生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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58.腹ごしらえと現状報告

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 桟橋に先回りしたアックスさんは、舟が着くとすぐに手を差し出してくれた。俺はありがたくその手を借りて、慣れない舟から何とか無事に下りられた。ロットさんとハルはひょいっと軽く桟橋に飛び移ってきてて、ちょっと悔しかった。

「アキト、本当に依頼を受けに来てくれたのかー!」
「もちろん来ますよ!」
「ロット、案内ありがとな」
「良いってことよ」
「ロットさん、ありがとうございました。あの、おいくらですか?」

 いそいそと鞄から財布を取り出したけど、ロットさんは苦笑しながら手を振ってみせた。

「ここがやられたら、俺の村にだって影響が出るんだ、今回は金はいらねぇよ」
「でも…!」

 それとこれとは話が違うと言おうとしたが、アックスさんが笑いながら割り込んで来た。

「アキト、気にするな。ロット、依頼が終わったらがっつり土産を用意するから、しばらくはゆっくりしてってくれよ!」
「おう!うちの村では、金よりもそっちの方が喜ばれるからな!」

 顔なじみらしい二人が納得しているなら、これ以上口は挟めないよな。俺は丁寧にお礼を伝えてから振り返った。アックスさんは、苦笑しながら俺の財布を見つめている。

「それにしても、アキト、その財布まだ使ってくれてんだなぁ」
「え、まだまだ使う気ですよ?アックスさんにもらったこの財布、気に入ってるので!」
「そうか…領都なら良いものがたくさんあるだろうに、もの好きだなぁ」

 アックスさんは口ではそんなことを言いつつも、嬉しそうに笑ってくれた。



 ロットさんと別れた俺とハルは、前回泊まらせてもらった集会所の中へと案内された。

 アックスさんがテーブルの上に置いたのは、水と野菜と干し肉のサンドと、手描きの簡単な地図だった。

「食いながらで良いから聞いてくれ」
「あ、ありがとうございます」

 昼ごはんは買ってあったんだけど、すごい速度で川をくだっていく舟の中では、さすがに食べられなかったんだ。とっくにお昼もすぎてしまったから、正直お腹はぺこぺこだ。

「アックスさんは?」
「俺はもう済ませたから気にせず食え。これもシェーラが作ったからうまいぞー」

 にやりと笑ったアックスさんにお礼を言ってから、具だくさんのサンドにかじりついた。うん、美味しい。

「まずは、現状を報告して良いか」
「んっ…はい!お願いします!」

 アックスさんの隣に立ったハルは、真剣な顔で地図を見つめている。もぐもぐと口を動かしながら、俺も一緒に地図を覗き込んだ。

「ゴブリン自体は珍しくも無いが、今回は場所が悪いんだ。このあたりだ」

 そう言いながらアックスさんが指差したのは、森と村のちょうど中間のあたりだった。ハルの眉間にしわが寄る。

「思った以上に近いな…この村に来る時にアキトも通った辺りだよ」

 ハルの言葉に、あの日通った道を思い浮かべてみた。森から村までは、それほど距離は無かったと思う。すこし歩いただけで、柵を直していたアックスさんに会ったんだもんな。

「昨日の内に何匹かは狩って減らしたが、一気に始末しないとまた増えるからな」

 アックスさんは元衛兵だから、村での魔物退治を一手に請け負っているんだって。

 普通のゴブリンが相手なら群れが相手でも倒せる自信はあるけど、今回のは距離が近すぎる。もし一人で退治している間に抜け出した奴がいた時に、気づけない可能性があるからと依頼を出したそうだ。

 俺はやっとサンドを食べ終わって、水を飲み干した。こんな時だけど、すっごく美味しかった。後でシェーラさんに会えたらお礼言わなきゃな。

「アキト、ゴブリンを狩ったことはあるか?」
「いいえ」
「何でも良い、討伐依頼の経験は?」
「あります」
「もうひとつ、魔法は使えるか?」
「はい。火魔法も土魔法も使えます」

 アックスさんは俺の答えに、満足そうに笑ってくれた。きちんと弱点属性を調べている冒険者は、信頼できるって言われてしまった。ハルに教わっただけだから、ちょっと心苦しい。

「俺は魔法はからっきしだから、頼りにしてるぞ」
「はい、全力で頑張ります!」
「アキトなら、落ち着いていれば大丈夫だよ」

 ハルの励ましの言葉に、俺は小さく頷いた。

「あー…アキト、もうすこし休憩は必要か?」

 言い難そうなアックスさんの言葉に、俺は首を傾げた。

「え、いえ」
「もしアキトさえよければ、すぐに向かっても良いか?」

 まっすぐに見据えてくるアックスさんの視線に、状況は一刻を争うんだと気がついた。俺はすぐにハルの顔色を伺った。こういう時は、俺よりもハルの判断の方が信頼できる。

「徒歩で来てたら反対しただろうけど…船酔いも無いみたいだし、アキトがやりたいようにして良いよ」

 ハルの言葉で、心は決まった。

「はい、大丈夫です!行きましょう」
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