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13.初のおでかけスタート

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 研究所の入口まで行くと、そこにはアルフとトムさんが待っていた。慌てて小走りに寄っていけば、ジェシカさんとメルさんも笑って追いかけてきてくれた。

「お待たせしました!」
「お、トリン…」

 振り返った二人が、ぎこちなく固まった。

「にあ…んーんー」
「あんたが言ってどうすんのよ、馬鹿トム!ほら行くよ!」

 何か言おうとしたトムさんの口を押さえると、ジェシカさんはそのまま手を振って行ってしまった。メルさんもいってらっしゃいとだけ言うと、すぐに来た道を戻っていく。

 あっという間に二人だけになってしまった。ジェシカさんがデートとか言うから、変に意識してしまう。

「待たせてごめんね」

 そう言いながら、私はやっとアルフの姿を見た。

 普段は大き目サイズのシャツをだぼっと着ているのに、今はきっちりとサイズのあったシャツを着ている。しかも、いつもはそのまま下ろしている髪が横に流してセットされていて、バラのように赤いあの瞳がばっちりと見えている。

 何これ、格好良すぎる。

「トリン、すごく似合ってる」
「あ、ありがと…そのアルフも似合ってる」
「ああ、これ。トムがちゃんとしろって…変じゃないなら良かった」

 私もジェシカさんとメルさんが全部選んだと伝えると、二人で顔を見合わせて笑ってしまった。

「じゃあ、行こうか」
「うん、何も分からないから案内お願いします」
「もちろん」
 
 アルフはきちんと私の分も手続きを終わらせてくれていたみたいで、こんなに簡単に出られるんだと思う程あっさりと外へと出られた。

 隅の方に位置しているとは言え、ここは既に王都の中だ。歩く道もきちんと整えられているし、花壇にも綺麗な花が咲き誇っている。

 ここに来た時は研究所に入れるかばかりを気にしていて、景色を楽しむ余裕なんて無かったから知らなかった。研究所って、こんなに綺麗な所にあったんだ。

 アルフの案内についていくと、お店がいくつか並んだ道へと辿り着いた。

「もっとお店が集まった通りもあるけど、今日はこっちで良いかな?」
「うん、こっちが良い」

 たくさんの人がいたら疲れてしまう。きっとそう考えてくれたんだと思う。アルフの配慮が嬉しかった私は、笑顔でお店を見渡した。

「じゃあお店見て回ろうか」
「楽しみ!あ、お金は払わせてね」

 あまり使いどころの無いお金もしっかりと持ってきた。先に言っておこうと、そう口にすれば、アルフは申し訳なさそうに首を振った。

「ごめん、トリン。それは無理だ」
「え、なんで」
「研究所の皆から、トリンの誕生日なんだからっていっぱい押し付けられたんだ」
「そんなの悪いわ」
「多分ね、トリンが初めて外に出るから楽しんで欲しいんだよ」
「……あとで、お土産も買えるかしら」
「あ、それ良いね!よし、皆にお土産買っていこうね」

 アルフと一緒にあれこれ言いながら色んなお店を見て回るのは、すごく楽しかった。

 侯爵家の買い物はお店に出向かずに家に呼び寄せるのが普通だったし、家に来ている時も私は滅多に参加していなかったから、見るもの全てが新鮮だった。

 雑貨屋さんでは可愛い絵付きの食器を、小物屋さんではハンカチを、そして紅茶専門店では美味しそうな紅茶を見てまわった。

「何も買わないの?」
「何を買えば良いか…悩んでるの」

 皆のお金を無駄遣いはしたくないしと本音を洩らせば、アルフはふふと楽しそうに笑った。

「それなら、ここでゆっくり何を買うか考えようか」

 そう言って連れていかれたのは果物屋さんだった。さっきのはどういう意味だったのかなと考えている間に、私の手には果実水が握られていた。

「これ…」
「トリンは果実水好きでしょ?」

 好きだけど、どこで飲むのかしらと周りを見渡してみれば、そこかしこに立ったままで飲み物を楽しんでいる人の姿が見えた。これはもしかして、本で読んだ買い食いってやつかしら。いいえ、買い飲みになるのかしら?

「無理かな?」

 こっそりとそう聞いてくれるアルフには、多分私が貴族なことは前からバレてたんだと思う。私は大きく頷いて、木のコップに口を付けた。いつも飲んでいるものよりも果物本来の甘味があるのか、とっても甘くてとろけるような果実水だった。

「…っ!おいしい!」
「良かった」

 微笑んでそう言ってから果実水を飲み始めるアルフは、本当に格好良かった。周りにいた女の子の視線が集まっているのが、分かるもの。

 悔しいような自慢したいような複雑な気分のまま、私は果実水を飲み干した。
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