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50.魔法の勉強

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「うーん…今日はどうしようかな?」
「アキトさえよければ、そろそろ魔法の勉強をしたらどうかな?」
「魔法の勉強!やりたい!」

 まだ擬態魔法と鑑定魔法くらいしか魔法を見た事がないし、自分で使えるのはカルツさんのおかげで覚えた浄化魔法だけだ。浄化魔法には毎日お世話になってるんだけどね。だってここお風呂無いし。

「ハルが教えてくれるの?」
「いや、本職の魔法使いに教えてもらった方が良い」
「本職の魔法使い?」
「ただし、ギルドでの授業は駄目だ」

 冒険者ギルドでは魔法の授業を受けられるけれど、それを俺が受けるのはまずいんだって。ハルに指摘されてやっと気づいたんだけど、俺全く詠唱してないんだよね。浄化魔法も頭の中で考えるだけ。ハルが俺の体に憑依して使った擬態魔法の時は、確かに手を動かしながら、聞き取れない呪文を唱えてた。

「え、じゃあこれって異世界人バレになる?」
「いや、メロウが鑑定する時も詠唱はしてないだろう?」
「あ、確かに!鑑定魔法で詠唱してる人は見た事ない!」
「鑑定魔法も最初は呪文を唱えるんだけど、慣れてくると無詠唱になりやすい魔法だね」
「そうなんだ」
「ちなみに素質のある魔法使いは、ほぼ全ての魔法を無詠唱か詠唱短縮で使いこなすよ」

 あれ?ってことは、絶対隠し通すべき事じゃないんだ。じゃあなんで俺は授業受けたら駄目なんだろう。疑問が顔に出ていたのか、ハルは苦笑を浮かべた。

「周りは詠唱してやっとできることを、一人だけ無詠唱でやったら……すごく目立つよ」
「なるほど」
「依頼をこなしているうちに周りに知られるのは仕方ないにしても、授業を受けてる時に周りで騒がれたら落ち着いて勉強できないだろう?」

 そう言われると、確かにそうだなと思う。

「じゃあどうするの?」
「ギルドに行って、メロウに聞いてみたら良いんだ」
「何て聞くの?授業をすすめられないかな?」
「個人的に魔法を教わりたいから依頼を出したい。信用できる魔法使いを紹介して欲しいって言うんだよ」



 ハルが言った言葉をそのままメロウさんに伝えたら、すぐに手配してくれることになった。前から思ってたけど、メロウさんって仕事が早いよな。

「ちょっとお待ちくださいね、今なら」

 メロウさんは受付カウンターから出てくると、すたすたと無造作に酒場へと向かった。

「アキトは本当に運が良いな。多分依頼終わりのがいるんだろう」

 ハルの言葉に、俺は目を見開いた。すぐに手配って普通もうちょっと時間かからない?本当にすぐだな。メロウさん仕事早すぎ。

「お待たせしました、アキトさん、こちらはドロシーさんです」
「はじめまして、アキトと言います。よろしくおねがいします」
「あら、ご丁寧にどうも。私はドロシーよ、よろしくね」

 そう言って艶やかに笑ったのは、カールした長い赤毛がゴージャスな妖艶美女だった。

「うん、ドロシーなら安心だね」

 知り合いなのかそう言ったハルの隣で、たまたまドロシーさんが立ち止まった。金髪紫目の王子様系イケメンと、カールした長い赤毛の妖艶な美女だ。お似合いだなぁと思ったら、なんとなくもやもやした気分になった。

「では、二人ともこちらへ」

 そのまま連れて行かれたのは、初めて入るギルドの地下だった。

 地下には授業のための教室や、実技のための訓練場がいくつも並んでいた。教室にも少人数用のものから、大人数用のものまで様々な種類があるみたいだ。

 メロウさんに案内されたのは、少人数用の教室だった。

「改めまして、こちらはE級のアキトさん、こちらはA級のドロシーさんです」
「え…」

 そう紹介してくれたメロウさんの言葉に、俺は思わず口を開いてしまった。

「そうドロシーはA級、つまり金級冒険者ってやつだよ」

 領都トライプールではかなり有名な冒険者だよとハルに言われて、俺は目を大きく見開いた。知らなかったなんて感じが悪かったかなと少し心配になったけれど、メロウさんがすかさず口を開いた。

「アキトさんは領都に来たのが最近ですから、知らなくても仕方ないですよ」
「そうそう、別に私は気にしないわよ。むしろ変にすり寄ってくる奴より好感が持てるわ」

 メロウさんのフォローに感動していると、ご本人もにっこり笑顔でそう言ってくれた。良かった。優しそうな人だ。

「さて、ドロシーさん、私は信頼できる魔法使いを紹介して欲しいと言われてあなたを選びました。依頼内容は新人冒険者への授業です」
「分かって…」
「ちょっと待ってください!その…依頼料はいくらくらいですか?」

 まだまだカードの中にはお金が残っているとはいえ、金級魔法使いに魔法を教わるのが安くない事くらいは俺にだって分かる。払えない値段だったら、もっとお金を貯めてからお願いしないと失礼なんてもんじゃない。

 慌てて止めた俺をじっと見つめていたメロウさんは、ドロシーさんと顔を見合わせてから笑い出した。ハルまで一緒になって笑ってるし。

「し、失礼しました。アキトさん、心配しなくて大丈夫ですよ」
「あのね、あまり知られてはいないけれど、金級と銀級には新人冒険者を導くっていう義務があるのよ」
「義務ですか?」
「まあ、ちゃんと断る権利もあるんだけどね。アキトが気に入ったから、今日は受けるわよ」

 そう言うと、ドロシーさんは悪戯っぽく笑った。

 メロウさんによると、義務とはいっても年に1度でも新人冒険者への指導や、依頼への同行を行っていれば良いというものらしい。現金報酬は無いけれど、断ることはできるらしい。要はボランティアって事なのかな。

「でも申し訳ないです」
「私も気に入らない冒険者の相手をしなくて済むから助かるのよ?」
「本当ですか?」
「ええ、でれでれと鼻の下を伸ばした奴とか、最初から高度の魔法を教えろっていう奴とかもいるのよ…」


 本当に助かるからむしろ授業をさせて欲しいわとまで言ってくれたドロシーさんと、過去のひどい新人冒険者の話を問題にならない程度にと話してくれたメロウさんに、俺は深々と頭を下げた。

「よろしくお願いします!」
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