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【マシューside】騎士学校
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騎士学校は例外なく全ての生徒が寮生活を送るのが、騎士学校の規則だ。3年間の在学中はよほどの事が無い限り、実家に帰る事すらできない。リナティエラ嬢に会えないのはつらいが、騎士になるにはこの学校に入るのが一番手っ取り早い。
入学時、父は将軍の任についていた。周りからは将軍の息子として注目を浴びる。
やっかみや嫉妬にいやがらせもたくさんあったが、俺は授業以外はいつでもリナティエラ嬢への手紙の内容ばかり考えていた。
母と乳母から言われたのだ。2週間に1度程度なら仲の良い婚約者からの手紙は喜ばれると。あまり頻繁すぎても返事を出すのも大変だろうと言われたから、毎日でも送りたい手紙を必死で我慢していた。
リナティエラ嬢の返事も翌日にはすぐに返ってくる。寮監室の前で手紙を待つ俺の姿は、入学から3ケ月もした頃には騎士学校の名物になってしまった。
その大切な手紙を奪おうとしてきた先輩を、思わずその場で全力で叩きのめしてしまったこともあった。寮母さんが一部始終を見ていたので、大事にはならなかったが注意は受けてしまった。
「なあ、マシュー。噂になってるの知ってるか?」
寮の同室のレックスは、茶髪に緑の目の子爵家次男だ。大人しそうな見た目に反して、なんでもありの実戦形式で戦うのでなかなかに手ごわい。入学から数日経った頃、身分がどうこうと言い出さない俺に安心したと笑ってくれてからは、情報に疎い俺のためにたまにこうして噂話を教えてくれる。
「手紙待ちのマシューには溺愛している婚約者がいて、もしその子に手を出したら確実に消されるんだって」
手紙を奪おうとしただけでもあの仕返しだから、本物に手を出したら…なんて話らしい。
「で、本当のとこどうなの?」
「リナティエラ・クラーク嬢に手を出したら、俺が持つ全ての手段を使って確実に消す」
リナティエラ嬢に手を出したら。思わず漏れた俺の本音に、レックスは楽しそうに笑ってから、その噂広めてやるよと受けおってくれた。
騎士学校の中で密かにリナティエラ嬢の名前が広まってしまったのは申し訳ないが、これで騎士学校の奴らが手出しをする事はないだろう。
入学から一年を過ぎて、ついに俺が待ちわびていた実地授業が始まった。この授業では街の警備や、魔物の討伐を実際に経験する。街中に出るということは、リナティエラ嬢の姿が見られる事があるということだ。
初日は毎年恒例の騎士候補生が見れると、たくさんの人が見に来ていた。生徒の両親や、婚約者、騎士を目指すこども達はもちろん、街に住む人々の姿も多かった。事前に手紙で伝えていたリナティエラ嬢も、見物の人々の中にいてくれた。たくさんの人の中にいても、キラキラと太陽を反射する明るい金髪に一目で気づいた俺は思わず笑みを浮かべてしまって、周りの騎士候補生達に心から驚かれてしまった。
お前笑えたのかって失礼だな。リナティエラ嬢の前でなら、俺はいつでも笑顔だ。
例え言葉は交わせなくても、久々に姿が見れたのが本当に嬉しかった。
リナティエラ嬢は学校の行事などでやむを得ない時以外は必ず顔を出してくれたし、見学できない時には先に手紙で伝えてくれていた。
入学から二年が過ぎると、俺の身長はぐんぐん増し筋肉量も増えてきた。威圧感があって怖がらせたらどうしようと心配になった事もあったが、リナティエラ嬢はいつも笑顔で俺の姿を見に来てくれていたので考えるのは止めた。
俺に比べるとまだ小さいが、彼女も少しずつ身長が伸びているようだ。手紙には書かなかったが、スラリと伸びた背筋が美しいと思った。
長かった三年間は、過ぎてしまえばあっという間だった。
卒業前には、王国第一騎士団への所属が決まった。成績優秀者の上位10名だけが希望を出せる第一騎士団は、何と言っても勤務地が王都な事が決め手だった。
リナティエラ嬢がロンディーネ学園に入学した頃、俺は手紙の最後にさらりと明日二人でお茶にいきませんかというお誘いを書いてみた。
もう会うことを制限するような規則は無いのだから、会って入学のお祝いがしたかった。
翌日、寮の前まで迎えにいった俺は、リナティエラ嬢の姿に見惚れてしまった。
ごてごてした服が好まれる貴族の中ではかなり地味な部類に入るだろう、白の外出用のドレス姿で彼女は立っていた。本人が華やかな金髪にスラリとした長身だからこそ着こなすことができる、洗練された美しさだった。
俺に気づいた彼女はこちらを見つめて驚きに目を見張り、ついでふにゃりとあの時の変わらない笑顔で笑ったのだ。周りが騒がしかったような気もするが、俺にはリナティエラ嬢の姿しか見えていなかった。
「どうかしたの?リナ」
手紙で許可を求めた愛称呼びも、実際に声に出して呼ぶとなると緊張する。
「いえ、何も」
「そう?」
