「アックスさんは?」
「俺はもう済ませたから気にせず食え。これもシェーラが作ったからうまいぞー」
にやりと笑ったアックスさんにお礼を言ってから、具だくさんのサンドにかじりついた。うん、美味しい。
「まずは、現状を報告して良いか」
「んっ…はい!お願いします!」
アックスさんの隣に立ったハルは、真剣な顔で地図を見つめている。もぐもぐと口を動かしながら、俺も一緒に地図を覗き込んだ。
「ゴブリン自体は珍しくも無いが、今回は場所が悪いんだ。このあたりだ」
そう言いながらアックスさんが指差したのは、森と村のちょうど中間のあたりだった。ハルの眉間にしわが寄る。
「思った以上に近いな…この村に来る時にアキトも通った辺りだよ」
ハルの言葉に、あの日通った道を思い浮かべてみた。森から村までは、それほど距離は無かったと思う。すこし歩いただけで、柵を直していたアックスさんに会ったんだもんな。
「昨日の内に何匹かは狩って減らしたが、一気に始末しないとまた増えるからな」
アックスさんは元衛兵だから、村での魔物退治を一手に請け負っているんだって。
普通のゴブリンが相手なら群れが相手でも倒せる自信はあるけど、今回のは距離が近すぎる。もし一人で退治している間に抜け出した奴がいた時に、気づけない可能性があるからと依頼を出したそうだ。
俺はやっとサンドを食べ終わって、水を飲み干した。こんな時だけど、すっごく美味しかった。後でシェーラさんに会えたらお礼言わなきゃな。
「アキト、ゴブリンを狩ったことはあるか?」
「いいえ」
「何でも良い、討伐依頼の経験は?」
「あります」
「もうひとつ、魔法は使えるか?」
「はい。火魔法も土魔法も使えます」
アックスさんは俺の答えに、満足そうに笑ってくれた。きちんと弱点属性を調べている冒険者は、信頼できるって言われてしまった。ハルに教わっただけだから、ちょっと心苦しい。
「俺は魔法はからっきしだから、頼りにしてるぞ」
「はい、全力で頑張ります!」
「アキトなら、落ち着いていれば大丈夫だよ」
ハルの励ましの言葉に、俺は小さく頷いた。
「あー…アキト、もうすこし休憩は必要か?」
言い難そうなアックスさんの言葉に、俺は首を傾げた。
「え、いえ」
「もしアキトさえよければ、すぐに向かっても良いか?」
まっすぐに見据えてくるアックスさんの視線に、状況は一刻を争うんだと気がついた。俺はすぐにハルの顔色を伺った。こういう時は、俺よりもハルの判断の方が信頼できる。
「徒歩で来てたら反対しただろうけど…船酔いも無いみたいだし、アキトがやりたいようにして良いよ」
ハルの言葉で、心は決まった。
「はい、大丈夫です!行きましょう」
「アキト、本当に依頼を受けに来てくれたのかー!」
「もちろん来ますよ!」
「ロット、案内ありがとな」
「良いってことよ」
「ロットさん、ありがとうございました。あの、おいくらですか?」
いそいそと鞄から財布を取り出したけど、ロットさんは苦笑しながら手を振ってみせた。
「ここがやられたら、俺の村にだって影響が出るんだ、今回は金はいらねぇよ」
「でも…!」
それとこれとは話が違うと言おうとしたが、アックスさんが笑いながら割り込んで来た。
「アキト、気にするな。ロット、依頼が終わったらがっつり土産を用意するから、しばらくはゆっくりしてってくれよ!」
「おう!うちの村では、金よりもそっちの方が喜ばれるからな!」
顔なじみらしい二人が納得しているなら、これ以上口は挟めないよな。俺は丁寧にお礼を伝えてから振り返った。アックスさんは、苦笑しながら俺の財布を見つめている。
「それにしても、アキト、その財布まだ使ってくれてんだなぁ」
「え、まだまだ使う気ですよ?アックスさんにもらったこの財布、気に入ってるので!」
「そうか…領都なら良いものがたくさんあるだろうに、もの好きだなぁ」
アックスさんは口ではそんなことを言いつつも、嬉しそうに笑ってくれた。
ロットさんと別れた俺とハルは、前回泊まらせてもらった集会所の中へと案内された。
