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56.【ハル視点】ルムンの森
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ギルドを出て街中を歩いている時から、アキトは既にかなり眠たそうだった。それでも何とかお気に入りの串焼きを買い込んで、黒鷹亭を目指して歩き続けた。
宿の部屋までは無事に辿り着いたものの、もう眠気は限界みたいだ。珍しく部屋の鍵を閉め忘れかけたので慌てて指摘すれば、謝りながら何とか鍵を閉めた。
「大丈夫かい?アキト?」
「んー…だいじょぶ」
アキトはベッドの上に座り込んで、帰りに買ってきた串焼きをかじり出した。甘辛いたれで焼いた、アキトの最近のお気に入りだ。
「おつかれ、アキト」
「ん、ハルもおつかれー」
何とか返事を返してくれるアキトは、むぐむぐと口は動いているけれど、目はとろんとしている。
こんなアキトを見るのは初めてだから、思わずじっと見つめてしまった。
何というか、いつもはしっかりしているアキトのとろんとした目が、何だか色っぽく見えてしまった。馬鹿か、俺は。変な事を考えるなと脳内で自分を叱り飛ばしている間に、アキトは串焼きを食べ終えたようだった。
「はる…」
「どうしたの?アキト」
串をごみ箱に放り込んだアキトは、目をこすりながら俺に声をかけてくる。
「ごめ…ねる…あさになったりゃおこし…て」
なったりゃって言った。なったりゃって言ったぞ、今。可愛すぎるアキトの言葉に衝撃を受けている間に、アキトはもう眠りに落ちていた。
幸せそうに眠るアキトを起こすかどうかは、今日もかなり悩んでしまったが、アキトから頼まれた事だからと自分に言い聞かせて、何とか起こすことに成功した。
「おはよう、アキト」
「んー」
「起きて」
「んあー…ハル、起こしてくれてありがと。俺、寝ちゃったんだ?」
「帰りに買った串焼きだけ食べたら、すぐ寝てしまったな」
眠そうにしながらも起こして欲しいと頼まれた話をしたら、アキトは笑っていた。
「んー疲れたのかな?」
「うん、あれだけ魔法を使えば疲れるよね」
「なあ…ハル…俺、魔力切れ寸前だったって可能性はある?」
昨日の脅しが効いたのか、アキトは不安そうにそう聞いてきた。いや、まだ魔力切れの兆候は無かった。
もし魔力切れ寸前なら食欲は一切無くなると伝えれば、アキトもほっとしたようだった。怖がらせてしまったのは申し訳ないが、そのぐらいの恐怖心を持っていた方が安全だろう。そう考えた俺は何も言わずに、食堂へ向かう準備をするアキトを見つめていた。
「ハル、今日は討伐依頼に行きたいんだ」
突然の申し出には、驚いてしまった。アキトは採取が好きなようだし、討伐依頼はしばらくは受けないと思っていたからだ。だが、アキトが決めた事なら、危険さえなければ反対するつもりは無い。
「そうか、じゃあギルドへ行こうか」
まだ魔物に詳しくないからと、アキトは依頼を選ぶ権利を俺にくれた。悩みながらも、今日はスライム3体と、トレント草1体の討伐依頼に決めた。
「トレント草は移動ができる植物で、種を飛ばして遠距離で攻撃してきたりもするから、なかなか厄介な魔物なんだ。アキトが持ってる図鑑にも載ってるよ」
そう声をかければ、アキトはギルドの壁際に移動してから、おもむろに図鑑を開いた。
「トレント草…トレント草…あった」
図鑑を読むアキトの横顔は、真剣だった。目線が左右に動いていて、説明を真面目に読み込んでいるのが分かる。
「トレント草が成長したら、トレントっていう木に擬態する魔物になるって言われてるんだ。真偽のほどは分からないんだけどね」
読み終わるのを待ってからそう補足を口にすると、アキトは図鑑にさらさらとその言葉を書き込んでから、やってしまったと言いたげな表情で周りを見渡した。冒険者は見ていなかったみたいだと安心しているみたいだけど、メロウは思いっきりこっちを見ていたよ。もちろん、わざわざアキトに教えたりはしないけど。
