4 / 1,179
3.第一異世界人発見!
しおりを挟む
歩けば歩く程、ここは異世界だという実感が湧いてくる。
生き物の姿はあの鬼ネズミ(仮)から見てはいないが、聞いた事もない鳥の鳴き声が聞こえてくるし、見渡す限り花や木の実、果物、全てが見た事が無いものばかりだ。
しかもそのどれもが、今までの常識からしてなかなか受け入れ難い色をしている。
「なんか毒のありそうな色ばっかりなんだよなぁ…」
最初に見かけたのは蛍光ピンクに紫と黒のマーブルだった。それから澄み渡った空の色、赤と青のグラデーション、赤みがかった黒に、赤に白の水玉模様、淡い紫や何ならうっすら光っているものまであった。
これだけ見た目から違っていると、食べられる物なのか食べられない物なのかすら判別できない。そもそも、こっちのお金も無ければ身分証も無いんだけど、どうにかなるのかな。一瞬疑問がよぎったが、あえて考えるのをやめた。どうせなるようにしかならないんだし、うだうだ考えても無駄だ。
ひたすらに足を進めていけば、20分程も歩いたところでうっすらと水の音が聞こえてきた。思わず安堵の息が漏れた。
音を頼りに歩いていけば、澄み切った水の流れる小さめの川に辿り着いた。
あんなにカラフルなものばかりの森だったけど、水はちゃんと透明だった。さすがに蛍光ブルーとか黒い水だったら違和感ありすぎて飲めないと思う。
ありがとう。透明でいてくれてありがとう、水。
心の底から透明な水に感謝していると、川の向こうにある大きな岩の近くに、誰かが立っている事に気づいた。木の陰に隠れてこっそりと覗いてみれば、金髪の身ぎれいな恰好をした男性だった。この見た目で盗賊ってことは無いだろう。
第一異世界人発見か!
わくわくと近づいていくが、向こうはまだこちらに気づいてはいない。近くにある淡い水色の百合に似た花を、じっと見つめているようだった。
「こんにちは」
何も考えずに声をかけてから、言葉が通じなかったらどうしようとすこし焦った。よし、通じなかったら身振り手振りで頑張ろう。
覚悟を決めている間に振り返った男は、まばゆい金髪に紫の瞳だ。俺とおそらくは同世代ぐらい。ほりが深く整った鼻筋は、外国の映画俳優のようだ。10人に聞いたら10人全員がイケメンと認めるだろう、その美形っぷりに少し怯んだ。だってこの男の人、その整った顔で無反応かつ無表情なんだぞ。それは怯むだろう。
「あのー」
それでも逃がしてなるものかとさらに声をかければ、男は驚いたようにゆっくりと瞬きをしてからにっこりと笑ってくれた。さっきまでの冷たそうな雰囲気が消えて、一気に親しみやすい雰囲気に変わる。
「ああ、こんにちは。こんなとこに人がいるなんて珍しい」
「言葉通じた!」
助かった!言葉はきちんと通じるんだ。第一関門を突破した気分で思わず口にすれば、男は律儀に答えてくれる。
「うん、通じてるね」
「あ、すみません、そのいくつか質問しても良いですか?」
「どうぞ」
「あの、ここはどこでしょう?」
変な質問をするなって怒り出さないでくれたら良いんだけど。俺がそう聞かれたら、まずは酔っ払いか何かの罰ゲームかを疑うと思う。まあ迷子の幽霊にはよく聞かれるから、俺的には慣れた質問なんだけど。自分がしたのは初めてだ。
「ここはマールクロア王国にあるナルクアの森だよ」
こちらの心配に反して、男は穏やかな声で答えてくれた。
「俺からもいくつか質問して良いかな?」
「あ、はい」
思わず反射的に肯定してしまったけど、俺に答えられる事なんてそんなに無い。
「君はどこから来たの?ここはナルクアの森の中でもかなり深部だし、一人でくるような場所じゃないけど」
「えーと」
正直に話して良いものかと躊躇っていると、男は楽しそうに笑いながら続けた。
「それに…俺が見えてしかも話せるなんて、普通じゃない、でしょ?」
その言葉に思わずバッと男の足元を見れば、たしかにそこに影は無かった。見慣れない場所で初めて人を見つけた安心感で、いつもなら癖になっている確認作業を忘れていたらしい。
「第一異世界人じゃなくて第一異世界幽霊だった…」
「その第一なんとかはわからないけど、異世界?君は異世界から来たのか?」
長年の経験からして、悪意のある霊は目が違う。見た目はどれだけ取り繕っても、よどんだ目や濁った目をしているんだ。こんなに透き通った綺麗な目をして、まっすぐ見返してくれる人なら大丈夫だろう。人でも幽霊でも、情報をくれるなら一緒だ。
「あ、はい、たぶんそうです」
「じゃあ詳しく話そうか」
手招きに応じて近くに転がっていた石に座ると、俺の前に立った男は話し始めた。
生き物の姿はあの鬼ネズミ(仮)から見てはいないが、聞いた事もない鳥の鳴き声が聞こえてくるし、見渡す限り花や木の実、果物、全てが見た事が無いものばかりだ。
しかもそのどれもが、今までの常識からしてなかなか受け入れ難い色をしている。
「なんか毒のありそうな色ばっかりなんだよなぁ…」
