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43.洞窟の中で咲く花

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 昨日達成できなかった依頼を終わらせるべく、俺たちは領都の北門を目指していた。

 バラーブ村から領都に来た時も、キニーアの森へ行く時も、南門だったから、地味に初めての北門だ。北門はどんな感じなんだろう。

「この坂を下ったら、すぐ北門だよ」

 そう言われた俺はちょっとワクワクしてたんだけど、南門と全く同じ公園と全く同じ大門だった。うん、そりゃそうだよね。大門前にはいざという時のために広場があるんだっていってたもんね。

「なんでそんなにがっかりしてるの」

 ハルが苦笑するぐらいには、顔に出てたみたいだ。別にと首を振ってから、北門に向けて歩き出す。

 入る時も別に厳しくはなかったけど、出る時はもっと緩い感じだ。きちんと出入りの門が分けてあるおかげで、ただ衛兵さんの前を通るだけで領都の外に出られる。

 外に出て歩き出すと、進行方向の道沿いに大きめの建物が見えてきた。

 結構人がいるみたいなんだけど、何だろう、あれ。歩きながらじーっと見つめていると、建物の近くに数台の馬車が見えた。

「ああ、あれは馬車乗り場だよ」

 頼れるガイドさんによると、ここからは各地に向けて馬車が出ているらしい。

 こっちの馬車は基本的に途中下車ができるんだって。だから、依頼の場所が遠い時には冒険者も利用するそうだ。いいなー馬車、俺も乗ってみたいな。

「今日はちょっと近すぎるから乗れないんだ、また今度ね」

 俺の心の声を読んだようなタイミングに、ちょっと笑ってしまった。

「まだ時間に余裕はあるから見ていくかい?」

 そう言われて周りを見てみると、建物の裏側に柵に囲われた場所があって、馬が放牧されていた。その馬をのんびりと眺めているご夫婦や、カップル、冒険者らしき人の姿もあった。馬車に乗らない人でも、自由に見物して良いんだって。

 それならと柵の近くに立って眺めてみる。ただ草を食べてたり、歩いていたり、走り回ったりしてるだけなんだけど、馬ってこんなに綺麗な生き物なんだな。時間も忘れてうっかり見惚れてしまった。

「アキト、そろそろ行こうか」

 ハルにそう声をかけられなかったら、俺は多分何時間でもここにいたと思う。名残惜しそうな顔をしていたのか、ハルからはまた来ようねと言われてしまった。

 元々そんなに顔に出る方じゃなかった筈なのに、最近見通されてる感がすごいんだよな。もうちょっと表情に出ないようにしないとなと考えながら、俺はハルについて歩き出した。



 ハルが今日選んだ採取地は、ルムンの森という場所だった。本当にこんなところに洞窟があるのかと思わず疑ってしまうぐらい、あまりにも普通の森だった。

「こっちだよ」

 ちらちらと冒険者達の視線を感じながら、ハルについていく。周りの人の気配が減ってきた頃、ハルが指し示したのは一本の木の下だった。

 そこには洞窟への入口が、ぽっかりと口を開いていた。苔むした地面に開いた、人一人が通るのがやっとといった感じの穴は、中が良く見えないせいもあってかどんよりとした雰囲気に見えた。

「この中なんだけど…やっぱり不気味だよね?」

 きっとそうだと思ったから、昨日はあっちを案内したんだとハルは説明してくれた。たしかに見た目はちょっと、いやかなり不気味だ。ハル以外の人に教えてもらったんだったら、きっとここで諦めて帰っていたと思う。

「たしかに不気味だけど、ハルがここだって言うなら入れるよ」

 もし人がいても聞こえないくらい小さな声で、俺はそうハルに囁いた。

「信じてるから」
「…うん、ありがとう」

 覚悟を決めて穴の中へと潜り込むと入口よりは広さのある通路に、光の線がずっと続いているのが見えた。入ってしまえばなんてことのない普通の洞窟だ。

「中は普通だ」
「うん、普通だろ?」

 心配そうに反応を伺っていたハルも、俺の感想を聞いて安心したみたいだった。

「うん、ここからは人の気配は無いね」
「そっか。案内ありがとう、ハル」
「どういたしまして」
「それにしても、変な入口だったね」

 軽い気持ちで口に出したら、予想外の返事が返ってきた。

「ああ。ここは大型の蛇の魔物が通った跡だって言われてるんだ」
「蛇?こんな大きな蛇の魔物?」

 うっかり想像してしまったら、全身に震えがきた。こんな洞窟が掘れるくらいの蛇の魔物って恐ろしすぎるだろう。もしそんなのが出てきたら、俺なんて即まるのみにされるだろうな。

「まあただの伝説だと思うよ」
「そうだと良いけど」

 そんな軽口を叩きつつ、どんどん下りていくと、大きな空間に辿り着いた。ここが行き止まりだって教えてもらいながら、ゆっくりと周りを見渡してみる。うん、ここには、危険な霊の気配は無さそうだな。

「アキト、どうする?」
「自分で探したい!」

 折角聞いてくれたんだしと、俺はいそいそと鞄から図鑑を取り出した。

 必要なのはミーヤの花と、オルン茸。近くにキノコが見えてたから、先にオルン茸かな。ぱらぱらと図鑑をめくれば、すぐにオルン茸のページは見つかった。

 黄色にオレンジの線が入ったきのこで、かさの部分がひらひらと波打っているようだ。なんかマイタケみたいな見た目だな。胞子で手が荒れることがあるって書いてあるから、手袋は必須。続きを読みながら手袋を装備する。

「茹でて食べたら絶品って書いてあるけど本当?」
「茹でても良いけど、スープに入れてもコクが出て美味しくなるよ。レーブンにお土産にもっていく?」
「もっていく!」

 少量でもコクが出るなら、もしかしたら黒鷹亭の朝食に使ってくれるかもしれない。さあ、張り切って取るぞと思ったんだけど、黄色にオレンジの線が入ったマイタケって、かなり目立つんだよね。ちょっと見て回っただけで、あっさり納品分とお土産分が揃った。

「次はミーヤの花かな?」
「うん」

 花の種類にはくわしくないから、絵で見ても全くぴんと来なかった。

 洞窟内で咲く花は珍しい筈だから、まずは花を探してみようかな。うろうろと歩き回っていると、ぴちゃんと水滴が落ちる音が聞こえた。ふと視線をそちらに向けると、そこにはミーヤの花が群生していた。

 透明感のある淡いピンク色の花は、光の線以外に光源がない場所でも立派に咲いていた。

「綺麗だな」
「ああ、こんなに群生したのは初めて見たよ」

 しばらく二人でその花を眺めてから、3本だけ切り取らせてもらって、俺たちは急いで洞窟を後にした。
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