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1.見えるモノ
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生まれつき、俺には普通なら見えないモノが見えた。
覚えてはいないが、最初に見えたのは赤ん坊の頃らしい。たまたま両親が近くにいなくて泣きわめいていた時、じいちゃんとばあちゃんの姿を見たんだって。
全力で泣きわめいていたのにいきなりご機嫌に笑い出したから、慌てて駆け付けてきた両親はすっごく驚いたらしい。
父親が同じ体質だったから、数か月前に亡くなった祖父母にあやされて喜んでいる俺の姿を見て、この子は見える子だってあっさり納得したらしい。
少し前に事故で亡くなった母の両親は、どうしても初孫の顔が見たくてそれだけが心残りだったみたいだ。だから心残りが達成されたその場で、後は頼むと父に言い残すと、すぐに成仏してしまったんだって。
そうそう、幽霊というとイメージされがちな透き通った半透明の幽霊は、実は今まで一度も見たことが無い。俺の目には、幽霊も人と同じように見える。しかも周りには聞こえないのに、俺にはしっかり声まで聞こえるんだ。だから小さい頃、慣れるまでは全く区別がつかなかった。
いわゆる幽霊には大まかに分けて3つのタイプがいる。
ひとつ、亡くなった時のままの状態でさまよっているモノ。
こっちは自然死ならともかく、事故や事件の場合はかなりのスプラッタだ。小さいうちに慣れておけとホラー映画を見せられまくったから、耐性はある方だけど。自分の姿の影響を考える事ができない程の強い思いや恨みを残しているか、霊感のある人を驚かせたいっていうサプライズ好きのお調子者が多いかな。
ふたつ、自分の年齢をいじった姿になるモノ。
他の人の姿にはなれないが、自分の年齢の操作はできるみたい。若いころの姿に変わっている奴がほとんどだけど、逆にロマンスグレーに憧れていたんだと、年配の姿に変化した大学生ぐらいの霊にも会ったことがある。確かに渋い爺様で格好良いなと誉めたら、その場で成仏されてしまったのには驚いた。
みっつ、亡くなった年齢の姿のままで、いつも通りの生活を送っているモノ。
学生やサラリーマン等の恰好をしている奴が多い。電車の中なんかでよく見かけるな。こいつらは特に周りに迷惑もかけないし、心残りさえ消えたらあっさりと消えていくタイプだ。
幼いころに困ったのは、特にスプラッタ以外のタイプ。
スプラッタは気持ち悪いとか怖いとか感情の問題だけだし、自分が我慢すれば良いだけだから、まあ大丈夫だったんだ。耐性は父に強制的につけられた後だったし。
区別が付かないと何が困るって、人目がある所で見えない存在に話しかけてしまうんだ。突然見えない存在と会話しだす人を想像してみて欲しい。絶対怖いだろ?距離を取りたくなるだろう?
人と幽霊をはっきりと見分ける方法も、もちろんある。生きた人との区別をつけるのに必要なのは、その人の影を見る事だ。いるように見えてはいても、実体がないから影も無い。
父にその裏技を教えられてからも、慣れるまでは大変だった。だけど、初対面でちらりと影を見る癖さえついてしまえば、あとは不意に話しかけられた時の返事が一拍遅れるぐらいの事だ。
ありがたいことに周りの友人達は、細かいことを気にしないおおらかな奴ばっかりだった。
もしかしたら、この体質の事を話しても大丈夫なんじゃないかと考えた事はあったけど、結局誰にも言えなかった。だから俺のこの体質を知っているのは、両親だけだ。
嫌な思いや怖い思いをした事もあるけど、落とし物を一緒に探し回ってくれた奴や、遅刻しそうなときに近道を教えてくれた奴、事故に遭いそうだった時に助けてくれた奴もいた。何なら霊にだって、友人と呼べる奴までできてしまった。
良い奴と悪い奴がいるのも、人間と一緒なんだよな。人間が幽霊になるんだから当然といえば当然か。
大学生にもなれば、この体質との付き合い方もだいぶこなれてきた。人前では普通に過ごして、人目が無いところでは幽霊の心残りを解決する手伝いなんかもした。
友人もそれなりにいるし、3ケ月程前からは念願のバイトも始めた。
大学近くにある昼は定食屋、夜は居酒屋のお店だ。気の良い老夫婦が営んでいて、まかないはボリュームもあってびっくりするぐらい美味しい。しかも男の一人暮らしを心配してか、暇な時には簡単に作れる家庭料理まで教えてくれる。
今のところ講義にも何とかついていけてるし、最高のバイト先にも恵まれて順調な生活だと思っていた。
まさかこんなことになるなんて、考えた事も無かったんだ。