「じゃあ、行こうか。今日はルムンの森だね」
前に来た時は洞窟に直行してしまったから、ルムンの森を探索するのは初めてだ。アキトは楽しそうに周りを見回しながら、俺の後をついてくる。このまま冒険者の気配が完全になくなるまで進もうと考えていると、不意にアキトから声がかかった。
「ハル、待って」
少し離れた所に気配はあるけれど、この距離なら聞こえないだろうと判断しながら振り返れば、アキトはナドナの果実を指差していた。
ナドナの果実は、様々な色のたくさんの粒が集まってできている。鮮やかな色の粒が集まっているせいで見た目はすごく派手だが、味は意外にも繊細なのが特徴だ。色ごとに味も違っているという面白さがあるため、高級菓子店などでも使われる人気の果物だ。
「これはナドナの果実!よく見つけたね!」
「みつけたっていうか、何となく美味しそうに見えて」
照れくさそうにアキトは笑った。
「これは本当に美味しいよ。アキトが食べる用と、他にもいくつか採っていくと良いよ」
常設で納品ができるものだし、アキトが気に入れば全部食べても良いとそう伝えれば、アキトは嬉しそうにナドナの果実を摘み始めた。
森の奥まで入ってやっと見つけたスライム2体を、アキトは土魔法であっさりと倒してみせた。落ち着いて練り上げた魔力で危なげなく命中させる姿は、とても新人冒険者には見えない。
「やるね、アキト」
「ありがと」
周りの気配を探っていると、少し離れたところにトレント草の気配を感じた。
「こっちだ」
アキトを案内して歩いて行くと、遠くにトレント草の姿がちらりと見えた。あれがトレント草だよとアキトに知らせようとした瞬間、種を使った遠距離攻撃が飛んできた。この距離で攻撃してくる事は滅多に無いのに、きっちりとアキトを狙いすまして飛んできた攻撃に、思わず息を呑んだ。
「アキト、大丈夫!?」
「うん、避けれた!」
アキトはそう答えるなり、すぐに魔力を練り上げ始めた。火魔法の赤い魔力がじわじわと高まっていく。先制攻撃にも全く動じていないアキトの様子に、俺は肩の力を抜いた。
アキトの放った火魔法は、しっかりとトレント草に命中した。ぼふんと燃え上がったトレント草は、そのままばったりと倒れこんで動かなくなる。アキトは警戒しながらも、ゆっくりとトレント草に近づいていく。トレント草は納品推奨の依頼だ。本当にトレントに進化するのかを研究している研究者がいるため、持ち帰った方が評価は高くなる。本当にきちんと依頼票を読み込んでるんだなと、感心してしまった。
「警戒を忘れないのは、良い判断だよ」
そう誉めると、アキトはふるふると首を振った。
「倒したと思って油断しているところをわざと狙ってくる狡猾な魔物もいるって、前にハルがそう言ってたのを思い出しただけ」
アキトは柔らかく笑って続けた。
「だからすごいのはハルだろ」
そんな風に言ってくれるのは嬉しいけれど、それは違う。
「例え俺が話したことでも、自分で覚えて活用できてるなら、それはもうアキトの力だよ」
手に入れた情報をきちんと使いこなすのも、良い冒険者の素質だ。アキトはすごいなと思わず笑みを浮かべれば、アキトは照れ笑いを浮かべて目線を逸らした。
起き上がったアキトを見つめていると、不意に魔物の気配が勢いよく近づいてきた。
「アキト、何か来る!」
「え!」
「警戒態勢!」
説明している暇は無い。思わず低い声で飛ばしてしまった命令に、アキトはすぐに反応した。即座に魔力を練り上げながらしっかりと身構えるアキトの前に、マルックスが飛び出してくる。
それほど危険な魔物ではないが、突進をくらえば骨の数本は折れることもある。アキトを睨みつける不穏な視線に、縄張りに入ってしまったのかと気づいた。細かい説明をしている時間は無いと判断して、俺は思いっきり叫んだ。
「突進してくるよ、避けて!」
