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18.美しい領都トライプール
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大門を抜けると、最初に目に入ったのは大きな広場だった。
真ん中には大きな噴水があり、そこかしこにある花壇には色とりどりの花が植えられている。広場の外周には所々に木が立っていて、その下にはベンチも設置されていた。暑い日でも木陰でゆっくりできそうな良い配置だ。
いくつかの屋台も並んでいるため、人々は思い思いに軽食や夕食を楽しんでいるようだ。もう時刻も夕方だけど、衛兵さんが近くにいるから安全なのか、こども達もまだ走り回っている。
うん、広場と言うより、これは綺麗な公園だな。
最初に辿り着くのがこんな広場とは正直意外だったけど、鮮やかな夕日に照らされたこの公園は息をのむほど美しかった。
まあ綺麗だなと見惚れていたら、緊急事態の時にはここを拠点に入口を守るための広場だって教えられてしまったんだけどな。噴水は緊急時に水を使いやすいように作られていて、植えてある花は薬草なんだそうだ。それはできればもう数日くらいは知りたくなかったよ、ハル。
「まずは宿の確保、次にスラテール商会だな。明日はギルドか」
「先にお二人の用事を済ませてもらって大丈夫ですよ」
「いや、早く届けたいだろ、アキトは」
代弁ありがとうございます。20年も待っていたんだから、少しでも早く届けてあげたい。小さく頷くと、カルツさんも苦笑しながら受け入れてくれた。
「宿は、そうだな…カルツさん、黒鷹亭はどうです?」
「そうですね、黒鷹亭なら、安心ですね」
二人の意見交換によって、あっさりと宿が決定。俺は案内されるままに黒鷹亭に辿り着いた。建物のドアの横には、鳥の模様が掘りこまれた木の看板がぶら下がっている。
受付のカウンターに座っていたのは、さっきの門番さんが霞むぐらいに屈強なおじさんだった。ドアの開いた音にこちらを見た目は、驚くほどに鋭い。本当にここが二人のおすすめなのか疑いたくなるぐらいには、怖かった。
「なんだ、坊主どうした?宿か飯か?」
おじさんは見た目に反して優しく話しかけてくれた。坊主って呼び方はちょっと嫌だけど、この人の体のでかさなら、俺なんてひよっこに見えるだろうから諦めよう。
「宿をお願いします」
「おう、何日だ?」
「アキト、連泊の方が安いから、とりあえず10日って言って」
日にちの相談するの忘れてたって気づく前に、ハルからのフォローが入った。
「とりあえず10日」
「長いな、何しに来たんだ?」
「冒険者になりたくて来たって」
「冒険者になりたくて来たんです」
おじさんは俺を上から下まで見てから、そうかとつぶやいた。
「無事にここまで来れて良かったな、坊主」
「?ありがとうございます?」
「俺はレーブンだ、困った時は何でも聞いてくれ」
「俺はアキトです。お世話になります」
なんだか冒険者になりたいって言ってから一気に優しくなった気がする。部屋を確保してくれた上に、本当は先払いだけど後払いで良いって言ってくれたし。ハルとカルツさんは驚いた様子も無いから、こういう人だって分かった上でここを勧めたんだろう。
案内してもらった部屋は窓が一つに真っ白なカーテン、簡素な木の机と椅子、ベッドが並んでいた。お風呂は無いけど、浄化が使えるようになった俺に死角は無い。
一泊は4500グルだけど、10日だったら1日3000グル。朝食は無料で、夕食は欲しい時だけ500グルでつけてくれるんだって。
「出る時は受付で鍵を預かるからな。今日は飯はいるか?」
「今日はいらないです」
商会でどのくらい時間がかかるか分からないし、何かを買ってきて食べれば良いかと考えながら答えた。
「俺が部屋を出たらすぐに鍵を閉めろよ。ここは客層も悪くはないが、用心に越したことは無い」
忠告に素直に頷くと、厳つい顔だが優しいレーブンさんは満足そうに部屋から出て行った。言われた通りに鍵を閉めると、さっきまで聞こえていた外の騒めきが聞こえなくなった。え、なんで。
「びっくりした顔ですね、領都の宿ではかなり普及してきた魔道具ですよ」
「魔道具…ですか?」
カルツさんが教えてくれたのは、宿の鍵に仕込まれているという魔道具だった。鍵をかけるだけで、簡易な防音結界が発動するらしい。早朝深夜に出入りする人の気配や声を、部屋に鍵さえかけていれば感じずに済むってすごいよな。
「つまり、ここなら俺たちと話していてもバレないってことだ」
「それは安心」
口では安心と言ってみたけど、今日商会にいったらカルツさんはいなくなっちゃうし、明日リスリーロを届けたらハルもいなくなっちゃうかもしれない。つい考えてしまうと寂しくなってくる。俺はごまかすように二人にレーブンさんの事を聞いてみた。
自身の経験から、彼は田舎から出てきて冒険者を志す若者に弱いんだって。
ああ見えて面倒見が良くて、初心者に必要な事も聞けば教えてくれる。何より本人が銀級冒険者だった事もあって、今でも強い。まああの見た目だもんな、弱いわけが無いと思う。だから、黒鷹亭に泊まっていると言うと、変な奴に絡まれたりしなくなるっていう利点もあるそうだ。
そんな人気の宿なのに、空室があるのが不思議だったんだけど、どうやらレーブンさんにはその人の本質が見えるスキルがあるらしい。危険と判断した人は相手が貴族だろうと豪商だろうと宿泊を拒否するんだって。
「アキトなら大丈夫だと思ったんだ」
