生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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14.お昼ごはんは湖で

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 ハルと話しながらもひたすら歩き続け、俺たちはついに領都への街道に辿り着いた。

 さすが領都への道だけあって、途端に人が増えてくる。冒険者だと一目で分かる物々しい装備の集団、数人で連れだって歩いている旅人っぽい集団、商人らしき荷物を背負った人達に、前方には数台の馬車まで見えている。

「左の道が領都への道だよ。ここからは一方通行の会話だね」

 周囲をちらりと見渡してから、ハルに頷きを返す。

「この街道にはさすがに盗賊も出ないから、安心して良いよ」

 一人で歩いている人もいるみたいだし、危険な道ではないんだろう。衛兵が巡回してるとか言ってたもんな。ハルの盗賊村の話を聞いてから、無意識に力が入っていたみたいだ。ふうと肩の力を抜くと、後ろの方から馬に乗った皮鎧の二人組が追い抜いていった。

「あれが衛兵だよ」

 おお、お仕事お疲れ様です。おかげで安心して歩けます。心の中で感謝の言葉をつぶやきながら、俺は流れに乗って歩き出した。



「かなり頑張ったね、そろそろお昼にしようか?」

 うっかりコクコクと頷いてしまった俺に、ハルは苦笑を浮かべる。誰も見てないのは確認してから頷いたから大丈夫だって。

 ハルに案内されたのは、街道からすこし入った所にある湖の近くだった。学校のプール2こ分ぐらいの湖の周りには、ちらほらと人の姿がある。声までは聞こえないくらいの絶妙な距離感だ。

「お疲れ様」
「ハルもお疲れー案内ありがとう」

 俺は疲れないんだけどとハルには苦笑されたけど、お疲れくらい言わせてよ。どうしても嫌なら止めるけどと尋ねてみたけど、どうやら嫌なわけじゃないらしい。ただただ照れくさいだけなんだって。照れくさいだけならならこれからも遠慮なく言わせてもらおう。

 湖が見える位置の草原に腰を下ろして取り出したのは、バラーブ村で受け取った食料だ。何が入ってるのかとワクワクしながらのぞいてみれば、あの小さ目パンにカラフル野菜とチーズ、お肉まで挟まっている贅沢サンドだ。

「これは…本当に気に入られたな、アキト」
「ん?何が?」
「普通なら村で譲ってもらう食料は干し肉とパン、おまけでチーズくらいのものだ」
「え、ハルもそうだったの?」
「いや、バラーブ村では豪華だったな」

 豪華だったなら、ハルもばっちり気に入られてるじゃないか。そんな軽口を叩きながら、特製サンドにかぶりつく。塩味の聞いた薄いお肉と、カラフルな野菜のバランスが最高だった。ハルいわくこれは干し肉を薄く切ったものらしい。干し肉って食べ方次第で美味しいものなんだな。たくさん歩いたからか、しょっぱい味がすごく美味しく感じる。

 ハルは何が楽しいのか、俺が食べてる所をじっと見つめていた。いなくならないって事は本当につらくないんだろうな。

 満足するまで食べた俺は、ごちそうさまでしたと手を合わせてから、ごろりとその場に転がってみた。行儀は悪いが、草原で寝転がる誘惑に勝てなかった。

「ゆっくりすると良い。魔物や人が近づいたら起こそう」

 ハルは怒らないどころか、優しくそう言ってくれたので、そのまま転がって食休みだ。

「聞いてください」

 ふと聞こえてきた声に、目を開いた。声をかけられているのは近くにいた若い夫婦だろう。これからの旅の予定を楽し気に話し合う二人は、必死な声に気づかない。

「私の話を聞いてください、お願いします」

 二人はそのまま何事もなかったように立ちあがると歩いていってしまった。

「また駄目でしたか」

 ふと気づくと昼食時を抜けたのか、湖の近くにはハルと俺しかいなくなっていた。中年の男はハルに気づくと、ふらふらと近づいてきた。俺をかばうように前に立ったハルの後ろから、男の影を見ると、やはりそこに影はなかった。

「あなたは私と同じ存在ですね」
「ああ」

 そう、不思議なんだけど、なぜか霊は霊を区別できるんだよな。影とか見なくても分かるらしいよ。ちょっとその能力は羨ましい。

「どうしても届けてほしいものがあるんですが、だれも私に気づいてくれないんです」

 切なげに語る男の目は、綺麗に澄んでいた。この目なら大丈夫だ。

「ハル、良いよ。大丈夫だから」
「アキト…」
「こんにちは。俺はアキト、届けてほしいものって何ですか?」
「………は?」

 上品な服を着たおじさんは、口を開けたまま固まってしまった。必死な声だったから、危険なものじゃなければ届けてあげたいと思ったんだけど。

「あのー」
「アキト、君の存在は俺たちにとって衝撃的なんだ、しばらく待ってやってくれ」

 ああ、ハルもかなりびっくりしてたもんな。

「待ってください、話…話ができてる?」
「姿も見えてますよ」

 再び固まってしまったおじさんが復活するのを待ってから、二人で話を聞くことにした。
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