アキトは持ち前の身体能力で素早く木によじ登ったが、安心する間もなく、その木にマルックスが思いっきり激突した。落ちそうになりつつも何とか踏みとどまったアキトの、隣の枝に慌てて飛び乗った。
「アキト、怪我はないね?」
言いながらも視線を走らせるが、アキトは擦り傷ひとつ負ってなかった。ふうと思わず息が漏れた。
「うん、こいつ何?」
地面に降り立って気絶した魔鳥をまじまじと見つめているアキトに、すこしだけマルックスの説明をした。
「あ、アキトも食べたことあるよ?」
「え?」
「ギルドの酒場で食べた、マルックスのステーキだよ」
そう言うと、アキトは嫌そうな顔をして見せる。注文が通らなかった事を思い出しているんだろう。あの時のアキトは悔しそうで、とても可愛かった。思い出し笑いをしたせいで、アキトからは思いっきり睨まれてしまったが。
「あのステーキ、おいしかったでしょ?」
「うん」
「こいつはまだ気絶してるだけだけど、どうする?」
「どうする…って」
「魔道収納鞄って植物は何故か大丈夫なんだけど、生き物は入らないんだ」
「じゃあ」
「止めを刺して持ち帰るか、このまま置き去りにするか…だね?」
少し意地悪な質問だったが、今のアキトならどうするのか興味が湧いた。アキトはすこし考えてから、すぐに剣を抜いた。
「ハル、このマルックス、俺も食べたいって言うのってありかな?」
止めを刺したマルックスを見つめながらの質問に、俺はすぐに頷いた。
「ギルドで解体してもらって一部だけ引き取るのもありだし、レーブンに頼めば解体して料理までしてくれると思うよ」
「レーブンさんに解体から料理までしてもらうのは申し訳ないよ」
アキトなら、絶対そう言うと思った。
「1体でも結構な量の肉がとれるから、残りはレーブンに宿の朝食に使ってもらったらお礼にはなると思うよ?」
「そっか…1回聞いてだけみようかな」
自分で倒した魔物の肉を、自分で食べる。それは冒険者にとっての第二の試練だ。
レーブンはきっとこのお願いを断ることはしないだろう。むしろ自分に声をかけてくれたことに喜んで、全力で腕を振るうと思う。
喜ぶレーブンを想像しながら、俺はアキトと一緒に領都に向けて歩き出した。
宿の部屋までは無事に辿り着いたものの、もう眠気は限界みたいだ。珍しく部屋の鍵を閉め忘れかけたので慌てて指摘すれば、謝りながら何とか鍵を閉めた。
「大丈夫かい?アキト?」
「んー…だいじょぶ」
アキトはベッドの上に座り込んで、帰りに買ってきた串焼きをかじり出した。甘辛いたれで焼いた、アキトの最近のお気に入りだ。
「おつかれ、アキト」
「ん、ハルもおつかれー」
何とか返事を返してくれるアキトは、むぐむぐと口は動いているけれど、目はとろんとしている。
こんなアキトを見るのは初めてだから、思わずじっと見つめてしまった。
何というか、いつもはしっかりしているアキトのとろんとした目が、何だか色っぽく見えてしまった。馬鹿か、俺は。変な事を考えるなと脳内で自分を叱り飛ばしている間に、アキトは串焼きを食べ終えたようだった。
「はる…」
「どうしたの?アキト」
串をごみ箱に放り込んだアキトは、目をこすりながら俺に声をかけてくる。
「ごめ…ねる…あさになったりゃおこし…て」
なったりゃって言った。なったりゃって言ったぞ、今。可愛すぎるアキトの言葉に衝撃を受けている間に、アキトはもう眠りに落ちていた。
幸せそうに眠るアキトを起こすかどうかは、今日もかなり悩んでしまったが、アキトから頼まれた事だからと自分に言い聞かせて、何とか起こすことに成功した。
「おはよう、アキト」
「んー」
「起きて」
「んあー…ハル、起こしてくれてありがと。俺、寝ちゃったんだ?」
「帰りに買った串焼きだけ食べたら、すぐ寝てしまったな」
眠そうにしながらも起こして欲しいと頼まれた話をしたら、アキトは笑っていた。
「んー疲れたのかな?」
「うん、あれだけ魔法を使えば疲れるよね」
「なあ…ハル…俺、魔力切れ寸前だったって可能性はある?」