ハルに信頼されててありがたいような、もし駄目だったらどうしたのか聞いてみたいような複雑な気持ちだ。ひとまず宿が確保できたのは一安心かな。
真ん中には大きな噴水があり、そこかしこにある花壇には色とりどりの花が植えられている。広場の外周には所々に木が立っていて、その下にはベンチも設置されていた。暑い日でも木陰でゆっくりできそうな良い配置だ。
いくつかの屋台も並んでいるため、人々は思い思いに軽食や夕食を楽しんでいるようだ。もう時刻も夕方だけど、衛兵さんが近くにいるから安全なのか、こども達もまだ走り回っている。
うん、広場と言うより、これは綺麗な公園だな。
最初に辿り着くのがこんな広場とは正直意外だったけど、鮮やかな夕日に照らされたこの公園は息をのむほど美しかった。
まあ綺麗だなと見惚れていたら、緊急事態の時にはここを拠点に入口を守るための広場だって教えられてしまったんだけどな。噴水は緊急時に水を使いやすいように作られていて、植えてある花は薬草なんだそうだ。それはできればもう数日くらいは知りたくなかったよ、ハル。
「まずは宿の確保、次にスラテール商会だな。明日はギルドか」
「先にお二人の用事を済ませてもらって大丈夫ですよ」
「いや、早く届けたいだろ、アキトは」
代弁ありがとうございます。20年も待っていたんだから、少しでも早く届けてあげたい。小さく頷くと、カルツさんも苦笑しながら受け入れてくれた。
「宿は、そうだな…カルツさん、黒鷹亭はどうです?」
「そうですね、黒鷹亭なら、安心ですね」
二人の意見交換によって、あっさりと宿が決定。俺は案内されるままに黒鷹亭に辿り着いた。建物のドアの横には、鳥の模様が掘りこまれた木の看板がぶら下がっている。
受付のカウンターに座っていたのは、さっきの門番さんが霞むぐらいに屈強なおじさんだった。ドアの開いた音にこちらを見た目は、驚くほどに鋭い。本当にここが二人のおすすめなのか疑いたくなるぐらいには、怖かった。
「なんだ、坊主どうした?宿か飯か?」
おじさんは見た目に反して優しく話しかけてくれた。坊主って呼び方はちょっと嫌だけど、この人の体のでかさなら、俺なんてひよっこに見えるだろうから諦めよう。
「宿をお願いします」
「おう、何日だ?」
「アキト、連泊の方が安いから、とりあえず10日って言って」
日にちの相談するの忘れてたって気づく前に、ハルからのフォローが入った。
「とりあえず10日」
「長いな、何しに来たんだ?」
「冒険者になりたくて来たって」
「冒険者になりたくて来たんです」
おじさんは俺を上から下まで見てから、そうかとつぶやいた。
「無事にここまで来れて良かったな、坊主」
「?ありがとうございます?」
「俺はレーブンだ、困った時は何でも聞いてくれ」
「俺はアキトです。お世話になります」
なんだか冒険者になりたいって言ってから一気に優しくなった気がする。部屋を確保してくれた上に、本当は先払いだけど後払いで良いって言ってくれたし。ハルとカルツさんは驚いた様子も無いから、こういう人だって分かった上でここを勧めたんだろう。
案内してもらった部屋は窓が一つに真っ白なカーテン、簡素な木の机と椅子、ベッドが並んでいた。お風呂は無いけど、浄化が使えるようになった俺に死角は無い。
一泊は4500グルだけど、10日だったら1日3000グル。朝食は無料で、夕食は欲しい時だけ500グルでつけてくれるんだって。
「出る時は受付で鍵を預かるからな。今日は飯はいるか?」
「今日はいらないです」
商会でどのくらい時間がかかるか分からないし、何かを買ってきて食べれば良いかと考えながら答えた。
「俺が部屋を出たらすぐに鍵を閉めろよ。ここは客層も悪くはないが、用心に越したことは無い」
忠告に素直に頷くと、厳つい顔だが優しいレーブンさんは満足そうに部屋から出て行った。言われた通りに鍵を閉めると、さっきまで聞こえていた外の騒めきが聞こえなくなった。え、なんで。
「びっくりした顔ですね、領都の宿ではかなり普及してきた魔道具ですよ」
「魔道具…ですか?」
カルツさんが教えてくれたのは、宿の鍵に仕込まれているという魔道具だった。鍵をかけるだけで、簡易な防音結界が発動するらしい。早朝深夜に出入りする人の気配や声を、部屋に鍵さえかけていれば感じずに済むってすごいよな。
「つまり、ここなら俺たちと話していてもバレないってことだ」
「それは安心」
口では安心と言ってみたけど、今日商会にいったらカルツさんはいなくなっちゃうし、明日リスリーロを届けたらハルもいなくなっちゃうかもしれない。つい考えてしまうと寂しくなってくる。俺はごまかすように二人にレーブンさんの事を聞いてみた。
自身の経験から、彼は田舎から出てきて冒険者を志す若者に弱いんだって。
ああ見えて面倒見が良くて、初心者に必要な事も聞けば教えてくれる。何より本人が銀級冒険者だった事もあって、今でも強い。まああの見た目だもんな、弱いわけが無いと思う。だから、黒鷹亭に泊まっていると言うと、変な奴に絡まれたりしなくなるっていう利点もあるそうだ。
そんな人気の宿なのに、空室があるのが不思議だったんだけど、どうやらレーブンさんにはその人の本質が見えるスキルがあるらしい。危険と判断した人は相手が貴族だろうと豪商だろうと宿泊を拒否するんだって。
「アキトなら大丈夫だと思ったんだ」
ハルに信頼されててありがたいような、もし駄目だったらどうしたのか聞いてみたいような複雑な気持ちだ。ひとまず宿が確保できたのは一安心かな。
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