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21.魔道収納袋の中身
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袋から出て来たのは、スイカぐらいの大きさの水色の石だった。その大きな石は、息子さんが差し出した木製のトレイの上にそっと置かれた。
なんだろうこの石。じーっと見つめていると、後ろでハルが息を呑んだのが分かった。ハルが驚いているってことはすごいものなんだろうな。
「これは水の魔石です」
「とんでもないものが入っていたな」
とんでもないのか。ハルの説明によると、水の魔石があれば大量の水が取り出せる。場合によっては水不足に困る街の運命や、戦の戦況すら覆す程の力があるらしい。水問題解消の不思議な石ってことで良いのかな。S級つまり災害級の魔物から、ごくまれにしか取れないそうだ。
「これは我が夫カルツが、別の国まで受け取りにいったものなんです」
「父は護衛と共に盗賊に…遺体は帰ってきたんですよ。でも、肌身離さず持っていた魔道収納袋はなかったんです」
「いくら探しても見つからなかったので、おそらく盗賊の手に渡ったのだとばかり」
「そうだ!どこにあったのか、お伺いしても?」
よく冒険者が休む湖の近くにある、木の穴ですって駄目だ。どうしてそんな所に気づいたのかってなるよな。でもカルツさんの家族に嘘は吐きたくない。
「俺は木登りが得意なんです」
突然何を言い出したって顔をしている二人を無視して、話を続ける。
「街道沿いの湖で昼食を食べて、食休みに寝転がっていたら、見える所に登りやすそうな大きな木があったんですよ」
「はあ」
「昼も過ぎて人もいなくなっていたので、試しに登ってみたら…何かの巣だったらしい木の穴があったんです」
「まさか」
「はい、その穴の中にありました」
胡散臭い話だろうけど、これが真実だから仕方が無い。
「それは…きっとカルツが導いたんでしょう」
ばっちり導かれましたけど、これがそういう意味じゃないのは分かる。
「…母さん、ひとつ思い出したんだ…」
神妙な顔で黙って座っていると、息子さんが口を開いた。
「父さんが出発する前、俺、収納袋の紐にルセルの実をいくつか結びつけたよね。非常時にはこれを食べてね、なんて言いながら」
「ああ、そうだったわね」
「あの辺りにいる小動物なら、あの木の実を食べる筈だ」
「あら、たしかに木の実は無くなっているわ」
そっとカルツさんを見ると、頷いてくれた。
「あの時は盗賊に襲われながら、必死で茂みの中に隠したんですよ。まさかそれを小動物に持って行かれるとは思わなかったですが」
「木の実がなければ、もっと早く見つかったんじゃないのかな」
息子さんのあまりにつらそうな声に、つい口を開いてしまう。
「それは違いますよ。襲われながらも隠せた場所なんて、きっと茂みぐらいだと思うんです」
いや実際に茂みに隠したって言ってるけど。
「それだと盗賊にも見つかった可能性が高いと思うんです」
「たしかにそうですね」
お婆さんの優しい同意に、息子さんはそれでもうつむいてしまった。
「逆に考えれば、たしかに時間はかかったかもしれませんが、息子さんの木の実のおかげでここまで届いたんですよ」
カルツさんもすごい勢いで頷いてるから、それで何とか納得して欲しい。顔を上げてくれた息子さんは、涙が滲んではいたがうっすらと笑ってくれた。
「はい…ありがとうございます」
「アキトさん、夕食はお済ですか?」
そう聞かれた途端、俺が返事するよりも早く正直な腹の音が返事を返した。静かな室内に響き渡る腹の音。一気に頬が熱くなった。商店のお二人は笑うでもなく、夕食に招待してくれた。
「お礼に夕食に招待させてほしいと思っていたので、ちょうど良かったです」
笑顔でそう言ってくれたマリーナさんの言葉が、ありがたかった。
後ろで笑ってるハルは、あとでちょっとお話しようか。
なんだろうこの石。じーっと見つめていると、後ろでハルが息を呑んだのが分かった。ハルが驚いているってことはすごいものなんだろうな。
「これは水の魔石です」
「とんでもないものが入っていたな」
とんでもないのか。ハルの説明によると、水の魔石があれば大量の水が取り出せる。場合によっては水不足に困る街の運命や、戦の戦況すら覆す程の力があるらしい。水問題解消の不思議な石ってことで良いのかな。S級つまり災害級の魔物から、ごくまれにしか取れないそうだ。
「これは我が夫カルツが、別の国まで受け取りにいったものなんです」
「父は護衛と共に盗賊に…遺体は帰ってきたんですよ。でも、肌身離さず持っていた魔道収納袋はなかったんです」
「いくら探しても見つからなかったので、おそらく盗賊の手に渡ったのだとばかり」
「そうだ!どこにあったのか、お伺いしても?」
よく冒険者が休む湖の近くにある、木の穴ですって駄目だ。どうしてそんな所に気づいたのかってなるよな。でもカルツさんの家族に嘘は吐きたくない。
「俺は木登りが得意なんです」
突然何を言い出したって顔をしている二人を無視して、話を続ける。
「街道沿いの湖で昼食を食べて、食休みに寝転がっていたら、見える所に登りやすそうな大きな木があったんですよ」
「はあ」
「昼も過ぎて人もいなくなっていたので、試しに登ってみたら…何かの巣だったらしい木の穴があったんです」
「まさか」
「はい、その穴の中にありました」
胡散臭い話だろうけど、これが真実だから仕方が無い。
「それは…きっとカルツが導いたんでしょう」
ばっちり導かれましたけど、これがそういう意味じゃないのは分かる。
「…母さん、ひとつ思い出したんだ…」
神妙な顔で黙って座っていると、息子さんが口を開いた。
「父さんが出発する前、俺、収納袋の紐にルセルの実をいくつか結びつけたよね。非常時にはこれを食べてね、なんて言いながら」
「ああ、そうだったわね」
「あの辺りにいる小動物なら、あの木の実を食べる筈だ」
「あら、たしかに木の実は無くなっているわ」
そっとカルツさんを見ると、頷いてくれた。
「あの時は盗賊に襲われながら、必死で茂みの中に隠したんですよ。まさかそれを小動物に持って行かれるとは思わなかったですが」
「木の実がなければ、もっと早く見つかったんじゃないのかな」
息子さんのあまりにつらそうな声に、つい口を開いてしまう。
「それは違いますよ。襲われながらも隠せた場所なんて、きっと茂みぐらいだと思うんです」
いや実際に茂みに隠したって言ってるけど。
「それだと盗賊にも見つかった可能性が高いと思うんです」
「たしかにそうですね」
お婆さんの優しい同意に、息子さんはそれでもうつむいてしまった。
「逆に考えれば、たしかに時間はかかったかもしれませんが、息子さんの木の実のおかげでここまで届いたんですよ」
カルツさんもすごい勢いで頷いてるから、それで何とか納得して欲しい。顔を上げてくれた息子さんは、涙が滲んではいたがうっすらと笑ってくれた。
「はい…ありがとうございます」
「アキトさん、夕食はお済ですか?」
そう聞かれた途端、俺が返事するよりも早く正直な腹の音が返事を返した。静かな室内に響き渡る腹の音。一気に頬が熱くなった。商店のお二人は笑うでもなく、夕食に招待してくれた。
「お礼に夕食に招待させてほしいと思っていたので、ちょうど良かったです」
笑顔でそう言ってくれたマリーナさんの言葉が、ありがたかった。
後ろで笑ってるハルは、あとでちょっとお話しようか。
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