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11.スキル封じの腕輪

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 15歳の誕生日の朝、自室から出た私は一つの箱を見つけた。黄色のリボンがかかった真っ白な箱には『トリンへ』と、ただそれだけが書かれていた。

 自分宛ならと部屋に持って入った私は、差出人不明のその箱を恐る恐る開けてみた。箱の中には銀色の華奢な腕輪がひとつ入っていた。

「綺麗…」

 きらきらと輝く銀色の腕輪には、みたこともない複雑な文様が所せましと彫りこまれている。朝日を反射する美しい腕輪に見惚れていると、ひっそりと箱の底に置かれていたカードが目に留まった。

『この腕輪はスキルの発動を阻害する魔道具です トリンの役に立ちますように』

「え…」

 そんな都合の良いものが存在する筈が無い。そう思う気持ちと、本当にそんなものがあったらと信じたい気持ちがせめぎ合う。ここは外部からの進入ができない研究所内だ。こんな悪質な悪戯をする人は、ここにはいない。

 悩んでいるくらいなら、試してみよう。すぐに腕輪を手首に嵌めて、私は部屋を出た。

 最初に出会った人に、あの実験をお願いしてみよう。そう決めた私の前を通りかかったのは、十枚程の重なったお皿を持った料理人のトムさんだった。

「トリン、おはよ」
「おはようございます」
「お誕生日おめでとう」

 にっこりと笑ってお祝いの言葉を言ってくれるトムさんに、私も笑顔を返す。

「ありがとうございます。あのトムさん、ひとつお願いしても良いですか?」
「お、珍しいね?お誕生日様のお願いなら何でも聞くよー」
「私にそのお皿を渡してください」

 勝手に実験に付き合わせてごめんなさい。そう思いながら口にすると、トムさんは困った顔で私を見つめる。

「トリンには重すぎるから無理だよ」

 その気遣うような返事に、私の目から一気に涙がこぼれ落ちた。

「えっ、泣く程持ちたかったの?ええっ?」
「あ、トム!何でトリン泣かせてるんだよ!」
「わートリンが泣いてる!何言ったんだよ、トム!」
「何で?お祝いはまだだろ?」
「わー俺が何かしちゃったのか!?ごめん!ごめんなトリン!」

 焦ったトムさんの大きな声に、どんどん人が集まってくる。周りから責められているトムさんを救うべく、私は泣きながらも声をふり絞った。

「トムさん…は…悪くな…っ…うっ…」
「落ち着いて、ほらどうしたんだい」
「メ、メルさん、初めてっ…お願いが…断られたんっ!です!」

 驚いた顔でこちらを見ていたメルさんは、私の腕にはまっている腕輪を見て納得した。もしかして同じものを見たことがあったのかな。

「ああ、なるほど!プレゼントで貰ったスキル封じの腕輪を使ってみたら、初めて断ってもらえて、嬉しすぎて泣いちゃったんだね」
「はい」
「そうか、良かったね、トリン」

 落ち着くまでずっと、メルさんは私を抱きしめ続けてくれた。



 いつもより少し豪華な朝食の後で、私はギルベルト所長の所へと急いだ。

「ギルベルト所長!」
「なんじゃ。どうした、トリン」
「この魔道具を作ってくれた魔道具技師に会いたいんです!」
「んー会ってどうするんじゃ?」
「お礼を言いたいです…初めてお願いを断ってもらえたから、私…」

 じわりとまた滲みそうになった視界に慌ててまばたきをする。

「だそうじゃよ、ジェシカ」

 あっさりと言ったギルベルト所長の言葉に、私はバッとジェシカさんを振り返った。

「もう、何で言っちゃうんですか?」

 不服そうに頬を膨らませたジェシカさんは、所長を睨みつけていた。

「涙ぐんだトリンにああやって聞かれて、わしが黙っておれると思うか」
「ジェシカさんが?あ、あの」

 慌ててお礼を言おうとすると、ジェシカさんはさっと手のひらを私に向けた。

「待って!作ったのは確かに私だけど、依頼してきたのはアルフだよ」
「ちょっ…!言わないでって言ったのに!」

 近くに立って素知らぬ顔をしていたアルフが、慌てた様子でジェシカさんを睨む。

「あと素材に必要だった貴重な魔石を持ってきたのは、ギルベルト所長よ」
「あ、言うなというておいたのに」
「先に裏切ったのは所長ですから!」

 わいわいと盛り上がる三人の姿に、周りは一斉に笑いだした。

 アルフからの依頼で、ギルベルト所長の素材を使って、ジェシカさんが作ってくれたもの。この小さな腕輪に三人の思いがどれだけこもっているかと思うと、胸がいっぱいになった。

「ありがとうございます!」
「どういたしまして、トリンちゃん」
「うん、良かった」
「本当に良かったのう」

 にこにこ笑顔でそう言ってくれる三人と、良かったなと笑ってくれる周りの人達に、私も満面の笑みを返した。
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