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26.【ハル視点】俺の間違い

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 カルツさんおすすめの料理を食べるアキトは、本当に幸せそうだった。

「ポリッチェの料理は気に入ったみたいですね」
「ええ、美味しそうに食べてますね」
「三人が一緒に食事をしている所が見られて、私は本当に嬉しいです」

 カルツさんは幸せそうに笑った。夢にまで見た家族の団らんが目の前にあって、そこで恩人が一緒に食事をしている。そう考えれば、カルツさんの気持ちも分かる気がした。

「私はあの湖で慣れましたが、ハルさんは食事風景を見るのはつらくないんですか?」
「私も元々苦手ではなかったですが…アキトは特別ですね」

 食べ方が丁寧だからか、美味しそうに味わいながら食べるからか。

 理由は分からないが、アキトが食事をしている姿を見るのはつらくないどころか、見ていて楽しいとさえ感じている。そう伝えるとカルツさんも頷いてくれた。

「たしかにあの幸せそうな顔は、良いですね」
「そうでしょう?」

 思わず自慢げに言ってしまったが、カルツさんはただ楽し気に笑うだけだった。



 マリーナさんが魔道収納鞄を持ってきた時は、アキトの性格からして受け取らないだろうなと思いつつも、これがあったら依頼達成にも便利だなと考えていた。

 魔道収納鞄があれば、持ち運ぶ素材の重さを軽減できる。重さを気にしなくても良くなるなら、あの素材もこの素材も採取できるな。今の季節に採取できる高額素材を思い浮かべていた俺は、マリーナさんがどこか思いつめた顔をしていることにも気づかなかった。

「擬態魔法のかかった鞄よりも面倒な疑いを向けられる事は無くなると、そう思ったからです」

 そう言い出した時は、本当に驚いた。魔力が高い人には見破られるが、マリーナさんはそこまで魔力は高くない筈だ。そこまで考えて、やっともう一つの可能性に辿り着いた。

「アキト、魔力量じゃない。彼女はきっと鑑定スキルが最高レベルなんだ。そうそう最高レベルの人がいるものじゃないから、その可能性は考えてなかったよ、すまない」

 即座に謝った俺に、アキトは小さく手を振ってくれた。俺のせいじゃないという意思表示だろう。でも、これは間違いなく俺のせいだ。

 マリーナさんだからまだ良かったが、異世界人を捕まえようとするような奴の中に鑑定魔法が最高レベルの奴が混じっていたら?鞄だけなら言い逃れできると思っていたが、そんな奴に言葉が通じると考える方がどうかしている。

 そもそも冒険者ギルドにいけば、鑑定魔法が最高レベルの者も何人かは確実にいる。そこで疑われたり、異世界人な事がばれてしまったら?その可能性にもっと早く気づくべきだった。

 ぐるぐると考えている間に、アキトは納得したのか魔道収納鞄を受け取っていた。

 アキトには、宿に着いてからもう一度ちゃんと謝ろう。そう決意して顔を上げると、カルツさんと目が合った。俺とアキトの会話を聞けるカルツさんは、だいたいの事情は把握したんだろう。

「マリーナがすみません」
「いえ、ここで分かって良かったです。もしここで気づかずに、異世界人を捕まえようとするような奴に見つかっていたらと思うと…」
「まだ隠蔽魔法に気づかれただけですから、異世界人とばれたわけではないですよ?」
「いえ、隠蔽魔法から、その可能性を思いつく人がいるかもしれませんから」

 言い切った俺に、カルツさんは苦笑していたが、それ以上言葉を重ねはしなかった。

 

 カルツさんと別れ、宿への道を二人で歩く。早くもう一度謝りたいとそればかりを考えていた俺は、宿に帰り着き部屋に入るなり謝った。

「アキト、本当にすまなかった」
「え、何が?」

 アキトは目を大きくして、俺を見上げていた。

「隠蔽魔法が、高レベルの鑑定魔法使いにはバレることを忘れていた」
「いや、ハルは別に悪くないだろ」
「しかし」

 今回は大丈夫だったかもしれないが、もしあのまま気づかずにいて誰かにばれていたら。そう思うと背筋が寒くなった。異世界人を監禁して知識だけを搾りとるような奴に、もし気づかれていたら。

「ハルは俺が異世界人な事を隠し通したいって言ったから隠蔽魔法をかけてくれただけだろ?」
「いや、だが…」
「それ以上謝らないで!」

 突然大きな声を出したアキトに驚いた俺は、思わず口を閉じた。

「俺は何も怒ってないし、むしろ感謝してる。ハルのおかげでここまで来れたんだよ、ありがとうな」

 照れくさそうに笑いながら話し出したアキトは、そのまま続ける。

「だって俺、たぶんあの森一人で抜けられてないし。もし運よく抜けられたとしても、服の偽装とかも思いつかずにあっさり異世界人バレして今頃どこかで捕まってると思うんだ。だから、俺はハルに感謝してます!終わり!」

 そう言い切ると、話は終わったからと即座に話題まで変えられてしまった。
 
「なー明日はまずギルドかな?頼れる同行者さん」

 そこまで言われてしまうと、これ以上謝り難くなってしまった。これはもう仕方ないか。これからは今まで以上にしっかりとアキトの安全を考えるとしよう。

「そうだな。アキトさえ良ければ、まずは冒険者ギルドに行こうか」
「了解!今のうちに採取したもの入れ替えとこうかな」

 荷物を整理するアキトが取り出したリスリーロの花は、数日経った今日も綺麗に咲いていた。

「俺の方こそ、アキトのおかげでこの花を届けられるんだ…本当に、ありがとう」



 ベッドに入って話している間に、いつの間にか眠り込んでしまったアキトは、疲れていたのかなかなか起きなかった。このまま寝かせておいてやりたいが、せっかく黒鷹亭に泊っているなら、名物の朝食は食べさせてやりたい。

 悩みつつも声をかけると、アキトはすぐに目を開いた。

「おはよう、アキト」

 ごしごしと目をこする姿は、まだ眠そうだ。

「おはよ、ハル。目覚まし役までさせてごめん」
「疲れてたんだから仕方ないよ。でも、そろそろ起きないと朝食を食べ損ねるから」

 朝食と聞いて笑顔になったアキトを見て、起こして正解だったらしいと胸をなでおろした。
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