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16.年齢詐称
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王家からの手紙を前にして受けないと言えるほど、私は図太くなかった。
私はいつも通りの恰好で試験に行くつもりだったけれど、それも止められてしまった。
試験を受けた騎士様たちには、私が魅了スキルを持っている事がばれることになる。それなら、せめて実年齢ぐらいは隠した方が良いと、ジェシカさんが言い出したのだ。
「騎士だって人間よ!自分より若い女の子なら簡単に操れそうなんて思われて、口説かれたら困るじゃない!」
「たしかに一理あるのう」
そんな騎士様はいないと思いますとか、操れそうって何ですかとか言いたい事はいっぱいあった。でも、ギルベルト所長のその一声で、試験の時には年齢を偽ることが決まってしまった。翌日にはしっかりと、王家からの許可状まで届いたのには驚いてしまった。
「というわけなのよ」
「なるほど。それで私がお化粧担当ってことね」
呼び出されたメルさんも、あの大きな鞄を抱えてやってきた。まだ試験までは数日あるのに、不自然じゃない大人っぽい化粧には練習が必要だと言われてしまえば逆らう事はできない。
そこからの数日は、本当に凄まじい忙しさだった。
毎日毎日長い時間をかけて服を着て脱いで、着て脱いで、着て脱いで。化粧をされて落として、化粧をされて落として、化粧をされて落として。化粧をすると肌が荒れるからと何故かお肌のケアと、ついでだからと髪のケアまでされた私は、試験前日にはもうぐったりしていた。
「よし、これが一番良かったわね!」
「そうね。露出はなしで、地味すぎず、大人の女性って感じだわ」
「化粧も最後のが一番良かったわ!派手すぎず、近寄りがたい女性の感じ!」
「16歳には見えないから、大成功よ!」
もうなんでも良いですと言いたい気分だったけれど、二人は自分のために頑張ってくれているんだと思うと何も言えない。
「ありがとうございます」
「良いのよ!じゃあ明日は朝一から来るわね」
「おやすみ」
元気な二人がいなくなると、一気に部屋の中が寂しくなった。忙しすぎてアルフにも会えてないなぁと思いながら、私はベッドに潜り込んだ。
トムさんに付き添われて訪れた王都ホールの控室には、二人の男性が待ち構えていた。この国を支える宰相様と、この国を守る将軍様だ。
普通の貴族なら緊張で倒れそうになる程の有名人だけれど、このお二人は父と母のご友人。つまり既に顔見知りの方だった。
「久しぶりだね、トリン」
「何年ぶりだろうね?」
久しぶりにお会いするのに笑顔でそう言って下さったお二人に、久しぶりの貴族のカーテシーで応える。
「お久しぶりです」
事前に私が年齢を偽ることの許可は得ていたので、どうみても16歳に見えないこんな恰好を見ても全く動じないのはさすがだと思った。
「君に会ったことがばれたら、きっとグレイス侯爵はお怒りになるだろうね」
「シャルロッテにはきっと試合を申し込まれるぞ。二人とも他国へ出向いていなかったら、何をおいてもこっちに来ただろうに」
ああ、お父様もお母様も、今は他国に行かれているんだ。仕事の都合で他国に行くことも多い両親だけれど、無事に帰ってこられますようにと小さく祈った。
「あの、試験というのは魅了耐性があるかどうかを、試すだけで良いんですよね?」
確認してから決めた試験の内容は、あの何度も繰り返した実験とほぼ同じものにしてもらった。
まずはお二人から絶対に私の言うことに従うなと言ってもらい、私からは私の手を取って踊ってくださいと囁く。
「正直に言うと、抗える方がいるとは思えないのですが」
「難しいとは思いますが、一人でもいればと期待を込めてのことです。もし全員に耐性が無くても、次の手を考えますので」
宰相様はそう言って気楽にやって下さいと笑ってくれた。
「あーうちの息子なら、抗える気がするんだ」
「おや、そうなんですか?」
「うちの息子は婚約者馬鹿だからな。リナティエラ嬢以外の誘いにはのらないさ」
気持ちの力なんて、この理不尽なスキルの前では役に立たない。そう思う一方で、抗える人がいたら良いのにと思わずにはいられない。
「では、そろそろ参りましょうか」
宰相様の言葉に、私はゆっくりと腕輪を外した。この腕輪をせずに人前に立つのは、本当に久しぶりだ。腕輪が無いと思うだけで、すこし足が震えてしまう。
腕輪は近くにあった方が安心だろうからと、メルさんがわざわざつけてくれた小さなポケットへとしまい込んだ。ジェシカさんによって空間魔法まで付与されているから、ポケットよりも大きな腕輪も難なくしまえた。
