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婚約破…棄…?
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クラーク伯爵令嬢は、卒業パーティーで婚約破棄されるらしい。
そんな噂を聞いた時には、ああついにと思ってしまいました。
マシュー様とはあれから一か月の間、一度もしっかりとお会いしていません。ちらりとお姿をお見かけしたことはありましたが、その時はだいたいエミリーさんと一緒でした。講師として就任されてからも欠かさず届いていた、2週間に一度のお手紙すらも来なくなりました。
マシュー様を信じたい気持ちはありますが、状況がそれを許してくれません。
ですから今日、私は婚約破棄される事を覚悟した上で、この夜会に参加しています。友人には参加しなくて良いと言われましたが、逃げるような真似だけはしたくなかったのです。
もし婚約破棄を宣言されたら素直にそれを受け入れて、最後に一言、心からお慕いしておりましたとだけ自分の気持ちを伝えて、颯爽とこの場を去ろうと思います。
そして寮の自室に帰ったら、メイドが用意してくれている筈の甘いものを気が済むまで食べて、泣きながら眠るつもりです。
決意を新たにしながら周りを見渡せば、警備の騎士様の中に見知った顔がいくつかありました。マシュー様の部隊の隊員の方達ですが、今日は目が合うと。さっと目線を逸らされてしまいます。
ああ、婚約破棄の件はこの方たちも知っているんですね。
いつもなら朗らかに笑みを浮かべたり、会釈をしてくれる隊員さん達の態度に胸がしくりと痛みました。
ざわりと卒業パーティーの会場にどよめきが起き、ダンスのために流れていた音楽がぴたりと止まりました。
階段を降りてきたのは第一騎士団の礼服を身にまとったマシュー様と、淡いオレンジ色のドレスを着こなしているエミリーさんです。相変わらず、エミリーさんはマシュー様の腕にしがみついています。
私とエミリーさんを見比べる視線。
憐れむような視線。
面白いことになったと好奇心に満ちた視線。
エミリーさんの態度に嫌悪を露わにした視線。
様々な視線を一身に浴びながら、私は何も言わずに、マシュー様をじっと見つめます。ああ、騎士団の公式行事用の礼服に身を包んだマシュー様は、今日も格別に格好良いです。略式の制服も似合ってますが、こちらは別格です。しっかりと目に焼き付けておきましょう。
「リナティエラ・クラーク嬢、話がある」
「はい、承ります」
そっと腕を振りほどかれたエミリーさんは、マシュー様の後ろに立って、勝ち誇ったような顔でこちらを見つめています。
「私、マシュー・ハワード伯爵令息は、リナティエラ・クラーク伯爵令嬢…」
ああ、マシュー様を信じたい気持ちでこんな所まで来てしまいましたが、本当に婚約破棄されてしまうのですね。涙だけは絶対に見せられません。ぐっと手に力を入れました。私にだって、令嬢として育った意地があります。破棄を受け入れて、お慕いしておりましたとそう伝えてから、颯爽とこの場を去ってみせます。
「を、心から愛しています」
「は?」
「え?」
「ん?」
「…マ、マシュー様?」
「私は、騎士としての魂に誓って、あなただけを、心から愛しています」
騎士としての魂に誓ってというのは、騎士にとって最大級の誓いの言葉です。物語の中にも出てくる憧れの言葉として有名で、一度でも良いからその言葉を言ってもらいたいという女性は沢山いると思います。なんて現実逃避をしていた私の脳に、やっと先ほどの言葉が届きました。
ブワッと顔に熱が集まります。きっと私の顔は果実のように真っ赤になっているでしょう。
「マシュー様?あの一体?」
「あなたは?不安にさせてしまったのはわかっていますが…あなたのお気持ちを聞かせて頂けませんか?」
「わ、私も、心からお慕いしております」
苦しそうなお声に、思わず即答で答えてしまいました。
「……よかった」
そのままぎゅっと抱きしめられて、さらに体温が上がりました。騎士様達が手を叩き出した事で、不思議そうにしながらも周りからも拍手が沸き起こります。
