生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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11.お手伝いと美味しい朝食

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 早朝に目を覚ますと、室内にハルの姿は無かった。

 窓から外をのぞいてみれば、村人たちはもう動き出している。いそいそと外に出ていくと、数人の男性の中にアックスさんの姿があった。

「おはようございます」
「ああ、おはよう、アキト」
「おはよう、あんたが旅人さんか」

 ブラン爺さんとアックスさんの人柄を見てたから心配はしてなかったけど、村人達も穏やかで温かく迎え入れてくれた。

 木から彫りだした器に汲んでくれた水をもらって、お礼を言ってから口をつける。足を引っ張るかもしれないけど何か手伝いたいと申し出ると、村人たちは思った以上に喜んでくれた。

「あ、あんたがアキトか?」

 呼びかけに振り向いてみると、そこには背の高い青年が立っていた。俺より20センチは大きいだろう青年は、がっしりした体型にきりりとした眉の美丈夫だ。なにより驚いたのは深い海のような青い色をしたその髪だ。染めてなくてこの色なんだろうか。みるからに異世界の人って感じだ。

「うん、そうだけど」
「俺、イワン!アキトにお礼が言いたくてさ」

 俺の手を両手でぎゅっと握りしめて、イワンは続ける。

「お礼って何の?」
「ジウプの果実の礼だよ!ミウナって俺の弟なんだ」
「ああ、妊娠してるんだっけ」

 あれ、今…弟って言った?ああ、弟のところの嫁さんって意味なのかな。ひっかかりを感じつつも聞き返せば、イワンはつらそうに眉間にしわを寄せた。

「最近はかなりしんどそうだったから、次に領都に行く時にはギルドに依頼しに行こうかと思ってたんだ」

 隣にいたアックスさんの補足によると、領都には定期的にミルクやチーズ、卵を届けているらしい。

「しかも支払い前なのに、うちの村を信用して持たせてくれたんだろ?おかげでミウナも今日は起き上がれたんだ、ありがとうな」
「お役に立てて良かったよ」

 この言い方だと、やっぱり弟さん本人っぽいよな。気にはなったけど、こんな常識レベルだろう事を聞いたら異世界人バレに一直線だろう。覚えてたら、あとでハルに聞こうかな。

 結局、俺の担当は素人でもできるウカの餌やりと、レソールのたまごの回収だった。年齢的にも近いイワンと組にしてくれたので、あれこれ教わりながらの作業は意外と楽しかった。

 ウカは色が鮮やかな緑色なことをのぞけば、俺の知ってる牛にそっくりだった。穏やかな性格だけど、気に食わない奴には蹴りを入れるって聞いたから、最初は恐々と近づいてみた。

「こんにちは」

 思わず声を掛けると、ウカは首を傾げながら真っ黒な瞳でじっと見つめてくる。体はでかいけど、優しい目をしてるんだな。

「うわぁ…綺麗な目」

 思わず見つめあってしまったら、イワンには思いっきり笑われた。嫌われてたらそんなに目を見ないって言い切ってもらったから、その後は蹴られる心配もせずにのびのびと餌運びを手伝えた。

 驚きすぎて固まってしまったのは、レソールの小屋に行った時だった。

 見た目は普通の鶏そっくりなんだ。でも、大きさが50センチ程もある。とにかくでかい。色に慣れれば大丈夫だったウカと違って、大きさ違いは逆に違和感がすごかった。

 体が大きなレソールはたまごも大きく、両手でやっと持てるぐらいのサイズだった。レソールは有精卵はすぐに温めるから、それ以外は好きに持っていけって感じで、俺の事もちらっと見て興味を無くした感じだった。回収中に攻撃されたりするのかと思ってたから、完全無視の方がありがたい。籠に入れたたまごはすぐにシーニャさんに回収されていった。

 全ての作業が終わると、手伝いのお礼にと朝食に誘ってもらった。せっかくなら外で食べるかと、わざわざ草原に敷いてくれた敷き布にみんなで並んで座る。

 搾りたてのウカの乳と、具だくさんのスープ、取れたての卵で作ったふわふわのオムレツ、あの美味しかったパン2こと朝からかなり豪華なメニューだ。食べきれるかだけが心配だったけど、一働き後に食べる鮮度抜群の朝食は最高に美味しくて、余裕で完食しました。ごちそうさまでした。

「なあ、アキトは領都に行っちゃうんだよな」

 使った木皿を運んでいると、隣を歩いていたイワンが尋ねてくる。

「うん、ギルドに用があってね」

 まだ冒険者登録してないから、冒険者を名乗って良いのか分からないけど、冒険者ギルドに用があるのは本当だ。リスリーロの納品をしなきゃいけないし。

「そっか…あ、領都に納品に行った時に、また会えるかもだよな!」
「あ、そうだね!俺こっちには来たばっかりだから、知り合いが増えるの嬉しいよ」
「知り合い…」
「どうかした?」
「い、いや、別に」

 なぜか肩を落としたイワンの向こうから、アックスさんが声をかけてくる。

「またこの村にも立ち寄ってくれよ」
「ぜひっ!」
「そうそう、もう買い取りの用意はできてたから、集会所まで持っていくな」
「あ、ありがとうございます」

 ハルを置いて出てきてから、かなり時間が経ってる。心配してるかな。

「俺も荷物整理に戻ります」
「おう、ありがとな」
「こちらこそ、美味しいごはんありがとうございました。作ってくれた皆さんにもお礼言っておいてください」

 慌てて集会所に戻ると、ハルは集会所の外のベンチの所に立っていた。もしこっちを見ている人がいても、俺の背中しか見えないだろう。ちらりと視線を走らせてから口を開く。

「おはよ、ハル。何も言わずに出ていってごめんな」
「おはよう、気にしなくて大丈夫だよ」
「手伝いしてきた」
「知ってる。ずいぶん楽しそうだったね」
「見てたのか?うん、楽しかった」

 集会所の中に入って荷物をまとめながら、ハルに楽しかった報告をいっぱいしてしまった。ちょっとはしゃぎすぎかなとちらっとよぎったけど、ハルは嫌がるでもなく笑顔で聞いてくれるからつい話しすぎるんだよな。

「あ、そういえばさ。弟なのに妊娠中ってどういう意味だ?」
「は?」
「あ、珍しい顔」

 真顔でこっちを見たハルに、すこしひるんでしまう。美形の無表情顔、正直怖い。綺麗すぎて怖い。話を続けようとしたら、外から声が聞こえてくる。

「アキトー来たぞー」
「ごめん、話は後で」
「分かった」

 それにしてもあの表情は何だったんだろう。ハルの珍しい反応を気にしながら、俺はベンチへと急いだ。
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