もし今の状態でお願いを口にしてしまったら、魅了スキルは容赦なく発動する。できるだけ試験以外の事は話さないようにしようと私は心に決めた。
私はいつも通りの恰好で試験に行くつもりだったけれど、それも止められてしまった。
試験を受けた騎士様たちには、私が魅了スキルを持っている事がばれることになる。それなら、せめて実年齢ぐらいは隠した方が良いと、ジェシカさんが言い出したのだ。
「騎士だって人間よ!自分より若い女の子なら簡単に操れそうなんて思われて、口説かれたら困るじゃない!」
「たしかに一理あるのう」
そんな騎士様はいないと思いますとか、操れそうって何ですかとか言いたい事はいっぱいあった。でも、ギルベルト所長のその一声で、試験の時には年齢を偽ることが決まってしまった。翌日にはしっかりと、王家からの許可状まで届いたのには驚いてしまった。
「というわけなのよ」
「なるほど。それで私がお化粧担当ってことね」
呼び出されたメルさんも、あの大きな鞄を抱えてやってきた。まだ試験までは数日あるのに、不自然じゃない大人っぽい化粧には練習が必要だと言われてしまえば逆らう事はできない。
そこからの数日は、本当に凄まじい忙しさだった。
毎日毎日長い時間をかけて服を着て脱いで、着て脱いで、着て脱いで。化粧をされて落として、化粧をされて落として、化粧をされて落として。化粧をすると肌が荒れるからと何故かお肌のケアと、ついでだからと髪のケアまでされた私は、試験前日にはもうぐったりしていた。
「よし、これが一番良かったわね!」
「そうね。露出はなしで、地味すぎず、大人の女性って感じだわ」
「化粧も最後のが一番良かったわ!派手すぎず、近寄りがたい女性の感じ!」
「16歳には見えないから、大成功よ!」
もうなんでも良いですと言いたい気分だったけれど、二人は自分のために頑張ってくれているんだと思うと何も言えない。
「ありがとうございます」
「良いのよ!じゃあ明日は朝一から来るわね」
「おやすみ」
元気な二人がいなくなると、一気に部屋の中が寂しくなった。忙しすぎてアルフにも会えてないなぁと思いながら、私はベッドに潜り込んだ。
トムさんに付き添われて訪れた王都ホールの控室には、二人の男性が待ち構えていた。この国を支える宰相様と、この国を守る将軍様だ。
普通の貴族なら緊張で倒れそうになる程の有名人だけれど、このお二人は父と母のご友人。つまり既に顔見知りの方だった。
「久しぶりだね、トリン」
「何年ぶりだろうね?」
久しぶりにお会いするのに笑顔でそう言って下さったお二人に、久しぶりの貴族のカーテシーで応える。
「お久しぶりです」
事前に私が年齢を偽ることの許可は得ていたので、どうみても16歳に見えないこんな恰好を見ても全く動じないのはさすがだと思った。
「君に会ったことがばれたら、きっとグレイス侯爵はお怒りになるだろうね」
「シャルロッテにはきっと試合を申し込まれるぞ。二人とも他国へ出向いていなかったら、何をおいてもこっちに来ただろうに」
ああ、お父様もお母様も、今は他国に行かれているんだ。仕事の都合で他国に行くことも多い両親だけれど、無事に帰ってこられますようにと小さく祈った。
「あの、試験というのは魅了耐性があるかどうかを、試すだけで良いんですよね?」
確認してから決めた試験の内容は、あの何度も繰り返した実験とほぼ同じものにしてもらった。
まずはお二人から絶対に私の言うことに従うなと言ってもらい、私からは私の手を取って踊ってくださいと囁く。
「正直に言うと、抗える方がいるとは思えないのですが」
「難しいとは思いますが、一人でもいればと期待を込めてのことです。もし全員に耐性が無くても、次の手を考えますので」
宰相様はそう言って気楽にやって下さいと笑ってくれた。
「あーうちの息子なら、抗える気がするんだ」
「おや、そうなんですか?」
「うちの息子は婚約者馬鹿だからな。リナティエラ嬢以外の誘いにはのらないさ」
気持ちの力なんて、この理不尽なスキルの前では役に立たない。そう思う一方で、抗える人がいたら良いのにと思わずにはいられない。
「では、そろそろ参りましょうか」
宰相様の言葉に、私はゆっくりと腕輪を外した。この腕輪をせずに人前に立つのは、本当に久しぶりだ。腕輪が無いと思うだけで、すこし足が震えてしまう。
腕輪は近くにあった方が安心だろうからと、メルさんがわざわざつけてくれた小さなポケットへとしまい込んだ。ジェシカさんによって空間魔法まで付与されているから、ポケットよりも大きな腕輪も難なくしまえた。
もし今の状態でお願いを口にしてしまったら、魅了スキルは容赦なく発動する。できるだけ試験以外の事は話さないようにしようと私は心に決めた。
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