昨日の脅しが効いたのか、アキトは不安そうにそう聞いてきた。いや、まだ魔力切れの兆候は無かった。
もし魔力切れ寸前なら食欲は一切無くなると伝えれば、アキトもほっとしたようだった。怖がらせてしまったのは申し訳ないが、そのぐらいの恐怖心を持っていた方が安全だろう。そう考えた俺は何も言わずに、食堂へ向かう準備をするアキトを見つめていた。
「ハル、今日は討伐依頼に行きたいんだ」
突然の申し出には、驚いてしまった。アキトは採取が好きなようだし、討伐依頼はしばらくは受けないと思っていたからだ。だが、アキトが決めた事なら、危険さえなければ反対するつもりは無い。
「そうか、じゃあギルドへ行こうか」
まだ魔物に詳しくないからと、アキトは依頼を選ぶ権利を俺にくれた。悩みながらも、今日はスライム3体と、トレント草1体の討伐依頼に決めた。
「トレント草は移動ができる植物で、種を飛ばして遠距離で攻撃してきたりもするから、なかなか厄介な魔物なんだ。アキトが持ってる図鑑にも載ってるよ」
そう声をかければ、アキトはギルドの壁際に移動してから、おもむろに図鑑を開いた。
「トレント草…トレント草…あった」
図鑑を読むアキトの横顔は、真剣だった。目線が左右に動いていて、説明を真面目に読み込んでいるのが分かる。
「トレント草が成長したら、トレントっていう木に擬態する魔物になるって言われてるんだ。真偽のほどは分からないんだけどね」
読み終わるのを待ってからそう補足を口にすると、アキトは図鑑にさらさらとその言葉を書き込んでから、やってしまったと言いたげな表情で周りを見渡した。冒険者は見ていなかったみたいだと安心しているみたいだけど、メロウは思いっきりこっちを見ていたよ。もちろん、わざわざアキトに教えたりはしないけど。
「じゃあ、行こうか。今日はルムンの森だね」
前に来た時は洞窟に直行してしまったから、ルムンの森を探索するのは初めてだ。アキトは楽しそうに周りを見回しながら、俺の後をついてくる。このまま冒険者の気配が完全になくなるまで進もうと考えていると、不意にアキトから声がかかった。
「ハル、待って」
少し離れた所に気配はあるけれど、この距離なら聞こえないだろうと判断しながら振り返れば、アキトはナドナの果実を指差していた。
ナドナの果実は、様々な色のたくさんの粒が集まってできている。鮮やかな色の粒が集まっているせいで見た目はすごく派手だが、味は意外にも繊細なのが特徴だ。色ごとに味も違っているという面白さがあるため、高級菓子店などでも使われる人気の果物だ。
「これはナドナの果実!よく見つけたね!」
「みつけたっていうか、何となく美味しそうに見えて」
照れくさそうにアキトは笑った。
「これは本当に美味しいよ。アキトが食べる用と、他にもいくつか採っていくと良いよ」
常設で納品ができるものだし、アキトが気に入れば全部食べても良いとそう伝えれば、アキトは嬉しそうにナドナの果実を摘み始めた。
森の奥まで入ってやっと見つけたスライム2体を、アキトは土魔法であっさりと倒してみせた。落ち着いて練り上げた魔力で危なげなく命中させる姿は、とても新人冒険者には見えない。
「やるね、アキト」
「ありがと」
周りの気配を探っていると、少し離れたところにトレント草の気配を感じた。
「こっちだ」
アキトを案内して歩いて行くと、遠くにトレント草の姿がちらりと見えた。あれがトレント草だよとアキトに知らせようとした瞬間、種を使った遠距離攻撃が飛んできた。この距離で攻撃してくる事は滅多に無いのに、きっちりとアキトを狙いすまして飛んできた攻撃に、思わず息を呑んだ。
「アキト、大丈夫!?」
「うん、避けれた!」
アキトはそう答えるなり、すぐに魔力を練り上げ始めた。火魔法の赤い魔力がじわじわと高まっていく。先制攻撃にも全く動じていないアキトの様子に、俺は肩の力を抜いた。
アキトの放った火魔法は、しっかりとトレント草に命中した。ぼふんと燃え上がったトレント草は、そのままばったりと倒れこんで動かなくなる。アキトは警戒しながらも、ゆっくりとトレント草に近づいていく。トレント草は納品推奨の依頼だ。本当にトレントに進化するのかを研究している研究者がいるため、持ち帰った方が評価は高くなる。本当にきちんと依頼票を読み込んでるんだなと、感心してしまった。
「警戒を忘れないのは、良い判断だよ」
そう誉めると、アキトはふるふると首を振った。
「倒したと思って油断しているところをわざと狙ってくる狡猾な魔物もいるって、前にハルがそう言ってたのを思い出しただけ」
アキトは柔らかく笑って続けた。
「だからすごいのはハルだろ」
そんな風に言ってくれるのは嬉しいけれど、それは違う。
「例え俺が話したことでも、自分で覚えて活用できてるなら、それはもうアキトの力だよ」
手に入れた情報をきちんと使いこなすのも、良い冒険者の素質だ。アキトはすごいなと思わず笑みを浮かべれば、アキトは照れ笑いを浮かべて目線を逸らした。
起き上がったアキトを見つめていると、不意に魔物の気配が勢いよく近づいてきた。
「アキト、何か来る!」
「え!」
「警戒態勢!」
説明している暇は無い。思わず低い声で飛ばしてしまった命令に、アキトはすぐに反応した。即座に魔力を練り上げながらしっかりと身構えるアキトの前に、マルックスが飛び出してくる。
それほど危険な魔物ではないが、突進をくらえば骨の数本は折れることもある。アキトを睨みつける不穏な視線に、縄張りに入ってしまったのかと気づいた。細かい説明をしている時間は無いと判断して、俺は思いっきり叫んだ。
「突進してくるよ、避けて!」
アキトは持ち前の身体能力で素早く木によじ登ったが、安心する間もなく、その木にマルックスが思いっきり激突した。落ちそうになりつつも何とか踏みとどまったアキトの、隣の枝に慌てて飛び乗った。
「アキト、怪我はないね?」
言いながらも視線を走らせるが、アキトは擦り傷ひとつ負ってなかった。ふうと思わず息が漏れた。
「うん、こいつ何?」
地面に降り立って気絶した魔鳥をまじまじと見つめているアキトに、すこしだけマルックスの説明をした。
「あ、アキトも食べたことあるよ?」
「え?」
「ギルドの酒場で食べた、マルックスのステーキだよ」
そう言うと、アキトは嫌そうな顔をして見せる。注文が通らなかった事を思い出しているんだろう。あの時のアキトは悔しそうで、とても可愛かった。思い出し笑いをしたせいで、アキトからは思いっきり睨まれてしまったが。
「あのステーキ、おいしかったでしょ?」
「うん」
「こいつはまだ気絶してるだけだけど、どうする?」
「どうする…って」
「魔道収納鞄って植物は何故か大丈夫なんだけど、生き物は入らないんだ」
「じゃあ」
「止めを刺して持ち帰るか、このまま置き去りにするか…だね?」
少し意地悪な質問だったが、今のアキトならどうするのか興味が湧いた。アキトはすこし考えてから、すぐに剣を抜いた。
「ハル、このマルックス、俺も食べたいって言うのってありかな?」
止めを刺したマルックスを見つめながらの質問に、俺はすぐに頷いた。
「ギルドで解体してもらって一部だけ引き取るのもありだし、レーブンに頼めば解体して料理までしてくれると思うよ」
「レーブンさんに解体から料理までしてもらうのは申し訳ないよ」
アキトなら、絶対そう言うと思った。
「1体でも結構な量の肉がとれるから、残りはレーブンに宿の朝食に使ってもらったらお礼にはなると思うよ?」
「そっか…1回聞いてだけみようかな」
自分で倒した魔物の肉を、自分で食べる。それは冒険者にとっての第二の試練だ。
レーブンはきっとこのお願いを断ることはしないだろう。むしろ自分に声をかけてくれたことに喜んで、全力で腕を振るうと思う。
喜ぶレーブンを想像しながら、俺はアキトと一緒に領都に向けて歩き出した。
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