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34.ポルの実と巨大黒キノコ

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「次はポルの実だね」
「ちょっと自分で探してみても良いかな?」
「人も魔物も近くに気配は無いから大丈夫だよ。もし近づいてきたら言うから、安心して探してみて」

 ハルのお言葉に甘えて、俺はすぐに図鑑を開いた。

 ポルの実は絵を見る限りではプルーンに似た赤い実だ。染料として使われるもので、毒があるから素手で触るのは駄目。手袋の出番だな。採取したものを入れる袋は、ギルドで販売していたものをまとめて買ってあるからこれも問題は無い。

 低木になるって書いてあるけど、この辺に低木はなさそうだ。辺りを見渡してみると、少し離れたところに低木が連なっているのがちらりと見えた。

「ハル、移動するよ」
「わかった」

 低木に近づいていくと、すぐにプルーンみたいなポルの実は見つかった。手袋をはめてから丁寧にもぎ取って、納品袋に必要数を入れていく。毒があるからちょっと緊張したけど、無事に依頼分は採取できた。

 後ろで見ていたハルを見上げれば、にこっと笑顔でよくできましたって誉められた。よくできましたって誉められるのはもしかしたら小学生ぶりかもしれないな。他の人に言われたら馬鹿にしてるのかって思うかもしれないけど、ハルに言われると何だか嬉しい。

「じゃあ、まだ早いし、ちょっと探検してみる?」
「うん!」

 少し前を歩くハルは、森の中でも相変わらず迷いなく進んで行く。街中でもそうだけど、道を選ぶ事に迷う事が無いんだよな。

「なあ、ハルって迷いなく歩くよな」
「まあ、道には強い方だしね」
「俺も道覚えないと駄目だなーこの森の地図とかって無いのか?」
「詳細な地図は領主の城と騎士団ぐらいにしかないかな」
「え、衛兵の人も持ってないのか?」

 単に一般に出回ってないんじゃなくて衛兵も持ってないのかと驚くと、ハルは苦笑しながら頷いた。

「手作りの地図くらいなら持ってるかもしれないけどね」

 あまり詳細な地図を公開しちゃうと、盗賊とかに悪用される可能性があるから、地図は貴重な情報として管理されてるんだって。なんでその地図を知ってるのって思ったけど、俺はそれ以上何も聞かなかった。だってハルはハルだし。

「あ、アキト!あれ!」

 ハルが指差したのは、大きな木の根本に生えている真っ黒な巨大キノコだった。俺の両腕でやっと抱えられるくらいの大きさのキノコは、異様な存在感を放っている。

「アキトは運が良いね!これは常設買取されてるものだから採って行こう!」
「あれ…?この巨大キノコ、ナルクアの森でもみかけた…?」

 なんか見たことあるんだよなと聞いてみれば、ハルは驚いたみたいだ。

「すごいね、覚えてたんだ」
「これだけ異様な存在感があったらさすがに覚えてるよ」
「このキノコはね、剣や鎧の素材として使われてるんだ」
「…キノコなのに?剣と鎧?」

 一体何を言い出したんだと思わず繰り返してしまったけど、ハルには笑って肯定されてしまった。鍛冶師さんなら一度は使ってみたい素材だから、鍛冶組合が常設で買い取っているんだそうだ。ただこのキノコには一つ問題点があって、とにかく重いんだって。剣と鎧が作れるんだからそりゃ重いよね。

「ナルクアでは魔道収納鞄を持ってなかっただろう?だから言わなかったんだ」
「あ、なるほど」

 俺が持ち運べる重さじゃないってことか。あの時、重さまで気にして採取するものを選んでくれてたんだと気づいて、ほんわかと胸が暖かくなる。

「ありがとう、ハル。重さまで考えて採るもの考えてくれてたんだな」
「どういたしまして。ほら、ひっぱれば良いからやってみて」

 ハルに促されてキノコの真正面に立つ。そのまま全体重をかけてひっぱると、思ったよりも簡単にすぽんと抜けた。そのまま俺も一緒になってごろんと地面に転がった。

「大丈夫かい?」
「うん、大丈夫」

 むしろふかふかの地面を転がるのは、ちょっと楽しかった。素直にそう言うと、ハルには呆れられてしまったけど。

 さて、重い重いと言われると試してみたくなるよな。俺は腕まくりをすると、地面に転がったキノコに挑んでみた。全力で頑張ってみたけど、ちょっと動いたくらいで全く持ち上がる気配が無い。これ一体何キロあるんだよ。

「やっぱり無理だー」
「気が済んだ?」
「済んだ!」
「じゃあ魔道収納鞄の口を近づけて、キノコを収納してみて」

 言われるがままに魔道収納鞄を近づけると、黒いキノコはすぽんと中に吸い込まれていった。鞄の大きさよりも大きいものが吸い込まれていく様子は、何度見てもすごい違和感だ。でもこの鞄に入れれば、重さを感じないんだからありがたいよな。

「今日はこれで帰ろうか」
「え、もう?」
「目的は達成したし、納品しにギルドへ行こう」

 折角の初依頼だからもう少しぐらいは探検したかったけど、ハルにそう言われたら仕方ない。俺は素直に、森の出口を目指して歩き出した。
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