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反論と真実
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「ちょ!ちょっと待ちなさいよ!」
「リナ、信じてくれてありがとう」
「何言ってんのよ!?今、ここで、この女は婚約破棄されて、国外追放になるのよ?そして私が伯爵夫人になるの」
マシュー様はさっと私を背中に隠すと、エミリーさんに向き合いました。
「まずひとつめ、この女よばわりをするな。リナは伯爵令嬢で、君は平民だ。身分をわきまえろ」
「はぁ?」
「ふたつめ、勝手に国外追放などと口にする権利はお前に無い。それが許されるのは国王陛下だけだし、陛下であっても貴族会議での承認がなくては不可能なことだ」
「で、でも」
「みっつめ、伯爵夫人になどなれるはずがないだろう。私はリナを愛しているからな」
「何?何なの、これ?」
「もうひとつ追加だ。事実と異なる噂を勝手に流した事、絶対に許しはしない」
理路整然と続けられた反論に、私は驚いてしまいました。内容にももちろん驚きましたが、マシュー様がこんなに長々と話すのは長い付き合いの私でも初めて聞いたからです。マシュー様は騎士団の制服のポケットから、一枚の書状を取り出しました。
「私、マシュー・ハワードは、王命によりエミリー嬢に近づいた。あくまでも第一騎士団10番隊の任務としてだ」
ヴァルティア王国民なら誰もが知っている、王の押印がなされた書状が高々と掲げられています。周りの皆さまも食い入るようにその書状を見つめています。
「あの…これが任務ですか?」
「ああ、エミリー嬢のスキルに疑いが掛けられていてな」
「スキル?」
「魅了スキルで商会での代金の踏み倒しや、貴族の令息をたらしこんで貢がせたりしていたようで、その調査を依頼された」
あっさりと暴露された秘密に、あたりは一時騒然となりました。ただ口説いて回っているだけでは無かったのですね。自分の婚約者が被害にあったと言っていた女生徒も、息を呑んで見守っています。
「そこで、魅了に耐性のある私が近づいた」
「で、でも私のことかわいいって言ったじゃない」
「ああ、かわいいのうみそだって意味なら言ったな」
あの時聞いてしまったやりとりを思い出す。かわいいのうみそって何ですか、マシュー様。つまり馬鹿だと言いたいんですか。
「き、君を逃がさないって」
「逃がすわけがないだろう、必ず捕らえるんだから」
言い切ったマシュー様がすっと手を挙げると、護衛の騎士様達がエミリーさんをぐるりと取り囲みます。
「ああ、やっと任務完了だ」
「リナティエラ嬢と会えないからって、このひと月怖くて怖くて」
「これで隊長の機嫌が良くなる!!!」
「めでたい!」
「こんなにうれしい任務完了は初めてかも!」
今にも踊りだしそうな程の笑顔で、隊員の皆さんは喋りながらもてきぱきとエミリーさんを捕縛していきます。
「お前ら…リナの前で何を余計な事を言ってるんだ」
「ひっ」
暗雲を背負ったマシュー様の袖を、思わずくいっと引っ張ってしまいました。
「あの、私は今の隊員さん達の言葉で、本当に任務だったんだって実感できて…その…う、うれしかったです」
「リナッ!!!」
またぎゅっと抱きしめられて頬を赤く染める私と感極まった様子のマシュー様を、隊員さん達は手を組んで拝むようにして見つめていました。
「さて、騒がせて悪かったな!みんな、卒業おめでとう!」
マシュー様の声をきっかけに音楽が再び始まると、驚いた顔のままの卒業生達も散っていきました。隊員の皆さんはエミリーさんと一緒に会場を去っていきます。
すっと差し出された手にすぐに手を重ねると、マシュー様は私を人けのないバルコニーへとエスコートしてくれました。さすがにまだ残っていた周りからの視線が痛かったので、助かりました。
「リナ、信じてくれてありがとう」
「何言ってんのよ!?今、ここで、この女は婚約破棄されて、国外追放になるのよ?そして私が伯爵夫人になるの」
マシュー様はさっと私を背中に隠すと、エミリーさんに向き合いました。
「まずひとつめ、この女よばわりをするな。リナは伯爵令嬢で、君は平民だ。身分をわきまえろ」
「はぁ?」
「ふたつめ、勝手に国外追放などと口にする権利はお前に無い。それが許されるのは国王陛下だけだし、陛下であっても貴族会議での承認がなくては不可能なことだ」
「で、でも」
「みっつめ、伯爵夫人になどなれるはずがないだろう。私はリナを愛しているからな」
「何?何なの、これ?」
「もうひとつ追加だ。事実と異なる噂を勝手に流した事、絶対に許しはしない」
理路整然と続けられた反論に、私は驚いてしまいました。内容にももちろん驚きましたが、マシュー様がこんなに長々と話すのは長い付き合いの私でも初めて聞いたからです。マシュー様は騎士団の制服のポケットから、一枚の書状を取り出しました。
「私、マシュー・ハワードは、王命によりエミリー嬢に近づいた。あくまでも第一騎士団10番隊の任務としてだ」
ヴァルティア王国民なら誰もが知っている、王の押印がなされた書状が高々と掲げられています。周りの皆さまも食い入るようにその書状を見つめています。
「あの…これが任務ですか?」
「ああ、エミリー嬢のスキルに疑いが掛けられていてな」
「スキル?」
「魅了スキルで商会での代金の踏み倒しや、貴族の令息をたらしこんで貢がせたりしていたようで、その調査を依頼された」
あっさりと暴露された秘密に、あたりは一時騒然となりました。ただ口説いて回っているだけでは無かったのですね。自分の婚約者が被害にあったと言っていた女生徒も、息を呑んで見守っています。
「そこで、魅了に耐性のある私が近づいた」
「で、でも私のことかわいいって言ったじゃない」
「ああ、かわいいのうみそだって意味なら言ったな」
あの時聞いてしまったやりとりを思い出す。かわいいのうみそって何ですか、マシュー様。つまり馬鹿だと言いたいんですか。
「き、君を逃がさないって」
「逃がすわけがないだろう、必ず捕らえるんだから」
言い切ったマシュー様がすっと手を挙げると、護衛の騎士様達がエミリーさんをぐるりと取り囲みます。
「ああ、やっと任務完了だ」
「リナティエラ嬢と会えないからって、このひと月怖くて怖くて」
「これで隊長の機嫌が良くなる!!!」
「めでたい!」
「こんなにうれしい任務完了は初めてかも!」
今にも踊りだしそうな程の笑顔で、隊員の皆さんは喋りながらもてきぱきとエミリーさんを捕縛していきます。
「お前ら…リナの前で何を余計な事を言ってるんだ」
「ひっ」
暗雲を背負ったマシュー様の袖を、思わずくいっと引っ張ってしまいました。
「あの、私は今の隊員さん達の言葉で、本当に任務だったんだって実感できて…その…う、うれしかったです」
「リナッ!!!」
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「さて、騒がせて悪かったな!みんな、卒業おめでとう!」
マシュー様の声をきっかけに音楽が再び始まると、驚いた顔のままの卒業生達も散っていきました。隊員の皆さんはエミリーさんと一緒に会場を去っていきます。
すっと差し出された手にすぐに手を重ねると、マシュー様は私を人けのないバルコニーへとエスコートしてくれました。さすがにまだ残っていた周りからの視線が痛かったので、助かりました。
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