急な冷え込みに震えていた冬のある日、俺は異世界に転移した。
覚えてはいないが、最初に見えたのは赤ん坊の頃らしい。たまたま両親が近くにいなくて泣きわめいていた時、じいちゃんとばあちゃんの姿を見たんだって。
全力で泣きわめいていたのにいきなりご機嫌に笑い出したから、慌てて駆け付けてきた両親はすっごく驚いたらしい。
父親が同じ体質だったから、数か月前に亡くなった祖父母にあやされて喜んでいる俺の姿を見て、この子は見える子だってあっさり納得したらしい。
少し前に事故で亡くなった母の両親は、どうしても初孫の顔が見たくてそれだけが心残りだったみたいだ。だから心残りが達成されたその場で、後は頼むと父に言い残すと、すぐに成仏してしまったんだって。
そうそう、幽霊というとイメージされがちな透き通った半透明の幽霊は、実は今まで一度も見たことが無い。俺の目には、幽霊も人と同じように見える。しかも周りには聞こえないのに、俺にはしっかり声まで聞こえるんだ。だから小さい頃、慣れるまでは全く区別がつかなかった。
いわゆる幽霊には大まかに分けて3つのタイプがいる。
ひとつ、亡くなった時のままの状態でさまよっているモノ。
こっちは自然死ならともかく、事故や事件の場合はかなりのスプラッタだ。小さいうちに慣れておけとホラー映画を見せられまくったから、耐性はある方だけど。自分の姿の影響を考える事ができない程の強い思いや恨みを残しているか、霊感のある人を驚かせたいっていうサプライズ好きのお調子者が多いかな。
ふたつ、自分の年齢をいじった姿になるモノ。
他の人の姿にはなれないが、自分の年齢の操作はできるみたい。若いころの姿に変わっている奴がほとんどだけど、逆にロマンスグレーに憧れていたんだと、年配の姿に変化した大学生ぐらいの霊にも会ったことがある。確かに渋い爺様で格好良いなと誉めたら、その場で成仏されてしまったのには驚いた。
みっつ、亡くなった年齢の姿のままで、いつも通りの生活を送っているモノ。
学生やサラリーマン等の恰好をしている奴が多い。電車の中なんかでよく見かけるな。こいつらは特に周りに迷惑もかけないし、心残りさえ消えたらあっさりと消えていくタイプだ。
幼いころに困ったのは、特にスプラッタ以外のタイプ。
スプラッタは気持ち悪いとか怖いとか感情の問題だけだし、自分が我慢すれば良いだけだから、まあ大丈夫だったんだ。耐性は父に強制的につけられた後だったし。
区別が付かないと何が困るって、人目がある所で見えない存在に話しかけてしまうんだ。突然見えない存在と会話しだす人を想像してみて欲しい。絶対怖いだろ?距離を取りたくなるだろう?
人と幽霊をはっきりと見分ける方法も、もちろんある。生きた人との区別をつけるのに必要なのは、その人の影を見る事だ。いるように見えてはいても、実体がないから影も無い。
父にその裏技を教えられてからも、慣れるまでは大変だった。だけど、初対面でちらりと影を見る癖さえついてしまえば、あとは不意に話しかけられた時の返事が一拍遅れるぐらいの事だ。
ありがたいことに周りの友人達は、細かいことを気にしないおおらかな奴ばっかりだった。
もしかしたら、この体質の事を話しても大丈夫なんじゃないかと考えた事はあったけど、結局誰にも言えなかった。だから俺のこの体質を知っているのは、両親だけだ。
嫌な思いや怖い思いをした事もあるけど、落とし物を一緒に探し回ってくれた奴や、遅刻しそうなときに近道を教えてくれた奴、事故に遭いそうだった時に助けてくれた奴もいた。何なら霊にだって、友人と呼べる奴までできてしまった。
良い奴と悪い奴がいるのも、人間と一緒なんだよな。人間が幽霊になるんだから当然といえば当然か。
大学生にもなれば、この体質との付き合い方もだいぶこなれてきた。人前では普通に過ごして、人目が無いところでは幽霊の心残りを解決する手伝いなんかもした。
友人もそれなりにいるし、3ケ月程前からは念願のバイトも始めた。
大学近くにある昼は定食屋、夜は居酒屋のお店だ。気の良い老夫婦が営んでいて、まかないはボリュームもあってびっくりするぐらい美味しい。しかも男の一人暮らしを心配してか、暇な時には簡単に作れる家庭料理まで教えてくれる。
今のところ講義にも何とかついていけてるし、最高のバイト先にも恵まれて順調な生活だと思っていた。
まさかこんなことになるなんて、考えた事も無かったんだ。
急な冷え込みに震えていた冬のある日、俺は異世界に転移した。
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