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22.アルフのスキル

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「次は僕のスキルの話。見てて」

 そう言うとアルフはおもむろに腕輪を外した。腕輪を外せばスキルが発動する。

「僕のスキルは、心の声が…その人が考えている事が聞こえるんだよ」
「…え?」
「嘘でしょう?じゃあ私の心の声も聞こえるのって考えてるよね」

 そこまであっさりと言い当てられてしまうと、信じるしか無い。アルフは驚いている私が見ている前で、すぐに元通りに腕輪をはめなおした。

「僕はね、このスキルのせいで、人が怖くなったんだ」

 心の声が聞こえるスキル。想像してみただけでも、ぞっとしてしまった。

 笑顔で接してくれる人が、心の中で何を考えているかなんて、普通なら分からない。でもそんなスキルがあったら、人の持つ感情がむき出しのままぶつけられる事になる。人は綺麗な感情しか抱かないわけじゃない。悪意や嫌悪、つらさや悲しみまで全てがアルフに襲いかかってくる。

 こんな時に何と言えば良いのか、分からない。言葉が出ない私に、アルフは申し訳なさそうに続けた。

「それでね、もうひとつ謝らないといけないんだけど、僕はトリンがこの研究所に来た日、わざと腕輪をつけていなかったんだ」
「え…」

 研究所に行くことを自分の意志で決めた同年代の子が来るなんて信じられないって言ったら、ギルベルト所長からそれなら腕輪を外してみると良いと言われたらしい。

 侯爵家の貴族なのに本当にただのトリンとして挨拶はするし、皆に歓迎されて泣きそうになるしでまず毒気を抜かれたらしい。

「しかもあの時のトリンの心の声は、名前覚えられないどうしようとか、みんなに申し訳ないとかそんなのばっかりだったんだ」

 うん、多分そうだったと思う。あの時アルフが声をかけてくれなかったら、あのまま途方にくれていたかもしれない。

「あとね、僕の目を見てバラの花みたいって思ってくれたのも、すごくびっくりした」
「え、でも綺麗なバラみたいな赤色よね」
「赤と言えば血を連想する人が多いんだ。不吉とか不気味とか思われてたよ」

 そんなことないと思わずおおきな声を出すと、アルフはふふと嬉しそうに笑った。

「それでね、家族がいなくても頑張れるかもしれないって考えてるトリンを見て、僕も頑張らないと駄目だなって思ったんだ」
「そうなんだ」
「…心の声を聞いたのに、怒らないの?」
「え、別に良いけど…もしかして他にも腕輪をつけてなかった日があるの?」

 もしそうだとしたら、私がアルフの事を好きなのも、すっかりばれちゃってるのかもしれない。

「剣に誓って、その日だけだよ!」
「それなら別に良いわ」

 良かった。この様子じゃ、ばれてるわけじゃないみたい。ふうと息を吐いていると、アルフはクスクスと笑いだした。

「トリンのそういう所、好きだよ」

 不意打ちでかけられた言葉が、理解できなかった。今何か大事な事を言わなかった?と思わずじっとアルフの顔を見つめてしまう。アルフは真面目な顔になると、もう一度繰り返してくれた。

「トリンのそういう所、好きだよって言った」

 ようやく理解できた言葉に、頬が熱くなってくる。

「そういう所…って?」
「細かい事は気にしない所。努力家な所。自分のスキルに頼らない所。意思が強くて意見を曲げない所。あと、プレゼントを大事にしてくれる所も追加かな」

 アルフの指が、私のつけているネックレスをつんと突いた。

「返事、聞かせて」

 ドキドキとうるさい自分の心臓の音に急かされるように、私は必死で答えた。

「私もアルフの事が好き」
「え…本当に?いつから?」

 びっくり顔のアルフは、私もアルフの事を好きだとは予想だにしていなかったみたいだ。ジェシカさんにもメルさんにも、なんならトムさんやジョーさんにまでばれてそうな私の恋心に、アルフだけは気づけてなかったようだ。

「ここに来てから1年くらい経った頃かな」
「そんなに前から?」
「私を尊敬するって言ってくれたの…覚えてるかな?」
「ああ、うん。食堂で言った気がする」

 私がスキルに頼らないことを、真正面から誉めてくれたのはアルフだけだったから、すごく印象に残ってる。

「あの時からずっとアルフの事が好きだったの」
「嬉しいよ。ありがとう」

 そう言ったアルフの手が、私の手と重なった。

「すまん、そこまでだ」

 突然のジョー先生の声に固まった私たちがゆっくりと振り返れば、そこにはジェシカさんとメルさん、トムさんまで隠れているのが見えた。

「「な、な、何やってるんですかー!!!!」」

 夕方の中庭に、私とアルフの絶叫が響いた。
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