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2.スキルがあるかもしれない
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一日中考えて、考えて、考えて、思いついたのはスキルの可能性だった。
スキルとは、稀に現れるという特殊な能力の事だ。
生まれつき持っている人と、生活の中で手に入れる人の2種類が存在しているという。本の中では稀に与えられる不思議な力としか書かれていなかったから、まずは詳しい人に聞いてみよう。
「スキルのことが知りたいの」
「スキルですか?」
歴史の授業中に突然言い出した私に、ミリア先生は不思議そうにしながらも、すぐに本を取り出して見せてくれた。これはミリア先生の優しさなのか、それともこの不思議な力のせいなのか考えてみても答えは出なかった。
「スキルってどんなものがあるのかしら?」
「魔法の属性に関するものが一番多いでしょうね。トリン様のお父上、グレイス侯爵様が水属性スキルをお持ちなのは有名ですよ」
お父様が水属性スキル持ちなのは、私も知っていた。
幼い頃には、よく虹がみたいとわがままをいった。お父様は笑いながら、お庭に細かい水を雨のように振らせて虹を見せてくれたわ。あれも本当はしたくないのに、断れなかっただけなのかしら。
「他には?」
「剣をよく使う方には、剣技のスキルが現れることがあります」
話しながら見せてくれたのは、剣技のスキルが載ったページだった。
「こちらはトリン様のお母上、シャルロッテ様の得意技ですね」
指差されたのは、剣を振るう騎士の絵だった。いつもは優しいお母様だけど、剣を持つと途端に凛々しくなる。ぴしっと立った姿が格好良くて、よく剣技の練習を見せてもらっていた。あれも本当は嫌なのに、見学させてくれていただけなのかもしれない。
ミリア先生はどんどん沈んでいく私には気づかず、本のページをぱらぱらとめくった。
「このように毒耐性や麻痺耐性といった耐性持ちもいます」
耐性があるということは、毒や麻痺のスキルをもった人も存在してるのかしら。
「ですが、今ではもっと種類は増えているでしょうね」
「どうして?」
「7年前にスキル研究機関が設立されまして、王都の隅に研究所ができたんですよ」
そんな機関が存在していることすら、今初めて知った。素直にそう言うと、ミリア先生は苦笑しながら教えてくれた。
ひっそりと作られた目立たない研究所で、関係者以外の立ち入りが制限されているから、表立って情報が出回らないらしい。ミリア先生は恩師が所長を務めている関係で、すこしだけなら知っているのだという。
そこでは国の援助を受けて、様々なスキルを日々研究している。有名なスキルはもちろん、新しいスキルの研究もされているので、もっとスキルの種類が増えている筈だと言うのだ。
この研究所内には寮も併設されていて、スキル発現者の保護活動も行っている。突如スキルが現れた事に戸惑う人や、スキルが暴走しそうな人、周りに影響を与える人、さらにはその能力を悪用されそうな人達を守っているのだと。
話を聞き終えた時には、これだと思った。きっとそこに行けば、この不思議な力がスキルかどうかを調べてもらえる。
そう決意した私は、出会ったこともないミリア先生の恩師に向けて、手紙を書いた。
スキルかどうかは分からないけれど、私の願い事は全て叶ってしまう事。もしこれがスキルなのだとしたら、この力が封じ込められるようになるまで、家には帰りたくないこと。もしこれがスキルなら、研究所で保護して欲しいことなどを出来るだけ丁寧に書き記した。
ミリア先生にお願いした手紙の返事は、数日で返ってきた。
そんなスキルは今まで聞いたことは無いが、その不思議な現象はスキルの可能性が高いと思う事。ここには君のようにスキルに悩む、たくさんの仲間がいるという事。最後にはいつでも良いからご両親と一緒に、研究所まで来て欲しいと書いてあった。
私はその返事を読んだ日から数日間、家族全員が揃う日を待ち続けた。
魔術師団長の父と、女性騎士の母、そして騎士学校を卒業し揃って近衛騎士になった兄様達は、全員が多忙な日々を送っている。
数日待ってようやく全員がそろった日、私は食後に家族を集めてお願いをした。
「私、スキル研究機関に行きたいの」
「スキル研究機関?よく知っていたね」
「行きたいって、いつ行きたいの?」
私が本か何かで知ったその機関をただ見学に行きたいのだと思ってか、両親はにこやかに答えてくれた。
「違うの…私、スキルがあるかもしれないの」
「スキルが!それはすごいじゃないか!」
「トリンならあり得るよ!」
マックス兄様もビックス兄様も、嬉しそうに笑ってそう言ってくれる。一体どんなスキルなんだいなんて盛り上がりだす家族に、私は決意を告げる。
「もしスキルがあったら、きちんと使いこなせるようになるまでは帰って来ないつもり」
「…っ!そんなっ!」
「会えなくなるなんて嫌だ!」
「トリン、あなたはまだ12歳なのよ?」
「そうだ!まだ早すぎる!」
必死で引き留めようとしてくれる4人の姿は、正直に言えば嬉しかった。けれど、私がここにいたら、一番迷惑をかけるのもきっとこの4人だ。
「お願い。スキル研究機関に行かせて」
