生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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17.専用ラジオと領都到着

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 同行者が増えるのは予想外だったけど、これがかなり楽しかった。俺は返事もリアクションもできないけど、ハルとカルツさんの会話から色んなことを知ることができるんだ。

 二人とも知識が豊富で話題もコロコロと変わっていくんだけど、ハルの優しい声とカルツさんの穏やかな声で話してると、不思議と聞き入ってしまう。おしゃべりの上手なラジオを聞いてるみたいな感じかな。

「アキトの世界には魔法は存在しなかったそうです」
「そうなんですか?じゃあすこしは知っておいた方が良いですね」

 魔法には攻撃魔法と防御魔法、補助魔法がある。攻撃、防御に特化したもの以外は全て補助魔法の分野なんだって。つまり擬態も鑑定も補助魔法ってことだ。

 攻撃も防御もきちんと本を使って学んだり、ギルドで講習を受けたりして覚えた方が暴走しないって言ってたから、俺もそうした方が安心だよな。

 補助魔法はそうそう暴走することはなくて、発動するかしないかぐらいなんだって。魔力さえ認識できていたら、使えるようになる可能性もあるからと、カルツさんおすすめの補助魔法を話してくれた。

 旅する時に一番重宝したのは、浄化魔法だそうだ。体を洗うことができない時にも魔法1つですっきりできるし、汚れた服や皿も綺麗にできる。

 それ使えたら、すっごい便利なやつだ。ハルがコツを聞いてくれたんだけど、それぞれの浄化魔法の結果を、きちんと分けて想像する事が大事なんだって。全部綺麗になれではなかなか発動しないらしい。

 つまり風呂を想像すれば体が、洗濯機を想像したら服が、食洗器を想像したら皿が綺麗になるって事かな。

 じゃあ、俺にいま必要なのは歯ブラシと歯磨き粉だなぁなんて考えていたら、体の中をめぐる魔力が指先から出ていくのを感じた。その瞬間、口の中がやけにさっぱりした。ミントの香りまでする気がするんだけど、今のってもしかしてもしかするのか。

 ちらりとハルに目線をうつすと、ハルはじっと俺を見つめて頷いた。

「アキト、今魔力が動いたね」
「ハルさんは魔力まで感知できるんですね」
「ええ、まあ。一人で魔法が使えたんだね、アキト。浄化魔法習得おめでとう」
「おめでとうございます」

 嬉しそうにお祝いして二人がかりで誉めてくれたんだけど、人目がありすぎて返事できないのがつらかった。

 あと、俺が一番覚えておこうと思ったのは、二人の好物の話だ。

 カルツさんは領都なら、南区にあるアジーの串焼き屋と、北区にあるレストランポリッチェのシチューがおすすめだそうだ。

 ハルは領都なら白狼亭のステーキ一択だって。

 二人とも楽し気に説明してくれるんだけど、串焼きの炭火の風味が、シチューの具が、肉汁あふれるステーキがって、説明だけでもすっごく美味しそうなんだよ。聞いてるだけで、お腹が空いて仕方がない。よし、絶対に3軒とも食べに行くぞと決意と共に店名を覚えた。

 話上手な二人の声をラジオ感覚で聞きながら歩き続けると、夕暮れ時には無事に領都に辿り着いた。



 領都ってどんなところだろうとこっそり期待していた俺は、正直に言えばちょっとがっかりしてしまった。

 トライプールの街の中に入れば高低差があるらしいんだけど、入口のあたりからは遠くに城っぽい尖塔がすこし見えるくらいで、基本的には壁しか見えない。領都トライプールは、ぐるりと石造りの城壁に覆われているとは聞いていたけど、まさかここまで大きい壁とは思ってもみなかったよ。中に入るまでは、観光気分はお預けみたいだ。

 更に増えてきた人の流れに乗って行けば、城壁にぽかりと開いた大門が見えてきた。

 入口の大門近くには、金属の鎧を来た屈強な男性が数人立っている。手には槍を持っていて、威圧感がすごい。ここに並んでいるのも衛兵さんなんだって。衛兵は街を巡回して市民を守ったり、大門を守る。その一方で、騎士は要所を警備しながら国を守るんだって。

 事前に聞いていた通り、領都に入るのにチェックは厳しくないみたいだ。

 流れに乗ってそのまま門を通るだけで、名前の確認も身分確認も無しだった。ただ、挙動不審な人は別室に連れて行かれる事もあると聞いていたのでちょっと心配していたが、途中からはぴしっと姿勢を正して立っている衛兵の人に見惚れてしまった。

 見つめすぎたのか目があってしまった衛兵さんからは、爽やかな笑顔を頂いてしまったので、俺もにっこり笑い返しておいた。

「あんな憧れを含んだ顔で見られたら、笑顔にもなりますよね」
「アキトは無自覚に愛想をふりまくからな」

 二人が何か言ってるけど、そんな顔で見てないと思うんだけどな。

 無事に何事もなく通れたんだから俺は気にしないぞ。
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