最初に見かけたのは蛍光ピンクに紫と黒のマーブルだった。それから澄み渡った空の色、赤と青のグラデーション、赤みがかった黒に、赤に白の水玉模様、淡い紫や何ならうっすら光っているものまであった。
これだけ見た目から違っていると、食べられる物なのか食べられない物なのかすら判別できない。そもそも、こっちのお金も無ければ身分証も無いんだけど、どうにかなるのかな。一瞬疑問がよぎったが、あえて考えるのをやめた。どうせなるようにしかならないんだし、うだうだ考えても無駄だ。
ひたすらに足を進めていけば、20分程も歩いたところでうっすらと水の音が聞こえてきた。思わず安堵の息が漏れた。
音を頼りに歩いていけば、澄み切った水の流れる小さめの川に辿り着いた。
あんなにカラフルなものばかりの森だったけど、水はちゃんと透明だった。さすがに蛍光ブルーとか黒い水だったら違和感ありすぎて飲めないと思う。
ありがとう。透明でいてくれてありがとう、水。
心の底から透明な水に感謝していると、川の向こうにある大きな岩の近くに、誰かが立っている事に気づいた。木の陰に隠れてこっそりと覗いてみれば、金髪の身ぎれいな恰好をした男性だった。この見た目で盗賊ってことは無いだろう。
第一異世界人発見か!
わくわくと近づいていくが、向こうはまだこちらに気づいてはいない。近くにある淡い水色の百合に似た花を、じっと見つめているようだった。
「こんにちは」
何も考えずに声をかけてから、言葉が通じなかったらどうしようとすこし焦った。よし、通じなかったら身振り手振りで頑張ろう。
覚悟を決めている間に振り返った男は、まばゆい金髪に紫の瞳だ。俺とおそらくは同世代ぐらい。ほりが深く整った鼻筋は、外国の映画俳優のようだ。10人に聞いたら10人全員がイケメンと認めるだろう、その美形っぷりに少し怯んだ。だってこの男の人、その整った顔で無反応かつ無表情なんだぞ。それは怯むだろう。
「あのー」
それでも逃がしてなるものかとさらに声をかければ、男は驚いたようにゆっくりと瞬きをしてからにっこりと笑ってくれた。さっきまでの冷たそうな雰囲気が消えて、一気に親しみやすい雰囲気に変わる。
「ああ、こんにちは。こんなとこに人がいるなんて珍しい」
「言葉通じた!」
助かった!言葉はきちんと通じるんだ。第一関門を突破した気分で思わず口にすれば、男は律儀に答えてくれる。
「うん、通じてるね」
「あ、すみません、そのいくつか質問しても良いですか?」
「どうぞ」
「あの、ここはどこでしょう?」
変な質問をするなって怒り出さないでくれたら良いんだけど。俺がそう聞かれたら、まずは酔っ払いか何かの罰ゲームかを疑うと思う。まあ迷子の幽霊にはよく聞かれるから、俺的には慣れた質問なんだけど。自分がしたのは初めてだ。
「ここはマールクロア王国にあるナルクアの森だよ」
こちらの心配に反して、男は穏やかな声で答えてくれた。
「俺からもいくつか質問して良いかな?」
「あ、はい」
思わず反射的に肯定してしまったけど、俺に答えられる事なんてそんなに無い。
「君はどこから来たの?ここはナルクアの森の中でもかなり深部だし、一人でくるような場所じゃないけど」
「えーと」
正直に話して良いものかと躊躇っていると、男は楽しそうに笑いながら続けた。
「それに…俺が見えてしかも話せるなんて、普通じゃない、でしょ?」
その言葉に思わずバッと男の足元を見れば、たしかにそこに影は無かった。見慣れない場所で初めて人を見つけた安心感で、いつもなら癖になっている確認作業を忘れていたらしい。
「第一異世界人じゃなくて第一異世界幽霊だった…」
「その第一なんとかはわからないけど、異世界?君は異世界から来たのか?」
長年の経験からして、悪意のある霊は目が違う。見た目はどれだけ取り繕っても、よどんだ目や濁った目をしているんだ。こんなに透き通った綺麗な目をして、まっすぐ見返してくれる人なら大丈夫だろう。人でも幽霊でも、情報をくれるなら一緒だ。
「あ、はい、たぶんそうです」
「じゃあ詳しく話そうか」
手招きに応じて近くに転がっていた石に座ると、俺の前に立った男は話し始めた。
509
お気に入りに追加
4,204
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。
竜王陛下、番う相手、間違えてますよ
てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。
『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ
姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。
俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!? 王道ストーリー。竜王×凡人。
20230805 完結しましたので全て公開していきます。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる