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52.魔力切れの危険性
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「四大属性がすぐに使えるなんてすごい事よ」
そう言ってくれたドロシーさんは、じっと的を見つめる俺をちらりと見てから続けた。
「ただ、的に当てるのは、ちょっと難しかったみたいね」
「最後はきっちり狙いましたけど、それでも失敗しました」
経験の差があるとはいえ、ドロシーさんは綺麗に真ん中だけに4回とも命中させていたのに、俺は的に当たったのは2つ。しかも真ん中に近かったのは、たったひとつだけ。なんとも情けない結果だ。
「理論派の中にはスピードが角度がって、毎回計算までするっていう人もいるんだけど…」
ここにきてまさかの数学。それは俺には出来ないかもしれないと思っていると、ドロシーさんはカラリと笑ってみせた。
「私たちみたいな感覚派は、考え方を変えた方が早いわね」
「考え方ですか?」
「極端にいえば自分の思い浮かべたものによって、飛び方が変わるわよ」
例えばと前置きをしたドロシーさんは、ふたつの火の玉を浮かべてみせた。
「これは、球を投げる感覚」
そう呟いたドロシーさんの手から離れた火の玉は、放物線を描きながらも見事に的の中心に命中した。
「これは、弓矢で射抜く感覚」
次の火の玉は、的に向かってすごい速度でまっすぐに飛んでいった。これもばっちり的の中心を射抜いている。すごい、格好良い。思わず尊敬の眼差しで見つめてしまった。
「飛び方が違うのが分かったでしょう?」
「はい」
「アキトも思い浮かべながら、やってみて」
その考え方は浄化魔法と同じだ。同じ浄化でも、掃除機、洗濯機、歯ブラシ、お風呂など思い浮かべたものによって効果が違っていた。ということはと考えながら、目の前に火の玉を浮かび上がらせる。
父と一緒にキャッチボールをした時の感覚を思い出しながら放てば、ふわりと放物線を描いて飛んでいった火の玉は的の下ぎりぎりに当たった。
次は弓矢だけど、これはどうしても上手く想像できなかった。そもそも、弓を射た事が無いから、思い浮かべることもできないんだよな。
必死で記憶を探っていると、夏祭りで友達と盛り上がった射的を思い出した。使ってたのはコルクのエアガンだったけど、思ったよりも勢いよく飛び出して驚いたのはよく覚えてる。まあ、景品は1こも落とせなかったけど。あの時のまっすぐ飛んでいくコルクを思い浮かべながら放てば、素早く飛んでいった火の玉はそのまま的の真ん中に命中した。
「今のは良かったわ!」
誉めて伸ばしてくれるドロシーさんの隣で、ハルは真面目な顔で頷いていた。
「アキト、あの早さならたいていの魔物には通用すると思うよ!」
物知りなハルがそう言ってくれるだけの速度が出せたんだと思うと、誇らしい気持ちになった。
何度も挑戦しているうちに、中心は無理でも的には当たるようになってきた。楽しくなってきた俺はまだまだ練習するつもりだったけど、ドロシーさんに止められた。
「そこまで。次は威力の大小の説明をさせて欲しいの」
「あ、ごめんなさい。夢中になってました…」
素直に謝ると、気にしないでと言って手を振ってくれたドロシーさんは、威力の説明を詳しくしてくれた。
理論派は呪文を変えることで威力を変えるけれど、感覚派は威力を上げるのも思い浮かべるもの次第らしい。火魔法なら、種火と焚火、かがり火と思い浮かべるものによって威力が上がっていくし、水魔法なら、使う水の量で威力が上がっていく。
「感覚派にとっては威力を上げることも簡単な事よ。だけど、だからこそ注意して欲しいことがあるの」
真剣な顔のドロシーさんは、ひたと俺の目を見つめてはっきりと告げた
「決して魔力を使い果たさないように、気を付けなさい」
分かったわねと念を押された俺は、小さく頷いてから恐る恐る聞いてみた。
「あの…魔力を使い果たすと…どうなるんですか?」
「魔力が完全に回復するまで、何日も眠ったままになるわね」
あっさりと告げられた言葉に、拍子抜けしてしまった。ドロシーさんの言い方が怖かったから、そのまま死んじゃうのかと思ったけど、ただ眠るだけなんだ。そう思ったのが、ハルにはすぐにばれたらしい。珍しく険しい顔をしたハルは、俺をじっと見つめてきた。
「アキト、もしそれが採取先だったら?想像してみて?」
魔物の徘徊する採取地で、一人で眠りこける自分を想像してみたらぞっとした。そんなの、眠ったまま魔物に食べられて終わりだろう。
「あら、察しが良いわね」
真っ青な顔をしているだろう俺の顔色を見て、ドロシーさんは満足そうに頷いていた。いえ、ハルに言われなかったら、全く気づかなかったです。魔力切れ、怖い。
「今日も結構魔法を使ってもらったけど、まだ魔力切れにはなってないみたいだから魔力量は多いと思うんだけどね。でも、油断はしちゃ駄目よ」
ドロシーさんの横で、ハルがすごい勢いで頷いて同意を示してる。うん、気を付けます。
「これで授業はおしまいね」
「ありがとうございました!俺にとっては、すごく分かりやすい授業でした」
「ちょっと、メロウ。聞いた?」
「そうですね、アキトさんとは!奇跡的に!相性が良かったみたいですね」
「失礼ねー」
頬を膨らませて怒ったふりをするドロシーさんと、真顔で見つめるメロウさんに、ハルと二人で笑ってしまった。
そう言ってくれたドロシーさんは、じっと的を見つめる俺をちらりと見てから続けた。
「ただ、的に当てるのは、ちょっと難しかったみたいね」
「最後はきっちり狙いましたけど、それでも失敗しました」
経験の差があるとはいえ、ドロシーさんは綺麗に真ん中だけに4回とも命中させていたのに、俺は的に当たったのは2つ。しかも真ん中に近かったのは、たったひとつだけ。なんとも情けない結果だ。
「理論派の中にはスピードが角度がって、毎回計算までするっていう人もいるんだけど…」
ここにきてまさかの数学。それは俺には出来ないかもしれないと思っていると、ドロシーさんはカラリと笑ってみせた。
「私たちみたいな感覚派は、考え方を変えた方が早いわね」
「考え方ですか?」
「極端にいえば自分の思い浮かべたものによって、飛び方が変わるわよ」
例えばと前置きをしたドロシーさんは、ふたつの火の玉を浮かべてみせた。
「これは、球を投げる感覚」
そう呟いたドロシーさんの手から離れた火の玉は、放物線を描きながらも見事に的の中心に命中した。
「これは、弓矢で射抜く感覚」
次の火の玉は、的に向かってすごい速度でまっすぐに飛んでいった。これもばっちり的の中心を射抜いている。すごい、格好良い。思わず尊敬の眼差しで見つめてしまった。
「飛び方が違うのが分かったでしょう?」
「はい」
「アキトも思い浮かべながら、やってみて」
その考え方は浄化魔法と同じだ。同じ浄化でも、掃除機、洗濯機、歯ブラシ、お風呂など思い浮かべたものによって効果が違っていた。ということはと考えながら、目の前に火の玉を浮かび上がらせる。
父と一緒にキャッチボールをした時の感覚を思い出しながら放てば、ふわりと放物線を描いて飛んでいった火の玉は的の下ぎりぎりに当たった。
次は弓矢だけど、これはどうしても上手く想像できなかった。そもそも、弓を射た事が無いから、思い浮かべることもできないんだよな。
必死で記憶を探っていると、夏祭りで友達と盛り上がった射的を思い出した。使ってたのはコルクのエアガンだったけど、思ったよりも勢いよく飛び出して驚いたのはよく覚えてる。まあ、景品は1こも落とせなかったけど。あの時のまっすぐ飛んでいくコルクを思い浮かべながら放てば、素早く飛んでいった火の玉はそのまま的の真ん中に命中した。
「今のは良かったわ!」
誉めて伸ばしてくれるドロシーさんの隣で、ハルは真面目な顔で頷いていた。
「アキト、あの早さならたいていの魔物には通用すると思うよ!」
物知りなハルがそう言ってくれるだけの速度が出せたんだと思うと、誇らしい気持ちになった。
何度も挑戦しているうちに、中心は無理でも的には当たるようになってきた。楽しくなってきた俺はまだまだ練習するつもりだったけど、ドロシーさんに止められた。
「そこまで。次は威力の大小の説明をさせて欲しいの」
「あ、ごめんなさい。夢中になってました…」
素直に謝ると、気にしないでと言って手を振ってくれたドロシーさんは、威力の説明を詳しくしてくれた。
理論派は呪文を変えることで威力を変えるけれど、感覚派は威力を上げるのも思い浮かべるもの次第らしい。火魔法なら、種火と焚火、かがり火と思い浮かべるものによって威力が上がっていくし、水魔法なら、使う水の量で威力が上がっていく。
「感覚派にとっては威力を上げることも簡単な事よ。だけど、だからこそ注意して欲しいことがあるの」
真剣な顔のドロシーさんは、ひたと俺の目を見つめてはっきりと告げた
「決して魔力を使い果たさないように、気を付けなさい」
分かったわねと念を押された俺は、小さく頷いてから恐る恐る聞いてみた。
「あの…魔力を使い果たすと…どうなるんですか?」
「魔力が完全に回復するまで、何日も眠ったままになるわね」
あっさりと告げられた言葉に、拍子抜けしてしまった。ドロシーさんの言い方が怖かったから、そのまま死んじゃうのかと思ったけど、ただ眠るだけなんだ。そう思ったのが、ハルにはすぐにばれたらしい。珍しく険しい顔をしたハルは、俺をじっと見つめてきた。
「アキト、もしそれが採取先だったら?想像してみて?」
魔物の徘徊する採取地で、一人で眠りこける自分を想像してみたらぞっとした。そんなの、眠ったまま魔物に食べられて終わりだろう。
「あら、察しが良いわね」
真っ青な顔をしているだろう俺の顔色を見て、ドロシーさんは満足そうに頷いていた。いえ、ハルに言われなかったら、全く気づかなかったです。魔力切れ、怖い。
「今日も結構魔法を使ってもらったけど、まだ魔力切れにはなってないみたいだから魔力量は多いと思うんだけどね。でも、油断はしちゃ駄目よ」
ドロシーさんの横で、ハルがすごい勢いで頷いて同意を示してる。うん、気を付けます。
「これで授業はおしまいね」
「ありがとうございました!俺にとっては、すごく分かりやすい授業でした」
「ちょっと、メロウ。聞いた?」
「そうですね、アキトさんとは!奇跡的に!相性が良かったみたいですね」
「失礼ねー」
頬を膨らませて怒ったふりをするドロシーさんと、真顔で見つめるメロウさんに、ハルと二人で笑ってしまった。
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