アックスさんがテーブルの上に置いたのは、水と野菜と干し肉のサンドと、手描きの簡単な地図だった。
「食いながらで良いから聞いてくれ」
「あ、ありがとうございます」
昼ごはんは買ってあったんだけど、すごい速度で川をくだっていく舟の中では、さすがに食べられなかったんだ。とっくにお昼もすぎてしまったから、正直お腹はぺこぺこだ。
「アックスさんは?」
「俺はもう済ませたから気にせず食え。これもシェーラが作ったからうまいぞー」
にやりと笑ったアックスさんにお礼を言ってから、具だくさんのサンドにかじりついた。うん、美味しい。
「まずは、現状を報告して良いか」
「んっ…はい!お願いします!」
アックスさんの隣に立ったハルは、真剣な顔で地図を見つめている。もぐもぐと口を動かしながら、俺も一緒に地図を覗き込んだ。
「ゴブリン自体は珍しくも無いが、今回は場所が悪いんだ。このあたりだ」
そう言いながらアックスさんが指差したのは、森と村のちょうど中間のあたりだった。ハルの眉間にしわが寄る。
「思った以上に近いな…この村に来る時にアキトも通った辺りだよ」
ハルの言葉に、あの日通った道を思い浮かべてみた。森から村までは、それほど距離は無かったと思う。すこし歩いただけで、柵を直していたアックスさんに会ったんだもんな。
「昨日の内に何匹かは狩って減らしたが、一気に始末しないとまた増えるからな」
アックスさんは元衛兵だから、村での魔物退治を一手に請け負っているんだって。
普通のゴブリンが相手なら群れが相手でも倒せる自信はあるけど、今回のは距離が近すぎる。もし一人で退治している間に抜け出した奴がいた時に、気づけない可能性があるからと依頼を出したそうだ。
俺はやっとサンドを食べ終わって、水を飲み干した。こんな時だけど、すっごく美味しかった。後でシェーラさんに会えたらお礼言わなきゃな。
「アキト、ゴブリンを狩ったことはあるか?」
「いいえ」
「何でも良い、討伐依頼の経験は?」
「あります」
「もうひとつ、魔法は使えるか?」
「はい。火魔法も土魔法も使えます」
アックスさんは俺の答えに、満足そうに笑ってくれた。きちんと弱点属性を調べている冒険者は、信頼できるって言われてしまった。ハルに教わっただけだから、ちょっと心苦しい。
「俺は魔法はからっきしだから、頼りにしてるぞ」
「はい、全力で頑張ります!」
「アキトなら、落ち着いていれば大丈夫だよ」
ハルの励ましの言葉に、俺は小さく頷いた。
「あー…アキト、もうすこし休憩は必要か?」
言い難そうなアックスさんの言葉に、俺は首を傾げた。
「え、いえ」
「もしアキトさえよければ、すぐに向かっても良いか?」
まっすぐに見据えてくるアックスさんの視線に、状況は一刻を争うんだと気がついた。俺はすぐにハルの顔色を伺った。こういう時は、俺よりもハルの判断の方が信頼できる。
「徒歩で来てたら反対しただろうけど…船酔いも無いみたいだし、アキトがやりたいようにして良いよ」
ハルの言葉で、心は決まった。
「はい、大丈夫です!行きましょう」
458
お気に入りに追加
4,204
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。
竜王陛下、番う相手、間違えてますよ
てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。
『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ
姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。
俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!? 王道ストーリー。竜王×凡人。
20230805 完結しましたので全て公開していきます。

公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる