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任務の説明
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バルコニーからの景色は、さすが王宮の夜会場というべきでしょう。照明に照らされる計算されつくした華やかな庭は、ため息が出るほど綺麗でした。
「リナ、さっき説明はしたけど」
「はい」
「本当にただの任務だったんだ」
「分かってます」
マシュー様は、それからいろんなことを説明してくださいました。
今回の依頼は王家からのものだったこともあり、詳細を告げることはできなかったこと。
エミリーさんに魅了された人がなんと騎士団員にもいたため、騎士団員全員から魅了耐性のある者を探した結果、自分しかいなかったこと。
魅了されたふりをしろと言われていたが、私といる姿を一目でも見られれば、魅了が効いていない事がバレるからと父である将軍から接触を禁止されていたこと。
「一週間前にあの女が流した噂で、どれほど傷ついたかと思うと…」
寄せられた眉間のしわが、マシュー様の苦悩を物語っています。
「せめて手紙でもと思ったが、それも任務失敗の恐れがと上から禁止されていたんだ」
これがきっかけでリナに嫌われたらどうしてくれると騎士団本部で暴れてしまったなんて冗談までおっしゃっていました。
「私、エミリーさんと話している所も見かけました」
「そうか…」
「二人で腕を組んで歩いている所も」
「すまない」
「噂を聞いて、つらくて、確かに泣きました」
傷ついていませんと言うことは簡単です。けれど、マシュー様にどうしても伝えたいと思ってしまったのです。
「でも、それでもマシュー様のことを好きだなと思ったんです。もし今日婚約破棄されても、ずっとお慕いしていましたって伝えるつもりでした」
「ずっと?」
「初めてあったあの日からずっとお慕いしております」
どうしても伝えたかったのはこの言葉でした。
よく考えると、素直に言葉にして伝えたのは、これが初めてです。可愛いと言ってくれないと思っていたけれど、私だってマシュー様に格好良いとも好きだとも伝えていなかったことに気づいてしまったのです。
「ああ、君も、そうなのか?本当に?」
「君、も?」
「口下手で表情も無いこどもに一生懸命いろんなことを話してくれた君を、俺は好きになったんだ」
「マシュー様も?」
「つまらないとかもっと話せとか言わずに、僕のために必死で話題を探してくれた君をね」
マシュー様は微笑みながら私の頭をそっと撫でてくれました。
「諦めないでくれてありがとう」
「いえ」
「そろそろ戻らないと駄目かな」
「そうですね」
私も、今ならこの卒業パーティーを心から楽しめると思います。マシュー様はすっと跪くと、恭しく手を差し伸べてくれました。
「リナティエラ嬢、どうか踊って頂けませんか?」
正式な作法のお誘いに、すっと手を伸ばす。
「喜んで!」
婚約破棄される覚悟を決めていた筈なのに、こんなに幸せで良いんでしょうか。悩む私の手を引きながら、マシュー様はそっと耳元で囁きました。
「講師の任を受けた理由が、卒業パーティーで他の男と躍らせないためだと言ったら、軽蔑する?」
あまりに甘い言葉に頬を染めながら、私は満面の笑みで答えました。
「いいえ、とっても光栄ですわ!」
Fin
「リナ、さっき説明はしたけど」
「はい」
「本当にただの任務だったんだ」
「分かってます」
マシュー様は、それからいろんなことを説明してくださいました。
今回の依頼は王家からのものだったこともあり、詳細を告げることはできなかったこと。
エミリーさんに魅了された人がなんと騎士団員にもいたため、騎士団員全員から魅了耐性のある者を探した結果、自分しかいなかったこと。
魅了されたふりをしろと言われていたが、私といる姿を一目でも見られれば、魅了が効いていない事がバレるからと父である将軍から接触を禁止されていたこと。
「一週間前にあの女が流した噂で、どれほど傷ついたかと思うと…」
寄せられた眉間のしわが、マシュー様の苦悩を物語っています。
「せめて手紙でもと思ったが、それも任務失敗の恐れがと上から禁止されていたんだ」
これがきっかけでリナに嫌われたらどうしてくれると騎士団本部で暴れてしまったなんて冗談までおっしゃっていました。
「私、エミリーさんと話している所も見かけました」
「そうか…」
「二人で腕を組んで歩いている所も」
「すまない」
「噂を聞いて、つらくて、確かに泣きました」
傷ついていませんと言うことは簡単です。けれど、マシュー様にどうしても伝えたいと思ってしまったのです。
「でも、それでもマシュー様のことを好きだなと思ったんです。もし今日婚約破棄されても、ずっとお慕いしていましたって伝えるつもりでした」
「ずっと?」
「初めてあったあの日からずっとお慕いしております」
どうしても伝えたかったのはこの言葉でした。
よく考えると、素直に言葉にして伝えたのは、これが初めてです。可愛いと言ってくれないと思っていたけれど、私だってマシュー様に格好良いとも好きだとも伝えていなかったことに気づいてしまったのです。
「ああ、君も、そうなのか?本当に?」
「君、も?」
「口下手で表情も無いこどもに一生懸命いろんなことを話してくれた君を、俺は好きになったんだ」
「マシュー様も?」
「つまらないとかもっと話せとか言わずに、僕のために必死で話題を探してくれた君をね」
マシュー様は微笑みながら私の頭をそっと撫でてくれました。
「諦めないでくれてありがとう」
「いえ」
「そろそろ戻らないと駄目かな」
「そうですね」
私も、今ならこの卒業パーティーを心から楽しめると思います。マシュー様はすっと跪くと、恭しく手を差し伸べてくれました。
「リナティエラ嬢、どうか踊って頂けませんか?」
正式な作法のお誘いに、すっと手を伸ばす。
「喜んで!」
婚約破棄される覚悟を決めていた筈なのに、こんなに幸せで良いんでしょうか。悩む私の手を引きながら、マシュー様はそっと耳元で囁きました。
「講師の任を受けた理由が、卒業パーティーで他の男と躍らせないためだと言ったら、軽蔑する?」
あまりに甘い言葉に頬を染めながら、私は満面の笑みで答えました。
「いいえ、とっても光栄ですわ!」
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