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21.少しでも可愛く

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 とりあえずお化粧を落とした私は、自分の部屋で途方にくれていた。一体何を着れば良いんだろうと服をひっぱりだしてみたけれど、自分に似合うものが分からない。

 気持ちを伝えたいって言ってたよね。よりによってそこだけを思い出してしまった私は、思わずベッドの上でごろごろと転がってしまった。

「どうしよう」

 私が思ってるような気持ちじゃなかったとしても、せっかくアルフと一緒にいられるならすこしでも可愛い自分でいたいと思う。

「どうしよう」

 服を並べてうんうん悩んでいると、不意に部屋のドアがノックされた。

「はい」
「トリーン!私とメルに用事があるんじゃない?」
「トムから聞いて来たわよー」

 突然やってきた救いの女神達に、私は慌てて部屋のドアを開けた。



 ジェシカさんが選んだのは、淡い灰色の半袖ワンピースだった。上半身にはピンタックが入っていて、ウエストにはシンプルな共布のリボンが縫い留められている。背中で結ぶそのリボンのおかげで、きっと後姿も可愛くなると思う。

 個人的にはすごく可愛いと思うけれど、ジェシカさんが選ばなさそうな地味な服だ。

「不思議そうな顔ね?」
「確かにジェシカの好みじゃないものね」
「まあね、可愛いけどちょっと地味だとは思うわ」
「でも何でこれを?」

 ジェシカさんがこの服を選んだ理由が、なんとなく気になった。

「トリンがずっとつけてたあのネックレス、プレゼントなんでしょう?」
「は…はい」
「その黄色のネックレス、このグレーのワンピースと合わせればきっと目立つわよね」

 にんまりと笑ったジェシカさんには、もう全てを見通されている気がする。頬が熱いのを両手で押さえていると、メルさんは笑いながら髪の毛を梳かし始めた。



 まだ約束の時間には早いけれど、私は中庭のベンチに腰かけてアルフを待っていた。ジェシカさんとメルさんが全力で可愛くしてくれたから、今は不安よりもワクワクした気分で待っていられる。

 のんびりと見上げる空は、いつも以上に綺麗に見えた。

「おまたせ、トリン」

 かけられた声に振り向けば、緊張した様子のアルフがそこに立っていた。

 さっき迎えに来てくれた時はだぼっとしたいつものシャツだったのに、きっちりサイズのあったシャツに着替えている。しかも、あのおでかけの日と同じように、今日も前髪を横に流してセットしているおかげで、バラのように赤いあの瞳とばっちり目があった。

「トリンも可愛くして来てくれたんだ」
「アルフも」

 あまりに照れくさくて、二人で笑いあってしまった。

「さっきも言ったけど、改めて、避けててごめんね」
「ええ、今はもう気にしてないわ」

 アルフは嬉しそうに笑うと、私の隣に腰を下ろした。

「まずは、僕の隠し事の話、聞いてくれる?」
「聞かせてくれるなら」

 そう答えた私に、アルフは服の袖を捲り上げて見せた。そこには、私がはめているものと同じ腕輪がはまっていた。隣に腕を並べて見比べてみると、複雑な文様までが完全に一致している。ということは、これはスキル封じの腕輪だ。

「これは僕のために開発されたものなんだ。この文様は、ギルベルト所長が遺跡研究中に手に入れた古代の魔法陣なんだよ」
「古代の…」
「僕はこの研究所に5歳の頃に来たんだ」
「そんなに小さい頃から」
「それからずっと副所長と一緒に研究をしてきて、ちょうど君がくる少し前にやっと完成したんだけど、どうしてもひとつしか作れなくて」

 アルフはつらそうな表情を浮かべたまま、私の目をまっすぐに見つめた。

「トリンが自分のスキルに悩まされているのを知っていたのに、スキル封じの腕輪がある事も言えなかったし、これを渡すこともできなかったんだ…ごめん」

 大罪を告白するような悲痛な顔をしているアルフに、私は必死で首を振った。

 その腕輪を渡せなかった理由なんて、すぐに分かった。アルフも5歳でこの研究所に来るほどの何かとんでもないスキルを持っているんだ。

「ねえ、アルフ。もしそれを私に渡して、アルフが一人でつらい思いをしていたら…その方がつらかったわ。私自分を許せなくなってた」
「トリン…」
「だから、お願い謝らないで」

 うんと小さくつぶやくと、アルフは何度も小さく頷いた。うつむいたアルフの隣で、静かに空を見上げる。徐々に赤く染まっていく空には、雲一つなかった。

「ごめん」
「謝らないでって言ったのに」

 わざと拗ねたように言えば、やっと笑ってくれたアルフは、小さな声でありがとうと呟いた。
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