はっきりと口にすれはみんな顔を歪ませながらも同意してくれた。
分かっていて口にしたくせに、やっぱりとすこし寂しく思ってしまった私は、悪い子だと思う。
スキルとは、稀に現れるという特殊な能力の事だ。
生まれつき持っている人と、生活の中で手に入れる人の2種類が存在しているという。本の中では稀に与えられる不思議な力としか書かれていなかったから、まずは詳しい人に聞いてみよう。
「スキルのことが知りたいの」
「スキルですか?」
歴史の授業中に突然言い出した私に、ミリア先生は不思議そうにしながらも、すぐに本を取り出して見せてくれた。これはミリア先生の優しさなのか、それともこの不思議な力のせいなのか考えてみても答えは出なかった。
「スキルってどんなものがあるのかしら?」
「魔法の属性に関するものが一番多いでしょうね。トリン様のお父上、グレイス侯爵様が水属性スキルをお持ちなのは有名ですよ」
お父様が水属性スキル持ちなのは、私も知っていた。
幼い頃には、よく虹がみたいとわがままをいった。お父様は笑いながら、お庭に細かい水を雨のように振らせて虹を見せてくれたわ。あれも本当はしたくないのに、断れなかっただけなのかしら。
「他には?」
「剣をよく使う方には、剣技のスキルが現れることがあります」
話しながら見せてくれたのは、剣技のスキルが載ったページだった。
「こちらはトリン様のお母上、シャルロッテ様の得意技ですね」
指差されたのは、剣を振るう騎士の絵だった。いつもは優しいお母様だけど、剣を持つと途端に凛々しくなる。ぴしっと立った姿が格好良くて、よく剣技の練習を見せてもらっていた。あれも本当は嫌なのに、見学させてくれていただけなのかもしれない。
ミリア先生はどんどん沈んでいく私には気づかず、本のページをぱらぱらとめくった。
「このように毒耐性や麻痺耐性といった耐性持ちもいます」
耐性があるということは、毒や麻痺のスキルをもった人も存在してるのかしら。
「ですが、今ではもっと種類は増えているでしょうね」
「どうして?」
「7年前にスキル研究機関が設立されまして、王都の隅に研究所ができたんですよ」
そんな機関が存在していることすら、今初めて知った。素直にそう言うと、ミリア先生は苦笑しながら教えてくれた。
ひっそりと作られた目立たない研究所で、関係者以外の立ち入りが制限されているから、表立って情報が出回らないらしい。ミリア先生は恩師が所長を務めている関係で、すこしだけなら知っているのだという。
そこでは国の援助を受けて、様々なスキルを日々研究している。有名なスキルはもちろん、新しいスキルの研究もされているので、もっとスキルの種類が増えている筈だと言うのだ。
この研究所内には寮も併設されていて、スキル発現者の保護活動も行っている。突如スキルが現れた事に戸惑う人や、スキルが暴走しそうな人、周りに影響を与える人、さらにはその能力を悪用されそうな人達を守っているのだと。
話を聞き終えた時には、これだと思った。きっとそこに行けば、この不思議な力がスキルかどうかを調べてもらえる。
そう決意した私は、出会ったこともないミリア先生の恩師に向けて、手紙を書いた。
スキルかどうかは分からないけれど、私の願い事は全て叶ってしまう事。もしこれがスキルなのだとしたら、この力が封じ込められるようになるまで、家には帰りたくないこと。もしこれがスキルなら、研究所で保護して欲しいことなどを出来るだけ丁寧に書き記した。
ミリア先生にお願いした手紙の返事は、数日で返ってきた。
そんなスキルは今まで聞いたことは無いが、その不思議な現象はスキルの可能性が高いと思う事。ここには君のようにスキルに悩む、たくさんの仲間がいるという事。最後にはいつでも良いからご両親と一緒に、研究所まで来て欲しいと書いてあった。
私はその返事を読んだ日から数日間、家族全員が揃う日を待ち続けた。
魔術師団長の父と、女性騎士の母、そして騎士学校を卒業し揃って近衛騎士になった兄様達は、全員が多忙な日々を送っている。
数日待ってようやく全員がそろった日、私は食後に家族を集めてお願いをした。
「私、スキル研究機関に行きたいの」
「スキル研究機関?よく知っていたね」
「行きたいって、いつ行きたいの?」
私が本か何かで知ったその機関をただ見学に行きたいのだと思ってか、両親はにこやかに答えてくれた。
「違うの…私、スキルがあるかもしれないの」
「スキルが!それはすごいじゃないか!」
「トリンならあり得るよ!」
マックス兄様もビックス兄様も、嬉しそうに笑ってそう言ってくれる。一体どんなスキルなんだいなんて盛り上がりだす家族に、私は決意を告げる。
「もしスキルがあったら、きちんと使いこなせるようになるまでは帰って来ないつもり」
「…っ!そんなっ!」
「会えなくなるなんて嫌だ!」
「トリン、あなたはまだ12歳なのよ?」
「そうだ!まだ早すぎる!」
必死で引き留めようとしてくれる4人の姿は、正直に言えば嬉しかった。けれど、私がここにいたら、一番迷惑をかけるのもきっとこの4人だ。
「お願い。スキル研究機関に行かせて」
はっきりと口にすれはみんな顔を歪ませながらも同意してくれた。
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