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15.拾得物の扱い

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 おじさんは我に返ると、穏やかに話し出した。

「失礼しました。20年もここで待ち続けていた、見えて話せる人がいることに驚いてしまって…私の名前はカルツといいます」
「アキトです」
「ハルです」
「その、届けてほしいのは私の遺品なんです」
「遺品というと具体的には何ですか?」

 ハルはカルツさんをまっすぐにみつめて尋ねた。

「……魔道収納袋…です」

 すごく言い難そうに告げてくれたけど、まずその物が何か分かりません。

「ハル、それって何?」
「時間経過の無い、たくさんのものが入る魔道具の一種…だな」

 それっていわゆるマジックバッグか。ゲームとかではよくある、たくさんのアイテムを軽々運べるやつ。小説なんかだと、身軽に旅ができる便利アイテム認定されてるよな。そんな便利なものが存在してる世界なんだ、ここ。

「待ってください、魔道収納袋を知らないんですか?」

 魔道収納袋は一般常識レベルの知識なのか。怪訝そうなおじさんに、ハルは無表情のままちらりとこっちを見た。あの表情はかなり焦ってるんだろうな。何と言えばごまかせるか、すごく考えてくれてるのが分かる。

「ああ、俺、異世界人ですから」
「アキト!良いのか?」
「霊だったら俺以外の人には話せないし、利用されようが無いから良いんじゃない?」
「そうですか。異世界から来たんですか…それは大変でしたね」

 話を聞くなりそう言ってくれるカルツさんは、やっぱり悪い人じゃないと思うし。

「まあ大変でしたけど、ハルっていう頼れる仲間も出来ましたし」

 正直、ハルがいなかったらあの森からさえ出れた気はしないんだけど。

「そうですか、それは良かった」

 安心したと言いたげなカルツさんと笑い合う。

「それで、その魔道収納袋を、どこの誰に届けたいんですか?」
「領都トライプールに住んでいる私の家族に」

 領都に住む家族に遺品を届けたい。きっとそれがこの人の心残りなんだろう。旅装って事は、多分旅の途中で亡くなったんだな。これはきっちり届けてあげたい。

「その…とても言い難いんですが、交渉しても良いでしょうか?」

 いきなり交渉って何の話だろうと不思議に思ったが、当然の事だと頷いているハルの様子を見て開きかけた口を閉じる。

「異世界の方ならご存じないかと思いますが、魔道収納袋はかなりの高値で取引されるものですし、これは中身も入った状態です」

 だから何?と首を傾げれば、頼れるハルの助言が来た。

「落とし物は、基本的に拾った人のものになるんだ」
「は?……なんだよその拾得物10割ルール!」
「しゅ?る?アキト、また異世界語が出てるよ」
「あ、ごめん」

 拾得物もルールも駄目か。ルールとか普通に口から出る単語だもんな、気を付けよう。

「それさ…盗難された時は?拾ったものと違いが分からないだろ?」
「そこは鑑定魔法で分かるよ」
「へーそうなんだ」

 鑑定魔法さん、便利ー。

 ただ鑑定魔法は結構な魔力を使うから、普通の人なら1日に数回使える程度。冒険者は戦闘時に必要な魔力を残しておくからそもそもあまり使わないんだって。

 ちなみに衛兵さんのところにはお抱えの鑑定魔術師が複数いるから、犯罪関係の時は優先的に鑑定してもらえるんだって。

「でも落とし物って、落とされてすぐに拾ったらどうなるの?」
「失くしてから1年以内なら衛兵が間に立って交渉してくれたりもするな」

 だいたいは落とし物の1割程度のお金で解決するんだって。それぐらいなら、まあ分からなくも無い制度だ。

「ご理解頂けたようなら、続けますね」

 ハルが俺に詳しい説明をしてくれている間、カルツさんはただ静かに待ってくれていた。説明を遮って話しださないあたりにカルツさんの性格が出てるな。

「つまり私にこの遺品の権利はありません。ですので、この遺品を届けて欲しいのは、ただの私のわがままなんです」

 頷いているハルの様子からして、この世界ではそういう認識なんだな。

「家族に届けるのは魔道収納袋か中身、どちらかだけで良いんです。何とか頼めないでしょうか?」
「いや、まるっと全部届けますよ?」
「難しいのは分かっていますが、私は家族の…今なんと?」
「まるっと全部届けます」

 カルツさんはまたしてもフリーズしてしまった。何だかよく固まる人だよな。どうしようとハルを見れば、俺がそう言うのを分かってたみたいな顔をしていた。

 何だか恥ずかしくなったので、笑ってごまかしておいた。
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