一体何がどうしてこうなったのか、マシュー様の行動の意味もわかりません。
それでも、ああ、恥ずかしいけれど、幸せです。
そんな噂を聞いた時には、ああついにと思ってしまいました。
マシュー様とはあれから一か月の間、一度もしっかりとお会いしていません。ちらりとお姿をお見かけしたことはありましたが、その時はだいたいエミリーさんと一緒でした。講師として就任されてからも欠かさず届いていた、2週間に一度のお手紙すらも来なくなりました。
マシュー様を信じたい気持ちはありますが、状況がそれを許してくれません。
ですから今日、私は婚約破棄される事を覚悟した上で、この夜会に参加しています。友人には参加しなくて良いと言われましたが、逃げるような真似だけはしたくなかったのです。
もし婚約破棄を宣言されたら素直にそれを受け入れて、最後に一言、心からお慕いしておりましたとだけ自分の気持ちを伝えて、颯爽とこの場を去ろうと思います。
そして寮の自室に帰ったら、メイドが用意してくれている筈の甘いものを気が済むまで食べて、泣きながら眠るつもりです。
決意を新たにしながら周りを見渡せば、警備の騎士様の中に見知った顔がいくつかありました。マシュー様の部隊の隊員の方達ですが、今日は目が合うと。さっと目線を逸らされてしまいます。
ああ、婚約破棄の件はこの方たちも知っているんですね。
いつもなら朗らかに笑みを浮かべたり、会釈をしてくれる隊員さん達の態度に胸がしくりと痛みました。
ざわりと卒業パーティーの会場にどよめきが起き、ダンスのために流れていた音楽がぴたりと止まりました。
階段を降りてきたのは第一騎士団の礼服を身にまとったマシュー様と、淡いオレンジ色のドレスを着こなしているエミリーさんです。相変わらず、エミリーさんはマシュー様の腕にしがみついています。
私とエミリーさんを見比べる視線。
憐れむような視線。
面白いことになったと好奇心に満ちた視線。
エミリーさんの態度に嫌悪を露わにした視線。
様々な視線を一身に浴びながら、私は何も言わずに、マシュー様をじっと見つめます。ああ、騎士団の公式行事用の礼服に身を包んだマシュー様は、今日も格別に格好良いです。略式の制服も似合ってますが、こちらは別格です。しっかりと目に焼き付けておきましょう。
「リナティエラ・クラーク嬢、話がある」
「はい、承ります」
そっと腕を振りほどかれたエミリーさんは、マシュー様の後ろに立って、勝ち誇ったような顔でこちらを見つめています。
「私、マシュー・ハワード伯爵令息は、リナティエラ・クラーク伯爵令嬢…」
ああ、マシュー様を信じたい気持ちでこんな所まで来てしまいましたが、本当に婚約破棄されてしまうのですね。涙だけは絶対に見せられません。ぐっと手に力を入れました。私にだって、令嬢として育った意地があります。破棄を受け入れて、お慕いしておりましたとそう伝えてから、颯爽とこの場を去ってみせます。
「を、心から愛しています」
「は?」
「え?」
「ん?」
「…マ、マシュー様?」
「私は、騎士としての魂に誓って、あなただけを、心から愛しています」
騎士としての魂に誓ってというのは、騎士にとって最大級の誓いの言葉です。物語の中にも出てくる憧れの言葉として有名で、一度でも良いからその言葉を言ってもらいたいという女性は沢山いると思います。なんて現実逃避をしていた私の脳に、やっと先ほどの言葉が届きました。
ブワッと顔に熱が集まります。きっと私の顔は果実のように真っ赤になっているでしょう。
「マシュー様?あの一体?」
「あなたは?不安にさせてしまったのはわかっていますが…あなたのお気持ちを聞かせて頂けませんか?」
「わ、私も、心からお慕いしております」
苦しそうなお声に、思わず即答で答えてしまいました。
「……よかった」
そのままぎゅっと抱きしめられて、さらに体温が上がりました。騎士様達が手を叩き出した事で、不思議そうにしながらも周りからも拍手が沸き起こります。
一体何がどうしてこうなったのか、マシュー様の行動の意味もわかりません。
それでも、ああ、恥ずかしいけれど、幸せです。
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