「はい、お迎えありがとうございます」
「行こうか」
差し出した手にのせられた手は華奢で小さく、たまらない気持ちになりながら、俺は必死で失敗しないように馬車までエスコートをした。
入学時、父は将軍の任についていた。周りからは将軍の息子として注目を浴びる。
やっかみや嫉妬にいやがらせもたくさんあったが、俺は授業以外はいつでもリナティエラ嬢への手紙の内容ばかり考えていた。
母と乳母から言われたのだ。2週間に1度程度なら仲の良い婚約者からの手紙は喜ばれると。あまり頻繁すぎても返事を出すのも大変だろうと言われたから、毎日でも送りたい手紙を必死で我慢していた。
リナティエラ嬢の返事も翌日にはすぐに返ってくる。寮監室の前で手紙を待つ俺の姿は、入学から3ケ月もした頃には騎士学校の名物になってしまった。
その大切な手紙を奪おうとしてきた先輩を、思わずその場で全力で叩きのめしてしまったこともあった。寮母さんが一部始終を見ていたので、大事にはならなかったが注意は受けてしまった。
「なあ、マシュー。噂になってるの知ってるか?」
寮の同室のレックスは、茶髪に緑の目の子爵家次男だ。大人しそうな見た目に反して、なんでもありの実戦形式で戦うのでなかなかに手ごわい。入学から数日経った頃、身分がどうこうと言い出さない俺に安心したと笑ってくれてからは、情報に疎い俺のためにたまにこうして噂話を教えてくれる。
「手紙待ちのマシューには溺愛している婚約者がいて、もしその子に手を出したら確実に消されるんだって」
手紙を奪おうとしただけでもあの仕返しだから、本物に手を出したら…なんて話らしい。
「で、本当のとこどうなの?」
「リナティエラ・クラーク嬢に手を出したら、俺が持つ全ての手段を使って確実に消す」
リナティエラ嬢に手を出したら。思わず漏れた俺の本音に、レックスは楽しそうに笑ってから、その噂広めてやるよと受けおってくれた。
騎士学校の中で密かにリナティエラ嬢の名前が広まってしまったのは申し訳ないが、これで騎士学校の奴らが手出しをする事はないだろう。
入学から一年を過ぎて、ついに俺が待ちわびていた実地授業が始まった。この授業では街の警備や、魔物の討伐を実際に経験する。街中に出るということは、リナティエラ嬢の姿が見られる事があるということだ。
初日は毎年恒例の騎士候補生が見れると、たくさんの人が見に来ていた。生徒の両親や、婚約者、騎士を目指すこども達はもちろん、街に住む人々の姿も多かった。事前に手紙で伝えていたリナティエラ嬢も、見物の人々の中にいてくれた。たくさんの人の中にいても、キラキラと太陽を反射する明るい金髪に一目で気づいた俺は思わず笑みを浮かべてしまって、周りの騎士候補生達に心から驚かれてしまった。
お前笑えたのかって失礼だな。リナティエラ嬢の前でなら、俺はいつでも笑顔だ。
例え言葉は交わせなくても、久々に姿が見れたのが本当に嬉しかった。
リナティエラ嬢は学校の行事などでやむを得ない時以外は必ず顔を出してくれたし、見学できない時には先に手紙で伝えてくれていた。
入学から二年が過ぎると、俺の身長はぐんぐん増し筋肉量も増えてきた。威圧感があって怖がらせたらどうしようと心配になった事もあったが、リナティエラ嬢はいつも笑顔で俺の姿を見に来てくれていたので考えるのは止めた。
俺に比べるとまだ小さいが、彼女も少しずつ身長が伸びているようだ。手紙には書かなかったが、スラリと伸びた背筋が美しいと思った。
長かった三年間は、過ぎてしまえばあっという間だった。
卒業前には、王国第一騎士団への所属が決まった。成績優秀者の上位10名だけが希望を出せる第一騎士団は、何と言っても勤務地が王都な事が決め手だった。
リナティエラ嬢がロンディーネ学園に入学した頃、俺は手紙の最後にさらりと明日二人でお茶にいきませんかというお誘いを書いてみた。
もう会うことを制限するような規則は無いのだから、会って入学のお祝いがしたかった。
翌日、寮の前まで迎えにいった俺は、リナティエラ嬢の姿に見惚れてしまった。
ごてごてした服が好まれる貴族の中ではかなり地味な部類に入るだろう、白の外出用のドレス姿で彼女は立っていた。本人が華やかな金髪にスラリとした長身だからこそ着こなすことができる、洗練された美しさだった。
俺に気づいた彼女はこちらを見つめて驚きに目を見張り、ついでふにゃりとあの時の変わらない笑顔で笑ったのだ。周りが騒がしかったような気もするが、俺にはリナティエラ嬢の姿しか見えていなかった。
「どうかしたの?リナ」
手紙で許可を求めた愛称呼びも、実際に声に出して呼ぶとなると緊張する。
「いえ、何も」
「そう?」
「はい、お迎えありがとうございます」
「行こうか」
差し出した手にのせられた手は華奢で小さく、たまらない気持ちになりながら、俺は必死で失敗しないように馬車までエスコートをした。
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